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第2章 創造魔法と救世主
第29節 絶体絶命と赤青落下
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グラフォスはしばしの浮遊感ののちに地面にたたきつけられ、それと同時に全身の魔力が消失、それに合わせるように左手に浮いていた本は遠く向こうへ放り出され、右手に添えるように顕現していた大剣も霧散する。
「グラフォス……くん。『パーフェクトヒール』」
全身を打ち付けた鈍い、それでいて激しい痛みは頭上から降り注いだ淡い緑色の魔力によって即座に消えていく。
魔力の発生源を視線で追うと、アカネが地面にひれ伏しながらも両手をこちらに伸ばしていた。
一定範囲の味方を一斉に癒す高等回復魔法。
しかしその魔力はすぐに薄れ、魔力が完全に消え去ると同時にアカネは目、鼻、口から血を吐き出し完全に意識を失った。
魔力切れ……。あれだけの高等回復魔法を続けざまに使っていれば当然だ。普通の人間であればもっと早い段階で魔力切れを起こして気を失っていたに違いない。
しかしここまでアカネが耐えてくれたからこそグラフォスは生きながらえることができた。
アカネがいなければ最初の左腕を失った時に出血多量で息絶えていたに違いなかった。
『グガアアアアアアアアアアアアアアア!!』
静寂が訪れたのは一瞬だった。目の前から聞こえてきた腹の底から恐怖が湧き出す叫び声が森全体に響き渡る。
グラフォスは消耗している気力を無視して、その場で飛び起きた。
「うそでしょう……」
あれだけの魔力をぶつけても、魔法をぶつけても、苦肉の最善策をこうじてもまだ、目の前の魔物は、ジャイアントトレントは残った5本の枝を振り回していた。
グラフォスの魔法によって灰と化した枝はたったの3本。本体はおろかその枝すらすべてを断ち切ることはできなかった。
3本の枝が復活する様子はない。黒ずんだ根元から枝が生えてくる様子はない。
しかし残りの5本でも脅威だというのに、目の前の化け物は地に根を生やし、そしてその太い胴体から新たな枝を生成している。
枝が一本奴から生えるごとに周りの森の木が一本枯れはて死んでいった。
新しく生成された枝は既存の枝に比べて先端が鋭くとがっていた。
目の前の魔物はグラフォスの魔法を見て学んだのだ。
刃は鋭くとがっていたほうが相手に刺さると。
グラフォスは勘違いをしていた。
目の前の魔物はジャイアントタレントなんて生易しいものではない。
五年に一度、いや十年に一度出現するかどうかの周りの自然が持つ魔力を吸収し、すさまじい再生力と、戦いの中で知性を得て進化を繰り返すギルド指定討伐対象ユニークモンスター。
「タレントキング……!!」
こんな森の浅瀬に決して存在してはいけない魔物。こんな魔物がうじゃうじゃいたらとっくにこの街リンアは魔物の手によって滅んでいる。
どうしてこんなところにユニークモンスターが……。
グラフォスは一瞬我を忘れて思考を放棄しかけたが、目の前の化け物が作り出した5本の枝と既存の枝、計10本の枝を網のようにねじり掛け合わせ始めた行動を見て、頭を無理やり回転させる。
「『リリース』『アトラント』」
冷静に何とか背中から落ちていなかったリュックから一冊の本を取り出すと、魔法を詠唱。
その後地面に落ちていた青色の装丁をした本と、黒色の装丁をした本を手元に手繰り寄せる。
「これがあったところで、ですが……」
タレントキングの目標はグラフォスただ一人。幸いにもアカネには意識がいってないようだ。
「やらないよりはましですね。『リリース』『マルチシールド』」
グラフォスは先ほど顕出した3枚のシールドよりも多い5枚のシールドを自分の体を守るように縦に配置する。
タレントキングはそれを見て何を思ったのか大きく口をゆがめて口角をあげる。
「こっちは必死だというのに、何がそんなに面白いんですかね……」
グラフォスは両手を前に向けてなるべく強度を保てるように、目の前の魔法盾に魔力を注ぎ込み続ける。
『グガアアアアアア!』
タレントキングは自分が持ちうるすべての枝を絡ませてねじって造り上げた一本の枝、枝というには太すぎる一本の木のような太さを持ったそれをグラフォスの体向かって真正面からついてきた。
十分な速度と強度を持った一本の大木はグラフォスが造り上げた魔法盾をいとも簡単に突破していき、その速度を落とすことなく四枚の盾を破壊する。
「やっぱり、足りませんか」
これで終わりか。
この世界の知識を知ることもなく、こんな森の中でアカネまで巻き込んで自分の生涯は終わってしまうのか。
そんなどこか諦めに近い感情を抱きながら、グラフォスは冷たい視線で目の前まで迫ったタレントキングのそれが五枚目の盾を突破するのを見つめる。
そしてその直後その大きく太い枝はグラフォスの心臓を無慈悲に貫く——
「『一閃』!」
——ことはなく、グラフォスの体に到達する直前で、大きな大木にも似た枝は真っ二つに断ち切られた。
そして自分が助かったことを察知するとともに、視界に入ったのは真っすぐ光を浴びて反射する刀身を振り切る赤髪の女性の姿だった。
『グガアアアアアア!!』
しかし突然入り込んできた女性を気にする余裕はない。
真っ二つにされたことによって一塊になっていた10本の枝は分かれ、その衝撃に痛みを感じているのかタレントキングは枝が分かれるとともに無造作にその枝を振り回し始めた。
グラフォスも赤髪の女性もその猛攻を避けるので必死だった。
「あ、くそ、暴れるんじゃねえ!」
不意打ちは成功した赤髪の女性だったが、枝の数による攻撃を最初こそは何とかしのいでいたが、その細い刀身ではさばききることができず、少なからずダメージを負い始めていた。
「くっ……そがー!」
「『ストップ』! トキトが勝手に突っ走るからこういうことになるんでしょう! このおバカ!」
この緊迫した状況でどこか気が抜けるような突っ込みのような声が、森の奥から飛び込んでくる。
最早突っ込みのついでとも思える投げやりにも聞こえた詠唱と同時に、タイレントキングの枝は空中でまるで時が止まったかのように、その動きを止めていた。
「シャルが走るのが遅いのが悪いんだろう!」
「あなたはまたそうやって……! いいわ、そんなことはあと! あと3秒後に魔法の効果が切れるわ! それまでにトキトはその子を何とかして!『パワー』」
声が聞こえた方から姿を現したのは、大きな水晶のようなものが付いた杖を片手に持つ青髪の女性だった。
その女性は片手で気絶しているアカネを脇に抱えるように持ち上げると、グラフォスの方に近づいてくる。
そちらに気を取られているとグラフォスの体が持ちあげられるような一瞬の浮遊感に襲われる。そのあと鎧の堅い感触が横っ腹にあたり、鈍い痛みが走る。
「ちょっと痛いだろうが、我慢しろよ! シャルいつでもいいぜ!」
「『フライ』!」
持ち上げられると同時に、赤髪の女性と青髪の女性は同時にジャンプする。
状況が理解できずに頭が混乱しているうちに今度は体全体が浮くような浮遊感に襲われ、一気に全身に重力が襲ってくる。
思わず目を閉じたグラフォスだったが、次に目を開けたときには森を抜けだしていてすぐ下に枝の動きを再開させたタレントキングが恨めし気にこちらを見上げていた。
何が起こったのかまったくもって理解はできなかったが、なんとか危機は脱出できたみたいだ。
そして全身に風の抵抗を受けながら四人は上空を飛んでタイレントキングから、森から離れていた。
「あの、助けてくれた……でいいですよね? ありがとうございます」
「礼を言うのは後にした方がいいぜ」
「え?」
「私ね、通常詠唱の魔法がちょーっとだけ苦手なのよね」
青髪の女性は気まずそうに眉にしわを寄せながら苦笑いをグラフォスに見せる。
「というと?」
「このフライの魔法、もう切れちゃうのよね」
女性がてへっといいそうなほどはにかんだ直後、突然先ほどまでの安定した浮遊感がなくなり、一気に体が下降する。
「ちょ、ちょっと、えーーーー!?」
「坊主、舌かむんじゃねえぞ!」
青髪の女性は空中で反転するとアカネを守るように背中から落ち、そして自分を守るように片手で後頭部を抑える。
そして赤髪の女性とグラフォスも自分の顔を守るように両腕で顔を覆った。
数秒後、四人は森の外すぐそこで地面に激突して派手に砂埃をあげていた。
「グラフォス……くん。『パーフェクトヒール』」
全身を打ち付けた鈍い、それでいて激しい痛みは頭上から降り注いだ淡い緑色の魔力によって即座に消えていく。
魔力の発生源を視線で追うと、アカネが地面にひれ伏しながらも両手をこちらに伸ばしていた。
一定範囲の味方を一斉に癒す高等回復魔法。
しかしその魔力はすぐに薄れ、魔力が完全に消え去ると同時にアカネは目、鼻、口から血を吐き出し完全に意識を失った。
魔力切れ……。あれだけの高等回復魔法を続けざまに使っていれば当然だ。普通の人間であればもっと早い段階で魔力切れを起こして気を失っていたに違いない。
しかしここまでアカネが耐えてくれたからこそグラフォスは生きながらえることができた。
アカネがいなければ最初の左腕を失った時に出血多量で息絶えていたに違いなかった。
『グガアアアアアアアアアアアアアアア!!』
静寂が訪れたのは一瞬だった。目の前から聞こえてきた腹の底から恐怖が湧き出す叫び声が森全体に響き渡る。
グラフォスは消耗している気力を無視して、その場で飛び起きた。
「うそでしょう……」
あれだけの魔力をぶつけても、魔法をぶつけても、苦肉の最善策をこうじてもまだ、目の前の魔物は、ジャイアントトレントは残った5本の枝を振り回していた。
グラフォスの魔法によって灰と化した枝はたったの3本。本体はおろかその枝すらすべてを断ち切ることはできなかった。
3本の枝が復活する様子はない。黒ずんだ根元から枝が生えてくる様子はない。
しかし残りの5本でも脅威だというのに、目の前の化け物は地に根を生やし、そしてその太い胴体から新たな枝を生成している。
枝が一本奴から生えるごとに周りの森の木が一本枯れはて死んでいった。
新しく生成された枝は既存の枝に比べて先端が鋭くとがっていた。
目の前の魔物はグラフォスの魔法を見て学んだのだ。
刃は鋭くとがっていたほうが相手に刺さると。
グラフォスは勘違いをしていた。
目の前の魔物はジャイアントタレントなんて生易しいものではない。
五年に一度、いや十年に一度出現するかどうかの周りの自然が持つ魔力を吸収し、すさまじい再生力と、戦いの中で知性を得て進化を繰り返すギルド指定討伐対象ユニークモンスター。
「タレントキング……!!」
こんな森の浅瀬に決して存在してはいけない魔物。こんな魔物がうじゃうじゃいたらとっくにこの街リンアは魔物の手によって滅んでいる。
どうしてこんなところにユニークモンスターが……。
グラフォスは一瞬我を忘れて思考を放棄しかけたが、目の前の化け物が作り出した5本の枝と既存の枝、計10本の枝を網のようにねじり掛け合わせ始めた行動を見て、頭を無理やり回転させる。
「『リリース』『アトラント』」
冷静に何とか背中から落ちていなかったリュックから一冊の本を取り出すと、魔法を詠唱。
その後地面に落ちていた青色の装丁をした本と、黒色の装丁をした本を手元に手繰り寄せる。
「これがあったところで、ですが……」
タレントキングの目標はグラフォスただ一人。幸いにもアカネには意識がいってないようだ。
「やらないよりはましですね。『リリース』『マルチシールド』」
グラフォスは先ほど顕出した3枚のシールドよりも多い5枚のシールドを自分の体を守るように縦に配置する。
タレントキングはそれを見て何を思ったのか大きく口をゆがめて口角をあげる。
「こっちは必死だというのに、何がそんなに面白いんですかね……」
グラフォスは両手を前に向けてなるべく強度を保てるように、目の前の魔法盾に魔力を注ぎ込み続ける。
『グガアアアアアア!』
タレントキングは自分が持ちうるすべての枝を絡ませてねじって造り上げた一本の枝、枝というには太すぎる一本の木のような太さを持ったそれをグラフォスの体向かって真正面からついてきた。
十分な速度と強度を持った一本の大木はグラフォスが造り上げた魔法盾をいとも簡単に突破していき、その速度を落とすことなく四枚の盾を破壊する。
「やっぱり、足りませんか」
これで終わりか。
この世界の知識を知ることもなく、こんな森の中でアカネまで巻き込んで自分の生涯は終わってしまうのか。
そんなどこか諦めに近い感情を抱きながら、グラフォスは冷たい視線で目の前まで迫ったタレントキングのそれが五枚目の盾を突破するのを見つめる。
そしてその直後その大きく太い枝はグラフォスの心臓を無慈悲に貫く——
「『一閃』!」
——ことはなく、グラフォスの体に到達する直前で、大きな大木にも似た枝は真っ二つに断ち切られた。
そして自分が助かったことを察知するとともに、視界に入ったのは真っすぐ光を浴びて反射する刀身を振り切る赤髪の女性の姿だった。
『グガアアアアアア!!』
しかし突然入り込んできた女性を気にする余裕はない。
真っ二つにされたことによって一塊になっていた10本の枝は分かれ、その衝撃に痛みを感じているのかタレントキングは枝が分かれるとともに無造作にその枝を振り回し始めた。
グラフォスも赤髪の女性もその猛攻を避けるので必死だった。
「あ、くそ、暴れるんじゃねえ!」
不意打ちは成功した赤髪の女性だったが、枝の数による攻撃を最初こそは何とかしのいでいたが、その細い刀身ではさばききることができず、少なからずダメージを負い始めていた。
「くっ……そがー!」
「『ストップ』! トキトが勝手に突っ走るからこういうことになるんでしょう! このおバカ!」
この緊迫した状況でどこか気が抜けるような突っ込みのような声が、森の奥から飛び込んでくる。
最早突っ込みのついでとも思える投げやりにも聞こえた詠唱と同時に、タイレントキングの枝は空中でまるで時が止まったかのように、その動きを止めていた。
「シャルが走るのが遅いのが悪いんだろう!」
「あなたはまたそうやって……! いいわ、そんなことはあと! あと3秒後に魔法の効果が切れるわ! それまでにトキトはその子を何とかして!『パワー』」
声が聞こえた方から姿を現したのは、大きな水晶のようなものが付いた杖を片手に持つ青髪の女性だった。
その女性は片手で気絶しているアカネを脇に抱えるように持ち上げると、グラフォスの方に近づいてくる。
そちらに気を取られているとグラフォスの体が持ちあげられるような一瞬の浮遊感に襲われる。そのあと鎧の堅い感触が横っ腹にあたり、鈍い痛みが走る。
「ちょっと痛いだろうが、我慢しろよ! シャルいつでもいいぜ!」
「『フライ』!」
持ち上げられると同時に、赤髪の女性と青髪の女性は同時にジャンプする。
状況が理解できずに頭が混乱しているうちに今度は体全体が浮くような浮遊感に襲われ、一気に全身に重力が襲ってくる。
思わず目を閉じたグラフォスだったが、次に目を開けたときには森を抜けだしていてすぐ下に枝の動きを再開させたタレントキングが恨めし気にこちらを見上げていた。
何が起こったのかまったくもって理解はできなかったが、なんとか危機は脱出できたみたいだ。
そして全身に風の抵抗を受けながら四人は上空を飛んでタイレントキングから、森から離れていた。
「あの、助けてくれた……でいいですよね? ありがとうございます」
「礼を言うのは後にした方がいいぜ」
「え?」
「私ね、通常詠唱の魔法がちょーっとだけ苦手なのよね」
青髪の女性は気まずそうに眉にしわを寄せながら苦笑いをグラフォスに見せる。
「というと?」
「このフライの魔法、もう切れちゃうのよね」
女性がてへっといいそうなほどはにかんだ直後、突然先ほどまでの安定した浮遊感がなくなり、一気に体が下降する。
「ちょ、ちょっと、えーーーー!?」
「坊主、舌かむんじゃねえぞ!」
青髪の女性は空中で反転するとアカネを守るように背中から落ち、そして自分を守るように片手で後頭部を抑える。
そして赤髪の女性とグラフォスも自分の顔を守るように両腕で顔を覆った。
数秒後、四人は森の外すぐそこで地面に激突して派手に砂埃をあげていた。
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