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第3章 それはいずれ語られる英雄譚

第38節 作戦と出発

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「どこにでもああいうのはいるんだな」

「そうね、ちょっとでも成功すると冒険者ってのは調子に乗っちゃうもんなのよ」

「やな感じです……」

「まあ言っていることは間違いないかもしれないですけどね」

 モブザック達と別れた後反対側のテーブルに着いた四人だったが、グラフォスたちのもとに人が集まることはそれ以降もなかった。
 原因としては今四人が視線をやりながら話をしている彼が原因である。

「あそこに参加するくらいならこっちに参加した方が楽できるよ。向こうは死ぬ可能性が高いからね。なんせ万年岩等級、依頼達成率2割以下のコンビと書き師のお守りだ! あっちにはいかない方が身のためだよ」

 そんなことを飽きもせずにギルドに人が来るたびに、ギルド内全体に聞こえるように言いまわっているのだ。
 そのためモブサックの方に人が集まるばかりで、ほとんどの人がグラフォスたちのテーブルには見向きもしていなかった。

「もうこれ以上待っても無駄だろ! 俺たちだけで森に行こうぜ!」

 トキトはずっと椅子に腰かけて貧乏ゆすりをしていたが、ついに我慢できなくなったのか勢い良く立ち上がると、ギルドの扉に向かって歩き始めた。

「まあトキトにしては我慢した方かしらね」

「待ってください。作戦とかは考えているんですか?」

「ああ? そりゃ考えてるに決まってるだろ! そうだろシャル!」

「すぐ人任せなんだから……。説明するからトキトはとりあえず戻ってきなさい」

 シャルはあきれたように言いながら、トキトをテーブルへと呼び戻す。トキトは渋々といった様子で頭を掻きながら三人の元へと戻ると、再び椅子にドカッと腰かけた。

「作戦って四人で動く用のものなんですか?」

 確かにアカネの言う通りシャルが作戦を考えているとしてもそれが多人数用の、4人以上集まる前提で考えられている作戦だとしたら、現在状況では作戦は活きない形となってしまう。

「そうねえ、4人以上のものももちろん考えてたんだけど、何となくこうなるんじゃないかって思ってたのよね。私とトキトって変に知名度があるしね。だから一応4人用の作戦も考えてるわ」

 シャルは苦笑いしながらギルドを軽く見渡していた。
 指定依頼を受けるパーティは相当数いるようだが、やはりグラフォスたちの方に近づいてくるパーティは一つもない。

 トキトとシャルは案外こういった状況になれているのかもしれない。

 そんなギルドの様子を見ながら考えるグラフォスだった。

「まあ作戦といってもそんなややこしいものではないわ。あまりややこしくするとトキトは理解できないだろうし」
「よくわかってんじゃんか」

「そこは否定しないんだ……」

「それで作戦というのは?」

「ええ、まず戦法としては基本不意打ちで行くつもりよ。真正面から戦っても戦力差は私たちが負けてる可能性が高いからね。まあグラフォス君とアカネちゃんの戦力が把握しきれていないからあくまで予想なんだけどね。それで不意打ちする方法だけど私が索敵の術を使えるから基本魔物感知が引っかかったら木陰に隠れる。そして魔物が射程範囲に入った瞬間に、それがトレントキングだろうがなんだろうが、私が行動を止める術を使う。その間にアカネちゃんは魔法の待機、そしてグラフォス君とトキトが攻撃役で突っ込む。こんな感じね」

「あの、私オートヒールが使えますけど、それはグラフォス君とトキトさんが行動する前にかけた方がいいですか?」

「オートヒール?」

 シャルは聞いたことがないのかアカネの問いかけに首をかしげて答える。トキトはそもそも話を聞いていないのか、未だグラフォスたちの印象操作する言葉を投げているモブザックの方をにらみつけていた。

「アカネは対象者の傷を自動で癒してくれる回復魔法を使えるんですよ。事前にそれをかけてもらってた方が、アカネの魔力効率もいいですし、ある程度の怪我をしてもすぐに回復するのでいいですよ」

「なにそれ、聞いたことないんだけど」

「僕もアカネ以外に使ってるのは見たことないですね。文献で知ってた程度ですから」

「そんなにすごいのかな? 私最初から使えたけど……」

「君たち本当に何者なのよ……」

「話は終わりか!? とりあえずシャルが相手の動き止めたところを俺とグラフォスでぶったたけばいいんだろ! それで回復はアカネがしてくれる! 完璧! よし行くぞ!」

 トキトは両手をたたき自分に活を入れると立ち上がり、今度こそギルドの外に出て行ってしまった。

「トキトさんっていつもあんな感じなんですか?」

「そうねえ、昔から一直線というか無鉄砲というか、それでいてお人よしだから依頼を達成できないのよね。悪い奴ではないから安心してね」

「それは何となくわかる気がします」

 トキトが出て行った方を見ながらアカネとシャルは苦笑いを浮かべると、彼女の後をついていくように歩き始める。
 しかしグラフォスは何か気になるのか周りをきょきょろと見渡していた。

「どうしたの、グラフォス君」

「いや、朝から何か視線を感じるんですよね……」

「朝から? 私は特に感じなかったけど……」

「ギルドではこんだけ私たちのことが言いふらされてるんだから多方から見られてはいるわよ?」

「……そうですね。僕の気のせいかもしれません、行きましょうか」

 グラフォスは最後ちらっともう一度だけ周りを見渡したが特に気になる人物はいなかった。

「早くいくぞ!」

 ギルドの扉を開けて大声で呼びかけたトキトを追いかけるように三人はギルドを出て森へ向かうのだった。
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