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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第22話 こんなことが出来る
しおりを挟む「これは俺のとっておき……奥の手だからあまり触れ回らないでくれると助かる」
そう前置きしたセンは全員の顔を見る。
ラーニャ達は何の話が始まるのかと緊張した表情を見せていたが、センが三人はもう知っている話だから大丈夫だと伝えると肩の力を抜いた。
「セン殿。そのような話を私達にして良いのでしょうか?」
気遣わしげな様子のハーケルと興味津々といった様子のケリオス。
二人の様子は対照的ではあったが、センは問題ないと言うように笑顔を見せる。
「えぇ、お二人には色々とお世話になっておりますし、それに全てをつまびらかにと言う訳ではありませんしね」
そう言ったセンは部屋の隅の方に移動する。
「私は、私自身が良く知っている人物を自分の傍に呼び出すことが出来ます。それとまぁ、物もですね」
「それは……随分と変わった能力だな?魔法だよな?」
ケリオスが首を傾げながらセンに問う。そんなケリオスにセンは頷くとラーニャに視線を合わせた。ラーニャはセンの意図をすぐに理解して軽く頷く。
「あぁ、魔法だ。こんな感じだな」
そう言ってセンは召喚魔法を発動して、少し離れた位置にいたラーニャを自分の傍へと呼び出す。
ギョッとしたように肩を揺らしたハーケルとケリオスだったが、召喚されたラーニャの姿を見て感心した様子を見せる。
「セン。その魔法で他の誘拐された人物を助け出すことは出来るか?」
「いや、無理だ。さっきも言ったが俺の良く知っている人物じゃないと呼び出すことは出来ない」
ケリオスの質問にセンはかぶりを振る。
正確には名前や性別等その人物を特定する為の様々な情報があれば、直接面識のない人物でも召喚することは可能なのだが、それは少し危険な能力なので秘することにした。
センの話を聞いたハーケルは納得した様子を見せている。
恐らくセンが持ち込んでくる素材について、どうやって入手しているかが分かったのだろう。
そんなハーケルにセンは笑ってみせた後、ケリオスへと向き直る。
「じゃぁ、下手人を呼び出すってことも無理なわけだな……」
「……あぁ、すまないな」
センの言葉にケリオスが苦笑してかぶりを振った。
「流石に楽は出来ないか。まぁ、そっちは俺に任せてくれ。じゃぁ、俺は調査に向かわせてもらうぜ?セン、何か分かった時は連絡を入れる。まだ暫くはあの宿にいるだろ?」
「あぁ、頼んだ。後……気を付けてな?」
「おう!」
そう言ってケリオスは片手を上げると子供達に笑いかけてから部屋を出ていく。
魔法についてあまり知識のないケリオスにとっては、他に使い手のいない召喚魔法であっても便利な魔法もある物だな程度の認識でしかない。
その姿を見送ってからセン達は店へと移動する。
(まだ事件からあまり時間が経っているわけじゃないが、三人とも落ち着いているようだな)
話をしている最中も注意して三人を見ていたセンはそう判断する。
(しかし……まだ三人を外に出すのは不安だな。ハーケル殿には迷惑をかけることになるが、もう少し預かってもらって、宿についてから召喚するのが一番なんだが……)
センがハーケルに召喚魔法を話したのは実はこの為でもあったのだが……今日はずっとハーケルの世話になっているので、これ以上頼みごとをするというのも若干言い出し辛く、どう切り出そうか悩んでいると、ハーケルの方からセンに話しかけてきた。
「セン殿。色々と慌ただしくなってしまいましたが、先程の件はいかがいたしましょうか?」
そう言われて、トリスが駆け込んでくる前に話をしていた件をセンは思い出す。
(すっかり頭から抜けていたが、ハーケル殿が懇意にしているという商会の人間を紹介してくれるという話をしている所だったな)
「申し訳ありません、ハーケル殿。まだ返事が出来ていませんでしたね」
「いえ、状況が状況ですから気になさらないで下さい」
「ありがとうございます。明後日の昼前という事でしたね?」
「えぇ、先程言いかけていましたが、昼食を一緒に取るのはどうかと思いまして」
「それは非常にありがたいですね、是非よろしくお願いします」
センはそう言って笑う。
(昼という事もあり、酒を飲みながらと言う訳ではないだろうが、食事会というのも悪くない。何故か食事をしながらだと気を許しやすくなるからな。初めての相手と交渉するならその方が助かる)
「では、先方に伝えておきますね。あ、先程言い損ねていましたが、先方はライオネル商会の会頭ですよ」
「え?か、会頭ですか?」
センが目を丸くしてハーケルに問う。
先程ハーケルは懇意にしている商会の方としか言わなかった。しかしセンの反応を見て笑うハーケルを見る限り、恐らく確信犯であろう。
「まぁ、緊張しなくても大丈夫ですよ。見た目ほど恐ろしい人物ではありませんから」
「……見た目程?」
「まぁ、後はあってからのお楽しみという事で」
そう言って笑顔を見せるハーケルは、いつもの柔和な笑みとは違い茶目っ気のある笑顔を浮かべている。
そんなハーケルの様子に、そこはかとなく不安を覚えたセンであったが、そうそう変なことにはならないだろうとハーケルを信じることにした。
「ハーケル殿、その方とお会いする時に注意する話題とかはありますか?」
「いえ、そこまで気にしなくて大丈夫ですよ。セン殿でしたらいつも通りにしていれば問題ないでしょう」
「……そうおっしゃっているハーケル殿の顔が、非常に不安を煽ってくるのですが?」
「ふふ、すみません。ですがこれは何かを企んでいると言う訳ではなく……ただ純粋に明後日を楽しみにしているだけですよ?」
(その楽しみにしている顔が非常に不安を誘っているわけですが……まぁ、言っても教えてくれないだろうし、前向きに考えるか)
「……分かりました。私も当日を楽しみにしておきます。とは言っても明日も納品で伺わせていただきますが」
「えぇ、お待ちしております。」
「それとハーケル殿、恐縮ではあるのですが……」
センはちらりとラーニャ達の事をみてから言葉を続けようとしたのだが、その前にハーケルが頷く。
「えぇ、お任せください。宿に戻ってから先程の魔法を使ってあの子達を呼ぶのですよね?」
「御慧眼の通りです。申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「畏まりました。いきなり彼女たちがいなくなっても驚かない様にしないといけませんね」
「カウンターの傍に居る様に伝えておきます」
ハーケルに三人の事をお願いしたセンは、その事をラーニャ達に伝え店を出る。
(ケリオスが誘拐犯を捉えてくれるのが一番いいんだが……相手にこれといった特徴がないからな……ラーニャを召喚した時にいた場所は分かるが……ただの路地だし、手掛かりにはならないだろう。治安のあまりいい場所ではないし難しいだろうな)
センは宿への道を急ぎながらどうにかして今回の件を調べる方法がないかを考える。
(……もう少し冷静になるべきだったか?いや、ラーニャは殴られていたし、一刻も早く助けて正解だったはず……だがこれ以上の追跡が難しくなったのも確かだ。せめて俺がこの世界における人並程度に動けることが出来ればいくつかやりようはあったが……ままならないものだな)
センは己の無力さを改めて実感しながら宿への道を急いだ。
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