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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第13話 男前
しおりを挟む「そいつらに飯を食わせてやるのか?」
「そうだが、問題あるか?」
屋台の店主が顔を顰めたのを見てセンが問いかける。
(そういうのは気にし無さそうなタイプだと思ったが……読みが外れたか?)
三人はあまり衛生的とは言い難い恰好をしている上、つい先ほどまでゴミ漁りをしていたので少々鼻につく臭いをしていた。
普通の飲食店であれば入店拒否どころか営業妨害と訴えられてもおかしくないだろう。
「いや、俺は構わないぜ?金はにーちゃんが払ってくれるんだろ?」
「当然だ。」
「なら一切問題はねぇ。おう、ガキ共そんな隅にいねぇでそこの椅子に座れ。今から今まで食った事無いような旨いもの食わせてやる。このにーちゃんの財布を空にするくらい食っていけ」
「おっさん……そんな言い方したらこいつらが遠慮するだろうが。三人とも大丈夫だ、いくら食べてもこんな小さな屋台程度で俺の財布は空にならんから、好きなだけ食べると良い」
「言ってくれるな?にーちゃん。」
「先に仕掛けてきたのはおっさんだろ?」
睨み合っている二人と、本当に席についていいのか迷っている三人。
勿論、センと店主はじゃれ合っているだけだが……三人にそれは伝わらない。とは言え、センも店主も座っていいと言っているのだから気にする必要は無いのだが。
「おっさん、一度やめよう。飛び切り旨いのを焼いてくれ」
「あぁ、それがいいな。任せとけ」
ラーニャ達の様子を見て店主とのじゃれ合いを止めたセンは、三人の方に近づき声を掛ける。
若干バツが悪そうにしているが……どうやら店主との悪ノリを反省しているらしい。
「許可も貰ったからな、三人とも座ると良い。見た目はこんなだが、意外と美味しいんだ」
「一言余計なんだよ……」
センの言葉を聞き、小声で文句を言いながらも肉を焼いていく店主。
香ばしい匂いが辺りに立ち込め、ラーニャ達のお腹が鳴く。
その暴力的とも言える香りに誘われるように、通りを歩いていた人達が屋台に近づいていくが、何故か店主が今日はもう材料がないと追い返してしまう。
(いくらなんでも材料を食い尽くす事は無いと思うが……)
そう思ったセンだが、何かしら店主に考えがあるのだろうと思い、その事には触れないでおく。
店の事はさて置き、三人を席に座らせたセンは、挙動不審な様子の三人に注意を向ける。
(怯えているな……ここで飯を食べされるのは間違いだったか?おっさんには申し訳ないが、移動した方がいいかもしれんな)
そうな風にセンが考えていると、大きめの皿に串焼きを乗せた店主が笑顔を浮かべながらやってくる。
「待たせたな。自慢の焼串だ。しっかりと味わいながら沢山食え!」
「あー、おっさん、それなんだが……」
センは三人が居づらそうにしている事を理由にここから離れることを店主に伝えようとしたのだが、それよりも早く店主が続けて口を開く。
「おう、ガキ共。お前らは何も悪い事はしてない。ちゃんと金を払ってそこに座っているんだ。だから堂々としていろ。それにだ、金を払ったそこのにーちゃんも、料理を作った俺も、お前たちが美味そうに飯を食ってくれるのが一番嬉しいんだ。だからほれ、とりあえず食って見ろ」
そう言って皿をテーブルの真ん中に置いた店主は晴れやかな笑顔を浮かべる。
先程の薬屋の老店主の浮かべる周りに安堵を与えるような笑みとは違うが、人好きのする笑みだ。
その言葉を聞き、笑みを見たセンも後に続く。
「そうだな。今まで色々あっただろうが……少なくとも今は気にしなくていい。出来れば周りの事を気にしないで、おっさんの言う通り食事を楽しんでくれると嬉しいな」
センがそう言うと、最初に動きを見せたのはやはりトリスだった。皿に盛られている串に手を伸ばし肉にかぶりつく。
「……おいし」
「当然だ。よく噛んで食えよ?」
端的な感想を言ったトリスに店主笑いかけると屋台の方に戻っていく。
(中々男前なおっさんだな)
その後ろ姿を見送ったセンは未だ肉に手を出していないラーニャ達に声を掛ける。
「ラーニャ、ニコル。お前達も食べてくれ。昨日と同じだ、遠慮はいらない。しっかり食べて、腹がいっぱいになったらまた話をしよう」
センがそう言った事でようやく串に手を伸ばした二人だったが、最初の一口で肉の虜になったらしく、その後は勢いよく皿に乗った串を消化していく。その勢いは凄く、センが皿に手を伸ばした時には最初に食べ始めたトリスだけではなく、ラーニャもニコルも二本目を食べ始めていた。
その様子を見ていた店主は嬉しそうに笑みを浮かべると、追加の串をどんどん焼き始めた。
その後暫く無言で食事に集中していたセン達だったが、店主が二皿目を持ってきた時にセンの事を屋台の方へと呼んだ。
「にーちゃん、あの子供たちは……お前が面倒を見ているのか?」
「そう言う訳じゃないが……少し縁があってな。昨日から一緒にいるんだ」
「そうか……」
センの言葉に頷いた店主が、若干痛ましげな視線を三人い向ける。
「にーちゃんの奴隷ってわけじゃなく、偶々見知っただけの浮浪児ってことか」
「まぁ、そうだが……だからと言っていきなり放り出すつもりはない」
「……随分とお人好しなことだな」
「そうじゃねぇよ。子供は便利な労働力だからな。簡単な仕事を任せるには一番安い相手だ」
「へぇ?」
ニヤニヤしながら店主はセンに相槌を打つ。センは心外だとばかりに店主の顔の前で手を振るが、何かを思い出したように口を開いた。
「そうだ、おっさん」
「おっさんはやめろ」
少し顔を顰めた店主が言うと、センは手に顎を当てた後再び口を開く。
「店主殿、ご相談があるのですが」
「……普通に話してくれ」
「注文が多いな」
「ほんと、良い性格しているな……それでなんだよ?」
センの態度にため息をついた店主は話を促す。
初対面の人間には基本的に礼儀正しく接するセンにしては、この店主への態度は珍しいものだが……それは当然相手を見ながら話している。どうすれば相手の歓心を買いやすいか、どのように接すれば親交を結びやすいタイプの相手かをしっかりと計りながら自分の態度を決めているのだ。
ただの処世術ではあるが、システム開発をしながら軽く営業にも携わっていたセンの得た、仕事上のスキルの一つだ。
「実は宿を探しているんだが……あいつらも泊められるような宿とか、心当たりはないか?」
「あーなるほどな」
センは早めに拠点を変えたかったのだが……この三人にはまだ協力して貰いたいと考えていた。しかし、店先にいるだけでも追い返されそうな三人の姿は、とてもではないがまともな宿では受け入れてもらえないだろう。
「だったらうちに来い」
「おっさんのところに?」
「あぁ、俺は普段食堂付きの宿をやっているんだ。偶に宿を嫁に任せてこうやって出店をやっているんだが、結構評判はいいんだぜ?」
そう言いながら皿に追加の串焼きを並べていく。
センは内心、もう流石に食べるのは無理じゃないかと思ったが、それよりも店主の話の方が気になった。
「あの子達が宿に上がってもいいのか?」
「あぁ、宿の裏に井戸があるからな。先にそこで水浴びをさせてやってくれ。流石に客商売だから、あのまま上がってもらうわけにはな」
「そうか……いや、それは俺としても安心できる話だ」
(衛生観念が結構しっかりしているってことか……もしかしたら、他の客を追い返したのはアイツらの為ってのもあったんだろうが、衛生面を気にしたってのもあるのかもな)
センは店主が盛りつけた皿から串を一本手に取り齧る。
「お、この味付けも旨いな。これなら宿の料理も楽しみだ……ところで四人一部屋として、一泊いくらになる?」
「四人部屋なら銀貨三枚ってところだな」
「かなり安いな……」
センの懐には金貨だけでも四枚、銀貨にすれば四百枚分の金がある。
しかも既に稼ぐ手段は手に入れているので、その程度の金額であれば何も問題はない。
ご飯も期待できそうだし、金は十分にある。センは店主の宿に厄介なるのも悪くないと考え始めた。
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