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第三章 けだものでも、まおうでも
グレウスの返礼
しおりを挟む作戦会議は終わり、その日はそのまま義両親の所に泊まることになっていたのに……なぜ、私はカイナル様に抱き締めれて、自室で寝ているのでしょうか?
答えは、深夜私が寝ている部屋に忍込み運んだまま寝たからでした。
じゃないわよ!! さすがに、これはアウトよ!! アウト!! 年齢的にもね!! それに、婚約をしている状態だけど、結婚するまでは同衾は駄目でしょ!! あ~~外れない。抱き枕みたいに抱え込まれてる!!
「…………また、俺から離れようとするのか? 暴れるほど俺のことは嫌いなのか? だが、俺はどんな手を打ってもシアを離したりはしない。絶対、逃さない。逃がすものか。シアの全ては俺のものだ。なのに、シアは俺以外に肌を見せた。許さない。許さない。許さないよ、シア。ほんとに、シアは悪い子だな。躾をしなくては。でも大丈夫。俺は寛――」
病み度がさらに進んでる。嫌いって言って飛び出したのが悪化の原因だって、わかってはいるけど、自分の母親にも敵意を顕にするものなの!? 呆れるっていうか、ほんとカイナル様らしいわ。
私は小さな溜め息を吐くと、ジタバタするのを止めて大人しく抱き枕になることにした。
「離れたりはしませんよ。少し喧嘩をしただけじゃないですか……これから、長い時間を一緒に暮らすのですから、喧嘩ぐらいしますよ。寧ろ、しない方がおかしいですよ」
永遠に続きそうなので途中で遮った。
「……喧嘩は嫌だ。嫌いだと言われただけで、差し出し手を拒否されただけで、俺の胸は潰れそうに痛む。もう、あんな痛みは味わいたくない」
切実で悲壮感たっぷりで、ましてや泣きそうな声で、カイナル様は今の気持ちを吐露する。
大陸一の強さを持ち、数々の武運を若くしてあげたこの王国の英雄様――
軍馬に跨り王都を行進する姿は、本当に美しくて神々しくて、私は一生忘れないと思う。
あのカイナル様と今のカイナル様、どっちがいいかと訊かれたら、私は今のカイナル様を選ぶかな……病んでる時は厄介だけど、人間味があって温かいの……心も身体もね。カイナル様には絶対言わないけど。
「……カイナル様は、私に怒るなと言いました。カイナル様は怒って、伯爵家と連なる家に制裁を与えたのに」
「俺はシアの身が危険なことはしたくないだけだ!! なぜ、それをわかってくれないんだ」
「カイナル様が私の身を案じてくれたのはわかってます。私は人族ですから。でも、カイナル様が与えてくれた魔法具で、私は常に護られてます」
「だとしても――」
どう説明したら、カイナル様は気付いてくれるの。私がなぜ、ここまで怒っているのかを。
「私は自分が馬鹿にされて、蔑まれてたことに怒ってない。だってそうでしょ。私は平民なのは間違いなくて、容姿も華やかさなんて持ってないし、子供だし平凡だよ。私が怒ったのは、カイナル様が私のせいで馬鹿にされたから。番である私を非難することは、私を選んだカイナル様を非難することでしょ。だから、私は自分を囮にしようと思ったの。私が怒るのは、カイナル様が馬鹿にされたからだよ。大事な人を馬鹿にされたからだよ」
話の途中でそれは違うとか口を挟んできたけど、私は続けて言った。言葉遣いを気にする余裕なんてなかった。
「シア……」
カイナル様が優しく抱き締めようとした手を私は払い除け、ベッドから身体を起こした。
「だから、怒るななんて言わないで!! 私の感情を否定しないで!! お願いだからしないで……」
感情が一気に爆発したみたいだった。感情が高ぶりすぎて涙が出てしまう。妄想女が言っていた通り、今の私は馬鹿丸出し。わかってるのに、涙が止まらない。
すっごく、不細工な顔になってるよね。平凡な顔が益々酷くなってる。カイナル様、硬直してるし。
これ以上、泣き顔を見られたくなくて、私は寝巻きのまま部屋を飛び出した。カイナル様は追いかけてこなかった。
カイナル様の馬鹿――!!
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