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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第14話 拠点確保
しおりを挟む「食事は別だぜ?この辺りにしてはかなり高い方だと思うが」
「そうなのか?まぁ、値段に見合った宿ってことだろ?ところで長期で借りても大丈夫か?」
センはある程度の懐事情と今後の収入の目安が付いているので多少高くても信用を選んだ。
「あぁ、構わないぜ?どのくらいだ?」
「ひとまず十日、その後継続するかはその時にって感じでいいか?」
「了解だ。俺はまだここの片付けがあるから……先に宿に行くか?受付で俺の名前を出せば案内してもらえるぜ?」
「……あいつらに服も用意してやりたいし、少ししてから行くことになると思う」
「なら到着は同じくらいになるか?流石にもうあいつらもそろそろ満腹だろうし、今日は早々に片付けちまおう」
二人が子供たちの方を見ると、トリスとニコルの二人はもう食べるのは止めており、ラーニャだけがまだ食事を続けている。
(なんか、ラーニャだけはまだまだ食べられそうだが……まぁ他の二人より年上だし、成長期なんだろうな。そういえば、三人の年齢は聞いていなかったが……正確な年齢は本人達も把握してい無さそうだな)
センの見立てでは、トリスが一番幼く八歳程度、ニコルは十歳くらい。そしてラーニャは十二か十三くらいだ。
(このくらいの年齢だったら一歳違えばかなり変わってくるが、大体そのくらいと思っておけばいいだろう)
「じゃぁ、おっさん。食べ終わったら俺達は服を買ってから宿に向かうが、宿の場所を教えてくれ。あ、ついでに服が買えるところも頼む」
「あぁ、宿は目抜き通りにあってな、南門から歩いてすぐだ。赤い看板に三つの輪がぶら下げられているからそれを目印にしてくれ。服は……あー、腕が良いかどうかは分からんが、すぐそこに一件仕立て屋があるぞ?」
そう言って一つの店を示す店主。
「仕立てって時間かかるんじゃないのか?既製服って売ってないのか?」
「既製服?あぁ、古着か。あー古着ならうちにあるからやるよ。下働きの子供用の物があったはずだ」
「いいのか?」
「あぁ、折角体を洗っても、またあの服を着たら意味はないしな」
「じゃぁ、言葉に甘えさせてもらう。仕立て屋には、明日三人を連れて行くとしよう」
センがそう言うと再びニヤニヤしだす店主。センは居心地の悪さを覚えながら三人の方に振り返るが、相変わらずラーニャはまだ食べているようだ。
「そういえば、四人部屋でいいのか?」
「ん?あぁ、まだ子供だし四人部屋で大丈夫だと思うが、分けた方がいいか?」
「いや、お前の趣味はどうでもいい。そうじゃなくて、お前嫁がいるんじゃないのか?」
一瞬何やら失礼なことを言われたような気がしたセンだったが、それよりも気になる単語が出てきた。
「嫁?」
店主にそう言われて朝の会話を思い出したセンは頭を掻く。
「あぁ、アレは嘘だ」
「……ほんと性格悪いな」
「まぁな」
舌打ちをする店主に笑みを返すセン。
しかし、話している間にも店主の手は動き続け、屋台の掃除を終え、食材等の片付けも終わったようだ。
「後はそこのテーブルの掃除だけだな。他に用事がないなら一緒に宿に行くか?」
「……そうだな。折角だからそうさせてもらうか。荷物運びくらいは手伝うぜ?」
「客にそんな事させられねぇよ。気持ちだけ受け取っておく」
そう言って近くにあった荷車に荷物を載せていく店主。
その姿を横目にセンは子供たちの方に近づく。
丁度皿の中が空っぽになったようで一心不乱に食べていたラーニャが我に返り挙動不審になっていた。
「美味かったろ?」
「は、はい。とっても……」
消え入りそうな声で返事をするラーニャだったが、店主が屋台の片づけをしているのに気付いて椅子から立ち上がる。
「楽しんでもらえたなら何よりだ。ところでそろそろ移動しようと思ってな、ここを片付けようと思うんだがもういいか?」
「は、はい!大丈夫です!すみません!」
「いや、謝る必要はないけどな?」
慌てふためくラーニャに落ち着くように言いながらセンが苦笑していると、串だけが残された皿を店主が回収して手早く片付けてしまう。
三人は席から立ち上がり所在なさげにしていたが、店主が少し退いて欲しいと声を掛けると道の隅のほうへと移動した。そんな三人にセンは近づきこれからの事を伝えるべく口を開く。
「これから移動するんだが……昨日使った場所には帰らない。あのおっさんが宿をやっているようでな。そっちに移ることにしたんだ」
「……そう、なのですか」
センの言葉を聞き、ラーニャだけではなくニコルやトリスの表情が暗く沈む。
その様子を見て一瞬疑問に思ったセンだったが、すぐに思い至り言葉を続ける。
「宿に移動するのは俺だけじゃない。ラーニャ、ニコル、トリス。三人も一緒だ。まだ話があるし、色々と答えてくれるんだろ?」
「は、はい……ですが、その……」
「行くのはそこのおっさんがやっている宿だ。勿論部屋を借りる条件もしっかり俺が聞いている。水を使わせてもらえるから、部屋に上がる前にしっかりと体を洗えば大丈夫だ」
「でも、そんな……」
「まぁ、色々と押し付けて悪いと思うが……俺に助けられて運が悪かったと思って諦めてくれ。まぁ、どうしても嫌だって言うなら、俺も諦めるが」
(ここまで色々と押し付けまくっているし、ラーニャが警戒するのも分かる。俺が逆の立場だったら絶対に逃げるしな)
そんな風にセンが考えていると、トリスが近づいて来てセンを見上げる。
「……トリスは行く」
相変わらず感情の読めない表情ではあるが、こういった時に一番最初に行動するのはいつもトリスのようだ。
(トリスは思い切りがいいのか……それともあまり人の裏とかを気にしないのか……いや、この年頃の子供なら当然だとは思うが……こういう暮らしをしている人間としては危なくないか?)
実際、トリスはその辺に一番敏感なのだが、まだ付き合いと呼べるようなものの無いセンはそのことに気付かず、自分を見上げてくるトリスの頭を軽く撫でる。
「僕も、センさんが良いと言ってくれるなら」
「あぁ、勿論だ。ニコル」
トリスと同じようにニコルの頭を撫でたセンはラーニャの方に視線を向ける。
ラーニャは視線を向けられて一瞬びくついたが、すぐにセンへと近づいてくる。
「ラーニャ。昨日の今日で不安にさせているのは十分理解しているつもりだ。そんな俺が約束しても信用も何もないと思うが……決して悪いようにはしない、約束だ」
センがそう言うとラーニャはかぶりを振り口を開いた。
「大丈夫です、私もセンさんについて行かせてください」
「そうか。ありがとう」
他の二人に比べて若干重たさのある返事ではあったが、ラーニャも了承したことでセンは笑顔になる。
そしてテーブルの掃除を終わらせ、四人の様子を見ていた店主がセンに声を掛ける。
「おう、待たせたな。準備は出来たからそろそろ向かうとしよう」
「あぁ……ん?テーブルや屋台はこの場に置いておくのか?」
「あぁ、ここは持ち回りで使っている場所だからな。だからこそ掃除は念入りに行っておかねぇと煩いのよ」
「へぇ……色々世話を掛けるな」
持ち回りで使うような場所に、独断で浮浪児である三人を座らせたのはあまり良いことでは無い筈だ。それでも何の躊躇いもなく三人に席と食事を与えた店主は相当なお人好しだろう。
センは店主に対し頭を下げる。しかし店主は先程のセンのように、顔を顰めながら手を振ると荷車を牽いて移動を始める。
その後ろ姿を見つつ、センは皮肉気に口角を釣り上げた後、子供たちを伴い店主を追いかけた。
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