アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

メルメア

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第1章 竜の巣編

ティガスの真実

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 一夜明け、お昼くらいになって谷の上部へと到着した。
 竜がいるというのは谷底。
 かなりの深さがあるようで、谷底は暗く様子はほとんどうかがえない。
 ただ、時おり地鳴りのような音がしていて、振動が私の立っている場所まで伝わってきていた。

「よし、行くか」

 【落下無効】を盾に、私は深い谷底へと飛び降りる。
 数秒間の自由落下の後、両足で地面に着地した。
 普通は全身の骨が粉砕されてるところだね。
 偉大なり、【落下無効】。

 谷底は太陽の光が十分に届かず、かなり薄暗い。
 竜はどこにいるんだろ……。
 取りあえず歩いてみるか。

 特にあてもなく進んでいると、ぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。
 そこまで大きなものじゃない。
 勝手なイメージだけど、大人の竜のサイズじゃ入れなそうだね。
 でも何か手掛かりがあるかもしれないので入ってみる。

「うーん、真っ暗」

 さすがに洞窟の中ともなれば、太陽の光が全く入らず真っ暗だ。
 夜目を活かして歩いていると、奥から話し声が聞こえてきた。
 複数の人間がいるらしい。
 敵か味方か、足音を殺して慎重に近づく。

 洞窟の行き止まりにいたのは、3人の男だった。
 全員、ぼろぼろの服を着ていて、顔は土埃で汚れている。
 まだ私には気付いていないみたいだ。

「こんにちは」

 私が声を掛けると、男たちは驚いてその場から飛びのいた。
 そしてツルハシやらハンマーやら、手元にあった工具をこちらに向けて構える。

「だ、誰だっ!」

「おっと安心して。私は今のところ、あなたたちに危害を加えるつもりはないから」

「ん、あ、人間じゃねえか……。それも女だ」

 男たちは私の姿を認識して、構えていた工具を降ろした。
 そして地面に腰を下ろす。

「あんた、名前は?」

「ミオンだよ。みんなは?」

「俺はガン」

「俺はグル」

「俺はギア。みんなここで働いてんだ」

「ガンにグルにギアね。ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」

「おう。何でも聞いてくれ。さらわれ者同士、お互いに助け合っていこう」

「さらわれ者?」

 私が首を傾げると、男たちもまたきょとんとした。

「お嬢ちゃん、さらわれてきたんじゃねえのか?」

「違うよ」

「じゃあどうやって来た?」

「どうやってって……自分の意思で来たんだけど」

 私の返答に、男たちはますますきょとんとする。
 ガンが言った。

「バカなこと言うんじゃねえ。ここは深い深い谷底だぞ? それも四方八方を崖や大岩に囲まれてんだ。自分から入ってくるのは不可能だぜ?」

「じゃあみんなはどうやって来たの?」

「さらわれたんだよ、竜に」

 竜。
 やっぱりこの近くに竜がいるんだね。
 そして彼らはここへ連れてこられて、働かされているようだ。
 竜についてグルが教えてくれる。

「竜、名前はガルガームという。このガルガームに限らず、竜は人間を見下してる。だから労働力として適当に人間をさらってきては、奴隷としてあれこれ働かせるんだ。俺らは運悪く、その奴隷に選ばれてしまったってわけだよ」

「ということは、あなたたち以外にも奴隷にされてる人たちがいるの?」

「いる。女は非力だっていうことで、みんながみんな男だけどな。俺たちはここへ来て10年になるけど、女性を見たのはミオンが初めてだ。自分から来たなんて奴も……」

 ここまで言って、グルは神妙な顔になる。
 しばらくの間の後、彼は再び話し始めた。

「自分から来た奴はミオンが初めてじゃないな。もう一人だけいた」

 私以外に竜の巣へ自ら乗り込んだ人物。
 まさか……

「それってティガスっていう人?」

 私が尋ねると、3人は驚いて目を見開いた。

「ティガスを知ってるのか!? あいつの知り合いなのか!?」

「知ってる。あなたたちも彼を知ってるんだね?」

「もちろんだ。あの高い崖を血だらけになりながら下ってきて、ガルガームに頭を下げた男だ。あまりに衝撃的だった」

 私は【落下無効】を持っているからこそ、一瞬で飛び降りることができた。
 でもティガスは、この崖を逆ロッククライミングしたらしい。
 とんでもないパワーと体力、そして精神力だ。
 想像以上に怪物級の男みたいだね。

「目的は竜血茸だよね? それで頭を下げてどうなったの?」

「竜血茸……そこまで知ってるなら、話は早いな。ティガスは自分の事情を話した。でもな、人間の妻が病気だとか、幼い娘がいるとか、竜にとってそんなことはどうでもいい。興味がないんだ。ガルガームはティガスの願いをはねつけた」

「じゃあティガスは……」

「いや、その場では死ななかったぜ。願いを断ったガルガームも、自力で谷底へたどり着いたその体力には感心したんだ。それでこんな条件を出した」

 ギアが7本の指を立てる。

「7年間、ガルガームの元で働き続ければ、血をやってもいいと言ったんだ。ティガスはその条件に同意した」

 7年間か。
 フェンリアが蛇経茸を食べてしまったのが、確か8年前のこと。
 そこからティガスが懸命に竜の巣を探し、そしてここへやってきたとすれば……

「その7年って、もうすぐ期限なんじゃない?」

「いや、もう期限は過ぎた。ちょうど昨日な」

「ていうことはティガスは竜の血を手に入れたんだね!?」

 何というタイミング。
 毒の暴走が始まったタイミングで、ティガスが竜の血を手に入れていたとは。
 入れ違いに、今ごろ彼は村に戻っているかもしれな……あれ?
 心なしか、3人の顔が暗い。

「甘いな、ミオン。さっきも言った通り、竜は人間を見下している。ガルガームは約束を破った」

「じゃあ竜の血は……」

「手に入っていないさ。だまされたと知ったティガスは最終手段に出た。ガルガームに勝負を挑んだんだ」

「結果は……?」

「さあな。昨日の時点では決着はついていなかった。恐ろしい男だぜ。劣悪な環境で7年も働き続けて、なお竜と戦えるんだからな。でもまあ、そろそろ限界だろ」

 谷の上にいた時に響いていた地鳴り、振動は、その戦いのものだったのかもしれない。
 まだ戦いが続いているなら、ティガスが生きている可能性があるなら、一刻も早くその場所に向かわないと。

「彼らはどこで戦ってるの?」

「おい正気か? 行ったところで弾き飛ばされるだけだぞ?」

「いいから早く! ティガスと奥さんの命がかかってるの!」

 私は必死に訴えかける。
 もしティガスがまだ生きていてくれたら。
 竜の血、そして父親もニナに届けることができる。
 本当に本当に、彼女が無理をして強くいようとする必要はなくなるんだ。
 少しの沈黙の後、ガンがおもむろに口を開いた。

「……分かった。場所は教える。だけど案内までは無理だ。そこは恨まないでくれ」

「それでいいから。どこなの?」

「洞窟を出て左へまっすぐ進め。そしたら右手に洞窟がいくつか出てくる。そのうち3つ目に出てきた洞窟に入るんだ。そこがガルガームの地下王宮の入口になってる」

「分かった。ありがとう」

「見張りもいるぞ。ガルガームはまたの名を“機功の竜”。奴の作った機功戦士や罠が侵入者を阻む」

「それは大事なことを聞いた。気を付けるよ」

 私が踵を返すと、背中越しにギアが尋ねた。

「ミオン、お前はティガスの家族じゃないんだろ?」

「うん。本人とは会ったこともないよ」

「じゃあなんで、そんな死にに行くようなことができる?」

「彼の奥さんと娘と約束したんだよ。絶対に助けるって。それに」

 私は振り返って笑った。

「私、絶対に死んだりしないからさ」

 私は一目散に洞窟を飛び出し、言われた通り左へ進む。
 ガン、グル、ギアの言っていた通り、文字通りの対話が通じる相手じゃない。
 残された手段は力と力の対話。ガルガームに戦って勝つことだけだ。

「もう少し粘って……死なないでね……!」

 ティガスへの願いを口にして、私は一段と加速した。
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