俺の召喚獣たちはデバフがかかってるくらいでちょうどいい。

メルメア

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第25話

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 壁の周りを半周くらいしたところで、レイネが急に足を止めた。
 俺は勢い余って振り落とされないよう、何とかしがみつく。

「ご主人様、これを」

 レイネが右前足で指し示したのは、黒い毛が数本集まった束だった。
 拾い上げてみると、レイネの毛の感触とも酷似している。

「ネミリのものか」

「おそらく。やはりネミリは連れ出されていて、ここを通った可能性が高いです」

「方角的には北か……。確か向こうは、砂漠が広がっているはずだ」

「このまま真北へと直進してみましょう」

「そうだな」

 俺は毛をポッケに入れると、再びレイネの背中にまたがった。
 ネミリが連れ去られてから、まだ丸1日は経過していない。
 足跡などが残っていれば、それを追うこともできるのだが……

「まるで痕跡がありませんね……」

 ネミリが眠っている間に連れ出されたとしたら、そう遠くへは行っていないはずだ。
 自分で歩かない分、担ぐなり何なりして運ばないといけない。
 それに先生も連れ去られているし、足元の悪い砂漠をそう速くは進めないだろう。

 にしてもこの砂漠、砂がひどくさらさらですごく歩きづらそうだ。
 さっきから、レイネが何度も足をとられかけている。

「……っ!」

 突然、レイネが真横へと方向を変えて飛んだ。
 予想外の動きに、俺は掴まりきれず振り落とされる。
 何事かと思ったその瞬間、さっきまで俺らがいた場所に何かが突き刺さった。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。敵か?」

「モンスターのようです。砂の中に隠れているようで全体は見えませんが、先ほどの攻撃の際に一瞬だけ見えたのは、サソリのしっぽのように見えました」

「となるとミミクリースコーピオンか」

 ミミクリースコーピオンは、砂漠に生息する巨大なサソリ型のモンスターだ。
 先端の鋭く尖ったしっぽは物理的に破壊力抜群だが、それに加えて毒もある。
 体の表面は砂と同化する色の硬い殻に覆われていて、防御力も高い。
 砂の中を自由に動き回りながら、突如飛び出して攻撃してきたりする厄介なモンスターだ。
 冒険者ランクで言えばCの上位からBくらいが対象の相手。
 前だったら一目散に逃げ出していたけど、もう今の俺は違う。

「行くぞ」

「分かりました」

【破滅への導き手】を発動。
 自分にもレイネにも、そしておそらく砂の下のミミクリースコーピオンにも鎖の印が現われる。

「【筋力低下アスト】【速度低下ギルホス】【攻撃力低下メルガ】」

 さらにデバフを重ねがけしたところで、リミッター十分になったレイネは砂の中へと突っ込んでいった。
 もうこうなってしまえば、俺の役割はただ待つだけだ。

 数秒後、大量の砂と共に下から巨大な影が飛び出してきた。
 猛烈な砂ぼこりに、俺は思わず服の布で自分の顔を覆う。
 次に目を開けた時、そこには腹に大きな穴を開けられて動かなくなったミミクリースコーピオンと、砂を払っているレイネがいた。

「完了しました」

「ありがとう」

「解体……は出来ないな?」

「申し訳ありませんが、その技術は持っていません。もし強引にやろうとすると、ドロップアイテムまで壊してしまうかと」

「だよな」

 普段だったら、モンスターごとネミリに収納してもらうのだが、今回はそのネミリがいない。
 正直もったいないけど、このまま放置するしかないだろう。

「捜索を再開しましょう」

 いつの間にか、レイネはもう白虎の姿になっている。
 そして俺がその背にまたがった瞬間だった。

 背後からズドドドドドォンとすさまじい轟音が響く。
 振り返ってみれば、セグレルダから黒炎が立ち昇っていた。

「なっ!」

「ご主人様、どうしますか!?」

 ネミリの捜索か、セグレルダへ向かうか。
 方向は真反対。2つに1つだ。
 ネミリを早く見つけたい。
 でも、セグレルダも心配だ。

 俺が迷っているところへ、どこからともなく女が現われた。
 鞭を手にした細身の女。
 砂漠には似つかわしくない、真っ赤な口紅を塗った彼女が口を開く。

「ここから先には進ませないわよ」
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