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第15話 ミラは来る
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「やらかしちまった……」
森に帰ってくるなり、グロウは真っ青な顔でうなだれた。
俺とエリン、そしていまだ調査に出ているイグルを除いた小王たちの間に、緊張が走る。
まさか……失敗したのか?
「何があった。ティグリナが話に乗って来なかったのか?」
「いや、ティグリナは乗ってきたさ。でもその後によ……」
グロウは俺たちに、孤児院であったことを語って聞かせる。
ティグリナを引っ張り出すために、あえて悪人を演じたこと。
その一部始終をミラに聞かれてしまったこと。
彼女に心の底から軽蔑されてしまったこと。
あえて弁解はせず、その場から立ち去ったこと。
「やっちまった……。もうちょっと警戒しておけば……」
「大丈夫だ。確かにミスといえばミスだが、作戦に大きく影響を及ぼすものではないと考えられる」
頭を抱えるグロウに、俺は至って冷静な声で言った。
彼はゆっくり顔を上げて、すがるような視線をこちらに向ける。
俺の言葉が気休めではないと信じたい。
そんな様子だ。
そしてもちろん、この大事な作戦の最中にあって、俺は意味のない気休めの言葉など吐かない。
「安心しろ。計画は予定通りに進む」
「ほ、本当か? 俺はもしこれでミラちゃんがここに来なかったら、いったいどうしようかと心臓がバクバクしっぱなしで……」
「ミラは来る」
俺は確信を込めて言った。
彼女の境遇、そしてティグリナという女の人間像を考えれば、そう推測するのは難しいことじゃない。
「おかしな話だと思わないか?」
俺は逆に、グロウへと問いかけた。
「ミラは才能に溢れたテイマーだ。そしてすでに、ひとりでも生きていける年齢に達している。さらにはティグリナの本性も十分に知っている。それなのにどうして、彼女はあの場所に居続けている? どうして逃げ出さない? あるいは信頼のおける第三者に、ティグリナの悪事を訴え出ない?」
「それは……」
「ミラはティグリナに何らかの弱みを握られているため、彼女に逆らうことができない。あるいは、隷属スキルのようなものを使われているのかもしれないな。どちらにしろ、ミラはティグリナに抵抗しないんじゃない。できないんだと考えている」
そうでもなければ、ミラがずっとティグリナの元にいる理由が見当たらない。
だから例え、ミラがグロウを悪人と認識していようとも。
「ミラは来る」
俺はより強く、再度繰り返した。
ミラがこの森にやってきさえすれば、こちらのホームに入ってしまいさえすれば、あとはどうにでもなる。
こう言っては悪いが、そこにミラがグロウをどう思っているかは関係なくなるのだ。
「それにな、グロウ」
とはいえ、グロウにこのまま沈んだ気持ちを抱き続けられても困る。
俺は微笑むことができないなりに、できる限り優しい声を作って言った。
「ミラが大きくショックを受けたのは、それだけお前を信頼していたからだ。お前はミラやエリンの数少ない味方だった。そうだろう?」
「お、おう。貧乏なりに、できるだけのことはしてきたつもりだ」
「それなら、ミラは今でも心のどこかでお前を信じたいと思っているはずだ。何も知らない今は、感情が混乱して苦しいかもしれないがな。でもこの作戦が全て上手くいった時、お前の信頼も回復できる。だから変にブレることなく、最後までやり切れ」
「そうだよ、グロウおじさん。ミラお姉ちゃんだって、ちゃんと話したら分かってくれるよ!」
「……そうだよな」
俺とエリンの励ましを受けて、しばらくの沈黙の後グロウは頷いた。
少しだけ、表情が晴れたような気がする。
話を聞く限り、ミラも賢い子のはずだ。
グロウが思っているほど、誤解を解くのは難しくないだろう。
「帰りましたっす」
グロウのメンタルがやや回復したところに、今度はイグルが帰ってくる。
何やら満足げな表情だな。
「何かつかめたか?」
「面白いことが分かりましたっすよ」
イグルは席に着くと、自分の調査結果を報告し始めるのだった。
森に帰ってくるなり、グロウは真っ青な顔でうなだれた。
俺とエリン、そしていまだ調査に出ているイグルを除いた小王たちの間に、緊張が走る。
まさか……失敗したのか?
「何があった。ティグリナが話に乗って来なかったのか?」
「いや、ティグリナは乗ってきたさ。でもその後によ……」
グロウは俺たちに、孤児院であったことを語って聞かせる。
ティグリナを引っ張り出すために、あえて悪人を演じたこと。
その一部始終をミラに聞かれてしまったこと。
彼女に心の底から軽蔑されてしまったこと。
あえて弁解はせず、その場から立ち去ったこと。
「やっちまった……。もうちょっと警戒しておけば……」
「大丈夫だ。確かにミスといえばミスだが、作戦に大きく影響を及ぼすものではないと考えられる」
頭を抱えるグロウに、俺は至って冷静な声で言った。
彼はゆっくり顔を上げて、すがるような視線をこちらに向ける。
俺の言葉が気休めではないと信じたい。
そんな様子だ。
そしてもちろん、この大事な作戦の最中にあって、俺は意味のない気休めの言葉など吐かない。
「安心しろ。計画は予定通りに進む」
「ほ、本当か? 俺はもしこれでミラちゃんがここに来なかったら、いったいどうしようかと心臓がバクバクしっぱなしで……」
「ミラは来る」
俺は確信を込めて言った。
彼女の境遇、そしてティグリナという女の人間像を考えれば、そう推測するのは難しいことじゃない。
「おかしな話だと思わないか?」
俺は逆に、グロウへと問いかけた。
「ミラは才能に溢れたテイマーだ。そしてすでに、ひとりでも生きていける年齢に達している。さらにはティグリナの本性も十分に知っている。それなのにどうして、彼女はあの場所に居続けている? どうして逃げ出さない? あるいは信頼のおける第三者に、ティグリナの悪事を訴え出ない?」
「それは……」
「ミラはティグリナに何らかの弱みを握られているため、彼女に逆らうことができない。あるいは、隷属スキルのようなものを使われているのかもしれないな。どちらにしろ、ミラはティグリナに抵抗しないんじゃない。できないんだと考えている」
そうでもなければ、ミラがずっとティグリナの元にいる理由が見当たらない。
だから例え、ミラがグロウを悪人と認識していようとも。
「ミラは来る」
俺はより強く、再度繰り返した。
ミラがこの森にやってきさえすれば、こちらのホームに入ってしまいさえすれば、あとはどうにでもなる。
こう言っては悪いが、そこにミラがグロウをどう思っているかは関係なくなるのだ。
「それにな、グロウ」
とはいえ、グロウにこのまま沈んだ気持ちを抱き続けられても困る。
俺は微笑むことができないなりに、できる限り優しい声を作って言った。
「ミラが大きくショックを受けたのは、それだけお前を信頼していたからだ。お前はミラやエリンの数少ない味方だった。そうだろう?」
「お、おう。貧乏なりに、できるだけのことはしてきたつもりだ」
「それなら、ミラは今でも心のどこかでお前を信じたいと思っているはずだ。何も知らない今は、感情が混乱して苦しいかもしれないがな。でもこの作戦が全て上手くいった時、お前の信頼も回復できる。だから変にブレることなく、最後までやり切れ」
「そうだよ、グロウおじさん。ミラお姉ちゃんだって、ちゃんと話したら分かってくれるよ!」
「……そうだよな」
俺とエリンの励ましを受けて、しばらくの沈黙の後グロウは頷いた。
少しだけ、表情が晴れたような気がする。
話を聞く限り、ミラも賢い子のはずだ。
グロウが思っているほど、誤解を解くのは難しくないだろう。
「帰りましたっす」
グロウのメンタルがやや回復したところに、今度はイグルが帰ってくる。
何やら満足げな表情だな。
「何かつかめたか?」
「面白いことが分かりましたっすよ」
イグルは席に着くと、自分の調査結果を報告し始めるのだった。
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