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第4話 どろどろ幼女
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川沿いから移動して、地面がしっかり安定した場所までやってきた。
ひとまず、ここに家を建てることにしよう。
「エリンは、モフリンと一緒に落ち葉や木の枝を拾ってきてくれ。でもあんまり遠くには行かないように」
「はーい! モフリン、行こっ!」
「きゅう~」
エリンとモフリンは、追いかけっこをするように森の中を駆けていく。
近くに危険の気配はないし、モフリンが森のことをよく分かっているから迷子になることもなさそうだ。
「さてと……」
家を建てるには材料が必要だ。
幸い、森の中だから木はたくさんある。
俺は胸の前で手をクロスさせると、勢いよく水平に広げて空気を薙いだ。
生じた風が見えない斬撃となって飛んでいき、スパンスパンと次々に木を伐り倒していく。
人間サイズの家を建てるには十分な量の木材が、一度の動作で伐採された。
竜が高速で飛ぶときに生じる風は、周りにあるものをことごとく斬り裂くと言われている。
それを応用したのが、大量の木を一気に伐採した今の技だ。
かなり太い木がスパスパいける。切れ味抜群。
「枝葉を落として家に使えるよう加工して……。ふむ、これだけ端材が出るならエリンたちに拾いに行かせなくとも良かったな」
炎を焚くことで、寒さを凌いだり調理に使えたりする。
燃料となるものを拾いに行ってもらったのだが、木を加工するなかでかなりの端材が出た。
ある程度の期間の薪としては十分すぎる量だ。
「よし、できた」
工具を使わずとも、というか工具を使うよりはるかに早く、必要な量の木材がそろった。
竜の姿に戻り、大量の木材を一気に近くの開けた場所へ運ぶ。
次の工程に取り掛かろうとした時、エリンの大きな声が響いた。
「パパぁぁぁぁぁ!!!!! 助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「エリンっ!?」
俺は急いで声がした方へ向かう。
するとそこでは、泥沼にはまったエリンをモフリンが必死に引っ張り出そうとしていた。
「何があった!?」
「あ、パパ! あのね、ここドロドロでベトベトで全然抜けないの」
「きゅうぅ……」
よく見ると、エリンの服をくわえて引っ張っているモフリンも、沼へ沼へと引きずり込まれている。
どうやらただの泥沼じゃなさそうだ。
もしモフリンがいなかったら、今ごろエリンは沼のそこへと沈みこんでいたかもしれない。
「すぐ助けるからな」
俺はエリンの両脇に手を差しいれ、一気に引っ張り上げてた。
スポンという音と共に、小さな体が沼から救い出される。
その様子を見ていたモフリンは、安堵したようできゅう~と一鳴きした。
「大丈夫か? 痛いところはないか?」
「う、うん。パパ、ありがとう」
「気をつけなきゃいけないぞ」
「ごめんなさい」
「でも一番は目を離した俺が悪かった。無事で良かった」
「うん」
幸いなことに、エリンの体に傷はなさそうだ。
腰まで沼に浸かってしまったばかりに、下半身はドロドロに汚れているが。
でもこの泥、粘度といい乾燥した時の様子といいかなり特殊だな。
木材と木材をくっつける接着剤として使えるかもしれない。
家の強度がかなり上がりそうだ。
ヘドロのような不快な臭いは全くしないし。
「使えるな」
「これが?」
「ああ。接着剤が見つかった。エリンがはまったおかげかもな」
「私、偉い!?」
途端に目を輝かせるエリン。
ついさっきまで沼に引きずり込まれていたとは思えない切り替えだ。
「偉くは……ないな。でも結果としては悪くない」
「じゃあ私、このドロドロ運ぶの手伝う!」
「いや、これ以上ここにエリンが近づくのは危険だ。それに泥が付いたままでは気持ち悪いだろう。まずは汚れを落としに行くぞ」
「うう……。集めた木の枝も全部ここに落としちゃったし、私なんのお手伝いもできてないよ……」
今度は一気にしゅんとしてしまった。
そんな彼女を励ますように、俺はそっと頭を撫でて言う。
「安心しろ。エリンにやってほしいことがある」
「ほんと!? 何!?」
「まずはきれいにしてから……と言いたいところなんだが……」
俺は重大なことに気が付く。
エリンの服問題だ。
彼女が着ているのは少しボロっとした薄紫のワンピース。
これしか服が無いとなると、エリンは服を洗って乾かす間に着るものがない。
まさか裸でいさせるわけにもいかないし、びしょびしょの服を着せるわけにもいかない。
かといって泥まみれのままではかわいそうだ。
「パパどうしたの?」
「いや、エリンの服をどうするかと思ってな」
「あ、私もう一着だけお洋服あるよ! ぬいぐるみのお姉ちゃんがこっそり持たせてくれたの!」
「そうだったのか……。つくづくその“お姉ちゃん”には助けられているな」
「うん! 今、取ってくるね!」
「俺も一緒に行こう。また沼にはまられたら困る」
「はーい! モフリン競争だよ!」
そう言って、エリンとモフリンは真逆の方向へと走り始める。
もちろん、この森を熟知しているモフリンが方角を間違えるはずがない。
間違えているのはエリンの方だ。
「エリン、こっちだ」
「あれぇ……?」
少し恥ずかしそうに頭をかくエリンと一緒に、俺たちは彼女の荷物がある方へと歩き出すのだった。
ひとまず、ここに家を建てることにしよう。
「エリンは、モフリンと一緒に落ち葉や木の枝を拾ってきてくれ。でもあんまり遠くには行かないように」
「はーい! モフリン、行こっ!」
「きゅう~」
エリンとモフリンは、追いかけっこをするように森の中を駆けていく。
近くに危険の気配はないし、モフリンが森のことをよく分かっているから迷子になることもなさそうだ。
「さてと……」
家を建てるには材料が必要だ。
幸い、森の中だから木はたくさんある。
俺は胸の前で手をクロスさせると、勢いよく水平に広げて空気を薙いだ。
生じた風が見えない斬撃となって飛んでいき、スパンスパンと次々に木を伐り倒していく。
人間サイズの家を建てるには十分な量の木材が、一度の動作で伐採された。
竜が高速で飛ぶときに生じる風は、周りにあるものをことごとく斬り裂くと言われている。
それを応用したのが、大量の木を一気に伐採した今の技だ。
かなり太い木がスパスパいける。切れ味抜群。
「枝葉を落として家に使えるよう加工して……。ふむ、これだけ端材が出るならエリンたちに拾いに行かせなくとも良かったな」
炎を焚くことで、寒さを凌いだり調理に使えたりする。
燃料となるものを拾いに行ってもらったのだが、木を加工するなかでかなりの端材が出た。
ある程度の期間の薪としては十分すぎる量だ。
「よし、できた」
工具を使わずとも、というか工具を使うよりはるかに早く、必要な量の木材がそろった。
竜の姿に戻り、大量の木材を一気に近くの開けた場所へ運ぶ。
次の工程に取り掛かろうとした時、エリンの大きな声が響いた。
「パパぁぁぁぁぁ!!!!! 助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「エリンっ!?」
俺は急いで声がした方へ向かう。
するとそこでは、泥沼にはまったエリンをモフリンが必死に引っ張り出そうとしていた。
「何があった!?」
「あ、パパ! あのね、ここドロドロでベトベトで全然抜けないの」
「きゅうぅ……」
よく見ると、エリンの服をくわえて引っ張っているモフリンも、沼へ沼へと引きずり込まれている。
どうやらただの泥沼じゃなさそうだ。
もしモフリンがいなかったら、今ごろエリンは沼のそこへと沈みこんでいたかもしれない。
「すぐ助けるからな」
俺はエリンの両脇に手を差しいれ、一気に引っ張り上げてた。
スポンという音と共に、小さな体が沼から救い出される。
その様子を見ていたモフリンは、安堵したようできゅう~と一鳴きした。
「大丈夫か? 痛いところはないか?」
「う、うん。パパ、ありがとう」
「気をつけなきゃいけないぞ」
「ごめんなさい」
「でも一番は目を離した俺が悪かった。無事で良かった」
「うん」
幸いなことに、エリンの体に傷はなさそうだ。
腰まで沼に浸かってしまったばかりに、下半身はドロドロに汚れているが。
でもこの泥、粘度といい乾燥した時の様子といいかなり特殊だな。
木材と木材をくっつける接着剤として使えるかもしれない。
家の強度がかなり上がりそうだ。
ヘドロのような不快な臭いは全くしないし。
「使えるな」
「これが?」
「ああ。接着剤が見つかった。エリンがはまったおかげかもな」
「私、偉い!?」
途端に目を輝かせるエリン。
ついさっきまで沼に引きずり込まれていたとは思えない切り替えだ。
「偉くは……ないな。でも結果としては悪くない」
「じゃあ私、このドロドロ運ぶの手伝う!」
「いや、これ以上ここにエリンが近づくのは危険だ。それに泥が付いたままでは気持ち悪いだろう。まずは汚れを落としに行くぞ」
「うう……。集めた木の枝も全部ここに落としちゃったし、私なんのお手伝いもできてないよ……」
今度は一気にしゅんとしてしまった。
そんな彼女を励ますように、俺はそっと頭を撫でて言う。
「安心しろ。エリンにやってほしいことがある」
「ほんと!? 何!?」
「まずはきれいにしてから……と言いたいところなんだが……」
俺は重大なことに気が付く。
エリンの服問題だ。
彼女が着ているのは少しボロっとした薄紫のワンピース。
これしか服が無いとなると、エリンは服を洗って乾かす間に着るものがない。
まさか裸でいさせるわけにもいかないし、びしょびしょの服を着せるわけにもいかない。
かといって泥まみれのままではかわいそうだ。
「パパどうしたの?」
「いや、エリンの服をどうするかと思ってな」
「あ、私もう一着だけお洋服あるよ! ぬいぐるみのお姉ちゃんがこっそり持たせてくれたの!」
「そうだったのか……。つくづくその“お姉ちゃん”には助けられているな」
「うん! 今、取ってくるね!」
「俺も一緒に行こう。また沼にはまられたら困る」
「はーい! モフリン競争だよ!」
そう言って、エリンとモフリンは真逆の方向へと走り始める。
もちろん、この森を熟知しているモフリンが方角を間違えるはずがない。
間違えているのはエリンの方だ。
「エリン、こっちだ」
「あれぇ……?」
少し恥ずかしそうに頭をかくエリンと一緒に、俺たちは彼女の荷物がある方へと歩き出すのだった。
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