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第3章 それはいずれ語られる英雄譚
第39節 かませ役と新手
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「じゃあ索敵呪術を使うわね。『捜』」
シャルが杖を構えてそう唱えると杖に着いた水晶が淡い光を放つと同時に、グラフォスの足元に微弱な魔力が流れるのを感じる。
「この魔力は魔物には感知されないんですか?」
「頭のいい魔物なら感づくかもしれないけど、それでも広範囲に魔力を流しているから魔力元は特定されにくいわよ」
「そうなんですね」
グラフォスはすでに片手に本を構えており、今シャルが言った情報を黄金色の羽ペンが必死に本にかきこんでいた。
「その羽ペンもすごいわね。グラフォス君が何か指示してるわけじゃないんでしょ?」
「指示はしてないですけど、書いてほしいことは頭で思い浮かべる必要はありますよ。書き師ならみんな使えると思ってましたけど、ミンネさんが言うにはそうでもないみたいですね」
「そんなの使ってるやつは見たことねえなあ」
トキトも三人の方を向き後ろ歩きで歩きながら、頭に手を組みグラフォスが使う羽ペンを興味深そうに見ていた。
本来であればこの魔法もミンネに他人に見せるなと言われているが、ここにいるのはすでにこれ以上の魔法を見られている相手ばかりである。
いまさらこれを隠したところでもう遅いというものだ。
「その子もグラフォス君の相棒って感じだね」
「相棒……ですか。これに意思はありませんけどね」
グラフォスが冷たくそういうと羽ペンの動きが一瞬止まったような気がしたが、今は普通に動きを再開しているからきっと気のせいだろう。
「それにしても魔物感知しないわね」
「まあ普通こんなところに魔物はいませんからね。いたとしてもゴブリンか、それ相当の魔物くらいですよ。その魔物もトレントキングにおびえて表に出てこれないのかもしれません」
「暇だな!」
「平和が一番だよね」
森に入った当初はあった緊張感がほぐれてきて、そんなのんきな会話をしながら四人は森の中をどんどんと進んでいた。
「もしかしたらあのドラゴンなんとかってパーティがもう仕留めちゃってるのかもしれないわね」
「それは却下! 俺が暇すぎるからな」
「そういう理由ですか……」
「ん? 三人ともちょっと待って。何か索敵に引っかかった。え、すごい勢い……」
シャルに言われて三人は足を止める。シャルもその場で足を止めて目を閉じて感じているであろう魔力の流れに集中している。
「……まずい! トキト、二人を抱えて思いっきり横に飛んで!」
シャルがそう言った瞬間トキトはグラフォスとアカネの横っ腹を抱えるようにつかみ、木々が生い茂る脇道に思いっきり飛び込む。
シャルもそれを見届けることなく三人とは反対方向へと思いっきり飛んでいた。
その直後だった。
先ほどまで四人が立っていたところに激しい砂埃が立つと同時に、激しい雄たけびが上がった。
「あれって……」
「新手かよ」
砂埃が晴れ、そこに四つ足で立っていたのは全身銀の体毛で覆われたオオカミのような魔物の姿だった。
その魔物は何かを足で押さえつけているように見える。
「助けてくれええええ!!」
「あれ、ジャイアントウルフ!?」
「それに槍の人も!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!『止』」
相手の正体を見極めようとするグラフォスたちをよそにシャルの行動は早かった。
飛び込んだ木陰で素早く体勢を立て直すと、右手に持っていた杖を両手に構えてそのまま魔物に向かって振りかざす。
その瞬間、以前見たトレントキングのように目の前の大きな体格をした魔物はその場で動きを止めた。
「ちょっとしかもたないからそいつから早く離れて!」
シャルがそう叫ぶと魔物の足に押さえつけられていた人物がのそのそとよろめきながら、立ち上がり魔物から離れようとする。
「おいおいどこに行くつもりだ?」
トキトは魔物を警戒しながら槍の男に近づく。
「こ、こんなやつがいるなんて聞いてなかったぞ! 森の浅瀬にいる魔物討伐だから受けたんだ!」
男はひきつった顔をしながら睨みつけるようにトキトを見る。
「別に俺も隠してたわけじゃなくて知らなかったんだけどなあ」
「トキト! 警戒して! アカネちゃんは全員にオートヒールをかけて!」
「わかりました! 『オート』きゃっ!!」
アカネが全員を対象にしようと手を向けて魔力を放出した瞬間、彼女の足元から氷のつららのようなものが大きく突出する。
間一髪でトキトがそれに気づきアカネの首根っこを掴むことで、何とかよけることができたが、その結果オートヒールの詠唱はキャンセルされてしまった。
「ひいいいいいいい!!」
「あ、ちょっと! 何しに来たのよまったく!」
男はその手に持った長槍を構えることなく、その魔法を見るなり森の出口に向かって走って逃げて行ってしまった。
発現した氷のもとをたどると、それはジャイアントウルフの足元から突出した氷へとつながるように氷の道ができていた。
「うそ、属性持ちなの……」
「シャルさんの呪術が効いていないんですか?」
「いや違うな」
「ええ、私のあの呪術はあくまで対象の動きを拘束するものなのよ。だから魔法を使う属性持ちの相手とは相性が悪いの。体の動きを止めてても魔力操作ができる相手とかは特に、ね」
シャルは淡く水色に全身を発光させているジャイアントウルフを横目に見ながら悔しげにそう話しながらも、次の呪術の準備をしていた。
しかしジャイアントウルフは体が動かない中魔力の流れでグラフォスたちの動きを感知しているのか的確に、シャルを狙って氷を次々と地面から突出させていた。
これでは魔法も使えなければあの魔物に近づけそうもない……。
シャルは攻め手にかけていて、ジャイアントウルフの魔法を止めようにも魔力が感知されるため、攻め手にかけていた。
シャルが杖を構えてそう唱えると杖に着いた水晶が淡い光を放つと同時に、グラフォスの足元に微弱な魔力が流れるのを感じる。
「この魔力は魔物には感知されないんですか?」
「頭のいい魔物なら感づくかもしれないけど、それでも広範囲に魔力を流しているから魔力元は特定されにくいわよ」
「そうなんですね」
グラフォスはすでに片手に本を構えており、今シャルが言った情報を黄金色の羽ペンが必死に本にかきこんでいた。
「その羽ペンもすごいわね。グラフォス君が何か指示してるわけじゃないんでしょ?」
「指示はしてないですけど、書いてほしいことは頭で思い浮かべる必要はありますよ。書き師ならみんな使えると思ってましたけど、ミンネさんが言うにはそうでもないみたいですね」
「そんなの使ってるやつは見たことねえなあ」
トキトも三人の方を向き後ろ歩きで歩きながら、頭に手を組みグラフォスが使う羽ペンを興味深そうに見ていた。
本来であればこの魔法もミンネに他人に見せるなと言われているが、ここにいるのはすでにこれ以上の魔法を見られている相手ばかりである。
いまさらこれを隠したところでもう遅いというものだ。
「その子もグラフォス君の相棒って感じだね」
「相棒……ですか。これに意思はありませんけどね」
グラフォスが冷たくそういうと羽ペンの動きが一瞬止まったような気がしたが、今は普通に動きを再開しているからきっと気のせいだろう。
「それにしても魔物感知しないわね」
「まあ普通こんなところに魔物はいませんからね。いたとしてもゴブリンか、それ相当の魔物くらいですよ。その魔物もトレントキングにおびえて表に出てこれないのかもしれません」
「暇だな!」
「平和が一番だよね」
森に入った当初はあった緊張感がほぐれてきて、そんなのんきな会話をしながら四人は森の中をどんどんと進んでいた。
「もしかしたらあのドラゴンなんとかってパーティがもう仕留めちゃってるのかもしれないわね」
「それは却下! 俺が暇すぎるからな」
「そういう理由ですか……」
「ん? 三人ともちょっと待って。何か索敵に引っかかった。え、すごい勢い……」
シャルに言われて三人は足を止める。シャルもその場で足を止めて目を閉じて感じているであろう魔力の流れに集中している。
「……まずい! トキト、二人を抱えて思いっきり横に飛んで!」
シャルがそう言った瞬間トキトはグラフォスとアカネの横っ腹を抱えるようにつかみ、木々が生い茂る脇道に思いっきり飛び込む。
シャルもそれを見届けることなく三人とは反対方向へと思いっきり飛んでいた。
その直後だった。
先ほどまで四人が立っていたところに激しい砂埃が立つと同時に、激しい雄たけびが上がった。
「あれって……」
「新手かよ」
砂埃が晴れ、そこに四つ足で立っていたのは全身銀の体毛で覆われたオオカミのような魔物の姿だった。
その魔物は何かを足で押さえつけているように見える。
「助けてくれええええ!!」
「あれ、ジャイアントウルフ!?」
「それに槍の人も!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!『止』」
相手の正体を見極めようとするグラフォスたちをよそにシャルの行動は早かった。
飛び込んだ木陰で素早く体勢を立て直すと、右手に持っていた杖を両手に構えてそのまま魔物に向かって振りかざす。
その瞬間、以前見たトレントキングのように目の前の大きな体格をした魔物はその場で動きを止めた。
「ちょっとしかもたないからそいつから早く離れて!」
シャルがそう叫ぶと魔物の足に押さえつけられていた人物がのそのそとよろめきながら、立ち上がり魔物から離れようとする。
「おいおいどこに行くつもりだ?」
トキトは魔物を警戒しながら槍の男に近づく。
「こ、こんなやつがいるなんて聞いてなかったぞ! 森の浅瀬にいる魔物討伐だから受けたんだ!」
男はひきつった顔をしながら睨みつけるようにトキトを見る。
「別に俺も隠してたわけじゃなくて知らなかったんだけどなあ」
「トキト! 警戒して! アカネちゃんは全員にオートヒールをかけて!」
「わかりました! 『オート』きゃっ!!」
アカネが全員を対象にしようと手を向けて魔力を放出した瞬間、彼女の足元から氷のつららのようなものが大きく突出する。
間一髪でトキトがそれに気づきアカネの首根っこを掴むことで、何とかよけることができたが、その結果オートヒールの詠唱はキャンセルされてしまった。
「ひいいいいいいい!!」
「あ、ちょっと! 何しに来たのよまったく!」
男はその手に持った長槍を構えることなく、その魔法を見るなり森の出口に向かって走って逃げて行ってしまった。
発現した氷のもとをたどると、それはジャイアントウルフの足元から突出した氷へとつながるように氷の道ができていた。
「うそ、属性持ちなの……」
「シャルさんの呪術が効いていないんですか?」
「いや違うな」
「ええ、私のあの呪術はあくまで対象の動きを拘束するものなのよ。だから魔法を使う属性持ちの相手とは相性が悪いの。体の動きを止めてても魔力操作ができる相手とかは特に、ね」
シャルは淡く水色に全身を発光させているジャイアントウルフを横目に見ながら悔しげにそう話しながらも、次の呪術の準備をしていた。
しかしジャイアントウルフは体が動かない中魔力の流れでグラフォスたちの動きを感知しているのか的確に、シャルを狙って氷を次々と地面から突出させていた。
これでは魔法も使えなければあの魔物に近づけそうもない……。
シャルは攻め手にかけていて、ジャイアントウルフの魔法を止めようにも魔力が感知されるため、攻め手にかけていた。
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