召喚魔法の正しいつかいかた

一片

文字の大きさ
上 下
10 / 160
1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ

第10話 集中は程々に

しおりを挟む


 この世界の魔法は魔法式と呼ばれるものを自分に宿る魔力を使い焼き付け、それを起動することによって発動することが出来る。
 使いたい魔法によって異なる魔法式を焼きつけなければならず、その容量は人によって違う。さらに、人にはそれぞれ得手不得手があるように、使う魔法の種類によっても焼き付けることが出来る数や魔法式を起動させるのにかかる時間が変わる。
 そして魔法を使うのにただ魔法式を起動すればいいと言う訳ではなく、例えば火の玉を飛ばす魔法であれば、どのくらいの大きさ、どのくらいの速度、どの向きにといった条件等を設定することでようやく魔法は発動されるのだ。
 召喚魔法がこの世界で廃れてしまった原因の一つは、召喚魔法の魔法式があまりにも膨大であることが一つ。この世界に現存するどんな大規模な魔法よりも巨大な魔法式は、他の魔法を焼き付ける為の領域を使いつくさんばかりである。
 更に巨大な魔法式はただでさえ発動までに時間がかかるというのに、設定しなければいけない条件が多岐に渡り、とてもではないが実用に耐えられるものではなかった。
 そんな使い物にならないとされた魔法の才能を得たセンは、召喚魔法に最適化された自身の能力に加え、魔法式の改善に着手している。それはまだ数日程度の物で、センからしても完成にはまだ程遠いと思える出来ではあるが、最低限センが望む性能と魔法式の動作にまで引き上げることが出来た。
 そしてセンは召喚魔法を使う際に一つ工夫をしており、そのおかげで本来時間のかかる召喚魔法の発動を飛躍的に素早く発動させることに成功している。
 魔法式の改良やセンの行っている工夫については後々明かしていくが……今は自分の発動した魔法の結果を見てニヤニヤしているセンに視点を戻そう。

「秤がないから正確には分からんが……どう見積もっても百グラムは軽く超えているな」

 センは、傭兵ギルドの依頼票に書いてあった採取依頼の目的地から緑白石を召喚していた。

(魔法の発動速度に正確性も十分だな。これなら想定以上の動きが出来そうだ)

 想定以上の成果にセンはにやけ顔を止められない。

(何か袋の様な物は……あぁ、昨日食材を入れてきた袋に入れればいいか。しかし、あの店を出てからまだ十分くらいしか経っていないんじゃないか?流石に戻るには早すぎるし……召喚魔法の調整を少しして、ある程度時間を潰してから行くとするか)

 一度集中すると寝食を忘れて没頭してしまうにも拘らず、数時間で止められるだろうかという心配をセンはしていない。魔力によって以前よりも高まった集中力に本人が気付くのは一体いつの事だろうか。



「ん?今何時だ?」

 顔を上げたセンはいつもの癖で時計を探すものの、この部屋に時計は存在しないことを思い出し、顔を顰める。しかしすぐに思い直し、部屋の外の明るさに目を向けたセンは、夕日が差し込んで来ている事に気付き驚く。

(もうそんな時間か?昨日集中していた時間よりもかなり短く感じていたが……気のせいか?もしくは、この世界に来て体内時計が狂ったかもしれんな)

 残念ながら的外れなことを考えているセンだが、急ぎ片付けを始め、緑白石を入れた袋を掴むと緊急離脱用の召喚魔法を発動してから部屋の外に出る。

「まぁ、あの店まではそう遠くないはずだが……店に行って、商談をしてからあの三人と合流するとなると少し遅くなりそうだな」

 うっかりと集中し過ぎて、時間の経過に気付かなかった自分にため息をついた後、急ぎこの後の予定を立てる。

(店は何時までやっているか分からないし、取引初日に口約束であっても約束を違えるようなことはしたくない。しかし、日の傾き具合から恐らく商談が終わるころには日は沈んでしまっているはずだ。流石にそんな時間まで子供を放置するわけにはいかんよな……)

 ダブルブッキングと言う訳ではないが、どちらも時間的にあいまいな約束をしていたせいでちょっとしたピンチに陥っていたセンだったが、いくつか路地を曲がったところでラーニャ達三人が所在なさげにしている所に遭遇した。

「お、三人とも、丁度良かった。」

「センさん!もう用事は済んだのですか?」

「いや、すまない。少し別の事をしていてこれからなんだ。それで、どうする?君達にもう用事がないなら昨日の部屋に先に帰っててくれてもいいんだが」

 センがそう提案するとラーニャは少し思案するように首を傾げる。

「でもそうなると、センさんはまた一度あの部屋に戻らないといけないですよね?」

「まぁ、そうなるな」

「でしたら、この辺でセンさんが帰ってくるのを待つか……もし迷惑じゃなかったら、何かお手伝いさせてもらえませんか?」

「なるほど……」

 ラーニャの提案にセンは少し思案する。

(ラーニャ達には悪いが、ちょっと衛生的とは言いづらい恰好だからな……薬を調合している所に連れて行くには気が引ける。だが、今後の事を考えると……よし)

 すぐに結論付けたセンがラーニャに笑いかけながら口を開く。

「そうだな。これから少し商談をしないといけないからその間は待ってもらうことになるが、その後で色々と買い物をしたいんだ。店の場所も分からないし、そっちを手伝ってもらいたいんだがいいかな?後、荷物も持ってくれると助かる」

「分かりました!お店の中には私達は入られないですけど……案内と荷物持ちはがんばります!」

「よろしく頼む」

 センはそう言ってラーニャの頭をぽんぽんと撫でる。
 ラーニャは一瞬目を真ん丸にして驚いた後、口元を緩ませながら俯いてしまった。
 その傍に居たトリスが物欲しそうな眼をしているのに気付いたセンは、トリスとニコルもよろしく頼むと言いながら同じように頭を軽く撫でた。

「よし、じゃぁ早い所仕事を終わらせて買い物に行くとするか。三人ともお腹空いただろ?美味い屋台を見つけてな、後で食べに行こう。」

 センが軽く口にしたその言葉を聞いた時、ラーニャの動きが停止してしまった。
 その様子に気付いたセンがラーニャの顔を覗き込む。

「どうした?大丈夫か?」

「……あ、はい!大丈夫です!すみません!」

「あ、あぁ。いや、謝る様な事じゃないが……とりあえず行くとするか。あまり遅くなると拙いしな。」

 我を取り戻したラーニャの勢いに、若干押される形で頷いたセンは、昼に行った薬屋に向かって歩き出す。
 その後ろを三人の子供が着いて行く。
 一人はどことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら。
 一人は前を歩く背中をしっかりと見つめながら。
 一人はどこか呆けたような表情で、前を歩くその姿だけを目に入れながら。
 前を歩くセンはその視線に気づかない。彼が今考えているのは薬屋に着いてからの交渉と、後ろを突いてくる子供たちに暫く手を貸してもらおうかどうかという事だ。

(流石に面倒を見るつもりはないが……人手も必要だし、雑用辺りを手伝ってもらうのも悪くないか。それにニコルはレベルが高いし、その辺りの検証も出来れば今後の為になる。暫くは付き合ってもらって、その間くらいは面倒を……いや、給金を渡せばいいか?しかし、ラーニャはともかく、ニコルとトリスは幼いからな……給金と言っても……そもそも子供を働かせていいのか?)

 そんなことを考えながらも、人とぶつからない様に注意しながら歩くセンは、やはり背後から向けられる三つの視線に気付く事は無かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

処理中です...