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第四章 黒歴史と幽霊
45話 今日も今日とてレイは食べる
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わたしは迷いに迷っていた。
今手に持っているこれを口に入れるか、ここから逃げるか。
でもたまたま目が合ったような気がしただけで、もしかしたら目の前に立っているこの人は、何か一回転しているこの人は私のことに気づいていないのかもしれない。
これまでも気づかれていなかったのだ。このタイミングで急に気づかれると考える方が難しいのではないだろうか。
というよりもさっきから甘い匂いにつられて、この手に持っているプルンプルンしているこれから目を離すことができない。
できることなら今すぐにでもこの容器の中に入っているそれを口の中に入れたくて仕方がなかった。
きっとばれていない。
すぐ食べてここから立ち去れば私の姿は見えていないに違いない。
「とりあえず机の上には座るな?」
それは明らかに私に向けて語りかけられた言葉。
その瞬間再びその人の方に視線を向ける。
目の前のその人はやっぱり私に気づいている。私のことが見えているのだ。
なぜかうれしくなっている自分と、怖くなっている自分がいるのを感じながらも、やっぱり視線は手に持っている物に吸い寄せられてしまう。
最早迷う余地はなかった。
見えてしまっているのであれば、これを食べてしまうほかない。
この誘惑には勝てない。
わたしは一気に両手に持ったその容器のふたをぺりぺりとはがすと、二つ一緒に口の中に放り込んだ。
昨日の比ではないほど甘い香りと味が口の中いっぱいに広がる。
最早甘さだけがわたしの周りを支配していて、それ以外のことは考えることができない。
その甘さの中にも時折ほろ苦い味が紛れ込んでおり、それがいい塩梅に口直しになっている。
わたしの口の中に広がる幸せをかみしめながら、それがのどを通りすぎていくのを楽しんでいた。
口の中から幸せが消えると一気に恐怖が襲ってくる。
目の前のこの人に私のことがばれてしまった。
今まで姿を見られていなかったから、この人には私の姿が見えないものだと油断していた。
せっかく洗い物をしたのに、何も言ってくれなかったという多少の不満もあったかもしれない。
それでも目の前に出てもばれないであろうという油断があったことは事実だ。
でもあの甘い物の誘惑に勝てるはずがなかった。
この人になにかされるのだろうか。
何か言われるのだろうか。
わたしはこれからもここに居続けていいのだろうか。
そんなことを考えていたら、その人が口を開く。
「そんなんじゃだめだ……プッチンプリンはプッチンしてこそだろうが!!」
鬼の形相で叫びに近い言葉で発せられたそれは私の予想を大きく裏切るものだった。
まったくもって言っている意味がわからない。
その意味を理解しようとしている間にも、その人は怖い顔をしながらこちらに近づいてくる。
その人がこちらに手を伸ばしてきて、思わず反射的に身構えてしまったけど、その人は私の真下にあるもう一つ残されたプリンを手に取った。
そこからは何が起こっているのかわからなかった。
その人は必死にしゃべりながら皿と言っていたものの上に、あの甘いものを乗せて、そしてスプーンと言っていたそれで、それをすくっていた。
わたしはもはやそこに恐怖という感情はなかった。目の前の光景を見るので精いっぱいだった。
だってあの小さな容器の中でぷるぷるしていた甘いものが、皿の上に解放されて今はぷるんぷるんしている。
早く自分を食べてと言わんばかりに、魅惑的な動きをしている。
そしてこの人はそれをちょっとずつすくって食べている。
そんな少量ずつ食べることができるのであれば、永遠にそれを食べることができるのではないだろうか。
そんなことができるのであればわたしは幸せすぎて死んでしまうかもしれない。
気づけば私は目の前のその人がちびちびと食べている皿の上にのったそれをかすめ取っていた。
再び口の中に広がる忘れもしない幸せな風味。
何度口に入れてもこれは美味しいし、ちびちびでも一気にでもおいしさは変わらない。
再び目の前に人がいることも忘れてしまう。
何かこちらに訴えかけるように言ってきている気がするけど、今の私にはそんなことも聞こえない。
口の中にある物を味わうことで、堪能することの方がこの瞬間だけは大事なのだ。
でもさすがにがっかりしていた様子を見せていたその人が、こちらに手を伸ばしてきたときはびっくりしてしまった。
ほとんど無意識にその手から逃れるように体をのけぞらせていた。
しかし私の後ろにはいつもある壁も何の支えもない。私はそのまま目の前がぐらついて自分の身体が倒れていくのを感じていた。
口の中のものを飲み込んで再び意識を目の前に向けたとき、目の前にあったのは大きな大きな手だった。
それは明らかに私の顔にめり込んでいて、隣を見ればさっきまでスプーンと皿を持っていたその人が倒れているのが目に入った。
この手はこの人の手だ。
それを自覚した瞬間、全身が熱くなるのを感じた。
今まで何も感じたことがなかった、むしろ冷たいとまで思っていた自分の身体が突然の熱さに襲われた。
それが私は何だか恥ずかしくて、とても怖くて思わずその場から逃げ出していた。
自分の部屋に戻っていつもの定位置に座り込む。
完全にあの人に私のことがばれてしまった。
それでも私が食べている物には怒っていたけれど、ここにいること自体に怒っている様子はなかった。
それに私がバランスを崩した後、その人は私の隣で倒れていた。
私は自分の顔を両手でぺたぺたと触る。
まだあの手の感覚がなんとなくだが残っている気がした。
……もしかして倒れる私をかばおうとしてくれたのだろうか。
もしかしたらあの人は私にとって怖い人ではないのかもしれない。
私はそんなことを考えてちょっとうれしくなっていることに気が付いた。
今手に持っているこれを口に入れるか、ここから逃げるか。
でもたまたま目が合ったような気がしただけで、もしかしたら目の前に立っているこの人は、何か一回転しているこの人は私のことに気づいていないのかもしれない。
これまでも気づかれていなかったのだ。このタイミングで急に気づかれると考える方が難しいのではないだろうか。
というよりもさっきから甘い匂いにつられて、この手に持っているプルンプルンしているこれから目を離すことができない。
できることなら今すぐにでもこの容器の中に入っているそれを口の中に入れたくて仕方がなかった。
きっとばれていない。
すぐ食べてここから立ち去れば私の姿は見えていないに違いない。
「とりあえず机の上には座るな?」
それは明らかに私に向けて語りかけられた言葉。
その瞬間再びその人の方に視線を向ける。
目の前のその人はやっぱり私に気づいている。私のことが見えているのだ。
なぜかうれしくなっている自分と、怖くなっている自分がいるのを感じながらも、やっぱり視線は手に持っている物に吸い寄せられてしまう。
最早迷う余地はなかった。
見えてしまっているのであれば、これを食べてしまうほかない。
この誘惑には勝てない。
わたしは一気に両手に持ったその容器のふたをぺりぺりとはがすと、二つ一緒に口の中に放り込んだ。
昨日の比ではないほど甘い香りと味が口の中いっぱいに広がる。
最早甘さだけがわたしの周りを支配していて、それ以外のことは考えることができない。
その甘さの中にも時折ほろ苦い味が紛れ込んでおり、それがいい塩梅に口直しになっている。
わたしの口の中に広がる幸せをかみしめながら、それがのどを通りすぎていくのを楽しんでいた。
口の中から幸せが消えると一気に恐怖が襲ってくる。
目の前のこの人に私のことがばれてしまった。
今まで姿を見られていなかったから、この人には私の姿が見えないものだと油断していた。
せっかく洗い物をしたのに、何も言ってくれなかったという多少の不満もあったかもしれない。
それでも目の前に出てもばれないであろうという油断があったことは事実だ。
でもあの甘い物の誘惑に勝てるはずがなかった。
この人になにかされるのだろうか。
何か言われるのだろうか。
わたしはこれからもここに居続けていいのだろうか。
そんなことを考えていたら、その人が口を開く。
「そんなんじゃだめだ……プッチンプリンはプッチンしてこそだろうが!!」
鬼の形相で叫びに近い言葉で発せられたそれは私の予想を大きく裏切るものだった。
まったくもって言っている意味がわからない。
その意味を理解しようとしている間にも、その人は怖い顔をしながらこちらに近づいてくる。
その人がこちらに手を伸ばしてきて、思わず反射的に身構えてしまったけど、その人は私の真下にあるもう一つ残されたプリンを手に取った。
そこからは何が起こっているのかわからなかった。
その人は必死にしゃべりながら皿と言っていたものの上に、あの甘いものを乗せて、そしてスプーンと言っていたそれで、それをすくっていた。
わたしはもはやそこに恐怖という感情はなかった。目の前の光景を見るので精いっぱいだった。
だってあの小さな容器の中でぷるぷるしていた甘いものが、皿の上に解放されて今はぷるんぷるんしている。
早く自分を食べてと言わんばかりに、魅惑的な動きをしている。
そしてこの人はそれをちょっとずつすくって食べている。
そんな少量ずつ食べることができるのであれば、永遠にそれを食べることができるのではないだろうか。
そんなことができるのであればわたしは幸せすぎて死んでしまうかもしれない。
気づけば私は目の前のその人がちびちびと食べている皿の上にのったそれをかすめ取っていた。
再び口の中に広がる忘れもしない幸せな風味。
何度口に入れてもこれは美味しいし、ちびちびでも一気にでもおいしさは変わらない。
再び目の前に人がいることも忘れてしまう。
何かこちらに訴えかけるように言ってきている気がするけど、今の私にはそんなことも聞こえない。
口の中にある物を味わうことで、堪能することの方がこの瞬間だけは大事なのだ。
でもさすがにがっかりしていた様子を見せていたその人が、こちらに手を伸ばしてきたときはびっくりしてしまった。
ほとんど無意識にその手から逃れるように体をのけぞらせていた。
しかし私の後ろにはいつもある壁も何の支えもない。私はそのまま目の前がぐらついて自分の身体が倒れていくのを感じていた。
口の中のものを飲み込んで再び意識を目の前に向けたとき、目の前にあったのは大きな大きな手だった。
それは明らかに私の顔にめり込んでいて、隣を見ればさっきまでスプーンと皿を持っていたその人が倒れているのが目に入った。
この手はこの人の手だ。
それを自覚した瞬間、全身が熱くなるのを感じた。
今まで何も感じたことがなかった、むしろ冷たいとまで思っていた自分の身体が突然の熱さに襲われた。
それが私は何だか恥ずかしくて、とても怖くて思わずその場から逃げ出していた。
自分の部屋に戻っていつもの定位置に座り込む。
完全にあの人に私のことがばれてしまった。
それでも私が食べている物には怒っていたけれど、ここにいること自体に怒っている様子はなかった。
それに私がバランスを崩した後、その人は私の隣で倒れていた。
私は自分の顔を両手でぺたぺたと触る。
まだあの手の感覚がなんとなくだが残っている気がした。
……もしかして倒れる私をかばおうとしてくれたのだろうか。
もしかしたらあの人は私にとって怖い人ではないのかもしれない。
私はそんなことを考えてちょっとうれしくなっていることに気が付いた。
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