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第一章 幽霊との遭遇

10話 なんだかんだ仲良くなってきたので、名前を付けようと思います。(前編)

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 未知の遭遇、というかポルターガイストの正体?との邂逅から早数週間が経った。

 

 俺はというと、特にこれといって日常が変わるわけではなく、いつも通り会社に行って、普通に仕事をして、上司に怒られて、しょげて帰ってきて、おいしいスイーツが食べられている。

 

 そんな当たり障りない毎日を過ごしている。

 

 最後は独り暮らしなのに食べられてるっておかしくないかって?

 俺のイマジナリーフレンドか幽霊みたいなあの女の子の主食は俺がコンビニで買ってきたデザートだよ?

 

 あの子生クリームたっぷりのエクレアだろうが、ちょっと試しに買ったきなこ餅の飲み物とかすらも飲み干すんだよ?

 

 俺にとってはこれも日常の一部になっている。

 最近はもうあきらめて三個入りとか二個入りとか買ってくるようにしている。

 まあたまに全部食べられてるんだけどね!

 

「んー何がいいかなあ」

 

 最近の日常を振り返りながら、俺は今家の中でメモ帳とにらめっこしている。

 家では絶対に仕事をしない主義の俺がしていることはもちろん仕事ではない。

 プライベートで自室でメモ帳開いて頭悩ましているって、そんなことめったにないんじゃないだろうか。

 

 そういえばデザートを食べた見返りの皿洗いだが、毎回あんな惨状が生まれるのは俺としても勘弁してほしいので、普通にお断りしている。

 

 でもこのままだと俺が損しているばっかりだから、今度掃除でも教えてみようか。

 ゴミ箱にごみを捨てるくらいならあの子でもできそうだ。

 

 ……なんかすごく嫌な予感しかしないけど、今は深く考えないでおこう。

 

「ポチ?いやあ、犬っていうよりは猫っぽいよなあ。じゃあ無難にタマとか?」

 

 メモ帳にとりあえず書いては見るものの、なんだかしっくりこない。

 うーんなかなかいいのが出てこない。

 

 がたがたがた……。

 

 今日も元気に活動しているらしい。

 最近は物音の頻度はかなり落ちた。というか一日に一回あればいい方だ。

 

 たまに俺が心配していると、生存報告のように音を鳴らしてくれる。

 生存報告って生きていない何者かに向かって使うのはおかしいのかもしれないけど。

 

 そもそも心配ってどういうことだよ。

 

 物音が減った代わりに最近は帰ったり、朝出かける前に姿を見せることが格段に増えた。

 

 だいたい物陰からこっそりこちらを観察しているだけで、俺の方に近寄ってこないんだけど、ちょうど死角の位置から白いフードをのぞかせて、真ん丸な瞳でこちらを見つめている。

 

 ……なんだろう。俺の魂でも狙ってるのかしら。俺は食べてもおいしくないよ。

 

「んー……あまりペットぽいのもどうかと思うしなあ。存在が人じゃないとしても見た目は人だし?こちらとしても呼びづらいよなあ。あの子が幽霊だとしたら……レイとか?安直すぎるか」

 

 バタン! ガチャ……パタン。

 

 メモ帳に雑に書かれたポチとタマの名前を横戦で消して、思い付きで書いたレイという文字も消そうとしたとき、ものすごい勢いで自室の扉が開いて、女の子が飛び込んできた。

 

「きゃーえっち!……じゃなくてどうした?」

 

 俺は反射的に下半身を隠したが、別にやましいことはしていなかった。なんも隠すことはなかった。……ほんとだよ?

 

 そんな俺のボケを華麗に無視しながら女の子は俺が向かい合っている机の上に正座で座る。

 

 前髪から見える目はきらきらしていて、頬が若干紅潮しているように見える。

 基本透けてる白だからほんとに若干だけどね、若干。俺じゃなきゃわからない。

 というか、色の変化とかあるんだね。興奮してるのか?

 

 いやそんなに見つめられると困るんだけど。

 

 俺はついに食べられてしまうのだろうか。

 デザートでは物足りなくなった彼女に捕食されてしまうんだろうか。

 

 「えーっと……シュークリームあるけど食べるか?」
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