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第2章 金の成る魚編

暗殺未遂

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 翌朝。
 早い時間帯に私たちは出発した。
 ニナもネロも、朝早くからしゃきっとした顔をしている。
 まだ薄っすら寝ぼけた顔をしているのは私だけだ。
 2人とも、漁師だったり朝早くから村の仕事をしていたりで、朝は強いみたいだ。

「今日は霧が濃いね」

 私が呟くと、横でニナが頷いた。
 視界があまり良くないので、馬車が進む速度もゆっくりだ。

「昨日のニクメシは美味しかったですね」

「だね~。また食べにこようよ」

「はい。ぜひ」

「今日の宿場町にも美味しいグルメがあるといいね」

 荷台でそんな会話を交わしていると。
 ひゅっと風を切る音がした。
 続けて、荷台の板に矢が突き刺さりカッっと乾いた音を立てる。

「ひっ!」

 突然の襲撃にニナが悲鳴を上げた。
 その声に、ネロも驚いて後ろを振り返る。

「伏せて!」

 ニナに低い姿勢を取らせ、私はその上に覆いかぶさった。
 矢が突き刺さった場所には、黒い染みができている。
 先端に毒が塗ってあるみたいだ。

「一体どこから……うわ!」

 馬車の後方、霧の向こうから続けざまに矢が飛んでくる。
 どれも毒矢だ。
 何発かは私に命中したけど、刺さらないし毒も効かない。
 無効スキル万々歳だ。

「ううう……」

 私の下で、ニナが小刻みに震えている。
 まさかこのタイミングで襲われるとは……

「ニナ、ちょっと避難してて」

「は、はい」

「【収納ストレージ】」

 視界の悪い中で、ニナを守りながら戦うのは簡単なことじゃない。
 アイテムボックスに入っていてもらった方が楽だ。

「あれは……」

 霧の向こう側に、襲撃犯がその姿をぼんやりと現す。
 複数人だ。
 顔は黒い仮面で隠れていて見えない。
 しかし、何よりも特徴的なのはその体の構造だった。
 上半身は人間だけど、背中には大きな鳥の翼が生えている。
 両手で弓矢を構え、背中の翼をはばたかせて空中にとどまっている。
 そして下半身、足の部分は完全に鳥。
 鋭いかぎ爪を持っている。

「鳥人族だ……」

 その姿を見たネロが呟く。

「鳥人族?」

「そう。見ての通り、人間と鳥の特徴を併せ持つ種族だ。奴らは竜族に仕える種族。鳥人族が人間を襲う場合、たいてい裏には竜族がいる」

「ガルガームの復讐……ってこと?」

「ミオンが倒した竜か。その可能性はあるかもな」

 他に鳥人族から襲われる原因なんて思いつかない。
 正体が分かったところで、反撃といこう。

「ネロも隠れてて」

「すまん」

「気にしないで。【収納ストレージ】」

 この状況、メンバーにおいては、戦うのが私の仕事だ。
 ネロもアイテムボックスの中に避難させると、鳥人族たちに向けて丸腰で身構えた。
 先頭を飛ぶ鳥人が、私を指さす。
 それを合図に、一斉に矢が放たれた。
 私はそれを受け止めつつ、逆に攻勢に出る。

「【三倍豪炎星トリプルファイアスター】!」

 村を出る前、ミョン爺に無理を言って収納させてもらっておいた【豪炎星】。
 それを増幅して放つ。
 しかし、空中の鳥人は1体も捉えられなかった。
 思った以上に速い。
 そして空を飛べる分、回避の自由度も高い。

「こうなったら……」

 私は鳥人の一団へ右手をかざす。
 竜に仕える種族がこれを見たらどう思うかな?

「【五岐大蛇いつまたのおろち】!」

 ガルガームの機功竜マシンドラグを解放し、鳥人族たちへ襲いかからせる。
 これにはさすがの鳥人たちも面食らったのか、超高速で飛び回った。
 しばらく鬼ごっこが続いたのち、先ほどから指示役だった鳥人が何か合図をする。
 そして襲撃部隊たちは飛び去って行った。

「ふう……【収納ストレージ】と【解放リリース】」

 ほっと一息つき、機功竜マシンドラグとニナたちを入れ替える。
 出てきた2人は辺りをきょろきょろ見回して、危険が無くなったことを知った。

「さすがミオンさんです」

「助かったぜ」

「いやいや。でも捕まえるところまでは行かなかったよ」

「逃げられたのか?」

「うん。捕まえられれば、情報を聞き出せたんだけどね」

 どういういきさつで襲われたのか。
 予想は立てられるけど、真実は分からない。
 確かめたいところではあったけど、ちゃんと予定通り王都に行って村に帰らないと、みんなが心配するからね。

「少しずつ霧も晴れてきたな。じゃあ、改めて進むぞ」

 ネロが御者席に戻る。
 そして私とニナ、加工された魚を載せた馬車はゆっくりと動き出したのだった。



 ※ ※ ※ ※



「失敗した、ですと?」

 宿場町ハレスの冒険者ギルド。
 その支部長室で、ミオン暗殺失敗を告げられたハンザーはエレネに厳しい視線を向けた。
 エレネは無表情で頭を下げる。

「申し訳ありません。先ほど暗殺部隊から報告がありました」

「エレネくん、君は行かなかったのですか?」

「はい。申し訳ありません」

「相手はガルガームとはいえ竜を倒した人間です。君が行かなかったのは、君のミスですよ」

「申し訳ありません」

 エレネはずっと頭を下げ続ける。
 しばらくの沈黙の後、ハンザーは低い声で言った。

「これまでの功績に免じて、挽回のチャンスをあげましょう。ですが、次の失敗は許されません」

「ありがとうございます。直ちにミオンを……」

「いえ。もう暗殺は結構です。君には長期休暇を取って冒険者ギルドを離れてもらいます。その間、やってもらうことがあります」

 ハンザーは静かな声で作戦を伝える。
 それを聞いたエレネは、一礼して支部長室をあとにするのだった。
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