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第20話 「こんなところで」と蹂躙と終戦
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終わった……。
そんな思いが頭をよぎる。
飛び掛かってくるモンスターの動きが、やけにスローモーションに見えた。
かといって、こっちが素早く動けるわけでもない。
まあ、2度目の人生なんて奇跡的に拾ったようなもんだしな。
ここで死んだところで損したことにはならな……
――いやいや、何を言ってんだよ俺。
俺は心の中で、自分のことをぶん殴った。
リンナに言われただろ、卑屈になるなって。
それに今もし俺が死んだら、リルとミルはどう思う?
村長は?
シェグさんは?
ハンターたちは?
そして村のみんなは?
きっと責任を感じる。
そしてきっと、悲しむ。
前とは違う。
俺が死んで、悲しむ人がいる。
――俺が死んだらミルのけなげな笑顔が消え去る。
――俺が死んだらリルの研究を手伝える奴がいなくなる。
――俺が死んだら今ここで必死に戦ってるぬいぐるみたちも、村にいるぬいぐるみたちも消え去ってしまうかもしれない。
――こんなところで、死んでたまるか……!
「うりゃ!」
俺はがむしゃらに、前方から飛び掛かってくるモンスターへ松明を突き出した。
しかし無理な体勢から無理な動きをしたせいか、バランスを崩して転んでしまう。
松明も当たらない。
このままじゃ……
「がお~」
「ギャウウウ!」
刹那、前方のモンスターが弾き飛ばされる。
凄まじい力を生み出したのは、安心感のある丸い熊手。
「ウホッ!」
「ギャウウウ!」
「モォォ!」
「ギャウウウウウ!」
「ぱお~ん!」
「ギャウウウウウウウ!」
コングの重いゴリラパンチが。
ヤギュの強烈な突進が。
エレファンの長い鞭のような鼻が。
俺を囲んでいた残る3体のモンスターも吹き飛ばした。
本当に間一髪。
あの状況から、俺は奇跡的に傷をひとつも負わずに立ち上がる。
「お前ら……」
思わずこのふかふかな猛獣たちに、抱きついてしまいたい気持ちになる。
でも彼らはさっさと、新たにモンスターを吹き飛ばしに向かった。
まったく頼もしいったらありやしない。
俺に出来るのは、少しでも彼らが楽に戦えるようにしてあげることだ。
「燃えろ」
俺は3輪の“エルフ殺し”を地面に置き、松明の火を近づける。
炎が燃え移り、パチパチと音を立て始めた。
1分も経たないうちに、あれだけエルフのハンターたちを苦しめた白い花は、真っ白な灰となった。
「ガウウウ……」
心なしか、モンスターたちがトーンダウンしたように見える。
村長の仮説は完璧なまでに正しかったらしい。
俺は煌々と燃える松明を高く掲げ、ぬいぐるみたちを鼓舞した。
「もうモンスターたちはお前たちの敵じゃないぞ! 一気に終わらせよう!」
猛獣ぬいぐるみ軍団は、一斉に鳴き声で応えて蹂躙を開始する。
モンスター約30体 vs ぬいぐるみ10体。
およそ3倍の数的差があろうと、それを補って余りある圧倒的な個の力がこちらにはある。
地球の陸上でそれぞれがテリトリーの王となり、ひょっとしたら縄張りを巡って争うこともあったかもしれない猛獣たちが、手を組んで戦っているのだ。
それに多分、このぬいぐるみたちはリアルな動物よりも能力が強化されている。
パワーにしろ、素早さにしろ、フィエンデルカンミラによる強化効果を失ったモンスターたちとはレベル違いだった。
というか、モンスターたちは明らかに遅くなっている。
ミルと一緒にいて襲われた時も、ハンターたちといて襲われた時も、やけにスピードがえげつなく感じたのは、フィエンデルカンミラのバフがあったからなのだろう。
「がお~!」
「ギャウウウ!」
最後の1体が、クマゴローの強烈な往復ビンタによって仕留められる。
ぬいぐるみたちは、戦いの終結を確認すると俺の足元に集まった。
俺は1頭1頭と目を合わせてから、最大限のねぎらいを込めてほほ笑む。
「よくやったな。それと、ありがとう」
彼らがいなかったら、俺はここで死んでいた。
戦いの前には信じているといっておきながら、誰よりも俺が諦めていた。
それを助けてくれたぬいぐるみたち。
そして「こんなところで終われるか」という気持ちにさせてくれた、リルにミル、村のみんな。
まったく、感謝してもしきれないな。
まさか俺がこんな気持ちになる時が来るとは。
どうにもリンナの「成長しましたね」みたいなドヤ顔が浮かんで、何ともむかつくけども。
「さあ、帰ろうか」
戦いは終わりだ。
正直、こんだけ緊張にさらされるのは当分ごめんこうむりたい。
楽しい仕事と美味しい食事のスローライフに戻ろう。
次なる仕事は……牧場だな。
そんな思いが頭をよぎる。
飛び掛かってくるモンスターの動きが、やけにスローモーションに見えた。
かといって、こっちが素早く動けるわけでもない。
まあ、2度目の人生なんて奇跡的に拾ったようなもんだしな。
ここで死んだところで損したことにはならな……
――いやいや、何を言ってんだよ俺。
俺は心の中で、自分のことをぶん殴った。
リンナに言われただろ、卑屈になるなって。
それに今もし俺が死んだら、リルとミルはどう思う?
村長は?
シェグさんは?
ハンターたちは?
そして村のみんなは?
きっと責任を感じる。
そしてきっと、悲しむ。
前とは違う。
俺が死んで、悲しむ人がいる。
――俺が死んだらミルのけなげな笑顔が消え去る。
――俺が死んだらリルの研究を手伝える奴がいなくなる。
――俺が死んだら今ここで必死に戦ってるぬいぐるみたちも、村にいるぬいぐるみたちも消え去ってしまうかもしれない。
――こんなところで、死んでたまるか……!
「うりゃ!」
俺はがむしゃらに、前方から飛び掛かってくるモンスターへ松明を突き出した。
しかし無理な体勢から無理な動きをしたせいか、バランスを崩して転んでしまう。
松明も当たらない。
このままじゃ……
「がお~」
「ギャウウウ!」
刹那、前方のモンスターが弾き飛ばされる。
凄まじい力を生み出したのは、安心感のある丸い熊手。
「ウホッ!」
「ギャウウウ!」
「モォォ!」
「ギャウウウウウ!」
「ぱお~ん!」
「ギャウウウウウウウ!」
コングの重いゴリラパンチが。
ヤギュの強烈な突進が。
エレファンの長い鞭のような鼻が。
俺を囲んでいた残る3体のモンスターも吹き飛ばした。
本当に間一髪。
あの状況から、俺は奇跡的に傷をひとつも負わずに立ち上がる。
「お前ら……」
思わずこのふかふかな猛獣たちに、抱きついてしまいたい気持ちになる。
でも彼らはさっさと、新たにモンスターを吹き飛ばしに向かった。
まったく頼もしいったらありやしない。
俺に出来るのは、少しでも彼らが楽に戦えるようにしてあげることだ。
「燃えろ」
俺は3輪の“エルフ殺し”を地面に置き、松明の火を近づける。
炎が燃え移り、パチパチと音を立て始めた。
1分も経たないうちに、あれだけエルフのハンターたちを苦しめた白い花は、真っ白な灰となった。
「ガウウウ……」
心なしか、モンスターたちがトーンダウンしたように見える。
村長の仮説は完璧なまでに正しかったらしい。
俺は煌々と燃える松明を高く掲げ、ぬいぐるみたちを鼓舞した。
「もうモンスターたちはお前たちの敵じゃないぞ! 一気に終わらせよう!」
猛獣ぬいぐるみ軍団は、一斉に鳴き声で応えて蹂躙を開始する。
モンスター約30体 vs ぬいぐるみ10体。
およそ3倍の数的差があろうと、それを補って余りある圧倒的な個の力がこちらにはある。
地球の陸上でそれぞれがテリトリーの王となり、ひょっとしたら縄張りを巡って争うこともあったかもしれない猛獣たちが、手を組んで戦っているのだ。
それに多分、このぬいぐるみたちはリアルな動物よりも能力が強化されている。
パワーにしろ、素早さにしろ、フィエンデルカンミラによる強化効果を失ったモンスターたちとはレベル違いだった。
というか、モンスターたちは明らかに遅くなっている。
ミルと一緒にいて襲われた時も、ハンターたちといて襲われた時も、やけにスピードがえげつなく感じたのは、フィエンデルカンミラのバフがあったからなのだろう。
「がお~!」
「ギャウウウ!」
最後の1体が、クマゴローの強烈な往復ビンタによって仕留められる。
ぬいぐるみたちは、戦いの終結を確認すると俺の足元に集まった。
俺は1頭1頭と目を合わせてから、最大限のねぎらいを込めてほほ笑む。
「よくやったな。それと、ありがとう」
彼らがいなかったら、俺はここで死んでいた。
戦いの前には信じているといっておきながら、誰よりも俺が諦めていた。
それを助けてくれたぬいぐるみたち。
そして「こんなところで終われるか」という気持ちにさせてくれた、リルにミル、村のみんな。
まったく、感謝してもしきれないな。
まさか俺がこんな気持ちになる時が来るとは。
どうにもリンナの「成長しましたね」みたいなドヤ顔が浮かんで、何ともむかつくけども。
「さあ、帰ろうか」
戦いは終わりだ。
正直、こんだけ緊張にさらされるのは当分ごめんこうむりたい。
楽しい仕事と美味しい食事のスローライフに戻ろう。
次なる仕事は……牧場だな。
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