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第18話 黒い者たち(※悪者たち視点)
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「何の用だ」
書斎の椅子にふんぞり返って、ベルクルドは目の前の女に尋ねた。
白髪交じりのカチカチに整えられた頭。
ティグリナである。
「ミラが十分に育ったか?」
「いや、まだだね。完成するまでもう少しだ」
「ふん。そう言って、永遠に引き延ばし続ける気だろう。私からの援助を受け続けるためにな」
「バカ言うんじゃないよ。もう少ししてミラを売れば、老後に十分な金が手に入るんだ。そんなせこい真似はしないさ」
「どうだかな。がめついババアが」
「がめついジジイに言われたくないよ」
この2人、ただ単に取引を行う者同士という間柄ではない。
幼い頃からの知り合いである。
だからこそ、領主だろうと何だろうとティグリナが敬語を使うことはないし、ベルクルドもそれを容認している。
「それでミラの件ではないとすれば、本当に今日は何の用だ?」
「ちょっとばかし、あんたのところの軍から何人か借りたいんだよ」
「うちの軍から? 何をする気だ」
「ちょっとばかし面白い話があってね」
ティグリナは、グロウからの話に多少の脚色を加えて語った。
少し話を盛った方が、ベルクルドを動かしやすいと考えたのだ。
「つまりそのエリンという少女を取り戻したいから、私の軍をあの気味悪い森に派遣しろというわけだな?」
「そうさ。でもね、力ずくでエリンを取り戻せるとは思っちゃいない。何せあの森を生き延びてるんだからね。でもミラを使えば、油断させることはできる」
「ミラを?」
「エリンはミラによく懐いていたからね。あの子が語って聞かせれば、ちゃんと言うことを聞くはずさ。そうやって油断させて、隙をつけばいい」
「ではお前が軍を借りたいというのは、森の中での危険から警護してほしいということなんだな?」
「ご名答。なあ、頼むよ。分け前はきっちり払うからさ」
ティグリナはグロウの前の机に手をつき、身を乗り出して迫った。
しばらくのにらみ合いの後、ベルクルドは小さく頷いた。
「いいだろう。軍を貸してやる。それから私も同行するぞ。エリンという少女もそうだが、あの森にはまた別に金の匂いがする」
「噂によりゃ、なかなか資源が豊富だと聞くね」
「ああ。ただ猛獣や妙な生き物、地形があるとも聞く。視察して、攻め込めそうなら軍を動かしてしまうのもありだ」
「いいじゃないか。ぜひとも一枚かみたいもんだね」
「ふっ。がめつい奴が」
ベルクルドは憎まれ口を叩いて、にやりと笑う。
ティグリナもまた、品のない笑顔を浮かべた。
「それで、軍はいつ頃になれば動かせそうだい?」
「3日待て。その間にメンバーを選び、準備を整えておく」
「そうかい。頼んだよ」
「ああ。計画が成功しようと失敗しようと、軍を動かすための金はしっかり請求するからな」
「まったく本当にがめついジジイだね」
金の匂いに釣られて動き出したベルクルドは知らない。
森では追放した息子が待ち構えていることを。
ティグリナは知らない。
エリンどころか、ミラすらも自分の手元から奪回されようとしていることを。
2人は知らない。
エリンが召喚したのは、2000年の眠りから覚めた古竜であることを。
書斎の椅子にふんぞり返って、ベルクルドは目の前の女に尋ねた。
白髪交じりのカチカチに整えられた頭。
ティグリナである。
「ミラが十分に育ったか?」
「いや、まだだね。完成するまでもう少しだ」
「ふん。そう言って、永遠に引き延ばし続ける気だろう。私からの援助を受け続けるためにな」
「バカ言うんじゃないよ。もう少ししてミラを売れば、老後に十分な金が手に入るんだ。そんなせこい真似はしないさ」
「どうだかな。がめついババアが」
「がめついジジイに言われたくないよ」
この2人、ただ単に取引を行う者同士という間柄ではない。
幼い頃からの知り合いである。
だからこそ、領主だろうと何だろうとティグリナが敬語を使うことはないし、ベルクルドもそれを容認している。
「それでミラの件ではないとすれば、本当に今日は何の用だ?」
「ちょっとばかし、あんたのところの軍から何人か借りたいんだよ」
「うちの軍から? 何をする気だ」
「ちょっとばかし面白い話があってね」
ティグリナは、グロウからの話に多少の脚色を加えて語った。
少し話を盛った方が、ベルクルドを動かしやすいと考えたのだ。
「つまりそのエリンという少女を取り戻したいから、私の軍をあの気味悪い森に派遣しろというわけだな?」
「そうさ。でもね、力ずくでエリンを取り戻せるとは思っちゃいない。何せあの森を生き延びてるんだからね。でもミラを使えば、油断させることはできる」
「ミラを?」
「エリンはミラによく懐いていたからね。あの子が語って聞かせれば、ちゃんと言うことを聞くはずさ。そうやって油断させて、隙をつけばいい」
「ではお前が軍を借りたいというのは、森の中での危険から警護してほしいということなんだな?」
「ご名答。なあ、頼むよ。分け前はきっちり払うからさ」
ティグリナはグロウの前の机に手をつき、身を乗り出して迫った。
しばらくのにらみ合いの後、ベルクルドは小さく頷いた。
「いいだろう。軍を貸してやる。それから私も同行するぞ。エリンという少女もそうだが、あの森にはまた別に金の匂いがする」
「噂によりゃ、なかなか資源が豊富だと聞くね」
「ああ。ただ猛獣や妙な生き物、地形があるとも聞く。視察して、攻め込めそうなら軍を動かしてしまうのもありだ」
「いいじゃないか。ぜひとも一枚かみたいもんだね」
「ふっ。がめつい奴が」
ベルクルドは憎まれ口を叩いて、にやりと笑う。
ティグリナもまた、品のない笑顔を浮かべた。
「それで、軍はいつ頃になれば動かせそうだい?」
「3日待て。その間にメンバーを選び、準備を整えておく」
「そうかい。頼んだよ」
「ああ。計画が成功しようと失敗しようと、軍を動かすための金はしっかり請求するからな」
「まったく本当にがめついジジイだね」
金の匂いに釣られて動き出したベルクルドは知らない。
森では追放した息子が待ち構えていることを。
ティグリナは知らない。
エリンどころか、ミラすらも自分の手元から奪回されようとしていることを。
2人は知らない。
エリンが召喚したのは、2000年の眠りから覚めた古竜であることを。
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