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第3章 幼女、王都へ行く
《2000年前》ルーガティウス、大賢者に感謝し挑戦する
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――2000年前、リスターニャの葬式後、リスターニャの家。
私――ルーガティウス・エインツは、リスターニャ様の助手であるユーゲル、ニノと共に机を囲んでいた。
そこへ、メリュンも入ってきて席に着く。
「みなさん帰られたよ」
開口一番、メリュンは葬儀の参列者がみな帰ったことを伝えた。
「いい葬式だったねぇ」
お茶を一口飲み、ニノが呟く。
リスターニャ様の生前の希望により、出席者数の少ないささやかな式ではあったが、国王陛下をはじめエルフ族、獣人族、竜族と各族の長が参列し別れを告げた。
式後の晩餐ではみんなでリスターニャ様との思い出を語り合い、とても素敵な時間を過ごすことが出来た。
ニノの言う通り、本当にいい式ができたな。
「まだ終わってないだろう。俺たちには仕事が残っている」
ユーゲルの言葉に、少し緩んでいたみんなの顔が引き締まる。
残された私たちには、やらなければならないことがたくさんある。
そしてこの4人もそう長くはない。手際よく事をこなす必要がある。
「リスターニャ様の部屋へ移動しよう」
ユーゲルが席を立ち、私たちもその後に続く。
リスターニャ様が亡くなられた今、私たちが真っ先にこなすべき仕事が始まるのだ。
これから私たちは、リスターニャ様の遺体に対してあるスキルを発動する。
この世で私たちしか知らないスキル【転生】。
騎士養成学院で出会って以来、私たちはリスターニャ様にはたくさんのことを教えてもらった。
リスターニャ様は憧れであると同時に、どうあがいても越えられない壁でもある。
すでに亡くなった者も含め7人の助手たちは、何か一つでもリスターニャ様を上回れないものかと、懸命に研究を続けてきた。
そんなあがきが生み出したのが【転生】だ。
死ぬ間際、リスターニャ様は言っていた。
「まだ道半ばの研究がいくつかある。行ってみたい場所もある。戦ったことのないモンスターもいる。そういえば今年はワインが最高の出来だって聞いてたのに、結局飲むことが出来なかったねぇ。ああ、下着の整理もし忘れていた」
「人生って短いねぇ。もう少し生きたかったかな。なかなかにこの人生は楽しかったけども」
その願いを助手の私たちが叶えてみせるのだ。
成功すれば、リスターニャ様は2周目の人生を歩むことが出来る。
それが何年後、何十年後、何百年後になるかは分からない。
ひょっとしたら1000年、2000年後かもしれない。
そもそもこのスキルはまだ不完全で、100%成功する保証もない。
それでも成功したら、生まれ変わったリスターニャ様が前世の記憶を取り戻したら、そしてこれが私たちからの恩返しであると知ったなら。
きっとリスターニャ様は、少し驚いてから笑って言ってくれるはずだ。
「やるじゃん。偉い偉い」と。
【転生】の発動には特殊なアイテムが必要で、それを複数作ることは不可能に近い。
だから私たちがその言葉を直接聞くことはないだろうけど、リスターニャ様はそう言うと確信している。
「さてと」
リスターニャ様の部屋に入り、ユーゲルが棺の蓋を開ける。
きれいな花に囲まれたリスターニャ様は、安らかな表情で目を閉じていた
「成功しますように」
願いを込めて、メリュンが赤い宝石をその胸の上に置く。
これが【転生】に必要なアイテムだ。
「しっかり集中して。リスターニャ様の驚いた顔を想像しながらいこう」
ニノの言葉に頷き、私たちは棺を囲んで目を閉じた。
リスターニャ様、百数十年の間あなたの助手を頑張ってきた私たちから、最後の感謝と挑戦状です。
あなたが亡くなってから私たちが【転生】を発動するまでのことは、私が手記にまとめて騎士養成学院のどこかに隠します。
そしてヒントを載せた4人の手記は、王都へばらばらに隠します。
あなた様なら、裏裏意味などというくだらない私たちとのやり取りも残さず覚えてくださっているはず。
どうか謎を解き、驚いて、笑ってください。
「はぁ……ふぅ……」
呼吸を整え、4人全員で声を合わせる。
「「「「【転生】!!!!」」」」
胸の上に置かれた赤い宝石が強い光を発し、思わず私たちは目をつむる。
そして次に目を開けた時、棺の中には花だけが残されていた。
「……成功したのかしら?」
「遺体は消えている。俺たちの理論で言えば成功だろう」
「上手くいっていますように……」
「まあ、あとの答え合わせは何年後かのリスターニャ様に任せよう」
私はパンパンっと手を叩いて全員の注目を集める。
「さあさあ、やることはまだまだ残っているぞ。手記を仕上げて隠さないといけないし、遺品の整理もしないとな。武器庫など重要で危険な場所は、しっかりと保護しておかないと」
この言葉に、それぞれが自分の仕事をこなそうと部屋をあとにした。
私が最後に部屋を出て、静かに鍵をかける。
「ありがとうございました」
扉の向こうへ頭を下げ、私も自分の仕事へと向かった。
私――ルーガティウス・エインツは、リスターニャ様の助手であるユーゲル、ニノと共に机を囲んでいた。
そこへ、メリュンも入ってきて席に着く。
「みなさん帰られたよ」
開口一番、メリュンは葬儀の参列者がみな帰ったことを伝えた。
「いい葬式だったねぇ」
お茶を一口飲み、ニノが呟く。
リスターニャ様の生前の希望により、出席者数の少ないささやかな式ではあったが、国王陛下をはじめエルフ族、獣人族、竜族と各族の長が参列し別れを告げた。
式後の晩餐ではみんなでリスターニャ様との思い出を語り合い、とても素敵な時間を過ごすことが出来た。
ニノの言う通り、本当にいい式ができたな。
「まだ終わってないだろう。俺たちには仕事が残っている」
ユーゲルの言葉に、少し緩んでいたみんなの顔が引き締まる。
残された私たちには、やらなければならないことがたくさんある。
そしてこの4人もそう長くはない。手際よく事をこなす必要がある。
「リスターニャ様の部屋へ移動しよう」
ユーゲルが席を立ち、私たちもその後に続く。
リスターニャ様が亡くなられた今、私たちが真っ先にこなすべき仕事が始まるのだ。
これから私たちは、リスターニャ様の遺体に対してあるスキルを発動する。
この世で私たちしか知らないスキル【転生】。
騎士養成学院で出会って以来、私たちはリスターニャ様にはたくさんのことを教えてもらった。
リスターニャ様は憧れであると同時に、どうあがいても越えられない壁でもある。
すでに亡くなった者も含め7人の助手たちは、何か一つでもリスターニャ様を上回れないものかと、懸命に研究を続けてきた。
そんなあがきが生み出したのが【転生】だ。
死ぬ間際、リスターニャ様は言っていた。
「まだ道半ばの研究がいくつかある。行ってみたい場所もある。戦ったことのないモンスターもいる。そういえば今年はワインが最高の出来だって聞いてたのに、結局飲むことが出来なかったねぇ。ああ、下着の整理もし忘れていた」
「人生って短いねぇ。もう少し生きたかったかな。なかなかにこの人生は楽しかったけども」
その願いを助手の私たちが叶えてみせるのだ。
成功すれば、リスターニャ様は2周目の人生を歩むことが出来る。
それが何年後、何十年後、何百年後になるかは分からない。
ひょっとしたら1000年、2000年後かもしれない。
そもそもこのスキルはまだ不完全で、100%成功する保証もない。
それでも成功したら、生まれ変わったリスターニャ様が前世の記憶を取り戻したら、そしてこれが私たちからの恩返しであると知ったなら。
きっとリスターニャ様は、少し驚いてから笑って言ってくれるはずだ。
「やるじゃん。偉い偉い」と。
【転生】の発動には特殊なアイテムが必要で、それを複数作ることは不可能に近い。
だから私たちがその言葉を直接聞くことはないだろうけど、リスターニャ様はそう言うと確信している。
「さてと」
リスターニャ様の部屋に入り、ユーゲルが棺の蓋を開ける。
きれいな花に囲まれたリスターニャ様は、安らかな表情で目を閉じていた
「成功しますように」
願いを込めて、メリュンが赤い宝石をその胸の上に置く。
これが【転生】に必要なアイテムだ。
「しっかり集中して。リスターニャ様の驚いた顔を想像しながらいこう」
ニノの言葉に頷き、私たちは棺を囲んで目を閉じた。
リスターニャ様、百数十年の間あなたの助手を頑張ってきた私たちから、最後の感謝と挑戦状です。
あなたが亡くなってから私たちが【転生】を発動するまでのことは、私が手記にまとめて騎士養成学院のどこかに隠します。
そしてヒントを載せた4人の手記は、王都へばらばらに隠します。
あなた様なら、裏裏意味などというくだらない私たちとのやり取りも残さず覚えてくださっているはず。
どうか謎を解き、驚いて、笑ってください。
「はぁ……ふぅ……」
呼吸を整え、4人全員で声を合わせる。
「「「「【転生】!!!!」」」」
胸の上に置かれた赤い宝石が強い光を発し、思わず私たちは目をつむる。
そして次に目を開けた時、棺の中には花だけが残されていた。
「……成功したのかしら?」
「遺体は消えている。俺たちの理論で言えば成功だろう」
「上手くいっていますように……」
「まあ、あとの答え合わせは何年後かのリスターニャ様に任せよう」
私はパンパンっと手を叩いて全員の注目を集める。
「さあさあ、やることはまだまだ残っているぞ。手記を仕上げて隠さないといけないし、遺品の整理もしないとな。武器庫など重要で危険な場所は、しっかりと保護しておかないと」
この言葉に、それぞれが自分の仕事をこなそうと部屋をあとにした。
私が最後に部屋を出て、静かに鍵をかける。
「ありがとうございました」
扉の向こうへ頭を下げ、私も自分の仕事へと向かった。
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