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第四章 黒歴史と幽霊
44話 今日も今日とてレイは考える
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気づいたときにはそこにいて、小さなマンションの一室の、小さな部屋の片隅で縮こまるようにしてそこにいた。
自分が何者なのか、なんでここにいるのか、そんなことさえわからなかった。
はじめて何かを感じたのは自分のことだった。
何かを怖がっていたのか、単純に寒かったのか、それすらも分からないけど、自分は部屋の片隅で壁に埋もれるようにしながら、その体を震わせていた。
どのくらいそうしていたのかわからないけど、そのうちこの体が動かせることを知った。
それからは毎日いろんなことを試した。
物は基本すり抜ける。掴むこともそこに座ることもできない。
なんでここに立っている床は足がすり抜けていないのに、自分が持とうとする物はすり抜けてしまうのか。
そのことが疑問で、ひたすらその部屋の中にあるいろんなものに触り始めた。
そのころ、この空間に自分以外の存在がいることに気が付いた。
それは自分と同じような形をしていて、でもその存在感ははっきりとしていて、その時にこれが人だということを知った。
その人は私のことに気づいていないようで、自分から話しかけようと思っても声の出し方がわからないから、意思疎通ができない。
だから私はひたすら物に触り続けた。
はじめて自分の意思でものに触れることができたのは、木目の取っ手が付いた入れ物だった。
それを押したり引いたりしていて、取っ手をもって引っ張った時に、それは急に動いた。
ガタン!という大きな音にびっくりして手を離してしまったけど、確かにそれは動いた。
入れ物の中に入っていたのは、分厚い布のようでそれはもう一人の人がいつも身にまとっている物によく似ていた。
私はその時自分がその人と違って、何も着ていないことに気づいた。
なんだかそれがとても嫌で、何かを着なければという感覚になった。
その人がその布を体につけているところを何回か見ていることがある。
私は入れ物の中から出てきた布を取って、見よう見まねで着てみた。
私はその時初めて、服というものを身にまとった。
身にまとったはずなのに、手に取ったはずの、着ているはずの服はまだ目の前でくしゃくしゃのままだったけど。
それでも私は服を身につけた。
コツを覚えた私は、その感覚を忘れたくなくていろんな場所で、いろんなところ、いろんなものに触った。
トイレでいくら引っ張っても出てくる紙を触っているときに、もう一人の人が帰ってきたのはびっくりした。
トイレから出てきた私にその人はやっぱり気づく様子はなくて、トイレの前でぶつぶつと何か言っていたけれど、私はとにかく楽しかった。
私に革命が起きたの、そのあとその人がいつもいる場所であの人が帰ってこないうちにと思い、いろんな物に触っていた時だ。
その箱のような扉を開けた瞬間、甘い匂いがしたような気がした。
なんだか懐かしくなるような、どこかで嗅いだことがあるような、これまでそんなことは一つもなかったのに、それはそんな匂いがした気がした。
私はその箱の中に入っていて、甘いにおいを発しているそれを気づいたら手に取って、口の中に入れていた。
びっくりするくらいそれは甘くて、そしておいしかった。
今まで何かを口に入れるということはしなかったし、そんな行為は知らなかった。
でも初めて口に入れたそれはとてもおいしく私は一瞬でそれのとりこになった。
そんなときトイレの前でずっと立っていたその人が部屋に戻ってきた。
私は急いで自分がいつもいる部屋に戻る。
でもその時その人は初めて私の部屋に訪れて、そしてこういった。
「からになった容器は冷蔵庫に戻すんじゃなくて、ちゃんとごみ箱に捨てろ!!」
れいぞうこ?ごみばこ? 私の知らないことばかりだった。
その人は一瞬きょとんとした様子で首をひねった後、再び口を開いた。
「あと俺の金で飯を食うなら皿洗いぐらいしろ! 深夜にがたがたすると近所迷惑だから、静かにしろよ」
その人はそういうと扉を閉めて遠ざかっていった。
あの人から飛び出してきた言葉は知らないことばかりだ。
皿洗いもきんじょめいわくも何のことだかわからない。
でもその皿洗いというものをすれば、もっとあのおいしい甘いものを食べてもいいということだろうか。
もう他の物にはさほど興味はなくなっていた。
今はあの甘くおいしく口の中でとろけたあれが、食べられるのであれば何でもいい。
私はその次の日、ひたすら皿洗いのことを考えて気づいたらあの箱の隣の、白いものややけに鋭利な物がある場所の前に立っていた。
とりあえず目の前にある飛び出した銀色の取っ手のようなものをたたいてみる。
するとそこから勢いよく水が飛び出して止まらなくなった。
どうすればいいのかわからない私はとにかく周りにあったいろんなものに触りまくった。
いろいろ持ち上げたり銀の床の上に落としてみたりしたけど、水が止まる様子は一切なかった。
最後にダメもとでもう一度銀の取っ手に触ると水はようやく止まった。
ほっとしたけど、目の前はぐちゃぐちゃになってしまっている。
でも私は直感的にここに来た自分の勘を信じることにした。
これがきっと皿洗いなんだろう。それよりも隣の箱を開けたくて仕方がない。
私はいてもたってもいられずに私は隣の大きな黒い箱を開けた。
そこには昨日と同じように、甘いにおいがする物が入った箱が置かれてあった。
でも形が昨日と違う。それでも私はそれを手に取って口の中に入れていた。
それはとても甘かったけれど、昨日と違って口の中に長く残った。
一口で入れるのは少し苦しくて、ちょっと口から出してしまった。
手に乗ったそれを再び口に入れてほおばる。
口の中に甘さが残って、のどを通ればその甘さはなくなる。
昨日ほどの感動はなかったけれどそれもとてもおいしかった。
そのあとは部屋に戻ってあの人の帰りを待った。
私の皿洗いの成果を見てどういう反応をするのかちょっと楽しみだったのだ。
扉が開く音が聞こえる。あの人がきた。
もしかしたら私がいる部屋にまたやってくるかもしれないと、身構えてたけどそんな様子は一切なくて、しばらくするとガチャガチャという音が響き始めた。
私がやっていることには気づいたに違いないのに、なにをやってるんだろう?
私は何か間違えていたのだろうか?
そんなことを考えていたけど、でもそれはすぐにどうでもよくなった。
昨日嗅いだあの甘いものの匂いがしたのだ。昼に食べた物ではなく、正真正銘昨日のあの匂い。
気づいたら私は勝手に体が飛び出してあの人がいる部屋に飛び込んでいた。
あの人はいなかったけど、目の前の物の上に、昨日たべたそれがぽつんとあった。
しかも一つではない。三つだ。
私はそれに飛びつくようにそのものの上に座って、それを手に取った。
すぐに食べないとあの人が戻ってきてしまう。
私はそれを両手に一個ずつ抱えるように持った時、扉が開く音がした。
そこにはぽかんとした表情で、間違いなく私を見つめるその人の姿があった。
自分が何者なのか、なんでここにいるのか、そんなことさえわからなかった。
はじめて何かを感じたのは自分のことだった。
何かを怖がっていたのか、単純に寒かったのか、それすらも分からないけど、自分は部屋の片隅で壁に埋もれるようにしながら、その体を震わせていた。
どのくらいそうしていたのかわからないけど、そのうちこの体が動かせることを知った。
それからは毎日いろんなことを試した。
物は基本すり抜ける。掴むこともそこに座ることもできない。
なんでここに立っている床は足がすり抜けていないのに、自分が持とうとする物はすり抜けてしまうのか。
そのことが疑問で、ひたすらその部屋の中にあるいろんなものに触り始めた。
そのころ、この空間に自分以外の存在がいることに気が付いた。
それは自分と同じような形をしていて、でもその存在感ははっきりとしていて、その時にこれが人だということを知った。
その人は私のことに気づいていないようで、自分から話しかけようと思っても声の出し方がわからないから、意思疎通ができない。
だから私はひたすら物に触り続けた。
はじめて自分の意思でものに触れることができたのは、木目の取っ手が付いた入れ物だった。
それを押したり引いたりしていて、取っ手をもって引っ張った時に、それは急に動いた。
ガタン!という大きな音にびっくりして手を離してしまったけど、確かにそれは動いた。
入れ物の中に入っていたのは、分厚い布のようでそれはもう一人の人がいつも身にまとっている物によく似ていた。
私はその時自分がその人と違って、何も着ていないことに気づいた。
なんだかそれがとても嫌で、何かを着なければという感覚になった。
その人がその布を体につけているところを何回か見ていることがある。
私は入れ物の中から出てきた布を取って、見よう見まねで着てみた。
私はその時初めて、服というものを身にまとった。
身にまとったはずなのに、手に取ったはずの、着ているはずの服はまだ目の前でくしゃくしゃのままだったけど。
それでも私は服を身につけた。
コツを覚えた私は、その感覚を忘れたくなくていろんな場所で、いろんなところ、いろんなものに触った。
トイレでいくら引っ張っても出てくる紙を触っているときに、もう一人の人が帰ってきたのはびっくりした。
トイレから出てきた私にその人はやっぱり気づく様子はなくて、トイレの前でぶつぶつと何か言っていたけれど、私はとにかく楽しかった。
私に革命が起きたの、そのあとその人がいつもいる場所であの人が帰ってこないうちにと思い、いろんな物に触っていた時だ。
その箱のような扉を開けた瞬間、甘い匂いがしたような気がした。
なんだか懐かしくなるような、どこかで嗅いだことがあるような、これまでそんなことは一つもなかったのに、それはそんな匂いがした気がした。
私はその箱の中に入っていて、甘いにおいを発しているそれを気づいたら手に取って、口の中に入れていた。
びっくりするくらいそれは甘くて、そしておいしかった。
今まで何かを口に入れるということはしなかったし、そんな行為は知らなかった。
でも初めて口に入れたそれはとてもおいしく私は一瞬でそれのとりこになった。
そんなときトイレの前でずっと立っていたその人が部屋に戻ってきた。
私は急いで自分がいつもいる部屋に戻る。
でもその時その人は初めて私の部屋に訪れて、そしてこういった。
「からになった容器は冷蔵庫に戻すんじゃなくて、ちゃんとごみ箱に捨てろ!!」
れいぞうこ?ごみばこ? 私の知らないことばかりだった。
その人は一瞬きょとんとした様子で首をひねった後、再び口を開いた。
「あと俺の金で飯を食うなら皿洗いぐらいしろ! 深夜にがたがたすると近所迷惑だから、静かにしろよ」
その人はそういうと扉を閉めて遠ざかっていった。
あの人から飛び出してきた言葉は知らないことばかりだ。
皿洗いもきんじょめいわくも何のことだかわからない。
でもその皿洗いというものをすれば、もっとあのおいしい甘いものを食べてもいいということだろうか。
もう他の物にはさほど興味はなくなっていた。
今はあの甘くおいしく口の中でとろけたあれが、食べられるのであれば何でもいい。
私はその次の日、ひたすら皿洗いのことを考えて気づいたらあの箱の隣の、白いものややけに鋭利な物がある場所の前に立っていた。
とりあえず目の前にある飛び出した銀色の取っ手のようなものをたたいてみる。
するとそこから勢いよく水が飛び出して止まらなくなった。
どうすればいいのかわからない私はとにかく周りにあったいろんなものに触りまくった。
いろいろ持ち上げたり銀の床の上に落としてみたりしたけど、水が止まる様子は一切なかった。
最後にダメもとでもう一度銀の取っ手に触ると水はようやく止まった。
ほっとしたけど、目の前はぐちゃぐちゃになってしまっている。
でも私は直感的にここに来た自分の勘を信じることにした。
これがきっと皿洗いなんだろう。それよりも隣の箱を開けたくて仕方がない。
私はいてもたってもいられずに私は隣の大きな黒い箱を開けた。
そこには昨日と同じように、甘いにおいがする物が入った箱が置かれてあった。
でも形が昨日と違う。それでも私はそれを手に取って口の中に入れていた。
それはとても甘かったけれど、昨日と違って口の中に長く残った。
一口で入れるのは少し苦しくて、ちょっと口から出してしまった。
手に乗ったそれを再び口に入れてほおばる。
口の中に甘さが残って、のどを通ればその甘さはなくなる。
昨日ほどの感動はなかったけれどそれもとてもおいしかった。
そのあとは部屋に戻ってあの人の帰りを待った。
私の皿洗いの成果を見てどういう反応をするのかちょっと楽しみだったのだ。
扉が開く音が聞こえる。あの人がきた。
もしかしたら私がいる部屋にまたやってくるかもしれないと、身構えてたけどそんな様子は一切なくて、しばらくするとガチャガチャという音が響き始めた。
私がやっていることには気づいたに違いないのに、なにをやってるんだろう?
私は何か間違えていたのだろうか?
そんなことを考えていたけど、でもそれはすぐにどうでもよくなった。
昨日嗅いだあの甘いものの匂いがしたのだ。昼に食べた物ではなく、正真正銘昨日のあの匂い。
気づいたら私は勝手に体が飛び出してあの人がいる部屋に飛び込んでいた。
あの人はいなかったけど、目の前の物の上に、昨日たべたそれがぽつんとあった。
しかも一つではない。三つだ。
私はそれに飛びつくようにそのものの上に座って、それを手に取った。
すぐに食べないとあの人が戻ってきてしまう。
私はそれを両手に一個ずつ抱えるように持った時、扉が開く音がした。
そこにはぽかんとした表情で、間違いなく私を見つめるその人の姿があった。
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