39 / 45
第三章 けだものでも、まおうでも
エルフの尖り耳
しおりを挟む 僕はひざ丈ぐらいの短い患者衣を着せられて、救急車に乗せられた。
そのあとを親父が4WDでついてくる。
親父の車の中にはお袋と次兄、それから結衣が乗る。
救急病院から10分ほどでその病院についた。
海沿いの森の中にあって、どこか建物自体を隠しているように見えた。
目の前には老人ホームとラブホテル。
簡易的な手術は終わったものの、僕の左腕は血で赤く染まっている。
救急病院では太く短い糸で縫われただけで、きれいにしてもらえなかった。
血も固まりだして、腕をまげるのが困難だった。
救急隊員は冷たいほどに冷静だった。
僕に優しい言葉をくれるわけでもなく、ただ運転に注意しているだけ。
病院につくとそこからは歩かされた。
スリッパに患者衣で、なんとも情けない格好だった。
すぐに医師の診察室に誘導された。
部屋の中にいたのは中年の痩せた女医。
喋り方はとてもさばさばしているが、僕の話を真面目に聞いてくれる姿から信頼できるのかもしれない。
いや、今はとにかくこの人に頼るしかない……とか思っていたかもしれない。
あとから家族と結衣が部屋に入ってくる。
この時はすでにみんな冷静さを取り戻していた。
女医は僕に細かい話はとにかくしないで、「危険だから」と理由で入院をすすめられた。
程なくして、僕は閉鎖病棟に入れられた。
いや、半ば強制的にぶち込まれたというのが本音。
本当は結衣と一緒にいたかった。
けど自分で切ったとはいえ腕が痛む。
その治療も兼ねて、入院することにした。
大きなエレベーターに入るとがたいの良い看護師たちが僕を見張っている。
まるで僕が暴れ出すのを抑える護衛というより看守のようだった。
エレベーターから降りると、分厚いガラスで出来た二枚の自動ドアが見えた。
一枚目の隣りにインターホンがあって、奥のナースステーションから看護師が応答する。
「あ、どうぞ」
慣れた手つきで一枚目のドアを手動で開く。
一枚目と二枚目の間は人が10人以上は入れる余裕があった。
担架も二台ぐらい入りそう。
そこで奥から若い男の看護師がやってきて、病棟側から鍵を回す。
するとやっと二枚目のドアが開き、閉鎖病棟に入ることができた。
血だらけで真っ赤にそまった僕を見ても、誰も驚く様子はしなかった。
むしろ鋭い目で睨まれているようだった。
中に入るとちょうどL字の形で部屋が分かれていて、Lの角にあたるところが食堂。
それから左右に大部屋が複数あった。
異様な雰囲気だった。
よだれを流しながら、僕をじーっと見る人。
奇声をあげて暴れる人。
「誰だ、お前!」と突っかかってくる人。
僕が今まで入院した病院とは全然違って、健常な人間がいない……まるで、そうまるで動物園のようだと思った。
言い方が悪いけど、本当にそう思った。
二重ドアが閉まるとと共に僕は恐怖を覚え、安易に入院を選択したことを後悔した。
血だらけの僕に若い看護婦がこういった。
「もうすぐお昼ご飯だからね。食堂で待っててね」
僕は「この人バカなんじゃないの?」と思った。
さっきまで救急病院で手術を受けた人間がなんで自発的に食事をとろうと思うんだ?
しかも僕の左腕は未だに血だらけだ。
仕方ないと思った僕は「バカらしい」と思いつつ、食堂に入る。
普通の病院だったら自室でベッドの上で食べるのに……。
しかも僕は精神だけでなく、見たらわかる通りケガ人なのに、なんで食堂にまで足を運ばないといけないんだ。
食堂に大きなカーゴが現れた。
すると他の患者たちが無言で群がりだす。
みんな食事の入ったトレーを各々取ると、四角形のテーブルに座る。
ちょうど対面式で4人座れるボロボロのテーブルだ。
僕は片手が動かないので、黙って見ていた。
それに気がついた看護師が「空いている席に座りなよ」とぶっきらぼうに言う。
仕方ないので空いている席を見つけ、腰を下ろした。
見るからにまずそうな食事だった。
僕はさっき結衣とハンバーグを食べるって約束したのに……。
その結衣と家族たちは今、先ほどの女医から説明を受けている。
僕が箸を取ろうとしたその時だった。
「おいお前! そこの席は俺のだぞ! 勝手に座るな!」
髪が真っ白で坊主の初老の男が叫んだ。
すごく怒っている様子だった。
僕もイラっとした。
さっき入ったばかりでルールなんて知らないし、看護師に言われてすわっただけなのに。
そのおじさんを少し睨んでいると、近くにいたおじいちゃんが僕に声をかけた。
「ぼく、こっちおいで」
一番まともそうな人ですごく優しそうだった。
「ここはね、席が決まっているの。私の隣りはいつも空いているから今日から君の席だね」
そう笑顔で答えてくれた。
今日初めて見たひとの笑顔だった。
その優しさが少し辛かった。
さっきまで自殺願望があった僕なのに、今は必死に生きようとしている。
血で固まった左腕をブランと下ろして反対の腕でまずし飯を泣きながら食べた。
生きたくないって思っていたのに、どうしてこんな格好悪いことまでして生きなきゃいけないんだ。
僕は一年前までただの普通の健康な大学生だったのに……。
そのあとを親父が4WDでついてくる。
親父の車の中にはお袋と次兄、それから結衣が乗る。
救急病院から10分ほどでその病院についた。
海沿いの森の中にあって、どこか建物自体を隠しているように見えた。
目の前には老人ホームとラブホテル。
簡易的な手術は終わったものの、僕の左腕は血で赤く染まっている。
救急病院では太く短い糸で縫われただけで、きれいにしてもらえなかった。
血も固まりだして、腕をまげるのが困難だった。
救急隊員は冷たいほどに冷静だった。
僕に優しい言葉をくれるわけでもなく、ただ運転に注意しているだけ。
病院につくとそこからは歩かされた。
スリッパに患者衣で、なんとも情けない格好だった。
すぐに医師の診察室に誘導された。
部屋の中にいたのは中年の痩せた女医。
喋り方はとてもさばさばしているが、僕の話を真面目に聞いてくれる姿から信頼できるのかもしれない。
いや、今はとにかくこの人に頼るしかない……とか思っていたかもしれない。
あとから家族と結衣が部屋に入ってくる。
この時はすでにみんな冷静さを取り戻していた。
女医は僕に細かい話はとにかくしないで、「危険だから」と理由で入院をすすめられた。
程なくして、僕は閉鎖病棟に入れられた。
いや、半ば強制的にぶち込まれたというのが本音。
本当は結衣と一緒にいたかった。
けど自分で切ったとはいえ腕が痛む。
その治療も兼ねて、入院することにした。
大きなエレベーターに入るとがたいの良い看護師たちが僕を見張っている。
まるで僕が暴れ出すのを抑える護衛というより看守のようだった。
エレベーターから降りると、分厚いガラスで出来た二枚の自動ドアが見えた。
一枚目の隣りにインターホンがあって、奥のナースステーションから看護師が応答する。
「あ、どうぞ」
慣れた手つきで一枚目のドアを手動で開く。
一枚目と二枚目の間は人が10人以上は入れる余裕があった。
担架も二台ぐらい入りそう。
そこで奥から若い男の看護師がやってきて、病棟側から鍵を回す。
するとやっと二枚目のドアが開き、閉鎖病棟に入ることができた。
血だらけで真っ赤にそまった僕を見ても、誰も驚く様子はしなかった。
むしろ鋭い目で睨まれているようだった。
中に入るとちょうどL字の形で部屋が分かれていて、Lの角にあたるところが食堂。
それから左右に大部屋が複数あった。
異様な雰囲気だった。
よだれを流しながら、僕をじーっと見る人。
奇声をあげて暴れる人。
「誰だ、お前!」と突っかかってくる人。
僕が今まで入院した病院とは全然違って、健常な人間がいない……まるで、そうまるで動物園のようだと思った。
言い方が悪いけど、本当にそう思った。
二重ドアが閉まるとと共に僕は恐怖を覚え、安易に入院を選択したことを後悔した。
血だらけの僕に若い看護婦がこういった。
「もうすぐお昼ご飯だからね。食堂で待っててね」
僕は「この人バカなんじゃないの?」と思った。
さっきまで救急病院で手術を受けた人間がなんで自発的に食事をとろうと思うんだ?
しかも僕の左腕は未だに血だらけだ。
仕方ないと思った僕は「バカらしい」と思いつつ、食堂に入る。
普通の病院だったら自室でベッドの上で食べるのに……。
しかも僕は精神だけでなく、見たらわかる通りケガ人なのに、なんで食堂にまで足を運ばないといけないんだ。
食堂に大きなカーゴが現れた。
すると他の患者たちが無言で群がりだす。
みんな食事の入ったトレーを各々取ると、四角形のテーブルに座る。
ちょうど対面式で4人座れるボロボロのテーブルだ。
僕は片手が動かないので、黙って見ていた。
それに気がついた看護師が「空いている席に座りなよ」とぶっきらぼうに言う。
仕方ないので空いている席を見つけ、腰を下ろした。
見るからにまずそうな食事だった。
僕はさっき結衣とハンバーグを食べるって約束したのに……。
その結衣と家族たちは今、先ほどの女医から説明を受けている。
僕が箸を取ろうとしたその時だった。
「おいお前! そこの席は俺のだぞ! 勝手に座るな!」
髪が真っ白で坊主の初老の男が叫んだ。
すごく怒っている様子だった。
僕もイラっとした。
さっき入ったばかりでルールなんて知らないし、看護師に言われてすわっただけなのに。
そのおじさんを少し睨んでいると、近くにいたおじいちゃんが僕に声をかけた。
「ぼく、こっちおいで」
一番まともそうな人ですごく優しそうだった。
「ここはね、席が決まっているの。私の隣りはいつも空いているから今日から君の席だね」
そう笑顔で答えてくれた。
今日初めて見たひとの笑顔だった。
その優しさが少し辛かった。
さっきまで自殺願望があった僕なのに、今は必死に生きようとしている。
血で固まった左腕をブランと下ろして反対の腕でまずし飯を泣きながら食べた。
生きたくないって思っていたのに、どうしてこんな格好悪いことまでして生きなきゃいけないんだ。
僕は一年前までただの普通の健康な大学生だったのに……。
23
お気に入りに追加
736
あなたにおすすめの小説

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。

タチですが異世界ではじめて奪われました
雪
BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります!
読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです!
俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。
2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。
丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。
「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です!
もちろんハルトのその後なんかも出てきます!
ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる