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第7話
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一旦、家に帰って休んでから、俺たちは冒険者協会にやってきた。
例によって獣人2人を引き連れている俺に、冒険者たちは奇妙なものを見るかのような視線を送る。
まあ、奇妙っちゃ奇妙だよな。
クソみたいなデバフ能力ってだけで常識の枠から外れてるのに、そこへ獣人がプラスされるんだもんな。
いつもなら、さっさと協会の地下へと続く階段を降りるのだが、今日は違う。
何せモンスターのドロップアイテムを売りに来たのだから。
俺が買い取りをしてくれる窓口へ行くと、冒険者たちはざわめきだした。
みんな、俺がスライムの1体も倒せないことを知っているのだ。
「アイテムを売却に来た」
俺の言葉に、ざわめきは一層大きくなる。
建物の中にいる全員の視線が、俺らへと集中しているような気がした。
「何だか、すごく見られてますね」
「まあ、俺の無能っぷりはみんな知ってるからな」
「グレンはちっとも無能じゃないけどね」
「お前らからしたらそうだけど、普通の人は動けなくなるんだよ」
窓口のキャスティという受付嬢が、かなり戸惑いながらも口を開く。
清掃の仕事をしているおかげで、大抵の協会職員とも仲が良い。
もちろん彼女も、俺の能力を知っている。
「えっと……アイテムの売却ですよね?」
「そう。アイテムの売却」
「ちなみに何を?」
「ネミリ」
「私!?私が売却されるの!?」
「ちっげーよ!ドロップアイテムを出せってこと!」
「あー、何だ。びっくりした」
「どんな勘違いだよ」
ネミリが肉球の手から石を机に並べていく。
ゴトゴトと音を立てながら出るわ出るわの合計20個。
協会内のざわめきは最高潮に達した。
「お、おい。グレンがゴーレムのドロップアイテム持ってきたぞ」
「……何が起きてるんだ?」
「あの2人、何者なんだろう。あの2人が倒したってことか……?」
「よく見ると腕に紋章があるぞ。召喚獣じゃないか?それも高ランクの」
「やっぱあの2人が?」
「馬鹿言え。グレンのデバフ食らって戦える奴なんて、存在するわけがないだろ」
「でもじゃあどうやって……」
キャスティは素早く瞬きを繰り返しながらしばらく石たちを見つめていたが、ハッと我に返って言った。
「ええ……ゴーレムの石が1、2、3……20個ですね。こちら、割ってみないと査定できません。割るのに手数料がかかりますがよろしいですか?」
「問題ない」
「では……グランツさん!お願いします」
「お、おう。分かった」
ざわめきの中から、1人の男がつるはし片手にやってくる。
グランツは協会に常駐する解体のプロだ。
「これ全部、グレンが倒したのか?」
「直接倒したのは俺じゃないけどね。俺がデバフかけて、彼女たちが倒した」
ゴーレムにデバフをかけたとは言っていない。
デバフは味方にかけるものなのだ。
……本当は違うけど。
「な、なるほど。まあ、割らせてもらうぜ」
「よろしく」
グランツは1つ1つ、つるはしできれいに割っていく。
めちゃくちゃレアな鉱石は出なかったが悪くない。
そこそこといった感じだ。
「こちらが手数料を差し引いた買取代金になります。あと、冒険者ランクが上がると思いますので、そちらの手続きもお願いします」
「おおっ!グレンがEランクに!」
「こんな日が来るとは」
「万年Fランのグレンが」
「明日世界が終るんじゃないか?」
ところどころ失礼な声が聞こえるな。
Fランクは冒険者の最低ランク。
大抵の人は、1週間くらいでEランクに上がれる。
Fランクは超新人の証で、あってないようなランクなのだ。
数年越しではあるが、俺もやっとその一歩を踏み出せた。
別の窓口に移動し、冒険者ランク上昇の手続きをする。
書き換わることはないと思っていた冒険者カードの「F」の文字が、「E」へと書き換わった。
ぱちぱちと、誰かが手を叩く。
それが伝染し、建物内に盛大な拍手が起こった。
振り返ってみれば、みんなが祝福してくれている。
結局のところ、ここの支部の冒険者はみんないい奴なんだよな。
俺のデバフで迷惑かけた相手もたくさんいる。
それでもみんな、こうして祝福してくれたんだ。
ポイントは「ここの支部の冒険者は」というところで、他の支部の冒険者には何度も勧誘&追放されているのがこの俺だ。
「みんな、ありがとう!今日は俺のおごりで飲みに行くかー!」
「ご主人様!?」
「グレン!?そんなお金どこにあるの!?」
「悪い!金なかったわ!」
俺は潔く頭を下げる。
調子に乗り過ぎたか。
「もっと稼いでから言えバカヤロー!」
そんな声が、拍手に混じって聞こえてきた。
見てろよ。
俺の冒険者生活は、今やっと始まったばかりなんだからな。
例によって獣人2人を引き連れている俺に、冒険者たちは奇妙なものを見るかのような視線を送る。
まあ、奇妙っちゃ奇妙だよな。
クソみたいなデバフ能力ってだけで常識の枠から外れてるのに、そこへ獣人がプラスされるんだもんな。
いつもなら、さっさと協会の地下へと続く階段を降りるのだが、今日は違う。
何せモンスターのドロップアイテムを売りに来たのだから。
俺が買い取りをしてくれる窓口へ行くと、冒険者たちはざわめきだした。
みんな、俺がスライムの1体も倒せないことを知っているのだ。
「アイテムを売却に来た」
俺の言葉に、ざわめきは一層大きくなる。
建物の中にいる全員の視線が、俺らへと集中しているような気がした。
「何だか、すごく見られてますね」
「まあ、俺の無能っぷりはみんな知ってるからな」
「グレンはちっとも無能じゃないけどね」
「お前らからしたらそうだけど、普通の人は動けなくなるんだよ」
窓口のキャスティという受付嬢が、かなり戸惑いながらも口を開く。
清掃の仕事をしているおかげで、大抵の協会職員とも仲が良い。
もちろん彼女も、俺の能力を知っている。
「えっと……アイテムの売却ですよね?」
「そう。アイテムの売却」
「ちなみに何を?」
「ネミリ」
「私!?私が売却されるの!?」
「ちっげーよ!ドロップアイテムを出せってこと!」
「あー、何だ。びっくりした」
「どんな勘違いだよ」
ネミリが肉球の手から石を机に並べていく。
ゴトゴトと音を立てながら出るわ出るわの合計20個。
協会内のざわめきは最高潮に達した。
「お、おい。グレンがゴーレムのドロップアイテム持ってきたぞ」
「……何が起きてるんだ?」
「あの2人、何者なんだろう。あの2人が倒したってことか……?」
「よく見ると腕に紋章があるぞ。召喚獣じゃないか?それも高ランクの」
「やっぱあの2人が?」
「馬鹿言え。グレンのデバフ食らって戦える奴なんて、存在するわけがないだろ」
「でもじゃあどうやって……」
キャスティは素早く瞬きを繰り返しながらしばらく石たちを見つめていたが、ハッと我に返って言った。
「ええ……ゴーレムの石が1、2、3……20個ですね。こちら、割ってみないと査定できません。割るのに手数料がかかりますがよろしいですか?」
「問題ない」
「では……グランツさん!お願いします」
「お、おう。分かった」
ざわめきの中から、1人の男がつるはし片手にやってくる。
グランツは協会に常駐する解体のプロだ。
「これ全部、グレンが倒したのか?」
「直接倒したのは俺じゃないけどね。俺がデバフかけて、彼女たちが倒した」
ゴーレムにデバフをかけたとは言っていない。
デバフは味方にかけるものなのだ。
……本当は違うけど。
「な、なるほど。まあ、割らせてもらうぜ」
「よろしく」
グランツは1つ1つ、つるはしできれいに割っていく。
めちゃくちゃレアな鉱石は出なかったが悪くない。
そこそこといった感じだ。
「こちらが手数料を差し引いた買取代金になります。あと、冒険者ランクが上がると思いますので、そちらの手続きもお願いします」
「おおっ!グレンがEランクに!」
「こんな日が来るとは」
「万年Fランのグレンが」
「明日世界が終るんじゃないか?」
ところどころ失礼な声が聞こえるな。
Fランクは冒険者の最低ランク。
大抵の人は、1週間くらいでEランクに上がれる。
Fランクは超新人の証で、あってないようなランクなのだ。
数年越しではあるが、俺もやっとその一歩を踏み出せた。
別の窓口に移動し、冒険者ランク上昇の手続きをする。
書き換わることはないと思っていた冒険者カードの「F」の文字が、「E」へと書き換わった。
ぱちぱちと、誰かが手を叩く。
それが伝染し、建物内に盛大な拍手が起こった。
振り返ってみれば、みんなが祝福してくれている。
結局のところ、ここの支部の冒険者はみんないい奴なんだよな。
俺のデバフで迷惑かけた相手もたくさんいる。
それでもみんな、こうして祝福してくれたんだ。
ポイントは「ここの支部の冒険者は」というところで、他の支部の冒険者には何度も勧誘&追放されているのがこの俺だ。
「みんな、ありがとう!今日は俺のおごりで飲みに行くかー!」
「ご主人様!?」
「グレン!?そんなお金どこにあるの!?」
「悪い!金なかったわ!」
俺は潔く頭を下げる。
調子に乗り過ぎたか。
「もっと稼いでから言えバカヤロー!」
そんな声が、拍手に混じって聞こえてきた。
見てろよ。
俺の冒険者生活は、今やっと始まったばかりなんだからな。
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