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第二章 幽霊の成長
21話 幽霊同士の井戸端会議ってどういう感じなんだろう。
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「やられた……」
最近俺は油断していた。奴はこれには手を出さない。
だから大丈夫だと慢心していた。
これは明らかに俺の心の隙に付け込んだ犯行だ。
冷蔵庫の中を見て己の不甲斐なさにうなだれる。
そう、俺は油断していた。
レイのアイスブームがいつの間にか落ち着き、冷蔵庫の中にあったスフレプリン(コンビニ産)がきれいさっぱりなくなっていたのだ。
以前のようにデザートの空き容器が冷蔵庫の中に放置されていることはない。
そして最近レイはアイスばかり食べていたから予備のデザートも用意していなかった。
つまり今日の俺にご褒美はなし……。
まさかデザートの容器も収集し始めたとかそんなことしてないよね?
不安に駆られた俺は泣く泣く冷蔵庫をそっと閉めて近くに置いているごみ箱を開ける。
「おー……」
ちゃんとそこにはきれいに完食された後の空き容器が捨てられていた。
なんだろう。このむなしさがあるのに、レイがちゃんとごみ捨てできるようになっているという感慨深い感覚は。
こんなうれしさと悲しさが一緒に襲ってくることなんて、人生で味わったことないよ? 俺はどういう顔をすればいいのさ。
……まあ、明日からまたデザートの予備を買えばいいか。
そうはいってもやっぱり食べる前に一言言ってもらった方がいいんじゃないだろうか。
「食べるよー」とか「食べたよー」とか……いや、食べたよーは事後報告だから今と何も変わらないよね?
まあずっと立ちっぱなしもしんどいし、適当に座ろう。
「……ん?」
いつものようにリビングにある座椅子に腰かける俺の目の前に、ぽつんと小さく紙切れが置かれている。
まさかレイのやつ本当はちゃんと食べる宣言をしてたのか!?
あの子いつの間にそんなに成長してたの! 本当にそうだとしたら、あまりの成長の早さにレイを抱えて三回回ってワンっていうかもしれない!
いやさすがにそれはしないか? いや、俺やっちゃうのか?
『ごちそうさま』
……がくっ。
なんか一気に頭が重くなったわ。期待しすぎてごめんね。でもちゃんとそういうことを言える子は素敵だと思うよ。
ガチャ……バタン。
紙切れを持ったままうなだれていると、不意に玄関の扉が開く音が聞こえる。
これも最近よくあること。もちろん犯人はレイ。
最初は強盗とか泥棒が入ってきたのかと警戒していたけど、あの音が聞こえた後は決まってレイの気配が消える。
いや別に俺は壁越しの人の気配がオーラとして見えるとかそんな魔法は持ってなんかいないけど、なんか感覚的にそういうのってあるじゃん?
さっきまで視線を感じていたのに、その気配がなくなるとか。近くに人の気配があったのにふいにその感覚が消えてなくなるとか……。
あれ、もしかして一人暮らしでそんな経験してるのってもしかして俺だけだったりする?
まあ俺も四六時中レイの行動を監視しているわけじゃないが、さすがに気になって玄関に行ったり、玄関の扉が閉まった後にこっそりレイの部屋に行ったりしている。
まあそれで決まってレイがいないし、不審な人物が家に入り込んでる様子もないから、レイが出て行ってるんだろうと確定づけたわけだ。
しかしレイが普通にこの家から出られることには驚いたけどな。
幽霊にもいろいろと種類がある。
浮遊霊だったり、守護霊だったり、地縛霊だったり。
正直レイはこの部屋から離れられない地縛霊の類かと思ってたけど、そうでもないらしい。
最近レイはいったいどこに行ってるんだろう。
そんなことを考えながら、スマホをいじったりしてぼんやりと過ごしていると、玄関の音が聞こえてから30分くらいたったぐらいか、突然レイが扉を透けて現れ、俺の前にある机の上に体育座りで座る。
別に扉は絶対に開けるわけじゃないのね。
さすがにいきなり帰ってきて現れると、びっくりするよ?
しかし目の前に座るレイは特に何をするわけでもなくどこかボーっとしている様子だった。
まあその姿は別に珍しいわけでもないし、特に普段のレイと変わりがあるわけではない。
「……なんかお土産ある?」
俺はいったい何を言ってるんだろう……。
俺は人との間に流れる沈黙があまり好きではない。何かしゃべらなければとだんだん危機迫った状況に置かれたような、そんな錯覚に陥るのだ。
まあそれはいいとしてもなんでレイにお土産を求めているのだろう。
レイがお土産買ってくるとしたら何を買ってくるんだろう。
あれ、ちょっと気になるかも。
『ない』
俺が投げかけた問いから少し遅れて渡された紙切れにはきれいな二文字。
まあそうだよな。それで「はい、お土産」て普通になんか渡される方が怖いしな。
幽霊にお土産もらうってこれが本当の冥途の土産ってか!
別に狙っていったわけじゃないからね? たまたまだからね。ほんとたまたま。
だからそんなに俺のことをジト目で見つめないでもらっていいですかね。
「近場を散歩?」
『呼ばれてた?』
……疑問形に疑問形で返されてしまった。
疑問形で返されると俺としては「そうなの?」と返すしかなくなる。
それにレイの言っている意味がよくわからないし。
呼ばれてたってどういうこと?
もしかして近場で幽霊の会合が開かれてるとか?
近場の幽霊同士で集まって近況報告的な井戸端会議が開かれてるの?
それにレイもお呼ばれしてるとか?
もしそうだとして話してる内容ってどんな感じなんだろうか。
「最近あそこの地縛霊さん、また一人道連れにしたらしいわよ」
「やだー、相変わらずお盛んねー。そうそう、あそこの背後霊さんはまた写真に写りこんだんですって」
「若いわねー」
……やめて、レイだけなら全然平気だけど、他の霊とか怖いやつとか出てきたら俺耐えられる気がしないから。
レイ以外に幽霊がそこら中にいるとか、誰かをターゲットにしてるとか考えたくもないから。
……なんか聞かない方がよかったかもしれない。
レイが何をしているのか余計に気になってきた……。
最近俺は油断していた。奴はこれには手を出さない。
だから大丈夫だと慢心していた。
これは明らかに俺の心の隙に付け込んだ犯行だ。
冷蔵庫の中を見て己の不甲斐なさにうなだれる。
そう、俺は油断していた。
レイのアイスブームがいつの間にか落ち着き、冷蔵庫の中にあったスフレプリン(コンビニ産)がきれいさっぱりなくなっていたのだ。
以前のようにデザートの空き容器が冷蔵庫の中に放置されていることはない。
そして最近レイはアイスばかり食べていたから予備のデザートも用意していなかった。
つまり今日の俺にご褒美はなし……。
まさかデザートの容器も収集し始めたとかそんなことしてないよね?
不安に駆られた俺は泣く泣く冷蔵庫をそっと閉めて近くに置いているごみ箱を開ける。
「おー……」
ちゃんとそこにはきれいに完食された後の空き容器が捨てられていた。
なんだろう。このむなしさがあるのに、レイがちゃんとごみ捨てできるようになっているという感慨深い感覚は。
こんなうれしさと悲しさが一緒に襲ってくることなんて、人生で味わったことないよ? 俺はどういう顔をすればいいのさ。
……まあ、明日からまたデザートの予備を買えばいいか。
そうはいってもやっぱり食べる前に一言言ってもらった方がいいんじゃないだろうか。
「食べるよー」とか「食べたよー」とか……いや、食べたよーは事後報告だから今と何も変わらないよね?
まあずっと立ちっぱなしもしんどいし、適当に座ろう。
「……ん?」
いつものようにリビングにある座椅子に腰かける俺の目の前に、ぽつんと小さく紙切れが置かれている。
まさかレイのやつ本当はちゃんと食べる宣言をしてたのか!?
あの子いつの間にそんなに成長してたの! 本当にそうだとしたら、あまりの成長の早さにレイを抱えて三回回ってワンっていうかもしれない!
いやさすがにそれはしないか? いや、俺やっちゃうのか?
『ごちそうさま』
……がくっ。
なんか一気に頭が重くなったわ。期待しすぎてごめんね。でもちゃんとそういうことを言える子は素敵だと思うよ。
ガチャ……バタン。
紙切れを持ったままうなだれていると、不意に玄関の扉が開く音が聞こえる。
これも最近よくあること。もちろん犯人はレイ。
最初は強盗とか泥棒が入ってきたのかと警戒していたけど、あの音が聞こえた後は決まってレイの気配が消える。
いや別に俺は壁越しの人の気配がオーラとして見えるとかそんな魔法は持ってなんかいないけど、なんか感覚的にそういうのってあるじゃん?
さっきまで視線を感じていたのに、その気配がなくなるとか。近くに人の気配があったのにふいにその感覚が消えてなくなるとか……。
あれ、もしかして一人暮らしでそんな経験してるのってもしかして俺だけだったりする?
まあ俺も四六時中レイの行動を監視しているわけじゃないが、さすがに気になって玄関に行ったり、玄関の扉が閉まった後にこっそりレイの部屋に行ったりしている。
まあそれで決まってレイがいないし、不審な人物が家に入り込んでる様子もないから、レイが出て行ってるんだろうと確定づけたわけだ。
しかしレイが普通にこの家から出られることには驚いたけどな。
幽霊にもいろいろと種類がある。
浮遊霊だったり、守護霊だったり、地縛霊だったり。
正直レイはこの部屋から離れられない地縛霊の類かと思ってたけど、そうでもないらしい。
最近レイはいったいどこに行ってるんだろう。
そんなことを考えながら、スマホをいじったりしてぼんやりと過ごしていると、玄関の音が聞こえてから30分くらいたったぐらいか、突然レイが扉を透けて現れ、俺の前にある机の上に体育座りで座る。
別に扉は絶対に開けるわけじゃないのね。
さすがにいきなり帰ってきて現れると、びっくりするよ?
しかし目の前に座るレイは特に何をするわけでもなくどこかボーっとしている様子だった。
まあその姿は別に珍しいわけでもないし、特に普段のレイと変わりがあるわけではない。
「……なんかお土産ある?」
俺はいったい何を言ってるんだろう……。
俺は人との間に流れる沈黙があまり好きではない。何かしゃべらなければとだんだん危機迫った状況に置かれたような、そんな錯覚に陥るのだ。
まあそれはいいとしてもなんでレイにお土産を求めているのだろう。
レイがお土産買ってくるとしたら何を買ってくるんだろう。
あれ、ちょっと気になるかも。
『ない』
俺が投げかけた問いから少し遅れて渡された紙切れにはきれいな二文字。
まあそうだよな。それで「はい、お土産」て普通になんか渡される方が怖いしな。
幽霊にお土産もらうってこれが本当の冥途の土産ってか!
別に狙っていったわけじゃないからね? たまたまだからね。ほんとたまたま。
だからそんなに俺のことをジト目で見つめないでもらっていいですかね。
「近場を散歩?」
『呼ばれてた?』
……疑問形に疑問形で返されてしまった。
疑問形で返されると俺としては「そうなの?」と返すしかなくなる。
それにレイの言っている意味がよくわからないし。
呼ばれてたってどういうこと?
もしかして近場で幽霊の会合が開かれてるとか?
近場の幽霊同士で集まって近況報告的な井戸端会議が開かれてるの?
それにレイもお呼ばれしてるとか?
もしそうだとして話してる内容ってどんな感じなんだろうか。
「最近あそこの地縛霊さん、また一人道連れにしたらしいわよ」
「やだー、相変わらずお盛んねー。そうそう、あそこの背後霊さんはまた写真に写りこんだんですって」
「若いわねー」
……やめて、レイだけなら全然平気だけど、他の霊とか怖いやつとか出てきたら俺耐えられる気がしないから。
レイ以外に幽霊がそこら中にいるとか、誰かをターゲットにしてるとか考えたくもないから。
……なんか聞かない方がよかったかもしれない。
レイが何をしているのか余計に気になってきた……。
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