上 下
31 / 41
第2章 創造魔法と救世主

第30節 報告と帰還

しおりを挟む
 空中から自由落下した四人は街道のわきで揃いもそろって大の字で寝転がっていた。

「くそー、坊主のせいでうまく受け身取れなかった」

「僕のせいなんですかね」

「そうよ。人のせいにしちゃだめよ」

 早々に立ち上がったのはやはりというべきか一番耐久力がありそうな鎧を着ている赤髪の少女。

 そんな赤髪少女を非難しながら青髪少女も立ち上がり、お尻、背中についている砂を払っていた。

 相手と会話はできるもののグラフォスは未だ地面に倒れたままだった。

 アカネに関しては落下時に相当の衝撃を受けているはずにもかかわらず、目覚める様子はなかった。

 青髪の少女がうまく衝撃を和らげてくれたからか、彼女の疲労が思っているよりもひどいからなのか。恐らくその両方だろう。

「まあそんなことはどうでもいいんだ。問題はあのバケモンだな」

 赤髪少女はにらみつけるように森の方に顔を向ける。それに合わせて青髪少女も眉を寄せながら森に目を向けていた。

 確かにグラフォスたちはタイレントキングから逃げおおせたわけだが、それは自由になったわけではない。むしろあんな魔物がこんな森の浅瀬に腰を据えているとなると、森には入れる冒険者の数はぐっと減ってしまう。

「どうしてあんなところにユニークモンスターがいたのかしらね……」

「とりあえずギルドに報告しねえとな。ぶっ倒れてるところ悪いが坊主たちにも来てもらうぜ」

「それは全然かまいませんが……あなた達はいったい?」

 グラフォスはよくギルドに顔を出すが赤髪も青髪の少女も見覚えがなかった。
 こんな目立つ赤い鎧を着ている人がいれば、一度は目にしたことがありそうなものだが。

「私はシャル。職業は『呪術士』よ」

 青髪の少女は微笑みながら手に持っていた水晶玉のようなものが先端についた杖を見せてくる。

「俺は芳賀時兎はがときと。職業は『刀剣士』だな。まあシャルと同じで見たまんまだな」

 シャルに続くように赤髪の少女がその鎧に隠された小さな胸を張って、名乗る。

「僕はグラフォス。隣で伸びちゃってるのはアカネです」

「そうか。まあ詳しいことは街に戻ってもしまた会うことがあればでいいだろ。とりあえず戻るぞ」

 トキトはよほど急いでいるのか若干焦るような口調で街に戻ることを促す。
 もちろんあの魔物をこのまま放置するわけにはいかないため、グラフォスも痛む体に鞭を入れて何とか立ち上がる。

「坊主は歩けそうか。そっちの嬢ちゃんは……無理そうだな」

「大丈夫ですよ、僕が背負って運びます。アカネは軽いですし」

「あら、前にもこういうことがあったの?」

「まあ、そうですね……」

 グラフォスは返事を濁しながらアカネに近づくと、リュックを前に持ってきて代わりにアカネを背中へと抱える。

 ミンネのところに来てからはまともな食事をとっているアカネだったが、それでも軽すぎるくらいにグラフォスは持ち上げることができた。

「じゃあギルドに行くぞ」

「はい」

 最後にもう一度森へと目を向けるトキトの声をきっかけに四人は街へと戻るのであった。



 街に戻った四人はギルドへと真っすぐ向かう。 
 顔面血だらけの少女を背負う少年と派手な装備をしたトキトとシャルは街に入るなりそれなりに注目を浴びてしまっていた。

 しかしトキトはそんなことを気にする様子もなくギルドにたどり着くと押し開けるというよりは、けり破る勢いでギルド内に足を運ぶ。

「おい、あれ……」

「ああ、万年岩等級パーティのトキトだろ?」

「ああ依頼達成率2割以下って噂だぜ」

「今日はシャルも一緒なのか」

「この街に戻ってきていたのか」

「書き師の坊主も一緒じゃねえか」

「あーシャルちゃんにののしられたい」

 ギルドに入るなり注目を浴びたトキトに向けられる視線は意外にも冷たいものばかりだった。
 目立つにしても、見る限りよさそうな鎧を着ているから有名な冒険者なのだろうと思っていたが、周りの聞こえてくる会話を聞く限りあまりいい噂ではない方で有名みたいだ。

 グラフォスもそんなトキトとシャルと一緒にいるわけだから、注目を一緒に浴びるが当のグラフォスもトキトも気にする様子もなくギルドの受付嬢に近づく。

「トキトさん、シャルさん戻ってたんですか!」

「ああついさっき戻ってきたばっかだな」

「今回は依頼は達成できたんですよね? 護衛任務でしたしお二人の実力を鑑みても難しい依頼ではなかったと思うんですが……」

「それがね……またトキトの馬鹿がやらかしちゃったんだ」

「え?」

 トキトが受付に立つなり近づいてきたギルド嬢は、親しげに会話をし始めた。
 どうやら二人は護衛任務を受けた帰りらしい。
 そんな三人の話をグラフォスは盗み聞ぎするような形で静かに聞いていた。

 というよりもさすがにアカネを支えていて、腕や体への負担がピークに達していたのだ。
 話しかける余裕はなくアカネを落とさないようにするので精いっぱいだった。

 そんなグラフォスに気づくはずもなく三人は会話を続ける。

「あの場面に遭遇したらシャルも同じことしてるだろ。それに否定もしなかったじゃねえか」

「それはそうだけどね」

「えっと、なにがあったんですか?」

「ん? まあ護衛依頼の途中に迷子の子を見つけてな。到着までの日付に余裕があったから親を見つけてからでもいいかって言ったら、拒否したんだ」

「だからちょうどそのまま村にいた冒険者に護衛依頼を押し付けて、トキトと二人で迷子の親探しをしてたってわけ」

「別に押し付けたわけじゃねえよ。頼んだら快く引き受けてくれたじゃねえか。両方にとって有益な話だった。それだけだ」

 シャルの言い分に不満があったのかトキトはむすっとしながら事の経緯を説明する。

「そんなことはどうでもいいんだ」

「そんなことって……。トキトさんこのままだと本当にずっと岩等級のままですよ? お二人の実力ならもっと上に行けるのに」

「本当にそれはどうでもいいんだよ。それより大事な話がある」

「グラフォス君!」

 完全に会話の蚊帳の外になっていたグラフォスの耳に聞きなれた声が耳に飛び込んでくる。
 声がした方に目を向けると鬼気迫った表情で近づいてくるドリアの姿があった。

「どうしたの!? ぼろぼろじゃない! それにアカネちゃんも……!」

「ああ、ちょっといろいろありまして……」

 ドリアに言われてグラフォスは改めて自分の姿に目を向けるが、確かに言われてみればボロボロだ。
 腕を無くしたときに一緒に持っていかれた服は肩から下がちぎれているし、いつも着ている白いローブは泥まみれの砂まみれで、乾いていない血もこびりついている。

 トキトが目立っていたのもあったが、グラフォスのこのボロボロ具合も街で目立ってしまっていた要因の一つかもしれない。

「いろいろって……」

「あんたもちょうどいいや。恐らく、いや絶対にギルド指定の緊急依頼を出す必要がある話がある。聞いてくれ」
「え、それってどういうことですか?」

「と、とりあえず上に行きましょうか」

 トキトの発言に動揺するドリアとギルド嬢であったが、少し冷静になると四人はギルドの二階にある応接室へと案内された。

 ギルド嬢がすんなりとトキトの話を信じるあたり、彼女らはギルドの信頼は高いのかもしれない。

 そんなことを考えながら、そして腕の痛さに耐えながらグラフォスはトキトとシャル、そしてギルド嬢たちの後ろをついていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...