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第4章 幼女、孤児院に恩返しする
幼女、忍び込む
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翌日の夜、私たちはアリーヤに教えてもらったカズマンの屋敷近くへとやってきた。
といっても、正面きって「悪事の証拠探しに来ましたー」とか言うわけにはいかない。
絶対に入れてもらえない。
ましてやリリスなんて、カズマンをぶん殴ってるから顔が割れてるどころじゃないし。
「この辺りにしようか。今なら、塀の向こうにも誰もいないよ」
人のいない場所を選んで、塀をよじ登り忍び込む。
やってることは完全に泥棒のそれだ。
まあ、孤児院のみんなためと思って見逃してもらおう。
私に続いて塀を乗り越えてきたリリスが言う。
「ところどころに灯りが動いてるね」
「多分、見張りの人だろうね」
「まあまあな人数いるよ」
「それなりに広い屋敷だし。見つからないように進んでいこ」
「見つかるわけがないって」
「まあね」
ちなみに今の私たち、スキルで気配を完全に殺して移動している。
よっぽど腕の立つ相手か、私たちがものすごく目立つことをしない限り、見つかることはない。
「あそこ、窓が開いてる」
リリスが指差す先、1階の部屋の窓が1つだけ開いている。
近づいて気配を探るが、中には誰もいないようだった。
ラッキーラッキー。ここから入ろう。
薄暗い屋敷の中だけど、それなりに夜目がきく私たちはすいすい進んでいく。
ただ問題なのは、屋敷の間取りが全く分からないことだ。
まず目指すべきはカズマンの自室なんだけど……。
「1階……ってことはないよね?」
リリスの言う通り、たいてい主人の部屋は上の階にある。
階段を上がって2階へ。
ふと、コツコツと足音が聞こえてきた。
「誰か来る……っ」
私たちは慌てて、植木鉢の影に身を隠す。
その横をメイドさんが通り抜けていった。
そして近くの部屋へと入っていく。
「あの部屋は?」
リリスがこそこそ問いかけるが、私は首を横に振った。
もし主人の部屋なら、ノックなりなんなりするはずだ。
メイドさんはただすっと入っていったので、あの部屋は違う。
足音を立てないよう慎重に進んでいくと、一際豪華な装飾がなされた扉があった。
絶対これでしょ。
100%カズマンの部屋だ。
「カズマン、いるかな」
「人の気配はあるよ。でも活発に動いてるじゃない」
「寝てるのかな?」
「座って何かしてる可能性も……隠れて」
私たちが物陰に隠れた瞬間、中から灯りを持ったカズマンが出てきた。
危ない。
一歩でも動き出した気配の察知が送れていたら、見つかってしまうところだった。
「ったく。いったい誰のおかげで……」
何やらぶつぶつ呟きながら、カズマンが廊下の向こうへと歩いていく。
部屋はもぬけのから。鍵もかかっていない。
「チャンスだね」
「うん」
リリスの言葉に頷き、私はドアをそーっと押し開けた。
カズマンがいつ戻ってくるか分からないし、急いで何かしらの証拠を見つけないと。
「リリスはその本棚とかベッドの下とかを探して。私はこの机を調べる」
「りょーかい」
盗賊たちとやり取りした文書、受け取った金や盗品、何でもいい。
証拠になるものを……
「危ねえ、鍵を忘れていた」
突然、カズマンが部屋へと戻ってきた。
リリスはベッドの下に、私は机の椅子をしまうスペースに慌てて滑り込む。
「鍵は……」
カズマンの足音が机へと近づいてくる。
どうかバレませんように……。
「あれ?机の上にあったはずが……」
目的のものが見つからないのか、カズマンは机の引き出しをガサガサと探し始めた。
距離にしてわずか数十センチ。
私はとにかく音を立てないよう、息を殺して危機が過ぎ去るのを待つ。
「あった」
やっと鍵を見つけたカズマンが、部屋をあとにする。
ガチャという音を合図に、私とリリスは同時に息を吐いた。
「危なかった……」
「ホント。ミリアのすぐそばまで来てたよね」
「でもバレてない。早く何か見つけてここを出よう」
「それが、ベッドの下にこんなものがあったよ」
リリスがほこりをかぶった紙の束を見せてくれる。
手紙だ。
宛先はカズマン。差出人の名前は書かれていない。
「えーっと?『カズマン様へ。手紙を拝見しました。お金の件ですが、もう少しだけ待ってください。必ず用意します。1週間後、例の洞窟でお渡しします。』か」
「この『例の洞窟』って、あの盗賊とカズマンがあっていた場所だよね?」
「間違いないね」
「こんな感じの手紙が何通も来てる。多分あの盗賊、何回もお金が払えなくてカズマンを待たせていたんじゃないかな」
「なるほど。『手紙を拝見しました』ってことは、カズマンからも手紙が出ているはず。それはきっとあの盗賊が持っているだろうから……」
「2つを合わせれば、完璧な証拠になるね」
「うん。これで取引現場に来たカズマンも言い逃れできないよ」
リリスから手紙を受け取り、大事な証拠として影にしまっておく。
あとは、取引当日に盗賊もカズマンも一気に逮捕するだけだ。
ラーオンからダリエスとイリナ、エリーチェが来てくれるらしい。
エリーチェに関しては、目的が盗賊逮捕なのか子供たちと遊ぶことなのか怪しいところだけど。
さて、今夜はもう脱出するだけだね。
といっても、正面きって「悪事の証拠探しに来ましたー」とか言うわけにはいかない。
絶対に入れてもらえない。
ましてやリリスなんて、カズマンをぶん殴ってるから顔が割れてるどころじゃないし。
「この辺りにしようか。今なら、塀の向こうにも誰もいないよ」
人のいない場所を選んで、塀をよじ登り忍び込む。
やってることは完全に泥棒のそれだ。
まあ、孤児院のみんなためと思って見逃してもらおう。
私に続いて塀を乗り越えてきたリリスが言う。
「ところどころに灯りが動いてるね」
「多分、見張りの人だろうね」
「まあまあな人数いるよ」
「それなりに広い屋敷だし。見つからないように進んでいこ」
「見つかるわけがないって」
「まあね」
ちなみに今の私たち、スキルで気配を完全に殺して移動している。
よっぽど腕の立つ相手か、私たちがものすごく目立つことをしない限り、見つかることはない。
「あそこ、窓が開いてる」
リリスが指差す先、1階の部屋の窓が1つだけ開いている。
近づいて気配を探るが、中には誰もいないようだった。
ラッキーラッキー。ここから入ろう。
薄暗い屋敷の中だけど、それなりに夜目がきく私たちはすいすい進んでいく。
ただ問題なのは、屋敷の間取りが全く分からないことだ。
まず目指すべきはカズマンの自室なんだけど……。
「1階……ってことはないよね?」
リリスの言う通り、たいてい主人の部屋は上の階にある。
階段を上がって2階へ。
ふと、コツコツと足音が聞こえてきた。
「誰か来る……っ」
私たちは慌てて、植木鉢の影に身を隠す。
その横をメイドさんが通り抜けていった。
そして近くの部屋へと入っていく。
「あの部屋は?」
リリスがこそこそ問いかけるが、私は首を横に振った。
もし主人の部屋なら、ノックなりなんなりするはずだ。
メイドさんはただすっと入っていったので、あの部屋は違う。
足音を立てないよう慎重に進んでいくと、一際豪華な装飾がなされた扉があった。
絶対これでしょ。
100%カズマンの部屋だ。
「カズマン、いるかな」
「人の気配はあるよ。でも活発に動いてるじゃない」
「寝てるのかな?」
「座って何かしてる可能性も……隠れて」
私たちが物陰に隠れた瞬間、中から灯りを持ったカズマンが出てきた。
危ない。
一歩でも動き出した気配の察知が送れていたら、見つかってしまうところだった。
「ったく。いったい誰のおかげで……」
何やらぶつぶつ呟きながら、カズマンが廊下の向こうへと歩いていく。
部屋はもぬけのから。鍵もかかっていない。
「チャンスだね」
「うん」
リリスの言葉に頷き、私はドアをそーっと押し開けた。
カズマンがいつ戻ってくるか分からないし、急いで何かしらの証拠を見つけないと。
「リリスはその本棚とかベッドの下とかを探して。私はこの机を調べる」
「りょーかい」
盗賊たちとやり取りした文書、受け取った金や盗品、何でもいい。
証拠になるものを……
「危ねえ、鍵を忘れていた」
突然、カズマンが部屋へと戻ってきた。
リリスはベッドの下に、私は机の椅子をしまうスペースに慌てて滑り込む。
「鍵は……」
カズマンの足音が机へと近づいてくる。
どうかバレませんように……。
「あれ?机の上にあったはずが……」
目的のものが見つからないのか、カズマンは机の引き出しをガサガサと探し始めた。
距離にしてわずか数十センチ。
私はとにかく音を立てないよう、息を殺して危機が過ぎ去るのを待つ。
「あった」
やっと鍵を見つけたカズマンが、部屋をあとにする。
ガチャという音を合図に、私とリリスは同時に息を吐いた。
「危なかった……」
「ホント。ミリアのすぐそばまで来てたよね」
「でもバレてない。早く何か見つけてここを出よう」
「それが、ベッドの下にこんなものがあったよ」
リリスがほこりをかぶった紙の束を見せてくれる。
手紙だ。
宛先はカズマン。差出人の名前は書かれていない。
「えーっと?『カズマン様へ。手紙を拝見しました。お金の件ですが、もう少しだけ待ってください。必ず用意します。1週間後、例の洞窟でお渡しします。』か」
「この『例の洞窟』って、あの盗賊とカズマンがあっていた場所だよね?」
「間違いないね」
「こんな感じの手紙が何通も来てる。多分あの盗賊、何回もお金が払えなくてカズマンを待たせていたんじゃないかな」
「なるほど。『手紙を拝見しました』ってことは、カズマンからも手紙が出ているはず。それはきっとあの盗賊が持っているだろうから……」
「2つを合わせれば、完璧な証拠になるね」
「うん。これで取引現場に来たカズマンも言い逃れできないよ」
リリスから手紙を受け取り、大事な証拠として影にしまっておく。
あとは、取引当日に盗賊もカズマンも一気に逮捕するだけだ。
ラーオンからダリエスとイリナ、エリーチェが来てくれるらしい。
エリーチェに関しては、目的が盗賊逮捕なのか子供たちと遊ぶことなのか怪しいところだけど。
さて、今夜はもう脱出するだけだね。
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