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第1章 竜の巣編

エンドラグナロク

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「何をしたか知らんが機功竜人では不足のようだな」

 空中の私を見上げながら、ガルガームは不敵な笑いをこぼした。
 にしても私、ずいぶんと高くジャンプしたもんだ。
 ステータスによる身体能力の強化、おそるべし。

「ここに来るまでにいた機功竜人は、全部倒してきた」

「そうか。ならこちらも少し本気を出そう」

 ガルガームの視線が上を向く。
 逃げようと体を動かす素振りはない。
 もう少しで手が届く………!

「来い。機功竜マシンドラグ壱号機・モデル『毒竜ヒドラ』」

 突如、上から巨大な物体が降ってくる。
 飛び上がっていた私は、その大きな何かによって地面に叩きつけられた。
 まあノーダメージなんだけど。

 機功竜マシンドラグという名の通り、見た目は完全に竜だ。
 3つの頭を持ち、体は紫色で粘液に覆われている。
 多分、あの粘液も毒なんだろう。

機功竜マシンドラグは、本物の竜の死体から作った俺の機功戦士の最高傑作だ。これでひねり潰してやる。【毒霰ガトリング】」

 毒竜ヒドラが3つの口を開き、紫の弾丸を乱射した。
 無数のあられのように降り注ぐ毒の弾丸だ。
 威力はもちろん、毒性もかなり強そうだね。
 ティガスを避難させておいて良かった。

「ふーん……?」

 攻撃が止まると、ガルガームは不思議そうに言った。

「人間なら、一発でも食らえば即死の猛毒だ。全部避けた……ってことか」

 本当は【毒無効】のおかげ。
 何発か当たってはいたけれど、効かなかっただけだ。
 でもまあ、無駄に手の内を明かすこともない。

「まあいい。【巨毒砲キャノン】」

 毒竜ヒドラが再び口を開く。
 さっきみたいな量で押す乱射じゃないけど、今度は一撃一撃が大きい。
 これはいいね。使える。

「【収納ストレージ】!」

 私は放たれた巨大な紫色の毒弾を、アイテムボックスへとしまった。
 さらにもう一発、もう一発と撃たれる弾を収納していく。

「なっ……!?」

 私が次々に攻撃を消し去る様子に、ガルガームはカッと目を開いた。
 触れれば即死の毒に自ら手を伸ばして、無傷なばかりか消滅させるんだから驚くのも無理はない。

「……毒は効かないんだな?」

 じろりとこちらを睨むガルガーム。
 ようやく気付いたみたいだ。

「なら実力行使だ」

 その言葉と共に、毒竜ヒドラがこちらへ突進してくる。
 毒が効かないから、物理的にバラバラにしようってわけだ。
 まあそれすらも効かないんだけど……

 右から、左から、正面から毒竜ヒドラの頭が迫る。
 私は素早い動きで左右からの攻撃をかわし、正面の頭の下へともぐりこんだ。
 そして長い首に手を触れる。
 ううっ、毒の粘液ってねちょねちょ感がすごいなぁ。
 それでもダメージを受けることなく、私は毒竜ヒドラそのものを収納した。
 にわかにガルガームが慌て始める。

「人間ごときがぁ……! 機功竜マシンドラグはこれだけじゃないぞ!」

 そういえば毒竜ヒドラは壱号機って言ってた。
 それなら弐号機があるはず。
 私はさっき毒竜ヒドラが降ってきた上部を見上げる。

機功竜マシンドラグ弐号機・モデル『雷竜サンダードラグ』! 参号機・モデル『鋼竜メタルドラグ』!」

 同時に2体、大きな体が降ってくる。
 黄色の体、雷竜サンダードラグは、地面を待つことなくその口を開いた。

「【雷電一閃サンダースピア】!」

 一筋の強烈な稲妻が、私の頭頂部から足元までを高速で貫く。
 あー、【電撃無効】を取っておいて良かった。
 無傷無傷。死なない死なない。

「【鋼体直降デスプレス】!」

 安心したのも束の間。
 鋼竜メタルドラグの方はといえば、自らの硬さと重さで潰しにきた。
 あえなく、私は巨体の下敷きになる。

「ふぐっ……!」

 痛くはないし怪我もしないんだけど、すっぽり完全に乗っかられたせいで息ができない。

「死んだかぁ!?」

 ガルガームの声が響く。
 バカ言っちゃいけないよ。

「うおえーい!(【収納ストレージ】!)」

 私は覆いかぶさる鋼竜メタルドラグを収納して脱出する。
 そこへ襲ったのは雷竜サンダードラグの一撃。
 それもまたアイテムボックスにしまうと、本体の足を掴んだ。

「【収納ストレージ】!」

 機功竜マシンドラグ3体。
 その全てを失い、ガルガームは忌々し気にこちらをみる。
 しかし、その体はわずかに震えていた。

「さてと」

 私は鋭い視線と共に、一歩前に出た。

「血をもらうよ」

「くそっ……!」

 ガルガームは戦うのではなく、逃亡を選択した。
 洞窟の天井を突き破り、地上へと向かう。
 さては、戦いに自信がないんだな?
 だから機功戦士や機功竜マシンドラグに、戦闘を任せて自分は高みの見物をしていたんだ。

「ん?」

 ガルガームが飛び上がった衝撃で、カランカランと何かが転がり落ちてきた。
 これは……機功竜マシンドラグの操作盤だ!
 しかもご丁寧に、どこをどうすれば動かせるのかが書いてある。
 これはしめたっ!

「逃がさない! 【解放リリース】! 噛み付けぇ!」

 さっき収納したばかりの雷竜サンダードラグに、ガルガームの尾へと噛みつかせる。
 そして私自身は、雷竜サンダードラグの尻尾に掴まった。
 振り落とされないよう必死になりながら、ガルガームに続いて地上に飛び出す。

「痛えなぁ!」

 ガルガームは強引に尾を振り回し、雷竜サンダードラグを払いのける。
 崖に激突した黄色の機功竜マシンドラグを、私は再び収納した。

「なぜ生きていられる……! なぜ毒も雷も重さも効かない!?」

「効かないよ。無効なんだから」

 何事だと、洞窟から次々に人が出てきた。
 そしてガルガームを見ては、中へと引っ込み入口から様子をうかがっている。
 みんな、奴隷として連れてこられた人たちみたいだ。
 思ったよりも多いな。
 でも複雑な地下王宮を作るためには、これくらいは必要なのかもしれない。

「悪いけど、手加減するつもりはないから」

 私はガルガームに一歩一歩近づいていく。
 向こうの方も、大口を開けて牙をのぞかせた。
 逃亡に失敗した今、最後の悪あがきってところだろう。

「【竜頭炎射フレイムスロワー】!」

 ガルガームが放った炎の柱が、こちらへ一直線に伸びてくる。
 自分で火を噴いたんじゃない。
 火炎放射器みたいなものを、口の中に仕込んでいたみたいだ。
 さすがは機功の竜ってところだね。

「燃え尽きろぉぉぉぉ!!」

 ガルガームの咆哮と共に、火の勢いが一層強まり私を吞み込んだ。

「やばい!」
「お嬢ちゃん!」
「ミオォォォォォン!!」

 洞窟の奴隷たちから心配する声が飛ぶ。
 私の名前を知ってるってことは、ガン、グル、ギアもこれを見ているんだね。

「【合成シンセシス】」

 豪炎の中で、私は静かに呟く。
収納ストレージ】に【解放リリース】、【解体ディセクション】や【増幅アンプリフィケーション】に次ぐ第五の機能。
 アイテムボックスの中に入っているものを掛け合わせる【合成シンセシス】だ。
 ゲームでは、アイテムを作るのにずいぶん役立った。
 今回合成するのは収納しておいた攻撃たちだ。
 サラマンダーの毒炎、毒竜ヒドラの毒弾、雷竜サンダードラグの雷撃。
 そして……

「【収納ストレージ】。【合成シンセシス】」

 ガルガームの炎もまた、収納して合成した。

「た、立ってる……」
「おいおい。焦げ一つついてないぞ!」
「ミオンって何者なんだ……」

 どよめくギャラリーの奴隷たち。
 渾身の攻撃をもってしても私を倒せなかったガルガームは、ぶるっと体を震わせた。

「【増幅アンプリフィケーション】」

 私はガルガームに向けて、すっと右手を伸ばした。

 ティガスの戦いを。
 フェンリアの苦しみを。
 ニナの強がりを。

 全てを終わらせる時だ。

「【解放リリース】」

 かざした右手の先に現れたのは、収納してあった攻撃を全て合成して増幅した最強の一撃。

「【炎毒雷竜啼落エンドラグナロク】!!!」

 炎も毒も雷も全てが混ざり合った柱状の攻撃が、ガルガームの腹部を貫く。

「ガアアアアアアアア!!!!!!」

 断末魔の咆哮をあげて、ガルガームは地面に崩れ落ちた。
 そしてもう、ピクリとも動かない。
 巨体が倒れた衝撃で舞った土埃が晴れて数秒後。
 奴隷として働かされてきたみんなが歓声を上げた。

「ガルガームが死んだぁぁぁぁ!」
「やったぞ! 解放だ!」
「こんなことが起きるなんて!」
「信じられないけど現実だ!」

 私はガルガームの死体へ近づくと、丁寧に血を採取した。
 これがあれば、フェンリアの病気を治すことができる。

「みんな!」

 私は振り返って、歓喜に沸く元奴隷たちに声を掛けた。

「ここから出たいでしょ?」

「うおおおお!」

 男たちが歓声を上げる。
 絶壁に囲まれた深い谷底。
 さて、脱出方法は……

「【解放リリース】!」

 私は2体の機功竜マシンドラグ雷竜サンダードラグ鋼竜メタルドラグを取り出した。
 操作盤があるし、これに乗って脱出するとしよう。
 毒竜ヒドラには、みんなを乗せられないね。
 触った瞬間に即死だ。

 新たな竜の出現に驚いた元奴隷たちも、「機功竜マシンドラグか」と落ち着きを取り戻した。
 この竜たちは有名だったみたいだ。
 それにしても、なかなかいい武器を手に入れたよ。

「二手に分かれて竜の背に乗って!」

 巨大な体のおかげで、谷底にいた全員が乗り切ることができた。

「漏れた人はいない?」

 私は後ろで鋼竜メタルドラグの背にしがみつくガンに尋ねた。

「ちゃんとそろってる。誰も置き去りはいないぜ」

「よーし!」

 私はわずかにのぞく空を見上げると、2体の機功竜マシンドラグを飛び上がらせた。
 一目散に、崖の上へと飛び上がっていく。

「行くよ~! 脱出だぁ!」

 一刻も早く、村に帰ってニナを安心させないとね。
 そして竜の血をしっかり届ける。
 お父さんという最高のプレゼントと一緒に。
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