8 / 31
第8話
しおりを挟む
朝。
目を覚ますと、トントントンというリズミカルな音が聞こえてきた。
枕元で丸くなっていたはずの2匹の猫はいない。
ベッドから起き上がると、徐々に美味しそうな香りが漂ってきた。
キッチンを見てみると、ネミリが慣れた手つきで野菜を刻んでいる。
その横ではレイネがせっせと洗い物をしていた。
「2人ともおはよう」
「おはよう、グレン」
「おはようございます、ご主人様」
「珍しいな。ネミリが起きてるなんて」
普段だったら、レイネや俺が揺すっても起きず、最後には命令で起こされるのに。
「何か目が覚めたんだよね。そしたらレイネも起きてて、ご飯作れって言われた」
「なるほど。何か手伝うか?」
「ご主人様は座って待っていてください。もうすぐ出来上がりますので」
「むー。作ってるのは私なんだけど?」
「悪いな。ありがとう」
お言葉に甘えて席に着く。
そういえば、ネミリの料理を実際に食べるのはこれが初めてだ。
少しして、ネミリがお盆に載せた朝食を運んできた。
パンと野菜のスープというシンプルなメニューだ。
2人もそれぞれの分を運んできて、食事の用意が整った。
「「「いただきます」」」
3人で声と手を合わせ、朝食が始まる。
どれどれ、スープを一口……
「……っ!?」
「ありゃりゃ?お口に合わなかった」
「いや……」
俺は思わずもう1つスープを飲む。
何だこれ。
「うますぎる!?」
「何でびっくりしてるのさ」
「だってこれ、特別な材料は何も使ってないだろ?俺が作るのと同じ材料で、ここまで味が違うなんて……」
「ふっふ~ん。そこが料理人の腕の見せ所だよ」
ネミリが自慢げに胸を張る。
料理が上手いとはいっても、ここまでだとは思わなかった。
お世辞抜きに、今まで食べたスープの中で一番うまい。
「すごいな。寝てばっかりじゃなかったんだな」
「失礼な。戦闘の能力だってあるんだし」
「制御不能のな」
「それはお互い様でしょ」
不毛な言い合いをしつつ、パンをスープに浸して食べる。
マジで美味しいな。
冒険者なんかより、料理屋を開いた方がよっぽど儲かるんじゃないか?
「洗い物は私にお任せください。得意分野ですので」
「ありがとう。片付けまで終わったら、少し作戦会議をするか」
「何の?」
「これからのことだよ。どうやって稼いでいくとか、どんな目標を持つとか」
「なるほど」
一口に冒険者といっても、いろいろな人がいる。
生活費を稼げればいいという人。
最強を目指す人。
ダンジョンの攻略に全てをかけている人。
かわいい受付嬢にモテたいだけの人など。
何にしても、目標を持っておくのは大切なことだ。
個人的には生活費を稼ぐのはもちろん、ダンジョンにも挑戦してみたいが、それには踏まなければならない段階がある。
一歩一歩、確実に積み重ねていかないといけない。
だからこそ、ちゃんとこれからどうするかを考えておかないといけないのだ。
というわけで、片づけをしてから作戦会議。
レイネ1人に任せるのはさすがに申し訳ないので、俺も片づけは手伝わせてもらった。
3人できれいに拭いたテーブルを囲み、話し合いを始める。
「まずこれから先、3人で協力しながら冒険者として稼いでいく。ここはオッケーだよな?」
俺の問いかけに、2人ともそろって頷いた。
いざとなれば命令で強制的に戦わせることもできるようだが、さすがにそんなことはしたくない。
ちゃんと2人の同意がないことには、俺の新たな冒険者生活は始められないのだ。
「俺たちの能力を考えるに、今の暮らしを維持するお金を稼ぐことはさほど難しくない。ただ俺としては、どうせならもっと上を目指したいと思ってる」
「具体的にはどういったことでしょうか?」
「分かりやすい目標でいえば、ダンジョンの攻略に挑戦することだな。あそこにはBランク以上の冒険者しか入れない。そこは目指してみたいと思っている」
「なるほど。明確で分かりやすい良い目標だと思います」
「ありがとう。ネミリはどうだ?」
「んー、いいと思うよ」
「よし。それじゃあひとまずの目標は、Bランク冒険者を目指すということで」
一般的な冒険者の場合、Bランクに到達するには数年かかると言われている。
最初は力のない状態からスタートし、徐々に実力をつけながらランクを上げていくからだ。
しかし今の俺は、Eランクながらすでにそれ以上の実力を手にしているはずだ。
そこまでの時間はかからないだろう。
「疑問というか確認なんだけど」
ネミリが手を挙げる。
「どうした?」
「私たちは冒険者登録してないしランクもないよね。扱いってどうなってるんだっけ?」
「召喚獣は規定上、主人の所有物として扱われる。武器やアイテムと同じ括りだから、冒険者登録も必要ない。剣に冒険者ランクも何もないだろ?」
「何ともひどい話だね」
「まあな。ただ俺は所有物とは思ってない。主人という意識もそこまでない。だから言いたいことは言ってくれ」
「じゃあ命令で起こすのはやめてほしい」
「却下」
「むー」
「ネミリ、いい加減諦めた方がいいよ」
俺とレイネの前に劣勢になり、ネミリは口をとんがらせる。
でもその顔は、どことなく楽しそうに笑っていた。
「さて、準備をして冒険に出かけるか」
そう言って俺は席を立つ。
Bランク冒険者に向けて、1日も無駄には出来ないからな。
目を覚ますと、トントントンというリズミカルな音が聞こえてきた。
枕元で丸くなっていたはずの2匹の猫はいない。
ベッドから起き上がると、徐々に美味しそうな香りが漂ってきた。
キッチンを見てみると、ネミリが慣れた手つきで野菜を刻んでいる。
その横ではレイネがせっせと洗い物をしていた。
「2人ともおはよう」
「おはよう、グレン」
「おはようございます、ご主人様」
「珍しいな。ネミリが起きてるなんて」
普段だったら、レイネや俺が揺すっても起きず、最後には命令で起こされるのに。
「何か目が覚めたんだよね。そしたらレイネも起きてて、ご飯作れって言われた」
「なるほど。何か手伝うか?」
「ご主人様は座って待っていてください。もうすぐ出来上がりますので」
「むー。作ってるのは私なんだけど?」
「悪いな。ありがとう」
お言葉に甘えて席に着く。
そういえば、ネミリの料理を実際に食べるのはこれが初めてだ。
少しして、ネミリがお盆に載せた朝食を運んできた。
パンと野菜のスープというシンプルなメニューだ。
2人もそれぞれの分を運んできて、食事の用意が整った。
「「「いただきます」」」
3人で声と手を合わせ、朝食が始まる。
どれどれ、スープを一口……
「……っ!?」
「ありゃりゃ?お口に合わなかった」
「いや……」
俺は思わずもう1つスープを飲む。
何だこれ。
「うますぎる!?」
「何でびっくりしてるのさ」
「だってこれ、特別な材料は何も使ってないだろ?俺が作るのと同じ材料で、ここまで味が違うなんて……」
「ふっふ~ん。そこが料理人の腕の見せ所だよ」
ネミリが自慢げに胸を張る。
料理が上手いとはいっても、ここまでだとは思わなかった。
お世辞抜きに、今まで食べたスープの中で一番うまい。
「すごいな。寝てばっかりじゃなかったんだな」
「失礼な。戦闘の能力だってあるんだし」
「制御不能のな」
「それはお互い様でしょ」
不毛な言い合いをしつつ、パンをスープに浸して食べる。
マジで美味しいな。
冒険者なんかより、料理屋を開いた方がよっぽど儲かるんじゃないか?
「洗い物は私にお任せください。得意分野ですので」
「ありがとう。片付けまで終わったら、少し作戦会議をするか」
「何の?」
「これからのことだよ。どうやって稼いでいくとか、どんな目標を持つとか」
「なるほど」
一口に冒険者といっても、いろいろな人がいる。
生活費を稼げればいいという人。
最強を目指す人。
ダンジョンの攻略に全てをかけている人。
かわいい受付嬢にモテたいだけの人など。
何にしても、目標を持っておくのは大切なことだ。
個人的には生活費を稼ぐのはもちろん、ダンジョンにも挑戦してみたいが、それには踏まなければならない段階がある。
一歩一歩、確実に積み重ねていかないといけない。
だからこそ、ちゃんとこれからどうするかを考えておかないといけないのだ。
というわけで、片づけをしてから作戦会議。
レイネ1人に任せるのはさすがに申し訳ないので、俺も片づけは手伝わせてもらった。
3人できれいに拭いたテーブルを囲み、話し合いを始める。
「まずこれから先、3人で協力しながら冒険者として稼いでいく。ここはオッケーだよな?」
俺の問いかけに、2人ともそろって頷いた。
いざとなれば命令で強制的に戦わせることもできるようだが、さすがにそんなことはしたくない。
ちゃんと2人の同意がないことには、俺の新たな冒険者生活は始められないのだ。
「俺たちの能力を考えるに、今の暮らしを維持するお金を稼ぐことはさほど難しくない。ただ俺としては、どうせならもっと上を目指したいと思ってる」
「具体的にはどういったことでしょうか?」
「分かりやすい目標でいえば、ダンジョンの攻略に挑戦することだな。あそこにはBランク以上の冒険者しか入れない。そこは目指してみたいと思っている」
「なるほど。明確で分かりやすい良い目標だと思います」
「ありがとう。ネミリはどうだ?」
「んー、いいと思うよ」
「よし。それじゃあひとまずの目標は、Bランク冒険者を目指すということで」
一般的な冒険者の場合、Bランクに到達するには数年かかると言われている。
最初は力のない状態からスタートし、徐々に実力をつけながらランクを上げていくからだ。
しかし今の俺は、Eランクながらすでにそれ以上の実力を手にしているはずだ。
そこまでの時間はかからないだろう。
「疑問というか確認なんだけど」
ネミリが手を挙げる。
「どうした?」
「私たちは冒険者登録してないしランクもないよね。扱いってどうなってるんだっけ?」
「召喚獣は規定上、主人の所有物として扱われる。武器やアイテムと同じ括りだから、冒険者登録も必要ない。剣に冒険者ランクも何もないだろ?」
「何ともひどい話だね」
「まあな。ただ俺は所有物とは思ってない。主人という意識もそこまでない。だから言いたいことは言ってくれ」
「じゃあ命令で起こすのはやめてほしい」
「却下」
「むー」
「ネミリ、いい加減諦めた方がいいよ」
俺とレイネの前に劣勢になり、ネミリは口をとんがらせる。
でもその顔は、どことなく楽しそうに笑っていた。
「さて、準備をして冒険に出かけるか」
そう言って俺は席を立つ。
Bランク冒険者に向けて、1日も無駄には出来ないからな。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界に来ちゃったけど、甘やかされています。
猫野 狗狼
恋愛
異世界に気がつくと転移していた主人公吉原凪。右も左もわからなかったが一つだけわかったことがある。それは女性が少ないこと!深くフードをかぶり近くにあった街に訪れた凪はあてもなくフラフラとさ迷っていたが、ふと目に付いた先にあった張り紙を見て宮廷魔術師になることを決める。
これは、女性が希少な世界に転移した凪が出会ったイケメン達に甘やかされたり成長したりする話。
お気に入り500人突破!いつも読んで下さり、ありがとうございますm(_ _)m
楽しんで頂けたら幸いです。
一週間に1〜2話のペースで投稿します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ラック極振り転生者の異世界ライフ
匿名Xさん
ファンタジー
自他ともに認める不幸体質である薄井幸助。
轢かれそうになっている女子高生を助けて死んだ彼は、神からの提案を受け、異世界ファンタジアへと転生する。
しかし、転生した場所は高レベルの魔物が徘徊する超高難度ダンジョンの最深部だった!
絶体絶命から始まる異世界転生。
頼れるのは最強のステータスでも、伝説の武器でも、高威力の魔法でもなく――運⁉
果たして、幸助は無事ダンジョンを突破できるのか?
【幸運】を頼りに、ラック極振り転生者の異世界ライフが幕を開ける!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる