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第4章 幼女、孤児院に恩返しする

幼女、尾行する

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「だってだって!みんなで作ってた泥団子を踏みつぶされたんだもん!」

 ぷくぅと頬を膨らませるリリス。
 本物の5歳児みたいだ。

「それにやめてよって言った女の子を蹴っ飛ばそうとしたんだよ!?そりゃ、ボコォンと一発……」

「まあまあ。気持ちは分かるけども」

 私はリリスに、今の孤児院の現状とカズマンについて説明した。

「あー、ひょっとして手を出したのはまずかった?」

「正直に言うと、せいせいした部分はあるわよ」

 アリーヤが優しくフォローする。

「でもまずい状況なのは変わらないわ」

「そこでリリス、私たちでカズマンの不正を暴こうと思うんだけど、どうだろう?」

「もちろん賛成だよ」

 よし、決まりだ。
 まずはカズマンを尾行するのがいいかもね。
 まだ、そんなに遠くへは行っていないはずだ。

「行くよ、リリス」

「オッケー」

「アリーヤ、ニル。任せといてね。私たちが必ずこの孤児院を救うから」

 私の言葉に、2人は黙って頷いた。
 リリスと一緒に孤児院を出て、馬車の轍が続く方へと駆けていく。

「はぁ……はぁ……この体だと疲れるね」

「2000年前はもっと速かったよね、私もリリスも」

「そうだよねー。あのリスターニャとの戦いは自分史上最高バトルかな」

「それが今では共闘だって」

「不思議なもんだよねー」

 しばらく走っていると、止まっている馬車が見えてきた。
 私たちは岩陰に身を隠し、馬車の様子をうかがう。

「カズマンはいないかな?」

「1人分の気配しか感じないね。多分、御者でしょ」

「なら私が様子を見てくるよ」

 リリスが陰から出て、そーっと馬車に近づく。
 それから大きく丸の合図を出した。
 私も馬車に近づいていく。

「カズマンはいないよ。御者は寝てる」

「なるほど。あ、足跡がある」

「2人分の足跡……カズマンと横にいたお付きの人かな」

「辿ってみよう」

 2つの足跡はぽっかりと口を開けた洞窟へと続いている。
 入口に立ってみると、中から人の声がした。

「さっき聞いたカズマンの声に似てる」

「じゃあ、彼はやっぱりこの中だね」

 足音を殺して静かに洞窟の中へ。
 ところどころに木材やロープ、布が散らばっている。
 高い頻度で何かに使われている洞窟のようだ。
 ひょっとしたら、誰かが住んでいるのかもしれない。
 まあ、カズマンではないと思うけど。

「何度言ったら分かるんだ!」

 突然聞こえてきた怒声に、私たちは慌てて身を隠す。

「これがカズマンの声?」

「うん。さっき孤児院で聞いたのと同じだよ。相手は誰なんだろ」

「お前たちが今あるのは俺のおかげだろう!」

 カズマンの声が響く。
 答えたのは、委縮したような男の声だった。

「でもカズマンさん……」

「でもじゃない!きっちり金を納めろ。納められないなら、今すぐ牢屋にぶち込んでやる!」

「ま、待ってくれよ。3日後、3日後に必ず払う。だからもう少しだけ待ってくれ」

「ふん。3日後だぞ。その時に払えなかったら、お前の一味丸ごと、盗賊どもは全員牢屋行きだからな!」

「す、すまねえ。必ず払うよ」

 なるほどねぇ。
 カズマンの不正が1つ分かった。
 盗賊を見逃す代わりに、金を受け取っているんだ。
 本来は盗賊に対抗するべき貴族として、全くあるまじき行為。
 そんな手段で儲けているくせに、孤児院への支援は打ち切るとかどんな悪党だよ。

「帰るぞ。いいか、3日後だからな」

 もう一度、盗賊たちにくぎを刺して、カズマンは去っていった。
 私たちが会話を聞いていたことはバレていない。
 セーフセーフ。

「どうする?」

 リリスが耳元で囁きかけてくる。

「盗賊、捕まえる?」

「いや、このまま泳がせておこう。3日後、彼らから金を受け取りに来たところで、カズマンもろとも逮捕ってことで。ダリエスに連絡しておこうか」

「オッケー。それまでは何を?」

「カズマンが言い逃れできないように、より確かな証拠を集めないとね。屋敷に忍び込むよ」

「おー」

 かなり高リスクなことを言ってるんだけど、リリスの目が輝いた。
 何だかんだ言って、状況を楽しみ始めたな?

「あくまでも、孤児院を救うのが最優先事項だからね?」

 私は私でリリスに釘を刺し、洞窟をあとにするのだった。
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