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第33話 装置とバターと初耳

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「ケント、いまからけんきゅうじょにきて」

 本格的に牧場を動かし始めてからある程度たち、それなりに仕事にも慣れてきた頃。
 日課となった朝の仕事を終えると、リルがそう言った。

「何かの研究の手伝いか?」
「ううん。たのまれてたもの、できた」
「頼まれてたもの……バターを作る機械か?」
「そう」
「思ったより早かったな。助かるよ」

 そんなわけで、仕事終わりのままリルの研究所にお邪魔する。
 相変わらず雑然とした机の上に、何やら見慣れない装置が置かれている。
 レバーのようなものがついた台の上に、円筒形の容器が横倒しでセットされているみたいだ。

「これがバターを作る装置なのか?」
「そう。ここにぎゅうにゅうをいれて」

 リルが円筒形の容器をパカっと開いた。
 俺は言われるがままに、新鮮な牛乳を容器の中に注ぐ。
 8分目くらいまで入れたところで、リルのストップがかかった。

「あとはふたをしめて……スイッチオン」

 何やらリルがレバーを操作すると、装置が動き始め容器が小刻みに振動する。
 そして徐々に徐々にエンジンがかかってきたのか、振動が大きくなっていった。
 左右の振動はもちろん、台と水平にくるくる回転もしている。
 動き自体はかなり激しめだけど、動作音はとても静かだ。

「これ、何を動力源にして動いてるんだ?」
「さあ」

 俺が尋ねると、リルは両手を広げて肩をすくめた。

「おい、製作者だろ」
「これ、エリサがのこしたそうち、バターつくるためにかいりょうした。だからどうりょくげん、いまいちわからない」
「なんだ、すごいのエリサか」
「むむっ!」
「冗談だよ、冗談。問題は、これでちゃんとバターができるかだな」
「5ふんくらいで、バターができあがる。5ふんたったものが、こちらになります」

 リルは机の下から、バターが載った皿を取り出した。
 うんうん、キュー●ー3分クッキングか。

「すごいな。ちゃんとできてる」
「ふふーん。わたしにかかれば、これくらいたいしたことない」

 皿の上には、完璧なまでにバターなバターが載っている。
 少しすくって食べてみると……うん、美味しいな。
 用途によっては、これに塩を加えて味をプラスすればいい。

「ナイスだ。ありがとな」
「どういたしまして。ほうしゅうは、わたしのかわりに、はたけしごと1しゅうかん」
「ええ……。仕方ないなぁ」
「ラッキー」

 リルはにやっと笑ってグーサインを出した。
 こざかしい奴め。

「あ、できた」

 そうこうしているうちに、さっき装置に入れた牛乳もバターに仕上がった。
 振動が止まった容器を開けてみると、見事にバターとホエーに分離している。

「そういえば、この液体の方はどうしたんだ?」
「ん? すてたよ?」
「もったいないな。これはこれで使えるんだよ」
「ほへえ。あまりカスだとおもってた」
「今度からちゃんと取っといてな」

 この研究所にザルとボウルなんてものは……ないよな。
 あったとしても、実験でどんな使われ方をしているか分からない。
 少なくとも、この場所でリルが料理なんてしてないだろうし。
 装置ごと家に持っていって、俺のキッチンで仕分けるか。

「そういえば、ケント」
「どうした?」
「そんちょーからきいた?」
「何を?」
「おまつりのはなし」
「きいてないけど」

 村長とは毎日、何かしら会話はしているけど、お祭りなんてワードが出てきたことはない。
 エルフの村のお祭りか。
 俺がここへ来た時の宴も最高だったし、きっとめっちゃ楽しいんだろうな。

「なんだ、そんちょー、まだいってなかったんだ」
「お祭りって、どんなことするんだ?」
「うーん。いろいろ。みんなでごはんたべたり、うたったり、おどったり、うんどうしたり」
「めちゃくちゃ楽しそうじゃんか」
「うん。たのしい。うんどうはびみょーだけど、ごはんはたのしみ」

 そういえば、リルは運動が苦手だもんな。
 そして食べるのは大好きだ。

「そんちょーが、ことしのおまつりのりょうり、ケントにまかせるっていってた」
「うん、何て?」
「いろいろ、あたらしいしょくざいで、みんながしらないりょうり、つくってほしいって。おまつり、もりあがるからって」
「えー、初耳なんだけど」

 新しい食材って、卵とか牛乳とかバターとかのことだよな。
 確かに村のみんなが知らないレシピを、俺はいろいろ知っているけども。

「ケント、がんばれ」

 リルが期待のこもった目で、俺を見つめてくる。
 なんかプレッシャーだなぁ。
 まあ、やるんだけど。
 異世界シェフ・ケントになってやるか。
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