気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。

葵 悠静

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第三章 幽霊との日常

30話 俺が勤める会社にはもしかしたらまともな奴がいないのかもしれない。

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 それから先輩と俺の間では特に会話もなく、黙々と昼飯を食べていた。

 配分間違えたからご飯と汁物だけの質素な感じになってしまった。

 

 いや、先輩とずっと昼飯の間会話をしろなんて高難易度クエスト俺にクリアできるはずがないからね?

 

 あれだけ会話ができたのも奇跡みたいなもんだからね。

 

「じゃあ私はお先に失礼するよ」

「あ、はい。お疲れ様です」

「午後も残っているからな?」

 

 先輩は俺の返事に軽く笑いながら返すと、席を立って歩いて行った。

 

 うーん、俺も食べ終わってるから食堂を出れるんだけど、先に失礼するって言われた手前、一緒に出ちゃうとなんか気まずい感じになるよなあ。

 ちょっと時間空けて出るか。

 

「お疲れ様です!ご一緒します!失礼します!」

「ごちそうさまでした」

「え、先輩待ってください!これ見てくれませんか!超かっこいいんですよ!」

 

 うるさい、声でかい。周りの人見てるから。

 それに若い、明るい、元気すぎる。

 やめて俺のHPはもうゼロよ!

 

 現実逃避はやめて俺の横に座ってきた人の方に目を向ける。

 まあ予想通り俺と同じ部署の後輩である。

 

 そして俺の方に突き付けてきているスマホの画面に映っているのは、間違いようがなく東京タワーだった。

 

「かっこいい……?」

「いやーかっこいいですよねえ。こんな角度からでもかっこいいなんてすごすぎません?」

 

 後輩はご飯をつつきながらスマホの画面をうっとりとした画面を眺めている。

 

 お行儀が悪いから食事中にスマホはしまいなさい。

 まあこの食堂にそんなルールはないからわざわざ口に出しては言わないけど。

 

 まあこの通り後輩は今日も元気である。

 

 何やら建造物のフォルムフェチというちょっと変わった趣味を持っている。

 まあそれ自体は別に個人の自由だしいいんだけど、彼女は明るく元気に辺り構わずそれを公言しているのである。

 

 あまりの元気の良さに誰もお近づきにならない。

 まあ簡単に言ってしまうと残念系美人だな。

 

 特に何をした覚えはないんだけど、俺は彼女になつかれている感がある。

 そして食堂から逃げようとして華麗に俺は失敗した。

 

「そういえば食事来るの遅かったんだな」

「はい、東京タワーの一番かっこいい角度を探してたら遅くなっちゃいました」

 

 なんじゃそりゃ。

 再度チラ見して彼女のスマホの画面を見るが、俺からすればどこから見てもただの東京タワーである。

 

 どうやったらかっこよく見えるのか気になるところではあるが、それを聞くと間違いなく午後の業務に遅れるので俺は絶対に質問はしない。

 

「あー、どこかにエッフェル塔みたいな人いないかなあ」

 

 何それ、どういう意味、そんな人見たことないけど。

「君エッフェル塔に似てるねー」って言われてうれしい人なんてどこにいるの?

 

 エッフェル塔に似てるって言われる人ってどんな人なんだろう。めちゃくちゃ背が高いとか? 顔がパリ系の美形男子とか?

 何それ、結局ただのイケメンじゃないですか。イケメンは世界を救うってか。

 

 というか君は東京タワーの話をしてたんじゃないの?どうして急にエッフェル塔が出てくるわけ? 

 これだから最近の若い子の話はテンポが速くてついていけん。

 

 まあ2歳しか歳の差かわらないんですけど。

 ともかくここは話を合わせるべきか?

 

「自由の女神とかはきれいって感じするよな」

 

 実物は見たことないし、写真くらいでしか見たことないけどまあ無難な有名どころだろう。

 

「先輩、何言ってるんですか。あれは人ですよ」

 

 いや君こそ何言ってるの? 

 

 人ではないでしょ。あれを人と認めちゃったら大体の物が人になっちゃうけど。

 え、どうしてそんな冷たい目で俺を見てくるわけ?俺なんか間違ってる? 

 あれ、もしかして俺の倫理観が間違ってる?なんかすいません。

 

「自由の女神より東京タワーの方が100倍美しいですもん!」 

 

 はい、アメリカに向かって土下座しなさい。

 最近流行りのドラマ顔負けの勢いで今すぐニューヨークの方角に向かって、土下座しなさい。

 倍返しといわず100倍返しで頭を地面にこすりつけなさい。

 

 いや、そもそもこれは俺が間違えていたな。俺がわからない価値観を持っている相手に向かって、相手のフィールドに不用心にボールを投げてしまった俺が悪い。

 自分のボールが返ってきてマッチポンプデッドボールになっちゃってるから。

 

「先輩は東京タワー派ですか? スカイツリー派ですか?」

 

 後輩がふいにまじめな目線でこっちを見つめてくると思ったら、そんなことを聞いてきた。

 

 何、今日はそういう日なの。派閥争いをいやでも勃発させたい日なのか?

 

 それにしてもこれは先輩の時よりも難易度が高い。

 

 相手は建造物ガチ勢だ。

 下手に答えてしまえばバッドエンド確定。

 

 何かいい逃げ道はないか……。

 

 いや後輩の視線が怖すぎてまともに顔見れないんですけど。

 視線をきょろきょろさせているとふと時間が目に入る。

 

 ……筋道は見えた!!

 

「そ、そんなことより時間は大丈夫か?」

 

 時刻は昼休み終了10分を切っている。

 

「げ、やばっ!」

 

 後輩もそんな俺の言葉を聞いて自分の腕時計に目を向けて、急いでクリーム入り麻婆豆腐をかきこんでいた。

 

 あれ、君もそれ食べてるの?何案外おいしいとかそんなパターン?

 先輩とかは涙目になってたけど後輩はなんか普通に食べてるし、逆に気になってきたんだけど。

 今度メニューに出てたら買ってみようかな。

 

「じゃ、俺は先に戻るから」

「ふぁい!」

 

 口に物を入れたまま喋らない。

 

 ま、ともかく何とか質問に答えずに逃げることができた俺は一安心だ。

 

 ……なんかうちの会社、ていうか部署おかしな人しかいないんじゃないか?

 い、いやあの二人が、特に後輩が目立って仕方ないだけだよな!

 

 俺はいたって普通だしな!
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