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第4章 幼女、孤児院に恩返しする

幼女、竜と交渉する

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「確かに竜の言葉が地上から聞こえたが……ふむ。人間の娘が3人か」

 竜が口を開く。
 その体の大きさに合った、低いながらもよく響く大きな声だ。
 それにしても良かった。人間の言葉がちゃんと伝わる竜で。

 竜族は、純粋な戦闘力で言えば最強の種族だ。
 エルフ族に次いで長命でもある。
 ただ、最も長く生きた竜の寿命が1000年くらいと聞いているので、私の知る竜がこの時代に生きていることはないだろうけど。
 事実、目の前の竜も全く知らない初対面の相手だ。

「我を呼んだのは誰だ?」

「私だよ。名前はミリア」

「ほお……。竜の言葉を話せる人間はもういないと思っていたが、こんな子供が我を呼ぶとは面白い。何の用だ」

天地竜会議バルカレイソスが開かれるみたいだね」

「……娘、何者だ?竜の言葉を話せる上に、天地竜会議バルカレイソスのことまで知っているとは。ただの幼女ではあるまい」

 竜族は、天空に生きる天竜と地中に生きる地竜に分けられる。
 天竜には天竜の、地竜には地竜の長がいるが、それとは別に竜族全体の長がいるのだが、全体の長が亡くなった時に開かれるのが天地竜会議バルカレイソスだ。
 数多くの竜がグラマエド山という高い山に集まり、新たな長が選ばれる。
 グラマエド山はハレイド村の真北にある。
 そこへ向けて多くの地竜が村の下を移動していたことで、何度も地震が起きていたのだ。

「それにしても人間は小さく話しづらいな。我が合わせてやろう。【竜人変化《ガンバルキリ》】」

 竜の巨大な体が瞬く間に小さくなり、竜人へと変化する。
 見た目では20代の青年といった感じだ。
 例によって、両耳にキラキラと光る耳飾りがついている。

「そういえば名乗っていなかったな。我はグレア・リオルだ」

「リオル……っていうと、アインガ・リオルと関係あったりする?」

「いかにも。アインガは我の祖先だ。して、そなたは何者だ?」

 おお、アインガの子孫だったか。
 彼もきれいな緑色の鱗を持っていたっけ。

 アインガはリスターニャが生きていた時代の地竜の長だ。
 私と彼は非常に仲が良く、彼の誘いで天地竜会議バルカレイソスを観覧したこともある。

「リスターニャって知ってる?」

「はるか昔の人間の賢者か。アインガと交流があったというのは聞いているが」

「私、その生まれ変わり」

「……まことか?」

「まことだよ」

 グレアはしばらく考え込んでから、おもむろに口を開いた。

「リスターニャは帝撃翼爪ガングルギアを操る人間だったと聞く。そなたが生まれ変わりだというのなら、それを見せてほしい」

「使えるって言っても一部だけどね。【竜人変化《ガンバルキリ》】」

 私が竜人に変化すると、グレアは驚いて目を見開いた。
 そして角や爪、翼を念入りに観察する。

「紛れもなく【竜人変化《ガンバルキリ》】だ。人が生まれ変わるなど信じがたいが、まことのようだな」

「信じてもらえて何より。それで呼び出した理由なんだけどさ」

「聞こう」

「あなたたち竜族の通り道に、農村があるんだよ。もしかしたら、前回の天地竜会議バルカレイソスの時はなかった村かもしれないけど」

 グレアは北の方角へと目を凝らす。
 竜族の視力は異次元で、ここからでも村が見えているはずだ。

「確かに村があるな。美しい農村だ」

「あなたたちがそこの真下を通るたびに、結構大きな地震が起きてるんだよね」

「なるほど。それは申し訳ないことであったな。これ以降やってくる竜には、我が新たな道を指示し、村に被害が出ることのないようにしよう」

「ありがとう。助かるよ」

「問題ない。用はそれだけか?」

「うん。じゃあ任せた」

 無事に交渉成立。
 これでハレイド村に地震が頻発することもなくなるはずだ。
 初依頼も無事に解決だね。

「そうだ。そなたがリスターニャの生まれ変わりだというのなら、これを渡しておこう」

 グレアは懐から包みを取り出し、私の手に載せた。
 小さな包みだが、ずっしりと重い。

「んーと、お金……?」

「そうだ。人間の貨幣だな」

「結構な額だね」

「アインガがそなたの葬式に参列した際、人間族の金を欲しがってもらったらしい。代々伝わってきたのだが、我には不要だからな」

 おそらく当時は眩い輝きを放っていたのだろうが、年数の経過ですっかりくすんでいる。
 腐食していないのは保管状態が良かったからだと思うけど、確かに輝きを失ったものは竜族にとって価値がないかも。

 ただ私にとってはめちゃくちゃ価値がある。
 正直、これだけあれば孤児院への贈り物が買えるな。お釣りが来るかもしれない。

「受け取っておくよ」

「そうしてくれ。リスターニャは天地竜会議バルカレイソスに出席した数少ない人間の1人と聞く。実際に開催されるのはもう少し先なのだが、時間があるのなら来てくれ。我が歓迎し、身元を保証しよう」

「ありがと。エルフも連れて行っていい?」

「構わぬぞ。ふむ……よく見れば、もう1人の幼女はエルフであるな。やや雰囲気は異質だが」

 なかなかいい感覚をしている。
 ダークエルフからエルフに戻ったリリスには、やはりどこか普通のエルフと異なる部分を感じるのだろう。

「では、我はこれで失礼する。通り道のことは任せてくれ」

「はーい。ありがとね」

 グレアは巨竜へと姿を戻し、地中へと帰っていった。
 私はリリスとヘミリナに結果を報告する。
 リスターニャうんぬんの会話は聞こえていなかったみたいだから、特に言わなかったけれど。

「では、地震が頻発する心配はもうないのですね?」

「そのはずだよ。はい、これ」

 私は包みの中から金貨を2枚取り出してヘミリナに渡す。

「壊れた建物とかの修繕に使って。竜からもらったものだから、気にせず使っていいよ」

「本当ですか!?ありがとうございます。とても助かります」

 多分、大元はといえば私のものなんだろうけど。
 ヘミリナに渡してもまだ必要な分のお金はあるから、全く問題ないんだけどね。

「さてと、荷物もあるし1回村に戻ろうか」

「あーあ、私の出番はほとんどなかったなー」

「まあまあ。楽に済んで良かったじゃん」

「本当にお2人には感謝しています。村までご案内しますね」

 私たちはヘミリナの後について、ハレイド村への帰り道を歩き始めた。
 平原に道なんてないんだけどね。
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