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第二章 幽霊の成長

22話 俺にはそれが理解できなくてきっと彼女もわかっていない。

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 俺には今特別任務が課せられている。

 どこからとか誰からとかは一切明かせないが、非常に重要な任務だ。

 任務名はその名も『幽霊尾行大作戦』

 

 ……我ながら何のひねりもないな。

 

 というわけで俺は今真夜中に外に出ている。

 こそこそと柱とか影っぽいところに身を隠しながら、散歩という体で家の近くを歩いている。

 さすがに誰かに見られると変質者扱いされるので、ちゃんと歩こう……。

 

 なんで俺が用もないのに、言ってしまえば家の周りなんて散歩しても何の面白みもないのに外にいるかというと、レイの後をつけているからだ。

 

 いや、レイが別に何してようが俺には関係ないかもしれないからいいんだけどね?

 こう……保護者? 同居人? としては見守る必要があるかなって。そう、それだけだよ。

 

 俺の知らない間に地縛霊さんの次のターゲットが俺になってたりして、気づいたら呪い殺されてましたーとか、それが嫌でレイの後をつけてるわけじゃないから。

 

 どうせ呪い殺されるならちゃんと死ぬってわかっておきたいじゃん? いや、全然死にたくないし、もし本当にそうなってたらスライディング土下座で幽霊たちの井戸端会議に割り込んで、一生のお願い使うけど。

 

 果たして俺の一生のお願いを幽霊は聞いてくれるのだろうか……。

 

 まあ、そもそもこの井戸端会議っていうのも俺の想像なわけだし、実際レイが何をしているのかはわからない。

 

 レイの歩くスピードはひどくゆっくりしていて、後ろを振り返ればまだ家が近くに見える。

 いざとなればダッシュすれば家に逃げ帰れるな。よし。

 

 それにしてもこうやってちょっと離れてみてると、レイって本当に幽霊って感じがするな。

 なんかふらーって感じで歩いているし、ちょっとでも目線を逸らすとふっとその姿が消えてなくなりそうな存在感の薄さをしている。

 

 夜で昼よりは涼しいとはいえ、今は8月中旬、夏真っ盛り。

 10分も外を歩けばじんわりと背中に汗をかいてTシャツが体に張り付く。

 

 そういえば今年の夏は、海にも行ってないしプールにも行ってないし、祭りなんて見かけてすらないな。というか去年の夏もそんな感じだったな。俺基本的に一年中仕事しかしてないな。

 

 ……四季って何なんだろうね。一人暮らしを始めてからイベントごとには一切いかなくなったな。

 

 そんなことを考えてちょっとしんみりしていると、先を歩いているレイの足が止まった。

 

 やばい、ボーっとしてたから意外と近いな! ちょっと隠れるか。

 

 レイにばれないように俺は近くにあった標識に身を隠す。

 いや標識の棒が細すぎるから全然隠れてないし、結局やってることが変質者なんだけど、レイにはばれていないっぽい。

 

 レイはというとその場で立ち止まったまま足元を見つめて動こうとしない。

 なんだろう。俺が見えていないだけでもしかして井戸端会議が始まってるんだろうか。

 

 もしかしてレイのやつ人見知りして、会話に参加できてないとか? もしかして呼ばれてはいるもののハブられてたりする? 俺助太刀しようか? レイ以外なんも見えないけど、なんか役には立てたりするかもよ?

 

「……え?」

 

 ちょっと不安になりながらレイの様子をうかがっていると、レイは突然歩道と車道を隔てている縁石の上にあおむけで寝転んだのだ。

 

 レイはそのまま動く気配がない。

 

「なに……やってるんだ?」

 

 俺はもう隠れることも忘れて、普通に歩道の方に出てレイのその異様な行動を見ていた。

 

 縁石の上で寝転んでいる彼女の姿は月明かりに照らされて、ぼんやりと薄白く全身が淡く、はかなく輝いているようにも見え、今この瞬間だけはレイの存在が際立っているように見えた。

 そんなレイの表情は心なしか寂しそうで、何かを憂いているようにも見えて、明らかに普通なら見ない異常な、理解できない、何がしたいのかわからない姿なのに……

 

 

 なぜか俺にはそんなレイの姿がひどく美しく映って見えた。

 

 

 幻想的で、神秘的で、普通の人なら絶対にありえない光景。視線が自然と吸い寄せられてこのままいつまでも見ていられるような……。

 

 でもこのまま見ていたら、放っておいたら消えてどこかに行ってしまいそうで、もう戻ってこないようなそんな気がして……

 

 

「さすがに外は暑いといっても、それはちょっと体が冷えるんじゃないか?」

 

 気づいたら俺はレイの真横に立っていて、彼女に声をかけていた。
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