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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第30話 面白い人
しおりを挟む扉をノックする音が聞こえ、ライオネルは確認していた書類から顔を上げた。
「お父様、今よろしいですか?」
「あぁ、勿論かまわないとも、エミリ。入りなさい」
「失礼します」
いつもと変わらぬ様子でドアを開けて入ってくる娘の様子を見て、ライオネルは目を細める。
その表情を見て、娘が何を話しに来たか察したライオネルではあったが、エミリが話し始めるのをにこやかに待つ。
エミリはゆったりとした歩調で部屋に入ると、執務机の前に置いてある応接用のソファに腰掛けるとライオネルの方に顔を向けた
しかしその後何も言う事は無い。
ライオネルはそんなエミリの様子を見て苦笑すると、執務机から離れエミリの対面へと座る。
「お父様、とても楽しそうですわね?」
「ん?そうかい?ただの書類整理だったのだけどね」
「違いますわ。というか分かっておられますよね?」
少しだけ頬を膨らませながら言うエミリを見て、更にライオネルの目じりが下がる。
「セン様とはどんなお話をされたのですか?」
エミリは何も言わないライオネルの様子を見て、仕方なく自分から本題を切り出す。
センとライオネルの商談があったのは数時間前の事、それだけの時間が経っているにも拘らず、ライオネルは未だに楽しそうにしている。
エミリにとってライオネルはとても優しい父親であると同時に、最も尊敬している商人の一人だ。
そのライオネルが年甲斐もなくワクワクしている様子を見せられては、一体どんな話があったのか気になるのも仕方ないだろう。
「エミリ、すまないがセン殿との話の内容は教えられないんだ。そういう契約を交わしていてね」
「そうなのですか。それでは仕方ありませんね」
聞き分けの良すぎる娘の対応に少しだけ寂しさを覚えたが、それ以上に頼もしさや誇らしさを覚えるライオネル。
「まぁ、エミリ自身がセン殿の信頼を得ることが出来れば、教えて貰えると思うよ」
「それは楽しみです……ですが、あのセン様と言うのはどういう方なのでしょうか?」
小首を傾げつつ流し目でライオネルを見つめるエミリ。
その表情を見たライオネルは内心冷や汗をかく。
(うん、エミリ。その表情はとても魅力的だけど、その歳でするような表情じゃないぞ?)
「どう、とはまた抽象的な質問だな。エミリはセン殿に何か感じることがあったのかい?」
内心の動揺を表に出さず、ライオネルはエミリに尋ねる。
そんな父親の内心には気づかずに、エミリは人差し指を顎に当て、センの事を思い出しながら口を開いた。
「そうですわね……あの年頃の方にしては、とても穏やかで紳士でいらっしゃいますわね。特に私に対して、一人の人間として対応して下さったところにとても好感を持てます」
娘がセンに対し好感を持てると口にしたことで、若干ライオネルの口元がひくついたのだが、エミリはその様子に気付いたそぶりを見せずに言葉を続ける。
「私の言動に驚いた後、丁寧に対応してくださる方は少なくはありませんが、やはりその対応は子供を相手にするようなもの……まぁ、実際子供ですから仕方ないとは思いますが……偶に子供が背伸びをしていると馬鹿にしたような目で見てくる方もいらっしゃいますからね、セン様の対応はとても嬉しかったです」
「確かに、セン殿はエミリに対しても対等な存在であるように振舞われていたな。セン殿の相手を見る力は相当な物なのだろう、どういう対応をすれば相手の懐に入りやすいかという見極めが早くて正確なんだ」
「恐ろしいですわね……」
エミリはどう恐ろしいかは口にはしない。尊敬する父が認めた相手を悪し様に言うのは憚られたからだ。
「他には何かあるかい?」
「セン様とはそこまで話せませんでしたから……今の所、セン様本人から得た印象はこのくらいです」
「なるほど……ではそれ以外の部分から、あの三人の子達から何か聞いたのかな?」
「そうですわね……ラーニャさん達から聞いた話は……セン様本人の対応以上に驚かされましたわ」
「ほう?聞かせてもらってもいいかい?」
「勿論ですわ……元々、ラーニャさん達はこの街に暮らす浮浪児だったそうです」
「ほう、そうだったのか」
それにしては、随分とあの三人は綺麗な目をしているとライオネルは思った。
ライオネルの知る浮浪児というのは、大体が暗く沈んだ眼をしているか、ギラギラとした攻撃的な目をしているかのどちらかだ。 あの三人の様に穏やかな目をしている者は見た事が無かった。
「それも、半月ほど前までそういう暮らしをしていたそうです」
「それは……俄かには信じられんな」
「はい。受け答えはまだ拙い所もありましたが、あのくらいの年頃の子でしたら十分だと思いますし……食事も食器を普通に使って食べていました。分からない部分はセンさんの動きを横目で見ながら真似ている感じでしたが……十分でしょう」
「ふむ……セン殿が教えたという事か」
「はい。しかもそれだけではありません。センさんはラーニャさん達に読み書きや算術を教えているそうです」
「なるほど。だが、それはセン殿ならそこまで驚くようなことでは無いのではないか?そういった物の大切さは十分理解しているわけだしな」
さもありなんと言った様子でライオネルは言う。その部分に関してはエミリも同意するところだったので頷いてから話を続けた。
「そうですわね。ただ教えているだけなら私もそこまで驚きません。私が驚いたのは、ラーニャさん達が既に簡単な算術や読み書きを身に着けているという点とセンさんの教え方です」
「ほう……それは素晴らしい……いや、エミリ待ちなさい。先程半月ほど前まで彼らは浮浪児だったと……そう言っていたね?」
「はい。勿論、本当に簡単なものです。一桁同士の加算や減算といった物です」
「うぅむ……そのくらいであれば……飲み込みの良い子であれば出来ても不思議ではない……か?」
「どうでしょうか?私の様に日頃からそういった物に触れる環境にあれば出来ると思いますが……」
「ふむ……彼らの元居た環境を考えれば習得が早い気もするが……それだけ熱心に頑張ったということではないか?セン殿の力と言うよりも彼らの努力を誉めるべきだろう?」
ライオネルの言葉に再び頷いたエミリは、笑みを浮かべながら続きを口にする。
「勿論その通りですわ。本人達が努力したからこそというのは間違いありません。ところでお父様、答えが3になる加算をいくつ言えますか?」
「ん?答えが3?1たす2と2たす1の二通り……いや、その顔はそれだけではないな?あぁ、0たす3と3たす0の四通りだ」
「流石ですわ、お父様。センさんが算術を教える際、まず基本を教え、それから問題を解かせる。その後でこういった問題を出してくるそうです」
「なるほど……しかし、式の方を問題として出すというのは変わったやり方だな。だが算術に対する理解をより深めるものではある……非常に合理的なやり方だ」
ライオネルが顎に手をやりながら面白いと呟く。その様子に満足したような笑みを浮かべながらエミリはラーニャ達から聞いた話を続ける。
「こういった問題の場合、ご褒美があったり罰ゲームがあったりするそうですわ。どちらも他愛のない物ではありますが……楽しみながら勉強するというのは、とても新鮮に感じましたわ」
「それはそうだな。勉学というのは真剣に取り組むものだ……遊び半分では身につく物も身につかないだろう?お前につけた教師も皆同意見だろう」
「ですが、ラーニャさん達はかなり早いペースで算術や読み書きを学んでいますわよ?これはセンさんの教え方が効果的という事ではないでしょうか?」
「ふむ……まだサンプルが少ないから絶対ではないし、試すにはリスクがあるから難しい所だな」
「そうですわね。その点は同意いたしますわ。ただ、こういった、他とは違うやり方を考えられると言うのは非常に素晴らしい事だと思います」
「その通りだ。やはりセン殿の発想は面白い」
そう言って笑うライオネルに、エミリは意地の悪い笑顔を見せる。
「ちなみにお父様?先程の問題、答えは五通りですわ」
「な、なんだと!?」
目を丸くして驚く父の顔を見てエミリが年相応の笑顔で笑う。
「ふふっ、1たす1たす1をお忘れですわ」
「そ、それはずるではないか?」
「私は加算としか言っておりませんし。それに買い物をする時に三つ以上の物を計算するなんて普通の事ではありませんか?」
そう言って笑うエミリにライオネルは食って掛かる。
因みにこの台詞は数時間前、エミリ本人が言われたことでもあった。
「だったら!1たす1たす1たす0もいいではないか!五通り以上あるぞ!?」
「お父様……それはタダの屁理屈ですわ。それを許可したら無限に答えを作ることが出来るではありませんか」
父が子供の様に屁理屈を言うのを見てエミリがため息をつきながらも楽しげに笑う。ライオネルは悔しげではあるが……やはり楽しそうにしている。
「むぅ……やはりセン殿を子供の教師として採用するのは無しだな!意地悪な子供ばかりになってしまいそうだ!」
「まぁ……ふふっ」
こんな風に話題にされているとも知らず、セン達は宿でぐっすりと寝ていた。
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