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第11話 つまりグロウという男は
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「何のために金を儲けようとしたんだ?」
俺が再び尋ねると、グロウは少し口ごもる。
それから、照れくさそうな表情を浮かべて言った。
「恥ずかしい話だけどよ、俺ってかなり貧乏なわけよ」
「冒険者という仕事は儲からないのか?」
「強い奴なら、あほみたいな金額を稼げる。でも俺はそうじゃねえ。頑張って平凡、あるいはそのちょっと下くらい。何とかてめえを養ってくのがやっとで、とても余裕のある暮らしは出来ねえ。そんな状況のまま、ずるずるこの歳まで来ちまったもんだから、今さら新しい仕事も見つかりやしねえんだ」
「苦労しているわけだな」
「おっと、同情ならよしてくれよ」
グロウは半ば自嘲気味に笑った。
彼の話を信じるなら、ギリギリの生活の中で、たまにエリンにお菓子を買っては与えていたことになる。
レオはグロウのことを“強欲”と言ったが、どうにもそうは思えない。
「まあそんなわけで、それなりに厳しい生活をしてたんだ。そん時にたまたま冒険者協会で見かけたのが、この森の調査っていう依頼でな。ここの森がどんな場所か、みんな知ってっから、よっぽど自信がある奴か変わりもんじゃねえと依頼は受けねえ。だから人手不足みたいで、報酬はびっくりするような額だったんだ」
「その報酬に釣られて、この森にやってきたってことか」
「おうよ。まあ、あっさりそこのライオン野郎に見つかって、この部屋の中にぶち込まれたけどな」
グロウが忌々し気にレオを睨む。
だが当の睨まれた本人は、悪びれることもなくぷいっとそっぽを向いた。
立場上のやるべきことをちゃんとやっただけだから、当然といえば当然だな。
「ちなみにだが、お前はレオに勝てるのか?」
俺の質問に、グロウはにやりと笑った。
「どうだろうな。この前は油断してたからあっさり捕まったが、本気でやり合ったら分からないぜ?」
「勝てるわけがないだろう」
「うるせえな! ライオン野郎!」
「こら! グロウおじさんもレオくんもケンカしちゃだめ!」
「お、おう……。わりいな、エリンちゃん」
「も、申し訳ありません、プリンセス」
当たり前だけどそりが合わない2人の言い合いは、エリンがなだめることで収束する。
正直に言えば、グロウがレオに勝てる確率は限りなく低い。
何が起こるのか分からないのが勝負の世界ゆえ、全くの0とは言わないが、1万回やって1回勝てるか勝てないかくらいのもんだろう。
1万回やれば必ず1回は勝てるってレベルのもんでもない。
グロウの実力に対して、レオは強すぎる。
レオと戦ったことがあるわけではないが、雰囲気を見ればその実力は何となくで分かるものだ。
《覇竜眼》にはあっさり屈していたけども。
「どうして諦めない? 俺からすれば、お前はこの部屋で残りの人生を無為に消費するほどの馬鹿には見えないのだが」
苦しい生活だったとはいえ、グロウはここまで生きてこれたわけだ。
いくら依頼をこなせば多額の報酬が出るとはいえ、現状では人間の地へ戻ることすら厳しい。
ここに固執する理由がないはずだ。
「いんや。ちょうど今しがた、諦めたところだ」
思いのほかあっさりと、そして晴れ晴れとした表情でグロウはそう言った。
そして続ける。
「エリンちゃんはここで幸せに暮らせるんだろ?」
「うん! でも急にどうしたの?」
唐突なグロウの質問に戸惑うエリン。
しかしグロウは次の言葉を発する代わりに、ごつごつした手でそっとエリンの頭を撫でた。
そして小さく呟く。
「……それならいいんだ」
……なるほどな。
ここへ来てようやく、グロウが“強欲”と言われるまでにこの森と報酬に執着していた意味が分かった。
全てが繋がった。
「グロウ。つまりお前は……」
「よせよせ。恥ずかしくて仕方がねえ」
グロウは照れ臭そうに笑って、俺の話を遮った。
要するにグロウは、エリンを助け出そうとしていたのだ。
孤児院にたまに出入りしていた彼は、エリンがどんな扱いを受けているのか知っていた。
助け出したいと思ったが、そのためにはシステム上、エリンを買い取る必要がある。
だがグロウにはそんな金はないし、買い取った後にエリンを養っていく金もない。
何とかその資金をねん出するために、この森での無謀な冒険に執着したってわけだ。
でもエリンが幸せになれそうな道を掴んだ今となっては、グロウにとってその執着は不要なものになった。
「世話んなったな、ライオン野郎。俺はさっさと出て行くぞ」
「そう言って出たフリをして、こっそり何かを盗んで行こうという魂胆か?」
「誰がそんなことするかよ。二度とごめんだ、こんな森」
憎まれ口を叩き合うグロウとレオ。
一周まわって、逆に相性がいいんじゃないかとすら思えてくる。
「ちょっと待て」
そそくさと立ち上がろうとしたグロウを、俺は制止した。
「何だ?」
「ちょうどひとつ案が閃いたんだ。報酬はしっかり考えて渡すと約束する。だから協力してほしい」
「どんなことかによるな」
俺は優しくエリンの肩に手を置いて言う。
「この子の恩人――ミラを助け出したいんだ」
俺が再び尋ねると、グロウは少し口ごもる。
それから、照れくさそうな表情を浮かべて言った。
「恥ずかしい話だけどよ、俺ってかなり貧乏なわけよ」
「冒険者という仕事は儲からないのか?」
「強い奴なら、あほみたいな金額を稼げる。でも俺はそうじゃねえ。頑張って平凡、あるいはそのちょっと下くらい。何とかてめえを養ってくのがやっとで、とても余裕のある暮らしは出来ねえ。そんな状況のまま、ずるずるこの歳まで来ちまったもんだから、今さら新しい仕事も見つかりやしねえんだ」
「苦労しているわけだな」
「おっと、同情ならよしてくれよ」
グロウは半ば自嘲気味に笑った。
彼の話を信じるなら、ギリギリの生活の中で、たまにエリンにお菓子を買っては与えていたことになる。
レオはグロウのことを“強欲”と言ったが、どうにもそうは思えない。
「まあそんなわけで、それなりに厳しい生活をしてたんだ。そん時にたまたま冒険者協会で見かけたのが、この森の調査っていう依頼でな。ここの森がどんな場所か、みんな知ってっから、よっぽど自信がある奴か変わりもんじゃねえと依頼は受けねえ。だから人手不足みたいで、報酬はびっくりするような額だったんだ」
「その報酬に釣られて、この森にやってきたってことか」
「おうよ。まあ、あっさりそこのライオン野郎に見つかって、この部屋の中にぶち込まれたけどな」
グロウが忌々し気にレオを睨む。
だが当の睨まれた本人は、悪びれることもなくぷいっとそっぽを向いた。
立場上のやるべきことをちゃんとやっただけだから、当然といえば当然だな。
「ちなみにだが、お前はレオに勝てるのか?」
俺の質問に、グロウはにやりと笑った。
「どうだろうな。この前は油断してたからあっさり捕まったが、本気でやり合ったら分からないぜ?」
「勝てるわけがないだろう」
「うるせえな! ライオン野郎!」
「こら! グロウおじさんもレオくんもケンカしちゃだめ!」
「お、おう……。わりいな、エリンちゃん」
「も、申し訳ありません、プリンセス」
当たり前だけどそりが合わない2人の言い合いは、エリンがなだめることで収束する。
正直に言えば、グロウがレオに勝てる確率は限りなく低い。
何が起こるのか分からないのが勝負の世界ゆえ、全くの0とは言わないが、1万回やって1回勝てるか勝てないかくらいのもんだろう。
1万回やれば必ず1回は勝てるってレベルのもんでもない。
グロウの実力に対して、レオは強すぎる。
レオと戦ったことがあるわけではないが、雰囲気を見ればその実力は何となくで分かるものだ。
《覇竜眼》にはあっさり屈していたけども。
「どうして諦めない? 俺からすれば、お前はこの部屋で残りの人生を無為に消費するほどの馬鹿には見えないのだが」
苦しい生活だったとはいえ、グロウはここまで生きてこれたわけだ。
いくら依頼をこなせば多額の報酬が出るとはいえ、現状では人間の地へ戻ることすら厳しい。
ここに固執する理由がないはずだ。
「いんや。ちょうど今しがた、諦めたところだ」
思いのほかあっさりと、そして晴れ晴れとした表情でグロウはそう言った。
そして続ける。
「エリンちゃんはここで幸せに暮らせるんだろ?」
「うん! でも急にどうしたの?」
唐突なグロウの質問に戸惑うエリン。
しかしグロウは次の言葉を発する代わりに、ごつごつした手でそっとエリンの頭を撫でた。
そして小さく呟く。
「……それならいいんだ」
……なるほどな。
ここへ来てようやく、グロウが“強欲”と言われるまでにこの森と報酬に執着していた意味が分かった。
全てが繋がった。
「グロウ。つまりお前は……」
「よせよせ。恥ずかしくて仕方がねえ」
グロウは照れ臭そうに笑って、俺の話を遮った。
要するにグロウは、エリンを助け出そうとしていたのだ。
孤児院にたまに出入りしていた彼は、エリンがどんな扱いを受けているのか知っていた。
助け出したいと思ったが、そのためにはシステム上、エリンを買い取る必要がある。
だがグロウにはそんな金はないし、買い取った後にエリンを養っていく金もない。
何とかその資金をねん出するために、この森での無謀な冒険に執着したってわけだ。
でもエリンが幸せになれそうな道を掴んだ今となっては、グロウにとってその執着は不要なものになった。
「世話んなったな、ライオン野郎。俺はさっさと出て行くぞ」
「そう言って出たフリをして、こっそり何かを盗んで行こうという魂胆か?」
「誰がそんなことするかよ。二度とごめんだ、こんな森」
憎まれ口を叩き合うグロウとレオ。
一周まわって、逆に相性がいいんじゃないかとすら思えてくる。
「ちょっと待て」
そそくさと立ち上がろうとしたグロウを、俺は制止した。
「何だ?」
「ちょうどひとつ案が閃いたんだ。報酬はしっかり考えて渡すと約束する。だから協力してほしい」
「どんなことかによるな」
俺は優しくエリンの肩に手を置いて言う。
「この子の恩人――ミラを助け出したいんだ」
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