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第3章 幼女、王都へ行く

幼女、箱を開ける

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 どさりという音のした方を見ると、イリナとルーガティウスの人形が倒れ込んでいた。
 ルーガティウスの人形は右肩、首、背、腹に焦げた深い傷を受け、行動不能になっている。
 対するイリナの方は、右足に傷があるものの致命傷ではなく、疲労で倒れているようだった。

「【硬鋭爪閃ガウギク】!」

 私の方も、ニノの背後に回り込み鋭い爪で斬り裂く。
 メリュンはすでに倒しているため、残るはユーゲルだけ。
 リリスの方も、ダノン、アビラスを倒し残るはバゼンだけだ。

「……」

 短剣を持ったユーゲルが3人に分裂する。
 1人は本物、あとの2体は実体を持たない虚像だ。
 正面と左右から攻撃を仕掛けてくる3人のユーゲル。
 防御するべきは……

「甘い甘い」

 私は右から襲ってきた短剣を、硬い爪でがっちりと掴んだ。
 正面と左の短剣は、すーっと私の首をすり抜けていく。
 2人の幻影が消え、本体の人形だけが残った。

「さてと、そろそろ懐かしんで遊ぶのも終わりにしようか」

 強引に短剣を引き抜いたユーゲルに、私は優しく笑いかける。

「【竜衝爆裂ガルホーン】」

 私の両手、3本の指の間に黄色の光が灯る。
 何が起きるのか察知したユーゲルは、素早く距離を取ってまたしても分身した。
 それでもごまかせない。逃げられない。

「バレバレだってば」

 私は翼を広げて強く地面を蹴ると、低空飛行で本物のユーゲルへと飛びついた。
 彼の両肩に、竜の爪がぐいぐいと食い込む。

「はい、どーん!」

 黄色の光へ圧力を加えると、激しい閃光と共に強烈な衝撃波がユーゲルを襲った。
 私自身も反動で吹き飛ばされながら、それでも受け身を取ってダメージを最小限にとどめる。
 ふぅ。久しぶりだと感覚が分からなくなってて、手にダメージが結構来たな。
 といっても、ジンジンと痛む程度ではっきりとした外傷はないけど。
 さすがは竜の体だ。

「あぁ!限界!」

竜人変化ガンバルキリ】を解除して幼女体に戻る。
 竜人でいるだけで、なかなか体力を使うんだよね。

 ユーゲル人形はといえば、完全にぶっ壊れて修復不可能になっている。
 と同時に、バゼンの方も木っ端みじんに砕け散った。

「やったね!」

「さっすがー!」

 リリスとハイタッチで健闘をたたえ合う。
 ぶっ倒れているイリナを2人がかりで抱え上げると、壊れた7体の人形たちから再び光が発生した。

「ま、まさか復活!?」

「いや、そんな仕掛けがあるはずは……」

 慌てる私たちをよそに、光は部屋の中央へと集まって一つになる。
 ひときわ強い光を放ったあと、そこには豪華な装飾がされた箱が残った。

「何だろ?」

 リリスが近づいて開けようとするが、どれだけ力を込めても開かないようだ。

「開かないー!」

「リリス……私が……潰れる……」

「あ、ごめんごめん!」

 リリスがさっさと箱へ駆け寄ってしまったせいで、イリナの全体重が私にのしかかってきた。
 竜人から戻った直後の疲れた体で支えるのはなかなか苦しい。
 イリナが重いとか言ってるわけじゃないよ?今の私が非力なだけで。

 改めて2人で抱え直し、箱へと近づく。
 イリナを優しく床へと寝かせ、力いっぱい箱の蓋を引き上げた。
 しかし箱はずいぶんあっさりと開き、私は反動で前へつんのめる。

「めっちゃ軽っ!」

「え?ミリア、急に怪力になった?」

「いや、例によって私じゃないと開けられない仕掛けじゃないかな」

 さてさて、かわいい助手たち。
 もう謎解きだの戦闘だのはいらないからね?
 さっさと種明かしを始めなさい。

 箱の中にあったのは古びた一冊の手記。
 表紙には「親愛なるリスターニャ様へ」という題と、ルーガティウス、ユーゲル、メリュン、ニノの名前が記されている。
 リリスが横から見守るなか、私はおもむろに1ページ目を開いた。
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