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第四章 黒歴史と幽霊
37話 それはきっと黒歴史というやつで、いつまで経っても消えてくれない。
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「聡って私のことどう思ってるの?」
ああ、またこれか。
とある日の何の変哲もない放課後の学校の教室。
雰囲気だけは完璧でやけに夕焼けの日差しがまぶしく、彼女の姿が反射して幻想的に映えていたことを覚えている。
「え、どうって彼女」
「そうじゃなくてさ、いっつもうわっつらばっかりじゃん? 私のこと好きなのかなってたまに不安になるよ?」
「…………」
うわっつらだけっていわれてもな。
そもそも俺が彼女に告白したのも、周りが「あの子絶対お前のこと好きだって」て囃し立てられて、調子に乗って告白して、そんで高校2年生で初めてできた彼女。
たったそれだけ。
あーでもたったそれだけでも、もう三か月もこいつとは一緒にいる。
一緒に帰ったりいろんなところに行ったり、どこ行っても彼女は楽しそうで俺も楽しかったし、いっぱい笑ってるけど、それをどっか俯瞰的に見ていて。
まあ……たまには思ってることを言ってもいいのか?
「……好きかどうかはわからない。でも嫌いではない」
それは考えている中でぽろっと出てしまった一言。
今考えればわかる。俺はバカだ。大馬鹿だ。何もかも間違っている。
これは彼女に対して、自分から好きだと告白した相手に対して絶対に行ってはいけない一言。
「……ふーん」
今になってもその時の彼女の顔が思い出せない。
教室の机に反射した日の光で彼女の顔を遮って、よく見えなかったのかもしれない。
でも彼女の声はその返答に失望した様子も、落胆した様子もなくただただ静かな声だったことは覚えている。
「もっと好きになるようがんばるよ!?」
おいおい、聡さんよ。高校2年生、絶賛高2病発症中の俺よ。
とっさに返したその言葉はまったくもってフォローになっていない。
むしろバッキバッキだったガラスに、とどめのパンチ一発ぶち込んだレベルで崩壊させている。
「……そっか。かえろ」
それはいつも通りの、怖いくらいに普段通りの音色で発せられた言葉。
バカな俺は何とかスルー出来たと思い込んで、いつもは客観的に物事を斜に構えてとらえていたくせに、都合が悪くなると主観的にとらえて、一緒にバカみたいな話をしていつも通り一緒に帰り路を歩いた。
そして一か月後俺は彼女に振られた。
まあ考えれば当然のこと。好きかどうかわからないと言い放たれた相手とずっと一緒にいるなんて選択肢は、きっと誰だって選ばない。
「私好きな人できた。わかれよ」
「おう」
たった二言で俺と彼女の4か月は終わった。
長かったようで短くて、いろいろあったようであっという間で。
別れるってことに悲しみを覚えなかったわけじゃない。
一緒に帰ることもなければ、きっとこの子と二人でどこかに遊びに行くってこともないんだろうなって、そう思えば少しは寂しいと思った。
でも不思議と辛いという感情は湧いて出てこなかった。
「聡さ、好きって頑張ってなるもんじゃないと思うよ」
そんなことはわかってる。
そうやって言い返せればかっこつけられたのかもしれないけど、俺は何も言えなくて。わからなかったから。今でもそれがわからないから。
数週間後彼女が一個上の先輩と楽しそうに笑っている姿をふと見かけた。
その時に初めて心がちょっとだけずきっと痛むような感触があったことを覚えている。
それがいったいなんの、何に対する痛みだったのかわからない。
彼女が俺以外の男と楽しそうにしゃべっている、歩いていることへの嫉妬心?
多分違う。
俺と別れて間もない間に他の男とくっついている恨み言?
これも違う。
そういえばどこかに行った時も一緒に帰った時も彼女の顔をまともに見て話していた記憶がない。
いや、多分顔は見ているんだろうしちゃんと会話も弾んでいたはずなんだけど、それでも今思えば、一緒にいたときの彼女の表情はどこかぼんやりとぼやけていて思い出せない。
俺は彼女のことをあんな風に笑わせられていたんだろうか?
ちゃんと楽しませていられたんだろうか?
俺もあの先輩と同じように彼女と一緒に楽しく笑いあえていたんだろうか。
別に彼女のことがトラウマになって彼女が作れなくなったとかそういうことはない。
高校3年でも大学時代も彼女ができたことはある。
だけど続いても数か月。みんな向こうからサヨナラを告げてくる。
何回繰り返しても同じ。彼女と一緒にいるときの俺はどこか客観的に自分を見ていて、自分が楽しんでいるのかわからない。
好きで告白したはずなのに、たまに本当にその人のことが好きなのかわからなくなる。
ただそれだけの話。何も特別な何かがあるわけじゃない。
普通に告白して、付き合って、一緒に出掛けて、そして振られる。
そんな映像が何度も何度も俺の目を通して、同じ内容が若かりし頃の俺の感情と今の俺の感情がごっちゃまぜになって、繰り返される。
そのうち俺にはわからなくなってしまった。
好きになるって何なんだろう。
人を愛するってどう頑張ったらいいんだろうか。
歳を重ねた今でもふいに彼女の言葉を思い出す。
――好きって頑張ってなるもんじゃないと思うよ――
俺にはその言葉をわかったつもりになっていて、でもやっぱりわからない。
俺は恋に盲目になれる人をうらやましいと、そうとすら思う。
ああ、またこれか。
とある日の何の変哲もない放課後の学校の教室。
雰囲気だけは完璧でやけに夕焼けの日差しがまぶしく、彼女の姿が反射して幻想的に映えていたことを覚えている。
「え、どうって彼女」
「そうじゃなくてさ、いっつもうわっつらばっかりじゃん? 私のこと好きなのかなってたまに不安になるよ?」
「…………」
うわっつらだけっていわれてもな。
そもそも俺が彼女に告白したのも、周りが「あの子絶対お前のこと好きだって」て囃し立てられて、調子に乗って告白して、そんで高校2年生で初めてできた彼女。
たったそれだけ。
あーでもたったそれだけでも、もう三か月もこいつとは一緒にいる。
一緒に帰ったりいろんなところに行ったり、どこ行っても彼女は楽しそうで俺も楽しかったし、いっぱい笑ってるけど、それをどっか俯瞰的に見ていて。
まあ……たまには思ってることを言ってもいいのか?
「……好きかどうかはわからない。でも嫌いではない」
それは考えている中でぽろっと出てしまった一言。
今考えればわかる。俺はバカだ。大馬鹿だ。何もかも間違っている。
これは彼女に対して、自分から好きだと告白した相手に対して絶対に行ってはいけない一言。
「……ふーん」
今になってもその時の彼女の顔が思い出せない。
教室の机に反射した日の光で彼女の顔を遮って、よく見えなかったのかもしれない。
でも彼女の声はその返答に失望した様子も、落胆した様子もなくただただ静かな声だったことは覚えている。
「もっと好きになるようがんばるよ!?」
おいおい、聡さんよ。高校2年生、絶賛高2病発症中の俺よ。
とっさに返したその言葉はまったくもってフォローになっていない。
むしろバッキバッキだったガラスに、とどめのパンチ一発ぶち込んだレベルで崩壊させている。
「……そっか。かえろ」
それはいつも通りの、怖いくらいに普段通りの音色で発せられた言葉。
バカな俺は何とかスルー出来たと思い込んで、いつもは客観的に物事を斜に構えてとらえていたくせに、都合が悪くなると主観的にとらえて、一緒にバカみたいな話をしていつも通り一緒に帰り路を歩いた。
そして一か月後俺は彼女に振られた。
まあ考えれば当然のこと。好きかどうかわからないと言い放たれた相手とずっと一緒にいるなんて選択肢は、きっと誰だって選ばない。
「私好きな人できた。わかれよ」
「おう」
たった二言で俺と彼女の4か月は終わった。
長かったようで短くて、いろいろあったようであっという間で。
別れるってことに悲しみを覚えなかったわけじゃない。
一緒に帰ることもなければ、きっとこの子と二人でどこかに遊びに行くってこともないんだろうなって、そう思えば少しは寂しいと思った。
でも不思議と辛いという感情は湧いて出てこなかった。
「聡さ、好きって頑張ってなるもんじゃないと思うよ」
そんなことはわかってる。
そうやって言い返せればかっこつけられたのかもしれないけど、俺は何も言えなくて。わからなかったから。今でもそれがわからないから。
数週間後彼女が一個上の先輩と楽しそうに笑っている姿をふと見かけた。
その時に初めて心がちょっとだけずきっと痛むような感触があったことを覚えている。
それがいったいなんの、何に対する痛みだったのかわからない。
彼女が俺以外の男と楽しそうにしゃべっている、歩いていることへの嫉妬心?
多分違う。
俺と別れて間もない間に他の男とくっついている恨み言?
これも違う。
そういえばどこかに行った時も一緒に帰った時も彼女の顔をまともに見て話していた記憶がない。
いや、多分顔は見ているんだろうしちゃんと会話も弾んでいたはずなんだけど、それでも今思えば、一緒にいたときの彼女の表情はどこかぼんやりとぼやけていて思い出せない。
俺は彼女のことをあんな風に笑わせられていたんだろうか?
ちゃんと楽しませていられたんだろうか?
俺もあの先輩と同じように彼女と一緒に楽しく笑いあえていたんだろうか。
別に彼女のことがトラウマになって彼女が作れなくなったとかそういうことはない。
高校3年でも大学時代も彼女ができたことはある。
だけど続いても数か月。みんな向こうからサヨナラを告げてくる。
何回繰り返しても同じ。彼女と一緒にいるときの俺はどこか客観的に自分を見ていて、自分が楽しんでいるのかわからない。
好きで告白したはずなのに、たまに本当にその人のことが好きなのかわからなくなる。
ただそれだけの話。何も特別な何かがあるわけじゃない。
普通に告白して、付き合って、一緒に出掛けて、そして振られる。
そんな映像が何度も何度も俺の目を通して、同じ内容が若かりし頃の俺の感情と今の俺の感情がごっちゃまぜになって、繰り返される。
そのうち俺にはわからなくなってしまった。
好きになるって何なんだろう。
人を愛するってどう頑張ったらいいんだろうか。
歳を重ねた今でもふいに彼女の言葉を思い出す。
――好きって頑張ってなるもんじゃないと思うよ――
俺にはその言葉をわかったつもりになっていて、でもやっぱりわからない。
俺は恋に盲目になれる人をうらやましいと、そうとすら思う。
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