13 / 41
第1章 変わる日常
第12節 涙と焦り
しおりを挟む
「僕のことはもういいでしょう。終わりです終わり!」
グラフォスがそう言い切ると、自然と二人の視線は少女に集まる。
「私は……鈴木緋音といいます」
「スズキ……」
「アカネ……?」
あまり聞き覚えのない名前にミンネは眉を寄せながら、グラフォスは首をかしげながら彼女の名前を繰り返していた。
「もともと==の==というところで授業を受けていたんですけど、気づいたら大きなお城の中にいて……」
「ああちょっと待った。もともとどこにいたのかが聞き取れなかった。もう一回いいかい?」
ミンネがアカネの話を中断して尋ねる。聞こえなかったのはグラフォスも同じだったため、よく聞こうと耳を傾ける。
「え、はい。私==の==というところに……伝わってます?」
二人揃って頭にはてなを浮かべたような顔をしているため、アカネは話をやめて二人の反応をうかがう。
「いや、それが聞こえないんだよねえ」
「そうですね。ノイズが走ったような、いや言葉を発している限りそんな音が聞こえてくるのはありえないと思うんですが、何か魔法の効果に遮られている……とか?」
「そんな魔法聞いたことないけどね」
二人は戸惑う中、その後何回かアカネに同じ話をしてもらったが、結果はすべて一緒で確かにアカネの口は動いているのだが、特定の部分でノイズが混じったような音になってしまい、何を言っているのか聞き取ることができなかった。
「このままじゃらちが明かないね。まあこの問題は後にしようか。実害があるわけじゃなさそうだしね」
ミンネはあきらめたように前のめりになっていた身を後退させ、背もたれに深く埋もれた。
聞き取れない言葉、場所? 言語? どうしても気になったグラフォスは隣のミンネの目を盗み、今の一連の流れを本に書き込んだ。
少女はそんなグラフォスの様子に気づいていたが、特に突っ込むこともなく話を続ける。
「不思議ですね……。===だからかな」
「また聞こえなくなりましたね。やっぱり何かの条件で引っかかっているんでしょうね。その何かがなんなのかはわかりませんが」
「フォス。答えが出ないものにいつまでも悩むのは愚行だよ。答えがわかるヒントが出るまでは保留にしときな。その方がいい時もある」
「……はあい」
グラフォスが彼女そっちのけで深い思考にはまりそうになっていたところを、ミンネの一言で現実に引き戻されて、意識を再びアカネのほうに向けた。
「えっと、それで……見たことないお城の中に同級生とかといっしょにいたんです。それで……いろいろとあって……逃げようと思って……気づいたら森の中にいたんです」
きっと彼女は重要な部分をいくつも省いているのだろう。でもそれを特に問い詰めるようなことをしようとは思わなかった。話を続けるうちにアカネの体は震え始めて、顔がどんどんと強張っていった。
「それで……もうだめだと思ったんです。本当にもう死んじゃうんだと……そう思って」
何とか話を続けようとしていたアカネの言葉は突然遮られる。彼女の体をミンネが優しく抱いたのだ。
ミンネは優しくアカネの体をその細身な体で包み込むと、優しく頭をなでる。
「悪かったね、つらいことを聞いちまって。別に怖かったら話さなくてもいいんだよ」
「うう……ううう……」
アカネは体を震わせながら嗚咽をこぼす。
確かに精神の安定はミンネの魔法によって行われたため、アカネの精神状態は正常にまで回復した。しかしそれはあくまでも精神上の話だ。
ミンネの魔法で彼女が歩んできた記憶が消えるわけではない。ストレスで髪の色素が抜けてしまうほどの経験を彼女はまだ記憶としてしっかりと覚えているのだ。
「頑張ったんだね」
ミンネはそんな彼女にゆっくりと声をかけながら頭をなで続ける。彼女の涙は止まることなくむしろ勢いを増して、泣き声もどんどんおおきくなっていた。
グラフォスはそんな二人の様子を見ながら少し居心地が悪そうに前髪をいじっていた。
時間にすれば数分だろうか。目を真っ赤に泣きはらしたアカネはゆっくりとミンネの胸から顔を離し、自分の涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっているミンネの服をみてひたすらしきりに謝っているのが今の現状だ。
そんな光景をグラフォスはどこか冷めた視線で見つめていた。
もちろん彼女の心境は自分が察せられるレベルの体験をしてきたのだろうし、そこは本当にかわいそうだなと思う。
しかしグラフォスは実際にそれを見たわけではない。この目で確認したわけではないのだ。基本的に自分の目で見た物しか信じない。
そして彼女はグラフォスたちに何かを話したわけではない。彼の知識欲は満たせていないままだ。
グラフォスはアカネがどこから来たのか、どういうことがあったのかそれに興味がある。
よく言えば彼女のことをもっとよく知りたいのだ。まあグラフォスにとってはただの知識欲からくる興味ではあるのだが。
「それで、どうしてこの子に拾われたんだい? しかも森の中でさまよっていたってのに無傷だっていうじゃないか」
え、ちょっと待ってほしい。
その話題に突っ込むつもり?
グラフォスがそう言い切ると、自然と二人の視線は少女に集まる。
「私は……鈴木緋音といいます」
「スズキ……」
「アカネ……?」
あまり聞き覚えのない名前にミンネは眉を寄せながら、グラフォスは首をかしげながら彼女の名前を繰り返していた。
「もともと==の==というところで授業を受けていたんですけど、気づいたら大きなお城の中にいて……」
「ああちょっと待った。もともとどこにいたのかが聞き取れなかった。もう一回いいかい?」
ミンネがアカネの話を中断して尋ねる。聞こえなかったのはグラフォスも同じだったため、よく聞こうと耳を傾ける。
「え、はい。私==の==というところに……伝わってます?」
二人揃って頭にはてなを浮かべたような顔をしているため、アカネは話をやめて二人の反応をうかがう。
「いや、それが聞こえないんだよねえ」
「そうですね。ノイズが走ったような、いや言葉を発している限りそんな音が聞こえてくるのはありえないと思うんですが、何か魔法の効果に遮られている……とか?」
「そんな魔法聞いたことないけどね」
二人は戸惑う中、その後何回かアカネに同じ話をしてもらったが、結果はすべて一緒で確かにアカネの口は動いているのだが、特定の部分でノイズが混じったような音になってしまい、何を言っているのか聞き取ることができなかった。
「このままじゃらちが明かないね。まあこの問題は後にしようか。実害があるわけじゃなさそうだしね」
ミンネはあきらめたように前のめりになっていた身を後退させ、背もたれに深く埋もれた。
聞き取れない言葉、場所? 言語? どうしても気になったグラフォスは隣のミンネの目を盗み、今の一連の流れを本に書き込んだ。
少女はそんなグラフォスの様子に気づいていたが、特に突っ込むこともなく話を続ける。
「不思議ですね……。===だからかな」
「また聞こえなくなりましたね。やっぱり何かの条件で引っかかっているんでしょうね。その何かがなんなのかはわかりませんが」
「フォス。答えが出ないものにいつまでも悩むのは愚行だよ。答えがわかるヒントが出るまでは保留にしときな。その方がいい時もある」
「……はあい」
グラフォスが彼女そっちのけで深い思考にはまりそうになっていたところを、ミンネの一言で現実に引き戻されて、意識を再びアカネのほうに向けた。
「えっと、それで……見たことないお城の中に同級生とかといっしょにいたんです。それで……いろいろとあって……逃げようと思って……気づいたら森の中にいたんです」
きっと彼女は重要な部分をいくつも省いているのだろう。でもそれを特に問い詰めるようなことをしようとは思わなかった。話を続けるうちにアカネの体は震え始めて、顔がどんどんと強張っていった。
「それで……もうだめだと思ったんです。本当にもう死んじゃうんだと……そう思って」
何とか話を続けようとしていたアカネの言葉は突然遮られる。彼女の体をミンネが優しく抱いたのだ。
ミンネは優しくアカネの体をその細身な体で包み込むと、優しく頭をなでる。
「悪かったね、つらいことを聞いちまって。別に怖かったら話さなくてもいいんだよ」
「うう……ううう……」
アカネは体を震わせながら嗚咽をこぼす。
確かに精神の安定はミンネの魔法によって行われたため、アカネの精神状態は正常にまで回復した。しかしそれはあくまでも精神上の話だ。
ミンネの魔法で彼女が歩んできた記憶が消えるわけではない。ストレスで髪の色素が抜けてしまうほどの経験を彼女はまだ記憶としてしっかりと覚えているのだ。
「頑張ったんだね」
ミンネはそんな彼女にゆっくりと声をかけながら頭をなで続ける。彼女の涙は止まることなくむしろ勢いを増して、泣き声もどんどんおおきくなっていた。
グラフォスはそんな二人の様子を見ながら少し居心地が悪そうに前髪をいじっていた。
時間にすれば数分だろうか。目を真っ赤に泣きはらしたアカネはゆっくりとミンネの胸から顔を離し、自分の涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっているミンネの服をみてひたすらしきりに謝っているのが今の現状だ。
そんな光景をグラフォスはどこか冷めた視線で見つめていた。
もちろん彼女の心境は自分が察せられるレベルの体験をしてきたのだろうし、そこは本当にかわいそうだなと思う。
しかしグラフォスは実際にそれを見たわけではない。この目で確認したわけではないのだ。基本的に自分の目で見た物しか信じない。
そして彼女はグラフォスたちに何かを話したわけではない。彼の知識欲は満たせていないままだ。
グラフォスはアカネがどこから来たのか、どういうことがあったのかそれに興味がある。
よく言えば彼女のことをもっとよく知りたいのだ。まあグラフォスにとってはただの知識欲からくる興味ではあるのだが。
「それで、どうしてこの子に拾われたんだい? しかも森の中でさまよっていたってのに無傷だっていうじゃないか」
え、ちょっと待ってほしい。
その話題に突っ込むつもり?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる