アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

メルメア

文字の大きさ
上 下
3 / 37
第1章 竜の巣編

村長とニナの母親と毒キノコ

しおりを挟む
 ニナと一緒に崖伝いに歩き、そして丘の上へと登っていく。
 さっき私が飛び降りた丘とは、また別の場所だ。
 もともと別の丘だったのか、それとも工事をしたのかは分からないけど、2つの丘が並んでいてその間が道になっている。

「これが正規のルートなんだねぇ……」

「仮に道を知らなくても、普通は飛び降りたりしないんですが」

「いやー、まさか誰かいるとは思わなかったよ」

「人がいる、いないの問題でもないんですが……?」

 丘の中腹、緑の中に村が見えてきた。
 数十の簡単な造りの家が建ち並んでいて、元気よく駆けまわる子供や働いている大人たちがいる。

「面白いところに村があるね」

「最初は崖の下に会ったんです。でも、津波みたいな災害に何度も襲われるので、丘の上に移転したんですよ。といっても、私が生まれる前の話ですが」

 なるほど。
 崖がえぐれていたのは、どうやら風だけのせいじゃないみたいだ。

「ここは漁村?」

「そうですよ。魚を獲って、それを自分たちで食べたり売ったりして生きています」

「ニナのお父さんも海に出るの?」

「あ、いえ、お父さんは……」

 ニナは少し暗い顔をして黙ってしまった。
 そういえば、最初に「お母さんと村のみんなと暮らしてる」って言ってたな。
 事情がありそうだ。

「ごめんごめん。気にしないで」

「は、はい。村長さんにミオンさんのことを話してきますね。ちょっと待っていてください」

 私を村の入口に残して、ニナは中へと走っていく。
 そして数分後、白髭をたくわえたお爺さんと一緒に戻ってきた。

「村長のミョンさんです。ミョン爺、こちらがミオンさんです」

「何でも旅人さんということで。ようこそ、キンシャ村へ」

「どうも。よろしくね」

 村長、改めミョン爺と握手を交わす。
 見た目から雰囲気からザ・村長って感じだ。

「ニナ。お母さんの薬の時間じゃないかい?」

「そうだった! ミオンさん、薬草を」

「はいはい。【解放リリース】っと」

 私が籠を手渡すと、ニナは村の中へ走っていった。
 村の入口には私とミョン爺が残される。

「しっかりした子だね」

「そうじゃろう。病気の母親の世話をして、村の仕事を手伝って……。ようやっとるわい。村の仕事はやらんで遊んでもいいと言っとるんじゃが、本人は働くのが楽しいって言うんじゃから頭が上がらん」

 本当に偉いなぁ。
 全く働かなかった楠木美音とかいう奴が恥ずかしい。

「ニナから聞いたぞ。おぬし、崖から飛び降りて無傷だったそうじゃな」

「ははは……。まあね」

「特に何があるわけでもない漁村じゃが、旅人をもてなすくらいはできる。ゆっくりしていくといい」

「助かるよ。この辺のこと、何も分からなくて」

「はて。ここはミグリム大陸の最北端じゃぞ。南方から来たのであれば、何も知らぬことはあるまい。まさかおぬし、海を越えて来おったのか?」

「そうだったとしたらどうなるの?」

「おぬしがよっぽど強いか、よっぽど運が良いかのどちらかじゃ」

 まあ運が良かったのじゃろうと笑って、ミョン爺は私を村へと招き入れた。
 ふむ。
 見た目にはきれいな海だけど、どうやら何かあるみたいだね。

「今日は海に感謝を表す日でな。村中のみんなで宴会を開く。おぬしも参加するといい。歓迎するぞ」

「ありがとう。お腹ペコペコだよ」

「そうかそうか。魚は好きか?」

「もっちろん」

 何せ生魚を食べる国から転生してきた女ですから。
 魚といえば米や醤油だけど……さすがに異世界に期待しすぎない方がいいよね。



 ※ ※ ※ ※



 村の子供たちと遊んでいたら、あっという間に夜になった。
 異世界にも鬼ごっこがあったとは大発見だよ。

「あっという間に馴染んでしまったな」

 隣に座るミョン爺が笑った。
 村のみんなが大きな焚き火を囲んで座っている。
 私の左隣にはニナがいた。

「みんな明るい子たちだったからね。久しぶりに鬼ごっこなんてしたよ」

「何よりじゃ。さあ、魚がある。木の実もある。運よくイノシシが狩れたので肉もある。好きなものを食うといい。遠慮はいらんぞ」

「ありがとう」

 私は早速、魚の塩焼きに手を伸ばす。
 うん、ほっとする美味しさだ。
 でもまさか、異世界に来て最初に食べるものが魚の塩焼きとは思わなかったなぁ。

 隣を見ると、ニナが食事を丁寧に皿へ盛り付けていた。
 そしてそれを持って立ち上がる。
 お母さんのところへ運ぶみたいだ。
 私も立ち上がると、彼女の後を追った。

「お母さんに運んであげるの?」

「そうです。食べられるかは分かりませんが……」

「お母さん、そんなに体調が悪いんだ」

「はい。私が毎日摘んでいる薬草も、少し楽にするだけで病気を治すものじゃないんです。だから……」

「そうかぁ……」

 こればっかりは私も医者じゃないからどうしようもない。
 あいにく、アイテムボックスは引き継がれていたけど中身は空っぽだったし。
 中身もそのままだったら、ポーションがあったんだけどね。
 それでも、効くかは微妙なところだ。

 ニナの家に入ると、ベッドに青白い顔の女性が横たわっていた。
 彼女のがニナのお母さんか。
 確かに体調は芳しくなさそうだ。
 食べられないのか、ほっそりと痩せてしまっている。

「お母さん、宴の食事を持ってきてみたけど……」

 ニナの問いかけに、お母さんは小さく首を横に振った。
 やはり食べられないらしい。

「そちらの……方は……?」

 か細い声を発しながら、お母さんが私を見る。
 私は一歩前に出ると、彼女の手を握ってあいさつした。

「初めまして。名前はミオン。旅人なんだけど、ニナと会って村へ案内してもらったの」

「そう……。私は……フェンリア……。ごほっ……げほっ……。この子の……母親よ……」

 ときおり咳を交えながら、フェンリアが何とか自己紹介する。
 この距離でニナが毎日看病してても平気ってことは、人から人へ感染する類のものじゃないってことか。
 でも私に分かるのはそれくらいで、はっきりとした病名を診断することはできない。

「ニナ……お湯を……」

「分かった」

 ニナが木製のコップに入れたお湯を手渡す。
 フェンリアはふらふらと体を起こし、それを少しだけ飲んだ。

「ごめんね……ニナ……。せっかくの宴なのに……」

「気にしないで。お母さんのことが一番に大事だから」

「私があんなものを……食べなければ……」

「大丈夫だよ。私は楽しくやってるんだから。ほら、横になって楽にして」

 ニナに言われるがままに、フェンリアは再び横になった。
 薄暗い家の中に重い空気が流れる。

「フェンリアの病気は何かを食べてしまったことが理由なの?」

「はい」

 私の質問に、ニナは神妙な顔で頷いた。

「蛇経茸ってご存じですか?」

「ごめん。知らない」

「毒キノコの一種なんです。見た目には普通のキノコなんですが、質の悪い猛毒を持っています」

「質の悪い?」

「はい。普通、毒キノコって食べてしまったら数日のうちに亡くなってしまいますよね? でも蛇経茸の毒は、10年、20年と長い期間にわたって食べた人を苦しめるんです。お母さんは8年前からずっと、この毒に苦しみ続けているんです」

「治す方法っていうか、解毒する方法はないの?」

「一つだけあります。竜血茸というこれまたキノコなんですが、それが蛇経茸に対する唯一の解毒剤です。でも……」

「入手は困難、と」

「はい。父も竜血茸を探しに行ったっきり……」

 初めて、気丈だったニナの瞳に涙が浮かぶ。
 私はそっと彼女の肩を抱き寄せた。
 お父さんがいないのはそういうわけだったのか。

「すみません。今日あったばかりの人にこんな話を……。ミオンさん、あっという間に村に溶け込んでて不思議な人だなと思ったらつい……」

「いいよ。聞かせてくれてありがとう。お父さんが竜血茸を探しに行ったってことは、ある程度の当てがあったんでしょ?」

「それは、まあ……」

「じゃあ私が採りに行く」

 せっかくのチート能力。
 ここで活かさなくってどうするんだ。

「む、無茶ですよ! だってあそこは……」

 ニナが何かを言いかけた瞬間、外から大きな鐘の音が聞こえてきた。
 続けて危険を知らせる声が響く。

「モンスターの襲撃だぁぁぁぁ!」

 抱き寄せていたニナの肩が、びくりと震えた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...