召喚魔法の正しいつかいかた

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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ

第24話 秘密保持契約

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 目を血ばしらせながら掴みかかってくるライオネルに対し、センは本気で身の危険を感じて逃げる。

(まずい、こういう危険は想定していなかった!友好的な人物でも興奮状態だと相当危険だ!)

 センは大型の草食動物に対するような感想をライオネルに抱く。ライオネルの見た目は雑食の熊そのものではあるが……センにとってこの世界に来てから一番危険な状況であることは間違いない。

「落ち着いてください、ライオネル殿!今説明致しますので!」

 椅子から立ち上がり待ったをかけるセンの様子を見て、ライオネルは一旦落ち着く。

「いや、申し訳ありません。セン殿、ハーケル殿、つい興奮してしまいました」

「いえ、私の方こそ少し驚かせすぎたみたいですね」

 ライオネルが椅子に座り直したのを見て、センも椅子に座り笑顔を見せながら言葉を続ける。

「今お見せした通り、私は物を取り寄せたり、人を喚びだしたりすることが出来ます」

「それは、どんな物でも、どんな人物でも……どのような場所からでも、ですかな?」

 テーブルに身を乗り出しながら鼻息荒くライオネルが尋ねる。

「そうであれば良かったのですが、流石にそこまで便利ではありません。当然いくつもの条件をクリアしたものだけです」

「やはりそう上手い話はありませんか……その条件というのをお聞きしても?」

「そうですね。すぐにでもお教えしたいところですが……申し訳ありません。ここから先は契約を結んで頂きたいのです?」

「ふむ……契約、ですか」

 今までの豪快な雰囲気から一変、ライオネルの瞳が鋭利な色を帯びる。

「その契約というのは、商人ギルドを介した商取引契約ではなく、法的な拘束力のある契約という事ですかな?」

「はい。内容は、私の許可なく私の能力について口外しない。但し自身や肉親の心身および生命を盾に強要された場合を除く」

「……思っていたよりも緩いですね」

 センの提示した条件を聞き顎に手を当てたライオネルが呟く。

「そして私の方は、ライオネル殿との仕事で得たライオネル商会、およびライオネル殿個人の秘密情報についてライオネル殿の許可なく第三者への開示は行わない。これでどうでしょうか?」

「私に比べセン殿の制限は随分と範囲が広い上、危険に際しても漏らすことは出来ないと?しかも家族の保護もよいのですか?」

 ライオネルが顎を摩るようにしながら言うと、センは苦笑を浮かべる。

「私に肉親はいませんし、私一人なら逃げ隠れするのは得意ですからね。仮に私が捕らえられて逃げられない状況に陥ったとしたら……それはもう死んでいる状態だと思いますし、情報は漏らせません」

「これはまた妙な自信ですな……どうでしょう?差し支えないようでしたら肉親を双方の家族に変更しませんか?」

「家族としてしまうと随分と範囲が曖昧になりませんか?」

「そうではありますが……守りたいと思える相手を家族と言うと思いますし、セン殿はお若い。そういった相手が今後出来た際、この契約に縛られるのは良い事とは思えませんな。それに私の家族を人質にセン殿が迫られた場合、見捨てられることも無くなりますからな!」

 ライオネルは笑みを浮かべながら契約の一部変更を提案する。
 センは少しだけ考えるそぶりを見せた後、笑顔で頷いた。

「そうですね。その辺は少しゆとりを持たせた方が良いかもしれません。ありがとうございます」

 そう答えるセンの様子を見て、ライオネルが少しだけ笑みを深くする。

「それで、契約違反の際の罰則はどうするのですか?」

「それに関してはライオネル殿に決めて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ふむ?セン殿の秘密を守る為の契約なのに良いのですかな?」

「同時にライオネル殿の利権を守る為の物でもありますからお気になさらず」

「……分かりました。では少々お時間をください」

 そう言って顎を撫でながら思案顔になるライオネル。そんなライオネルの姿を見ながらセンは少しだけ肩から力を抜く。
 ここまでの展開は、センが主導権を握っていたこともありほぼ予定通りだ。想定外だったのは、ライオネルの体躯と興奮したライオネルに詰め寄られそうになった時の事だけである。
 それはともかく、当然、センが契約違反時の罰則をライオネルに決めさせようとしているのは、善意でも相手への配慮でも何でもない。センはこの提案でライオネルの人となりを見るつもりだ。
 もし契約違反の罰則を軽い物や見せかけ程度の物にする様なら、自分で契約を結びたいと申し出たことを翻すことになるが、一切の秘密保持契約を結ばないつもりだ。
 その場合、先程みせた召喚魔法以上の物は見せないし、新たな提案もしない。

(紹介して下さったハーケル殿には申し訳ないけど……この話が上手くいかなかった場合、早々にこの街を出よう。ハーケル殿への納品だけは継続して出来るようにして……あの子達はどうしたものかな……)

 既に街を出る算段をある程度つけているセンは、この街で目標を達成できなくても別の街に移動すればいいだけだと考えている。
 そんな風にセンが先の事を考えていると、顎を撫でていたライオネルが手を下ろし居住まいを正す。

「セン殿。罰則はハルキア王国のミスリル貨五枚で。勿論与えた損害とは別にです」

「ミスリル貨五枚ですか」

 ミスリル貨とは金貨の上の貨幣で、金貨百枚でミスリル貨一枚になる。
 つまり罰則は損害補償と金貨にして五百枚。
 ライオネル商会の機密情報漏洩での損害となれば金貨五百枚程度では当然済まないだろうが、センの魔法について漏らされた場合、損害を金で支払うというのは難しいだろう。つまり、実質金貨五百枚だけとなる。
 金貨五百枚は決して少ない金額ではない。一般家庭であれば十数年程度は軽く遊んで暮らせるだろう。

(少なすぎるな)

 センは営業スマイルを浮かべたまま、心の中でため息をつく。
 金貨五百枚は対企業と考えると、契約違反の罰則としては軽すぎる。当然、大手商会とされているライオネル商会であれば毛ほどの痛手もないだろうし、ライオネル個人の懐から出しても大してダメージはないだろう。
 何せ、センですらハーケルとの取引で既に金貨百枚以上は稼いでいるのだから。

(失敗か……悪くなさそうな相手に見えたんだがな)

 センは契約は必要ないと口にしようとしたが、それよりも一瞬早くライオネルが口を開く。

「多かったですかな?ハーケル殿との取引で結構稼いでいると思ったのですが……支払いはまだでしたか?」

「いえ、ハーケル殿のお陰で罰則金くらいは何とかなると思いますが……」

 センがそう口にした瞬間、ライオネルが今までとは少し違うタイプの笑み……にやりと笑ってみせた。
 その笑顔を見た瞬間、センは嵌められたことに気付いた。

「それは良かった、とりっぱぐれることは無さそうですな。では次に私の方の罰則を……私個人の資産の七割、それとライオネル商会の経営権の譲渡でどうでしょうか?」

「……なるほど。これは是非とも、誰かに私の秘密を洩らさせるように依頼しなければなりませんね」

 センが営業スマイルとは少し違う、本当に嬉しそうな笑みを浮かべながら言うとライオネルも相貌を崩す。

「はっはっは!絶対に秘密は死守させて頂きますよ?」

「それは残念です」

(当然向こうもこちらを値踏みしているのは分かっていたが……俺がライオネル殿を試しているのを見透かされた上に、自分の読みが当たっているかどうかの答え合わせまでされてしまったようだな。罰則を決める話をした時に俺の秘密を守る為の契約と言われたことで、ライオネル殿の罰則の話だと勘違いさせられていたか……)

 ライオネルに一歩先んじられたのは確かだが、センは別に悪い気はしていない。寧ろこれから先のビジネスパートナーとして考えるのであれば心強いとさえ考えている。センが嬉しそうに笑ったのはその為だ。

(まぁ、俺みたいなにわか営業が、経営者兼営業みたいなタイプに交渉事で勝てるわけないよな)

「では契約書を作成しますか。立会人はハーケル殿にお願いするとして、写しは双方の手元に残し、原本は商人ギルドに二人で持って行く必要がありますからな。食事の後にでも持って行くとしましょう。商談はその後にしたかったのですが……申し訳ない、食事の後は予定が入っておりまして……明日でもよろしいですかな?」

 ライオネルは手早くカバンから羊皮紙やインク等を出しながら、この後の事を話していく。特にその提案に異論のなかったセンは、明日の夕方にライオネル商会を訪ねることで同意した。

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