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第28話
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「ここ。このオアシスよ」
フィリーが声を掛け、レイネが急停止する。
俺はきちんと掴まっていたが、フィリーとモグラは投げ出された。
砂から顔に突っ込んだフィリーが、起き上がって声を上げる。
「危ないわね!」
「あんまり大きな声を出さない方がいいんじゃないか?」
「何でよ!どのみち私が入ったところで不審がられないわよ!」
「それもそうか」
フィリーの後に続き、オアシスの中へと入っていく。
すぐに、入口の崩れかけた廃墟が目に留まった。
あれがアジトとして使われているようだ。
見張りが2人、入口の前に立っている。
「無駄な騒ぎは起こしたくないでしょ?最初はシンプルに通り抜けるわよ」
そう言うと、フィリーは鞭を取り出し俺とレイネの手を縛った。
彼女が捕まえて連れて来たという設定なのだろう。
案の定、見張りたちは何も疑うことなく俺たちを通してくれた。
「多分、あなたたちのお仲間が囚われてるのは地下よ。そこには見張りが3人。あとは幹部が1人いるはずだわ」
「幹部って強いんだろ?」
「強いというより厄介ね。私は出来ればヒリンとは戦いたくないわ」
ヒリン。どこかで聞いたことがあるような気がする。
でも顔は思い浮かばない。
何だ、何でヒリンという名前に覚えがあるんだ?
「ヒリンってもしかして……」
レイネが何かに気付いてポンと手を叩く。
「クイクル治療の店でネミリを担当した先生ですよね?」
――ネミリ様、それに担当されていたヒリン先生、共にいらっしゃいません。
そうだ。
確かにあの受付のエルフはヒリン先生という名前を口にしていた。
一緒に誘拐されたんじゃなく、先生も敵の1人だったのか。
「そういうことね。彼女は計画当初から街に潜入していたの。最も、誘拐に関して彼女は眠らせただけで、実際に連れ去ったのは別のメンバーだけどね。あ、ここの階段よ。降りるわ」
フィリーに続いて薄暗い階段を降りていく。
アジトの中はひっそりと静まり返っていて、薄暗さと合わさり不気味な雰囲気だ。
「いつも、こんなに静かなのか?」
「作戦決行日で人がいないからよ。……でも妙ね。さすがに静かすぎるような気もするわ」
「不気味ですね」
階段を降り切ると、分かれ道を右に進む。
ふと、フィリーが足を止めた。
「一番奥がそのネミリって召喚獣の牢屋よ」
「あーらら、フィリーじゃない」
突然響いた声に振り返ると、そこには髪の長い女性が立っていた。
そしてレイネの姿がいつの間にかない。
「ヒリン……」
「そっちは……ああ、あの召喚獣の主人ね。フィリー、あなた捕まえたのかしら?」
「そ、そうなの。だから放り込んどこうかと」
フィリーはめちゃくちゃ小さな声で俺にささやく。
「ここは話を合わせなさいよ?」
「分かってる。でも俺らを裏切ったら……」
「それも分かってるわよ。私だって馬鹿じゃないんだから。あなたたちの強さは理解してる」
「何をこそこそ話してるのかしら?」
「な、何でもない。どこに放り込んでおけばいい?」
「そうね……。とりあえず、眠ってもらおうかしら。【睡魔泡】」
俺の全身を丸く取り囲むように、透明な幕が現われる。
突いても殴っても蹴っても割れない泡。
徐々に全身の力が抜けていくような感じがする。
クイクル治療を受けている時の感覚に近い。
いや、俺だけじゃない。
フィリーもまた、泡に包まれていた。
「な、何で私まで」
「あなたの裏切り、気付いていないとでも思ったかしら?」
「くっ……」
やばい。どんどん眠くなってくる。大ピンチ。
そんな中、地下に2つの足音が響いた。
「いやーよく寝た。って、グレン何してんの?」
「ご安心ください。ご主人様、今すぐお助けします」
いつの間にか消えていたレイネ。
彼女は鍵を見つけ出し、素早くネミリを救出していたのだった。
「【睡魔泡】」
ヒリンがレイネ、ネミリの周りにも泡を出現させる。
しかし、その泡は2人の全身を包み込む直前にはじけ消えた。
「んなっ……」
「実力差があり過ぎますよ」
「治療だと思ってたらかかるかもしれないけど、攻撃としてなら食らわないよねー」
状況をひっくり返せる破滅をもたらす双子。
その体を泡に代わってオレンジのオーラが包む。
「ご主人様」
「ああ。今デバフにかかったら俺は100%寝るから、ここでの用が済んだら街に急行してくれ」
「了解しました。時短を考え、派手に戦うつもりはありませんので」
俺は【破滅への導き手】を発動する。
2人以外、全員がその場に膝をついた。
ネミリが俺を、レイネがフィリーを抱え上げる。
ガクンと膝をつき、何とか動こうともがくヒリンの横を悠然と2人が通り抜ける。
すれ違いざま、ネミリが肉球でヒリンの後頭部に触れた。
眠りを操る幹部が肉球の次元へと吸い込まれていく。
ここで俺の意識は完全に眠りへと落ちるのだった。
フィリーが声を掛け、レイネが急停止する。
俺はきちんと掴まっていたが、フィリーとモグラは投げ出された。
砂から顔に突っ込んだフィリーが、起き上がって声を上げる。
「危ないわね!」
「あんまり大きな声を出さない方がいいんじゃないか?」
「何でよ!どのみち私が入ったところで不審がられないわよ!」
「それもそうか」
フィリーの後に続き、オアシスの中へと入っていく。
すぐに、入口の崩れかけた廃墟が目に留まった。
あれがアジトとして使われているようだ。
見張りが2人、入口の前に立っている。
「無駄な騒ぎは起こしたくないでしょ?最初はシンプルに通り抜けるわよ」
そう言うと、フィリーは鞭を取り出し俺とレイネの手を縛った。
彼女が捕まえて連れて来たという設定なのだろう。
案の定、見張りたちは何も疑うことなく俺たちを通してくれた。
「多分、あなたたちのお仲間が囚われてるのは地下よ。そこには見張りが3人。あとは幹部が1人いるはずだわ」
「幹部って強いんだろ?」
「強いというより厄介ね。私は出来ればヒリンとは戦いたくないわ」
ヒリン。どこかで聞いたことがあるような気がする。
でも顔は思い浮かばない。
何だ、何でヒリンという名前に覚えがあるんだ?
「ヒリンってもしかして……」
レイネが何かに気付いてポンと手を叩く。
「クイクル治療の店でネミリを担当した先生ですよね?」
――ネミリ様、それに担当されていたヒリン先生、共にいらっしゃいません。
そうだ。
確かにあの受付のエルフはヒリン先生という名前を口にしていた。
一緒に誘拐されたんじゃなく、先生も敵の1人だったのか。
「そういうことね。彼女は計画当初から街に潜入していたの。最も、誘拐に関して彼女は眠らせただけで、実際に連れ去ったのは別のメンバーだけどね。あ、ここの階段よ。降りるわ」
フィリーに続いて薄暗い階段を降りていく。
アジトの中はひっそりと静まり返っていて、薄暗さと合わさり不気味な雰囲気だ。
「いつも、こんなに静かなのか?」
「作戦決行日で人がいないからよ。……でも妙ね。さすがに静かすぎるような気もするわ」
「不気味ですね」
階段を降り切ると、分かれ道を右に進む。
ふと、フィリーが足を止めた。
「一番奥がそのネミリって召喚獣の牢屋よ」
「あーらら、フィリーじゃない」
突然響いた声に振り返ると、そこには髪の長い女性が立っていた。
そしてレイネの姿がいつの間にかない。
「ヒリン……」
「そっちは……ああ、あの召喚獣の主人ね。フィリー、あなた捕まえたのかしら?」
「そ、そうなの。だから放り込んどこうかと」
フィリーはめちゃくちゃ小さな声で俺にささやく。
「ここは話を合わせなさいよ?」
「分かってる。でも俺らを裏切ったら……」
「それも分かってるわよ。私だって馬鹿じゃないんだから。あなたたちの強さは理解してる」
「何をこそこそ話してるのかしら?」
「な、何でもない。どこに放り込んでおけばいい?」
「そうね……。とりあえず、眠ってもらおうかしら。【睡魔泡】」
俺の全身を丸く取り囲むように、透明な幕が現われる。
突いても殴っても蹴っても割れない泡。
徐々に全身の力が抜けていくような感じがする。
クイクル治療を受けている時の感覚に近い。
いや、俺だけじゃない。
フィリーもまた、泡に包まれていた。
「な、何で私まで」
「あなたの裏切り、気付いていないとでも思ったかしら?」
「くっ……」
やばい。どんどん眠くなってくる。大ピンチ。
そんな中、地下に2つの足音が響いた。
「いやーよく寝た。って、グレン何してんの?」
「ご安心ください。ご主人様、今すぐお助けします」
いつの間にか消えていたレイネ。
彼女は鍵を見つけ出し、素早くネミリを救出していたのだった。
「【睡魔泡】」
ヒリンがレイネ、ネミリの周りにも泡を出現させる。
しかし、その泡は2人の全身を包み込む直前にはじけ消えた。
「んなっ……」
「実力差があり過ぎますよ」
「治療だと思ってたらかかるかもしれないけど、攻撃としてなら食らわないよねー」
状況をひっくり返せる破滅をもたらす双子。
その体を泡に代わってオレンジのオーラが包む。
「ご主人様」
「ああ。今デバフにかかったら俺は100%寝るから、ここでの用が済んだら街に急行してくれ」
「了解しました。時短を考え、派手に戦うつもりはありませんので」
俺は【破滅への導き手】を発動する。
2人以外、全員がその場に膝をついた。
ネミリが俺を、レイネがフィリーを抱え上げる。
ガクンと膝をつき、何とか動こうともがくヒリンの横を悠然と2人が通り抜ける。
すれ違いざま、ネミリが肉球でヒリンの後頭部に触れた。
眠りを操る幹部が肉球の次元へと吸い込まれていく。
ここで俺の意識は完全に眠りへと落ちるのだった。
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