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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第20話 狙いは?
しおりを挟むケリオスがいる詰所へと急ぎながらセンは思考を続ける。
(俺が原因とするなら……一つは元の世界の奴等だな。殺人が起きたのが本当なら、その関係で俺を狙っている可能性がある。一応あの拠点を使っていた時は顔を隠していたし、あの子達は入り口から出入りさせてはいないが、街中で会っている所を見られている可能性はある。俺の選んだ才能が分からない以上……やり易い方法、簡単な手段を取るのは当然だ)
センにとって一番怖いのは知覚出来ない距離からの一撃だ。
相手が目の前に来てくれれば逃げるくらいは何とかなる。だが狙撃や罠……暗殺や毒を仕掛けられた場合、召喚ではどうすることも出来ないだろう。
(経口摂取ならワンチャン体内に入った毒を外に召喚できるかもしれないが……練習しておくか)
センは思考が明後日の方向に進んだことに気付き修正する。
(しかし、この世界に来てそんなに時間の経っていない俺に、人質が通じると考えるだろうか?一か八かで仕掛けるにはリスクが高い。一度対峙してしまえば敵対している事が完全にバレる。殺すつもりなら必殺である必要がある……いや、自分は顔を出さずに、この世界の人間にやらせると言う手もあるか……でもそれならば、俺の強さを見るために最初は直接ぶつけた方が効率的だな)
詰所が見えてきてセンは少し速度を緩める。
(もう一つの可能性は……俺の羽振りの良さに目をつけられたって所か)
宿に移って以降、センは顔を隠すのを止めている。当然ラーニャ達と一緒に居るという事は、調べればすぐに分かるはずだ。
そしてケリオスの知人を紹介してもらいがてら、ここ最近の夜は一緒に呑みに出掛けていた。その時、基本的にセンの驕りで飲み食いすることが多いので、懐事情はそれなりに大っぴらになっている。
そこに目をつけられた可能性はある。
(しかし……無駄に遊んでいたわけでは無いからな。手っ取り早く人脈を築くための必要経費ではあるのだが、あの子達に迷惑をかけるのはな……しかし、今更あの子達と距離をとっても既にそうと認識されてしまっている以上意味はない……やはり臭いは元から発つ必要があるよな)
まずは今回の誘拐犯の目的を知るのが最優先だと考えながら、センは衛兵の詰所の扉を潜る。
「あれ?センか?呑みに行くにはまだ早いと思うが、夜の誘いか?」
詰所に入った瞬間、扉の近くにいた衛兵の一人がセンに声を掛ける。数日前にケリオスと一緒に呑みに行った時にいた一人だ。
「いや、今日はちょっと問題が発生しまして……急ぎ助けが欲しくて来ました」
「厄介事か?ケリオス隊長は今巡回に出ているから、俺で良ければ聞くが?」
ケリオスはこの詰所の隊長職にある。
本人が言うには全然偉くないし給料も他の奴らと変わらない、だが仕事だけは多く欠片もいい事がない厄介職とのことだが、その面倒見の良さから部下には慕われているようだ。
「実は犯罪に巻き込まれまして。それも、出来る限り急いだほうがいい内容だったので急ぎ詰所に伺わせていただきました。」
それまでのんびりとした表情で話していた衛兵の表情が変わる。
「すまん、詳しく聞かせてくれるか?何があった?」
「私が面倒を見ている子供達がいるのですが、その子達が誘拐されかけました」
「子供の誘拐か……されかけたってことは逃げられたんだな?」
「はい、なんとか。ですがその際、子供が一人刃物で刺されまして……あ、一命は取り留めましたが……そのような犯人を野放しにしておくわけには」
「なるほど……そいつの人相は分かるか?」
「すみません、まだ子供達も動揺している様子だったので詳しくは聞いておりません。出来れば衛兵の方に直接聞いてもらう方が良いかと。ただ、相手は複数犯で面識のない相手だったと」
「確かに直接話を聞いた方が良さそうだが……すまない。詰所を空にするわけにはいかなくてな。その子供たちをここまで連れてくることは可能だろうか?」
「少し難しいかもしれません……」
センが一緒であれば三人も外に出るのは大丈夫かもしれないが、身代金目当てでなくセンを狙っての行動だった場合、今のセンが三人を守りつつ自身の安全を確保するのが難しい。
(信頼できる戦闘力の高い人間と安全な拠点の確保が急務だな……しかし、安全な拠点はともかく信頼できる戦闘力の高い人間は……一朝一夕ではいかないからな)
センが渋い顔をしていると、詰所の入り口俄かに騒がしくなり、数人の衛兵が入って来た。
「ん?何かあったのか……ってセンか?どうしたんだ?こんな時間に」
戻って来た衛兵の中にケリオスが居り、センに声を掛けてきた。
「あ、隊長。実はですね……」
センが事情を伝える前に、対応してくれていた衛兵がケリオスへと報告を始める。
「……分かった。セン、俺が話を聞きに行く。その子達はどこにいる……というか付いてなくて大丈夫なのか?」
事情を聞いたケリオスがセンに向き直り、気遣わしげに問いかけてくる。
「あぁ、今はハーケル殿の所にいる」
「それなら安心だ。あそこに押し入る様な馬鹿は、店先で吊るされるだろうからな」
「……それは安心だな」
(やはりハーケル殿は強いのか……?まぁ、今はその方が心強いが)
センは薬屋の店主の柔和な笑みを思い出しながら少し安心する。
「よし、セン。急いで薬屋に向かおう。いくらハーケル殿がいたとしても、お前がいないと子供達も不安だろう」
「あぁ、すまないが、ケリオス。よろしく頼む」
「気にするな。俺の仕事だ」
ケリオスがにやりと笑い詰所から出ていき、センは後に続く。
急いで子供たちの所へと行こうとしたケリオスはセンを急かしたものの、いくら若返ったとはいえ、ケリオスが求める速度で動き続ける事はセンには出来ず……薬屋に到着した時、センは息も絶え絶えになっていた。
「センさん!大丈夫ですか!?」
「……兄様!」
「……」
ラーニャとトリスの二人が、薬屋の入り口から入って来たセンをみて駆け寄ってくるが、荒い息をつくセンは、二人に何も答えることが出来ない。
「すまん、そこまで走らせたつもりはなかったんだが……」
薬屋まで先導しつつ、センを急かしてきたケリオスはバツが悪そうに言うが、センは項垂れながらかぶりを振ると、息も絶え絶えに言葉を絞り出す。
「急いだほうが……いい……時間が経てば……追えない……」
「あぁ、そうだな。えっと、ラーニャとトリスだったよな?俺はセンの友達のケリオスだ。まだ辛いと思うが、さっきあった事の話を聞かせてくれないか?」
大柄なケリオスは二人を威圧しない様に笑顔を見せながら片膝をつき、二人に目線を合わせ話しかけた。
衛兵姿のケリオスに二人は怯えを見せていたが、センの友人と名乗ったことで少し警戒が薄くなっていた。
「二人とも……ケリオスに、はなし……してくれるか?……大事な……ことだ……」
今にも倒れそうなセンが何とか口に出した言葉を聞き、二人は寧ろセンの方が心配だと言った表情を見せたが、センに言われたという事もあって、一生懸命ケリオスに当時の状況を説明する。
センも息を整えつつ話を聞こうとしたが、先にハーケルの所へ行ってお礼を言う。
「ハーケル殿、ありがとうございました」
「いえいえ、大したことはしていませんよ。二人ともいい子でしたしね」
そう言っていつも通りの笑みを浮かべるケリオスに軽く頭を下げたセンは、まだ眠っているニコルの頭を撫でる。
「ニコル君はもうそろそろ目が覚めると思いますよ。トリスさんがすぐにポーションを飲ませてあげたので、あまり血を流さずに済んだみたいですからね」
「……良かった。これもハーケル殿の作って下さったポーションのお陰です」
「お役に立てて何よりです」
ハーケルに改めてお礼を言ったセンはケリオスと話す二人へと注意を向けた。
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