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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第31話 計画開始
しおりを挟むライオネルの邸宅に招かれた翌日の朝、セン達はいつものように宿の食堂で朝食をとっていた。
「今朝のサラダは凄く美味しいな……これは蒸し鶏か?」
「……お肉は全部美味しい」
宿の主人の作る料理は屋台で食べた時以上に美味しく、セン達は毎食色々な料理を楽しんでいた。
「蒸し鶏で間違いないです……凄く美味しいです」
「僕は……ちょっとこの酸っぱいソースが苦手です」
トリスとラーニャはセンと同じくサラダを気に入ったようだが、トリスはサラダにかけられている酸味のあるドレッシングが苦手のようだ。
「……野菜は苦いけど……大事って兄様が言うから頑張る……」
そう言ってサラダを頬張るトリスをセンは笑顔で見つめる。
「子供の頃は舌が敏感らしいからな。野菜の苦みが俺よりも強く感じられるのかもしれない。大きくなったらその辺りも変わってくるぞ?嫌いだったものが急に食べられるようになったりな」
「そうなのですか?不思議です」
センの言葉にラーニャが目を丸くして答える。
(逆に苦手になる物が出来たりもするが……それは言うまい)
「人の身体は常に変化しているものだからな。爪や髪だけじゃない、ラーニャ達も俺と会ったばかりの頃に比べてかなり体つきが良くなっただろ?」
センの言葉に三人は自分の身体を見る。
半月前に比べ三人ともかなり肉付きが良くなったのは一目で分かる。太ったと言う意味ではなく、もともとがりがりだった身体が健康的になったのだ。
「このままどんどん太っていったらどうしよう……」
ラーニャが小さく呟くが、センの耳には届いていない。
その後少しだけラーニャの食事のペースは落ちたが、最終的にはいつもと変わらぬ量を食べていた。
(相変わらずラーニャはよく食べるな。まぁ、よく食べるのは良い事だ)
ラーニャだけではなく、三者三様に食事をする子供達を見ながらセンは今日の予定について考える。
「兄さん、今日はハーケルさんのお店に納品に行く以外に予定はありますか?」
示し合わせたかのようなタイミングで、ニコルが予定についてセンに問いかける。
「いや、特にないな……何かやりたいことでもあるか?」
「……納品の後でいいのですが、少し相談したいことが」
「ん?分かった。じゃぁ早めに納品を終わらせてくるか」
センがそう言って椅子から立ち上がった瞬間、宿の入り口に見知った姿が現れた。
「セン……」
「おぉ、ケリオス。こんな時間からどうした?」
鎧姿のケリオスが食堂にいるセン達の所へと近づいてくる。
「すまん、セン。少し話があるんだが、いいか?」
ちらりと子供たちの方に視線を飛ばすケリオスに気付いたセンは、三人に少しここで待つように頼んだ後、借りている部屋へとケリオスを案内する。
「大丈夫か?ケリオス、随分疲れているみたいだが」
部屋に入ったセンは椅子をすすめながらケリオスを気遣う。
「あぁ、ちょっと朝まで色々あってな。その事でここに来たんだ」
「誘拐事件の件か?」
センの問いかけにケリオスが頷く。
「昨夜、あの子達から聞いた特徴と一致する奴等を捕まえた」
「そうだったのか、朝まで尋問って所か……苦労かけたな」
「いや……それなんだが、すまない、セン」
宿に来た時から少し落ち込んだ様子だったケリオスが、センに向かって頭を下げる。
「何かあったのか?」
(まさか口封じに殺されたとかじゃないよな……?)
衛兵の中にも犯罪組織に関係している人間がいると聞いていたセンは、そんなことを考えていたが、状況はそれよりも酷い物だった。
「俺達が捕らえたのは三人だったんだが、上役の命令で全員が釈放されてしまった」
「……捕えてまだ一日も経っていないだろ?取り調べもロクに出来ていないんじゃないか?」
「しっかりと税金を納めている善良な民を、明確な証拠もなく子供の証言だけで捕らえるとは何事だ、ってのがそいつの言だ」
ケリオスが悔し気というよりも怒りを滲ませながら口を開く。
その様子を見たセンは、本来の上役の言葉がもっと口汚い物であったことを察する。
(恐らく悪し様に言われたのは……)
上役は事件の被害者である子供たちの方を罵るような言葉を吐いたのだと察したセンに怒りが生じるも、それを表には出さず質問を続ける。
「それで取り調べもせずに釈放って……強引過ぎないか?」
「本当にすまない。奴等は間違いなく犯罪組織の連中だ……そうでもなければ強引な命令で釈放されるわけがないしな」
苦々し気にいうケリオスの様子を見て、センは自分の怒りが少し落ち着くのを感じる。
「……そいつらを捕まえるには現行犯か、逃れようのない証拠……それもその上役もろとも葬れるような証拠が必要だな」
ケリオスから視線を外したセンが腕を組みながら呟く。
「若しくは、その上役以上の権力を持った人間を巻き込むか……一番それが手っ取り早いが……ケリオス、その上役って言うのはどういう奴なんだ?」
子供たちといた時とは全く違った雰囲気になったセンだったが、ケリオスは気にした様子を見せずに答える。
「権力という意味で言えば大した事は無い。衛兵の詰所には必ず一人隊長が置かれる、その隊長の直上に当たるのがそいつ、中隊長ってやつだ」
「じゃぁ、同格の中隊長、もしくは大隊長辺りを巻き込めばいけそうだな?ケリオスの知り合いにはいないのか?」
「大隊長は流石にいないな。中隊長は一応全員知っているが……」
「その中で正義感が強い人間、若しくは上昇志向が強い人間はいるか?金遣いの荒い奴はダメだ」
(金が弱点になりそうな奴は既に犯罪組織と繋がりがありそうだしな……ケリオスの所の中隊長のように)
「……それなら北地区の中隊長だな。正義感が強すぎて暴走するせいで中々出世できないみたいだがな」
「正義感の強い方か……」
「あの中隊長に協力を頼むのか?」
「いや、正義感の強くて暴走するタイプだと……迂闊に話せば、ケリオスの所の中隊長の所に直接乗り込みかねない。勿論そいつにもしっかりと償ってもらうつもりではあるが、順番は後の方がいい。準備を整えてから犯罪組織の件で協力を求める。犯罪組織の逮捕はそっちの中隊長にやってもらった方が良いな。そして突入時にケリオスの所の中隊長と犯罪組織の繋がりを発見させる」
「そんなに上手くいくか……?それに犯罪組織の拠点がその中隊長の管轄地区にあるとは限らないぞ?」
センの話を聞き、ケリオスが難しい顔をする。
「まぁ、そこは俺が仕込む。ただ、証拠を捏造するつもりはないからな。それは本物を用意する必要がある。後はその犯罪者共の情報が欲しい。一番いいのは俺が直接そいつらの姿を見ることだが……」
「情報集めと繋がりの証拠探しは俺に任せてくれ。拠点を見つけることが出来たら遠目からセンも見張れば相手を見られるぞ?」
「それがいいな。他の準備は任せてくれ。あ、北地区担当って大体どの辺りなのか教えてくれ、仕込みをする物件を探さないといけないからな」
「何をするか知らねぇが、無茶なことはするなよ?」
仕込みの内容は聞かずに、しかしセンに任せておけばそちらは問題ないだろうと思いつつ、ケリオスが言う。
「あぁ、安全第一でやるさ。それよりケリオスこそ証拠探しは気を付けてやれよ?その上司だけが犯罪組織と繋がっているわけじゃないはずだからな」
「あぁ。すまねぇな……謝りに来ておいてなんだが、やる気が出てきた。」
宿に来た時とは打って変わって、生気に満ちた顔を見せるケリオス。
「一日一回は進捗報告をしよう。何かあったら必ず相手に伝える事、無茶は絶対にしない事。危険を感じたらすぐに引くこと。この三点だけはお互いに絶対順守だ」
「了解。じゃぁ早速行動させてもらうわ、最初の報告は明日でいいな?」
「あぁ、出来れば朝一か夜だと助かる」
(夜の場合はおっさんにもう一部屋借りる必要があるな。寝ている子供達のいる部屋でするような話ではないし)
「分かった。基本的に朝一、前日の報告とその日の予定を伝える感じにしよう。何かあった際に予定を聞いておけば対応しやすいだろ?」
「了解。くれぐれも気を付けてな?」
「あぁ、それじゃぁまた明日」
そう言ってケリオスはやる気に満ちた足取りで部屋を出ていった。
(大筋は考えた……後は必要な情報をケリオスに集めてもらって、ハーケル殿やライオネル殿に相談だな。ニコルに大怪我をさせ、ラーニャを殴り、トリスを泣かせたんだ……それはもう素敵な目に遭ってもらわないとな)
部屋に一人残ったセンは、犯罪組織を潰す計画を煮詰めていく。
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