気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。

葵 悠静

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第三章 幽霊との日常

28話 最近の女の子は脳みそが2つか3つ標準装備されていると思う。

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「続けよ」

『アイスは冷たい。ケーキは甘い』

 

 私は何もしてませんという風な無表情を装って、しれっと会話を続けるレイ。

 まあばっちり俺の体が寒気に反応して鳥肌立ってるので、動揺してるのはバレバレだけどね。

 

 調子の悪いレイだが、やはり勝負には負けたくないらしい。まさかこんな技を使ってくるとは。

 

「まあ別にいいけどさ。アイスも甘いでしょうが。ほい」

 

 難なくアイス棒を抜き取る俺。むしろ初期配置に戻ってるから2本目より取りやすかった説あるけどね。

 

 しかしこの会話方法は疲れるんだよな。めちゃくちゃ頭が沸騰しそう。

 

 俺もいろいろと試しては見た。

 レイがしゃべっていることにだけ反応したりとか、俺も対抗して口とペンを使って会話したりとか。

 

 まあしゃべっていることだけに反応してたら、なんかせっかくレイが血文字で書いた話題を無視しているようでざわざわしてきて落ち着かないし、ペンを使いながらこのゲームをするのは難易度が高すぎる。

 

 俺は物心ついたころから生粋の右利きである。両利きなんてそんな器用なスキルは持ち合わせていない。 

 そしてペンを書く時ももちろん右。そうなると自然にアイス棒を抜き取るのは左手になる。

 

 左手で繊細な作業をするのはとてつもなく難しい。だからといって妥協して負けたくもない。

 

 左手でこのゲームをしていた時はさすがに相手がレイでも危なかった。

 俺の全勝という栄光という名の大人げない結果に泥を塗りかけるところだった。

 

 ゲームに負けたくない俺がたどり着いたのは、結局すべて口で返事をするのが手っ取り早いし、ゲームにも負けないという結論に至ったわけだ。

 

 そんな思い出を思い返しているとレイがアイス棒に手をかけていた。

 

 もはや定番といった感じで崩れるアイス棒タワー。

 そして一瞬で元に戻るタワー。

 

「どうしたの?」

『甘いの食べたいからやっぱりアイス食べたい』

「どうしたのって……まあいいや、続けるのな。甘かろうが冷たかろうが、結局そこに戻ってくるのかよ」

 

 

 崩れては戻って崩れては戻ってのやり取りをそれから何回か繰り返すレイ。

 

 一応もうこれ俺の勝ちでいいんじゃないのって内心思ってるけど、過去最長時間の勝負になっているから、引くに引けない。

 

 ちなみに俺の頭はパンク寸前。

 

 あれだな、感覚的にはめちゃくちゃ流行っているあの緑のチャットアプリで話してたらいつの間にか一つの話から派生して話題が2個も3個もになっていて、一回の返答でそれをまとめて返す感覚。あれに近い。

 

 男友達と会話しているときはそんなことになることは少ないんだけど、会社の女後輩とかと話しているときは、しょっちゅうそういうことが起きる。

 

 ……もしかして女性って男よりも脳みそ一個多い? なにそれ、ハイスペックじゃん。

 そりゃ男は女に敵わないわけだわ。

 

「まだ……まだ……」

『アイス取ってきていい?』

「いや、息上がってるじゃん、組み立てるの疲れるならもう諦めろよ……。今うちにアイスのストックはありません。昨日誰かさんが食べつくしたでしょうが」

 

「疲れてない。勝負はこれから」

『買ってきて』

「いやもう負けてるようなもんじゃないの? え、こんな深夜に?まあ確かにレイがアイスアイス言うから、食べたくなってきたけど……」

 

 ちょっと待て。

 

 なんで盤面上ではライバル同士の最終決戦ばりの会話をしているのに、一方そのころ戦場の隅ではアイスが欲しいとごねる子供をなだめるけど、結局ちょっとアイスに惹かれ始めているお父さんみたいな親子の会話みたいになってるの?

 

 さすがに温度感が違いすぎて冷静になると何話してるのかわからなくなってきたわ。

 

 ていうかお父さんもっとがんばれよ。そこは我慢しなさいって言いなさいよ。

 あ、俺か。しょうがないじゃん、アイスは俺も好きなんだし。

 

 あー思考までこんがらがってきた。

 え、それはいつものことって?うるせえよ。

 

「……ちょっと休憩するか。アイス買ってくるわ」

 

 机にぶつからないように注意して立ち上がりながら大きく伸びをする。

 今俺の番だからここで机にぶつかって崩れたりしたら俺の負けになるしな。

 

 そんな俺を見てどこかほっとしたような表情を見せたレイは、正座体勢から体育座り体勢になりおでこを自分の膝にこんこんと打ち付けていた。

 

 いや、やっぱり相当あの崩れてる最中のアイス棒組みなおすの神経使うんじゃん。

 そんな無理してやらなくていいじゃん。別に俺何回戦でも付き合うよ?

 

 そんなに俺に負けるのが嫌か、いやいまさらだろ。

 まあいいや、とりあえず棒アイス買いに行こ。なにがいいかなあ。

 

『あれがいい。ナッツのカップのやつ』

 

 レイのやつ顔を向けないまま血文字でハー〇ンダッツをご所望してきやがった。

 

 あれアイスの王様だよ?高いんだからね。そんなに気軽に食べられるものじゃないんだよ?

 

「考えとく」

 

 まあ先は長そうだし、好きなもん買ってやった方がいいのか?

 いやここで甘えさせるのは今後のためにもよくはない! アイス棒二本買ってこよう!

 

 

 結局俺はコンビニで100円棒アイスとハーゲ〇ダッツのマカダミアナッツ味を買ってきて、もちろん俺が棒アイスの方だった。

 

 そして肝心な勝負はというと、初めて、いや最早ジェンガでもなかったんだけど最後の一本まで勝負が進んだが、結局数と手番の関係で俺の方が一本多く、今日も俺の勝ちとなった。

 

 そのあとも何回戦かやったがすべて俺の勝ち。最後の方はレイも組み立てる気力がなかったのか、俺が組み立ててレイが崩しての繰り返しだった。

 

 レイ曰く彼女の敗因の原因は

「建てるの下手」

 だそうだ。

 

 あくまで実力差で負けたわけではないらしい。

 くそ、一人の時に組み立てる練習してそんな言い訳ができないくらい、完膚なきまでに負かしてやるからな。

 

 そんな終盤は疲れた様子を見せるレイだったが、そのころの会話といえばこんな感じである。

 

「もう一回」

『アイスおいしい。紙無くなりそう。眠い?』

「おー。お、ついに味わって食べることを覚えたか。買っとくわ。いやまだいける」

 

 俺の返事の感じからしてお察しの通り、頭がパンクどころか完全にショートしてたよね。

 チャットならともかくリアルの会話でこんなに複数の話題を同時展開しちゃいけません!

 

 棒アイス一個じゃ足りなかったなあ。どうせコンビニ行くなら新作のタルトでも買っとけばよかった。

 

 まあ買ってたとしてもレイに食べられてた未来しか想像できないんだけど。

 そんな感じで、ゲームが終わったころには空が白みだしていた。

 

 ほんと……休みでよかった。
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