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第26話

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 女の腕には召喚獣の主人であることを示す紋章。
 ひょっとして彼女が……

「ネズミの主人か?」

 俺が尋ねると、彼女はひどく不機嫌そうな顔をした。

「ネズミ?そんな下っ端と一緒にしないでくれるかしら?」

 下っ端ということは、上下関係がある何かしらの組織ということだ。
 そして彼女はネズミの主人よりも上位にいると。
 複数人が暗躍しているのなら、ネミリの誘拐もセグレルダで起きた爆発も、全て1つに繋がる。

「ネミリを誘拐したのもあなた方ですか?」

「あのかわいい猫ちゃんかしら?そうよ。私たちのアジトで、今も眠っていると思うわ」

「生きているんですよね?」

「さあ?」

 レイネは一瞬、女へと飛び掛かりかけたが、何とか自分でこらえたようだった。

「あー、名乗ってなかったわね。私はフィリーよ。冥途の土産に教えてあげるわ」

「それはそれは。帰り道のどっかで置き忘れてきちゃいそうな土産だな」

「あん?」

「勝てるよな?」

 俺がフィリーを見たまま呟くと、レイネもまた視線をそらさぬまま頷いた。
 あくまでも俺の勘だけど、彼女はさっきのミミクリースコーピオンよりは強い。
 だけどあれを瞬殺した俺らにとって、彼女もまた敵ではないはずだ。

「軽口叩く暇があったら、最後の負け惜しみでも考えておくことね!」

 開戦の合図となる言葉を残して、フィリーが姿を消す。
 しかしレイネは至って冷静だった。

「砂の中に潜ったようです。大丈夫です。気配は追えています」

「砂中を自在に動けるのか」

「それもかなり速いです。ひょっとしたら、彼女の召喚獣と何か関係があるかもしれません……後ろから来ます!」

 俺は左へ、レイネは右へと横に飛んでその場を離れる。
 わずかに遅れて、さっきまで俺らが立っていた場所に鞭が襲いかかった。

「へえ、避けられたのね」

 砂の中からフィリーが姿を現す。
 彼女はただの砂に向けて、勢いよく鞭を叩きつけた。

「それなら見せてあげるわ。ネズミなんかじゃない、私の召喚獣を」

 地中から現れたもう1つの大きな影。
 それはモグラだった。
 これが彼女の召喚獣だ。
 モグラなら、地中を素早く動けるのも納得がいく。
 予め、あちこちに穴を掘って通路を確保していたのかもしれない。

「さあ行け!」

 モグラが鋭い爪を振りかざし、俺へと向かってくる。
 が、俺らも防戦一方でいたいわけじゃない。

「そうずっと黙ってると思うなよ?」

 俺はそう言って、【破滅への導き手】を発動する。
 フィリーが膝をつき、彼女の召喚獣も倒れ込み、俺も座り込んだ。
 立っているのはただ1人、オレンジのオーラをまとったレイネだけ。

「な、何なの……」

 ここへ来て初めて、余裕綽々だったフィリーの声が震える。

「くっ……こんなデバフがあるなんて聞いてない……」

「それは残念でしたね。調査不足です。召喚獣は主人があってこそ。ご主人様の能力を見誤った時点で、あなたたちの負けですよ」

 レイネがフィリーに近づくたび、砂を踏みしめるサクサクという音がする。
 なおもレイネは続けた。

「もしあなたが、大人しくネミリの居場所を教えるというのなら、攻撃は止めてあげます。でも教えないなら……」

「わ、分かった!言う!言うよ!」

 フィリーが慌てて声を上げる。
 しかし、すぐにその顔は苦し気ながらもにやりと笑った。

「なーんて、言うと思ったかしら?」

 その言葉と同時にレイネの背後から鎌鼬が襲いかかる。

「こうなることも予想して撃っておい……」

「撃っておいたから何でしょう?」

 レイネは鎌鼬を右手1本で、素手で受け止めた。
 瞬く間にフィリーの顔が青ざめる。

「で、どうなさいますか?居場所、教えてくださいますか?」

 フィリーはただただ、ガクガクと頷くしかなかった。
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