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一章 10歳になって
49、騒ぎの後は休息を 1(兵士たちの裏仕事)
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部屋の中、突然投げ込まれた炎に男は悲鳴を上げる。彼は素早くガタイのいい男二人の影に隠れ、まだ名前もロクに覚えていない用心棒へ指示を出す。
「お、おいお前! 避難だ!! 地下へ行け! 研究室の奥に地上へあがる通路がある! 私をそこまで護衛しろ!!」
ガタイのいい男たちは端からともに行く事前提なので、この屋敷に居座るボスは組織に入りたての青年にだけ声を上げた。
カザリットは頭を掻き「はいはい。りょうかいでーす」と彼の言葉に従う。
二階の部屋からでると、もうそこにはまばらに火の手が上がっている。廊下を通る際、火炎瓶が投げ込まれ4人の横を転がった。既にガラスの割られていた窓枠から入ってきたそれは、ごとりと重い音を立てて絨毯の上に火を移す。
ボスは情けない声を上げて隣の男にしがみつく。掌をむけ、炎の上に水を落とし鎮火する。
そんな彼など視界に入ってないように、カザリットは腰にかけた剣を抜き、その剣先にまだ小さな火を灯す瓶の口をひっかけ目の高さに持ち上げた。
「火炎瓶たぁ、手荒な方法だな。一体どこのどいつらだ?」
何とも緊張感のない言葉で、持ち上げた火炎瓶を窓の外へと投げ返す。
窓の外には庭先に敵とも見方ともわらかぬ男たちがぶつかり合っていた。
拳での攻防、武器での攻防、魔法での攻防。地面が抉れ、綺麗だった芝生が台無しだ。
「公爵が来たんだ! あいつら……今夜だなんて聞いていないぞ! どういうことだ……!!」
「んなわけないだろう。こんな雑な……。けどその情報もデマ掴まされたんだろうな。ま、俺らはさっさと避難しましょう」
階段をジグザグと下り地下へ向かう。
合間の階で、そこかしこから男たちの野太い声が聞こえてくる。
絡んでくる者を弾き飛ばしながら、四人はわき目もふらず地下へ直行する。
研究室はもぬけの殻だった。あれだけ地上に人が居たのだ。多少は人が居ても良いはずだがどうした事か。
カザリットが静まり返った研究室の中へ入り辺りを見回すと、人影が一つ椅子から立ち上がるように動く。
「おや。カザリット」
「ワズナー、これお前がやったのか」
部屋の中、よく見れば倒れた椅子や機材に紛れ、数人の男たちが伸びていた。
「ええ、色々と整理中に暴れだすものですから」とワズナーは肩をすくめる。
「他の研究員たちは外の騒ぎを聞きつけた時すぐに逃げていきましたよ。皆さん上手くやってくれてるといいんですが」
「お前、意外とやるんだな」
カザリットは含みのある笑みを浮かべる。
「おい何してる! その先だ。早くいくぞ!」
カザリットの様子を見て、部屋の安全を確認したボスが急いた声を上げた。
「そちらは?」
ワズナーの視線。
「あぁ……俺らのボス様だ」
「なるほど」
研究室の奥にはあの薬の開発者の男が蹲っていた。ワズナーが「そこにじっとしているように」と指示を出していたためだ。
カザリットはその研究者も引き連れ、奥の扉を開き狭い通路を抜け地上に上がる。最後尾のしんがりを務めるのはワズナーだ。
「おまえ、何ぶつぶつ一人で言ってんだ?」
天井の低い中、ワズナーの前を中腰で歩く男が僅かに振り返り尋ねる。
「すみません、薬剤師なもので、あの薬の調合内容を忘れないよう、つい」
「はぁ。職業病か。けど通路の存在に気づかれないよう気を付けろよ」
「はい」
屋敷の裏手の林の中。すぐ近くに屋敷が見える位置に小さな小屋がある。そこの扉が小さくきしむ音を上げて開かれた。
外に出ると、「くぅ~!」とカザリットが伸びをする。
ボスは現状に毒づきながら、カザリットの後に続く。木々の隙間から入り込む月明かりの元、彼は目を見開きピタリと静止した。
扉の外には槍を構えた兵士たちがぐるりと弧を描き扉の前を包囲していたのだ。
「これはどういう」
ボスなる男はカザリットを見やる。
「よう、ボス。約束通り外まで護衛したぜ」
にやりと笑む青年に、男は「やられた」という表情をうかべ、瞬時に後ろの通路を振り返る。
すると通路に繋がる床に空いた扉の前には、ガタイのいい男たちが既に気を失って倒れていた。それをあの薬剤師の青年が後ろ手に縛りあげている。
彼は男の視線に気づき懐から銀の筒を取り出して振って見せた。「すみません」と全く心の籠ってない謝罪を口にし穏やかな笑みを浮かべる。
「お、まえら、そんな……」
「安心しな。ちゃんとお役所までも護衛してやる。こいつらがな」
―――自分が連れていた護衛は公爵側の密偵だった。
やっとその事実に気付いた男は顔を青くしてその場にへたり込んだ。
***
次の日。
ストーレムの町役場にて、報告を受けたラーゼンは顔を強張らせた。
「死んだ?」
「はい。……昨晩は生きていましたので多分今朝早く。ほんの一瞬目を離したすきに。死因は毒だと……」
昨日捕まえた魔力増強剤をばらまいていた集団のボスの死の知らせを受け、ラーゼンは片手で顔を覆った。自分を落ち着かせるように深く息を吐く。
「おいおい。せっかく来てやったのに、役がそろわないってか? 公爵殿」
声を上げたのはゴウリウスだ。
その後ろにはアベルとワズナー、カザリットが控えていた。
アベルは静かに「隊長、公爵に失礼ですよ」と自分の上司を戒める。
「すまない。悠長だったようだ。まさか自殺とは……じさつ……本当に自殺か………………?」
ラーゼンは口を閉じて考え、「薬の作り手と伯爵は?」と役場の兵に尋ねた。
「あの二人は城の方に連行されましたのでこちらでは………」
「ふむ」とラーゼンは顎に手を触れる。
自殺か他殺かは断定できないが、薬の研究者の方は昨晩大分錯乱していた。「私じゃない! 私は偽物だ!」と散々喚き城へと連れて居たかれたのをラーゼンも他の者達も見ている。
今日はそれが事実かどうかは改め尋問する予定だったのだが……、もしかしたらそれが叶わなくなるかもしれない。
「急ぎ拘束した二人の安全の確保を。飲食は一切させず猿ぐつわを噛ませておけ。体も一切動けないよう拘束しろ。城に鳥か兵を飛ばせ」
通信機では城までの距離は圏外だ。「くそ」とラーゼンは零す。
「おいおい。まさかとは思うが口封じ対策か? 城の警備はそんなに甘かったかねぇ」
冗談めかしながら呆れるゴウリウスに、ラーゼンは深く濃い緑色の瞳を向ける。
「……どうだろうな」
数時間後、ラーゼンの元に城から連絡が入る。
―――伯爵と薬剤師が牢の中で自殺をした、と。
***
ネミッタ・ソネミーの一件から二週間が経っていた。
午前の授業を終えスレイニー先生に挨拶をすると、アルベラは「待ってました!」と言わんばかりに速足で自室へ向かい身支度をする。
今日は二週間ぶりの外出の日だ。今日を機に今後以前よりも自由に街へ行き来していいと両親からの承諾を貰っている。もちろん勉学をおろそかにしないという前提もありきだ。以前までは休日を何をするでもなく屋敷で過ごしていたアルベラだったが、これからは週二のそれらは屋敷の外へも意識を向けようと決めていた。
ぱたぱたと自室へ向かうお嬢様の姿に「微笑ましいものだ」とエリーは表情を崩す。
「エリー」
「奥様、何かしら?」
丁度自室から出てきたレミリアスがエントランスで外出の準備に向かおうとしていたエリーを呼びかける。
「あなた、この大陸の北東の国についてはご存知?」
急な質問にエリーは首をかしげるも「ええ」と頷く。
「あちらには三つの国がありますが、その三つの国の間を隔てる山岳地帯はご存知かしら?」
「はい、存じてますわ」
エリーは赤い口紅を差した唇に緩やかな弧を描かせる。
「あの山岳に面白い族が出ると先日小耳にはさみました。彼らについて、貴女何か知らないかしら?」
すっと細められる紫の瞳。
エリーは思い出す仕草をしながら話す。
「山岳地帯の無法者達の事ですね。私もあちらを通ってきたことがあるので多少は耳にはさみましたが……岩場に住み着く山賊としか。特に面白い話なんて合ったかしら……―――何かお国の間で問題でも?」
「いいえ。あちらとは大した問題は無いの。ただ、その無法者達の噂が面白かったものだから、知ってたら何か聞けないかと思って………そう。何も知らないなら仕方ないわね」
エリーは困ったように微笑み、「申し訳ありません」と頭を下げた。
レミリアスも微笑み返す。いつもの涼やかな笑みで。
「いいのよ、気にしないで」
(相変わらず考えの読めない)
エリーは頭を下げたまま苦笑し、すぐに表情を整え頭を上げる。
紫の瞳と青い瞳とが意味ありげに視線をぶつける。
準備のできたアルベラが自室からこちらへとやってくる音がする。ぱたぱたと階段を駆け下りてきた彼女に、レミリアスが「アルベラ、お気を付けなさい」と声を掛けた。
「はい、お母様」
注意されたにも関わらず相変わらずの早めの歩調。彼女は足取り軽く大人たちの元へ行くと「早く早く」と急くようにエリーを見上げた。
エリーはその姿に瞳を輝かせる。アルベラは何か嫌な気配を察し我が母を盾に身を隠した。
「もう、お嬢様のいじわる!」
「エリー、良いから早く。馬の準備をして頂戴」
アルベラが母の影から睨みつけるとオカマは「はーい」と鼻にかかるような声で返事をして玄関から外へと出ていく。
「夕食までには戻るのですよ」
「はい。あの、お父様は今日もお役所に?」
「ええ。ですがそろそろ落ち着いてまたいつもの時間に返ってくるようになるでしょう」
「そう。公爵って結構大変なのね」
娘の言葉にレミリアスはクスリと笑んで「そうですね」と返した。
母と使用人に見送られ、アルベラはエリーと馬に二人乗りで街へ向かう。
今度授業に乗馬を入れてもらえる事になったため、道中エリーの軽いレクチャーを受けながら進んでいた。
「そうだエリー。街に行ったらあの香水調達できない? 伯爵捕まえる時に使った奴」
「ああ……」と頷きエリーは少し考える。
「あの香水ですか。どうでしょう……。似た物ならあると思いますが、同じものは見つかるか」
「似たものでいいの。あの、何とかって獣のフェロモンだっけ? それが使われてれば」
「安物だとちゃんと入ってるかも怪しいですよ? 入っててもごくわずかだったりしますし。ま、品物を見て判断しましょう。けどもうウンザリだって言ってませんでした?」
「うん。自分にはちょっと……」
「『自分には』って……まさか人にお使いになる気ですか?」
「場合によってはね。それに度合いによっては自白剤替わりとか人操ったりとかに使えそうじゃない?」
「人の心に作用する魔法や魔術って言うのは特殊ですからね……でなくてもお嬢様の魔法は直接人にかける物でもないですし、そこまで都合よくいくか……」
「なんでもいいわ。とりあえず実験あるのみ。どんなものがどういう効果になるか把握したいもの」
「そうですか、分かりました。―――けどお嬢様、リュージさんの時はちょっと嬉しそうにしてましたよね。あぁん、思い出して焼いちゃう!」
「リュージさんの時」とやらを思い出しアルベラは半笑いを浮かべた。
「あれは……そうね、惜しかったと思うわ」
事はフェロモンの香水とやらが場に充満しニーニャや伯爵がアルベラにメロメロになっていた時だ―――
伯爵との衝突と立ち込めた霧とで意識が朦朧とし始めていた様子のジーンを案じ、王子は彼に肩を貸し出口へと向かっていた。
扉はニーニャの魔法により封じられてしまっているが、一点に壁が寄せ集められたことにより、その周囲は厚みを削られやや脆くなっていた。更にジーンの爆発によりひびが入り、空気の流れが霧の揺れに現れ視認できた。
(ここだ……)
その脆そうな部分を探り王子が手のひらを壁に当てた。
「……なんだ?」とジーンは呻くように零した。
外のから賑やかな声と沢山の足音が聞こえてきたのだ。廊下の側にいる王子だけでなくアルベラの元にもそれらは届いていた。
―――また誰かが来る。
「おじょうざまぁぁぁぁぁ」と狂ったように声を上げすり寄っているニーニャと伯爵と魔獣以外に緊張が走った。
だが、すぐにアルベラは外から来たのが一体誰なのかを察した。
脆くなっていた壁が、至る所から外から乱暴に壊され「彼等」が姿を現す。
「クソガキ無事か!」
荒々しい声。
「りゅーじ……?」
まさか彼がここに来るとは、とアルベラは目を丸くした。
そしてそれに続き、「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」と荒々しい雄たけびが壁の穴を拡大して部屋に立ち入ってくる。
「嬢ちゃん無事か!? うわっ、なんだこの霧」
「外の奴らはかたずけておいたぜ! ん? エリーの姉さんはまだ来てないのか?」
「なぁんだ、思ったより無事そうだなぁ、嬢ちゃん」
室内が一気ににぎやかになる。ざっとみているのは十人前後。ということは二班が駆けつけてくれたのだろう。
なんだなんだと男たちが言いあってる間にゆっくりと口数が減っていき、室内はまた元の静けさになっていた。
ニーニャが興奮する声だけがやたら響く。
「……!?」
(こ……これはマサカ……)
不穏な空気を感じ取り、アルベラは冷や汗を浮かべた。
ファミリー構成員らの奥、アルベラは王子がジーンと共に壊れた壁をそろりと超えていくのを見つけた。
「え、あの、王子……わたし、も………」
アルベラが血の気の失せた声を出し手を伸ばしかけた時、室内に男たちの雄たけびが響き渡った。
アルベラは顔を青くし耳を塞ぐ。
男たちが何かを喚きながら自分の周りを取り囲った。
彼等の囲いの奥に今しがたきたであろうエリーまでがこちらに来て、その囲いに参加しているのが見えた。彼女と共に八郎も来ていたが、部屋に入って少しの所でその姿が突如消える。
どうやら床が薄くなった個所を踏み抜き下の階に落ちたらしい。彼のいた場所が崩れ黒い穴がぽっかりと開いているのが見た。
すぐさまエリーは男たちをかき分けニーニャの仲間入りをした。
「ああーーーー! お嬢様ぁ! 最高! いい匂い! スベスベ! つやつや! んはー!」
一気に力の加減が変わり、その圧と摩擦と匂いにアルベラの意識は薄まる。
「や、やめ………」
男達はといえば、エリーの器用な脚技とお互いに邪魔をしあってるのもありで、アルベラから一定の距離を空けていた。
「譲ちゃん! 俺と結婚しよう!」
「好きだー!! 俺をひもにしてくれー!!」
「俺妻子持ちだけど嬢ちゃんがいるならすぐ別れる! 嬢ちゃん、俺と結婚しよう!」
聞きたくもないのに聞こえてくる言葉の数々。嬉しさよりも恐怖が勝った。
(っていうか都合よくひもになろうとしてる奴誰だ!)
「―――黙れ、クソ野郎ども!!!!」
このままエリーに絞殺されて死ぬのではとアルベラが顔を青くし絶望している中、扉の方から場を一括する声が上がった。
空気が振動するような迫力に場が鎮まる。
「リュー、ジ?」
ニーニャはまだ頬ずりをしていたが、アルベラを抱きしめていたエリーの腕は緩んだ。
男たちがこの部屋に入る際に開けた穴により、室内の空気が換気され始めていた。もしかしたらこの霧が薄まったことでリュージにはこの魔法が効かなかったのかもしれない、とアルベラの胸に希望の光が差す。
(リュージ! 流石若旦那! 意外に頼りになる!)
アルベラの期待を込めた視線がリュージへと向けられる。
リュージは静かにアルベラの元へとやって来て、手下たちはその迫力に押されるように自然と道を開けた。まるでモーセだ、とアルベラは頭の片隅で思う。
アルベラの前に立つとリュージは静かに膝をついた。少女と男の視線の高さが同じになる。
やけに丁寧なその身振りに、アルベラの頭の上にはてなマークが浮かんだ。
「今まで悪かった」
「―――……………………は?」
「いや、だめだ。言葉だけじゃ気が済まねぇ、―――お嬢!!」
「―――!!!??」
アルベラの中でガラガラと希望や期待が崩れる音がした。
私はこの男に何を期待した。期待とは何だったか。希望とは何か。彼女の頭の中は真っ白になった。
「頼む、お嬢、俺を踏め!!」
「………………………………………お、じょう」
アルベラはふらりと揺らいだ。
部屋の外、廊下の方から「ぷふっ……!」と少年が吹き出す声が聞こえたのは気のせいではない。
顔を伏せ拳を握り、アルベラの肩は小刻みに震えていた。
この男。そうだこの男。
もともと何かあればつっかかってきて馬鹿にして。いい大人の癖に大人げなく張り合う一面もあった。そう。始めから仲良くできたことなどなかったのだ。―――丁度いいではないか。今回はこうして自ら謝り、許しを乞うてきてるのだ。
アルベラの中に、リュージに対する今までの「ちょっとした怒り」や「ちょっとした悔しさ」が沸き上がる。
こんな情けない姿、もう二度と拝めないかもしれない。それなら、この現状に乗らない手はないだろう。こんな子供の魔法に落ちた方が悪いのだ。恨むなら自分を恨め。
アルベラはニタリと笑んで顔をあげた。
(あんたが踏めって言ったんだからね……!!)
「リュージ、良い様ね。わかった、そんなに言うならお望み通り―――」
アルベラは片足を持ち上げ目の前の顔面へと容赦なくその靴底を向けた。
ぱし、と乾いた音。
そして自分の足が裏から掴まれる感覚。
「は……」
アルベラは硬直する。
「……おい」
「あ、あれ~……?」
「どういうつもりだ……クソガキ」
アルベラの靴が顔を踏みつける直前でそれを受け止めたリュージが、いかにも、明らかに、見るからに正気の淡々とした声で尋ねた。
アルベラはその瞳にの奥に、爛々と燃え盛る怒りの炎を見た。
「もう一度聞く。どういうつもりだ ク ソ ガ キ 」
***
「自分で踏めって言ったくせに凄い怒るんだもん。理不尽じゃない!? 大人の癖に情けない」
アルベラはやれやれと首を振った。「正気に戻る前にさっさと踏んでおけば良かった」と口を尖らす。
「ていうかエリー」
「はぁい~?」
「あれ本当に魔法に掛かってたの? 私にはただお祭り騒ぎに便乗してるようにしか見えなかったんだけど」
「そうでしたか? 皆さんも言ってましたが、魔法に掛かっている間の記憶も普通に残ってるので何とも………。私は確かに掛かってたと思うんですけどねぇ」
「くそ、このオカマめ………」
アルベラは小さく毒づき、エリーは余裕の笑みを浮かべていた。
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