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第三章 幽霊との日常

27話 失敗しても修正してすぐに成功させるから、幽霊は優秀です

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 目の前には先ほどと何ら変わらない、まるで古来よりそこに存在しているかのような気さえする熟年の崩れ具合を現したアイス棒と、一本のアイス棒を片手に握りしめながら、そんな崩れ去ったアイス棒の山々を不満げに見つめるレイの姿があった。

 

 ちなみに俺はまだアイス棒を一本も取っていない。

 

 二回戦はレイ先手で始まり、俺の番が回ってくることなくその戦いは終わったのだ。

 

 レイは何か言いたいことでもあるのか俺の顔とアイス棒を交互に見つめている。

 そしておもむろにメモ帳に手をかける。

 

『勝ち?』

「いや、崩れちゃってるからね」

「うーー」

 

 そんな崩れてもいいから一本でも手に持ってれば勝利っていうルールに変更されたなら、俺だって今からこの崩れた山からアイス棒取り放題だからね。

 

 え、もしかして本当にルール変更する?

 負けるの嫌だから2、3本俺も手に持っておこう。

 

 俺の心配をよそにレイは素直に負けを認め、手に持っていたアイス棒を机の上に戻す。

 

 そして即座に再びアイス棒タワーを組み立てようとする。

 が、一瞬組みあがったタワーはすぐにバランスを崩して再びただの山に戻る。

 

 へえレイがこれを失敗するなんて珍しいなあ。今日はいつもに増して調子が悪いのかもしれない。

 

 レイもまさか失敗すると思っていなかったのか不思議そうに首をかしげながら、崩れたアイス棒を見つめていた。

 

 そんなことをのんきに考えていると、じーっというレイの視線が感じられる。

 レイはじっと俺の手に持っているアイス棒を見つめていた。

 

 ……え、もしかして俺のせい?

 

 そんな1本でもかけちゃダメな実は精密な作業をしていたの?

 

「もう一回」

『アイス食べたい』

 

 ……始まった。

 

 俺はアイス棒を机の上に戻し、瞬時に今度は綺麗にタワーが立てられる光景を見ながらなんと返したものかと考える。

 

 これは最近レイが覚えた新しい技である。

 

 レイのやつ口でしゃべりながら、同時に血文字で会話をし始めるというわけのわからない会話法を身につけていた。

 

「まあ明日休みだし構わないけど。さっきケーキ食べたでしょうが」

 

 アイス棒を取りながら返事をする。お、ちょっとぐらついたけどまあまだ大丈夫だな。

 この会話を身につけてからというもの定期的にこういう二重会話が俺とレイの間で発生する。

 

 正直に言うと今やってるジェンガより大変だからね? 

 レイはどういう思考しているのかわからないけど、俺は同時に二つの会話を理解してそれに返事をしないといけない。しかもゲームにも集中しないといけない。

 

 正直脳みそが一個じゃたりないんだよ。

 

「いじわる」

『さっき食べたのはアイスじゃないよ?』

 

 揺れが止まるアイス棒タワーの様子を観察するようにじっと見つめながら、平然と同時会話を進行するレイである。

 

「いやいやまだまだこれからでしょ。アイスもケーキも広義的にはデザートだから一緒」

 

 覚悟を決めたように口を真一文字にきゅっと閉じると、意を決してレイは1本の棒を抜き取る。

 

 手が震えてるけど大丈夫? なんでわざわざそんな崩れますよーって教えてくれそうな場所を取ろうとしてるの?

 

 俺の予想通り抜き取った瞬間に宙に舞うアイスの棒たち。

 

 ああ、また俺の勝ちか。今日は本当に調子悪いのかもな、いつもは1本は取れるもんな。2本目は取れないけど。

 

 そんなことを思っていたら宙を舞っていたアイス棒たちが不自然に動いて、気づいたときには机の上に再びきれいなアイス棒のタワーが建設されていた。

 

 え、何今の? まあもちろん俺にはこんな芸当できないからやった子なんて一人しかいないんですけど。

 

 棒タワーからすーっとレイの方に視線を向けると、レイは俺の視線からそれるようにスーッと体を逸らす。

 

 いやそんなことしても無駄だからね?

 なにこんな時に新技編み出してるの。
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