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第二章 とんでもない相手を好きになり
寝ても覚めても
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ズボンの前を寛げると、立派に育った肉棒がいきなり飛び出した。
オルガはそれを笑いながら冷たい指先で裏筋を辿り、揶揄うようにカリの部分を擽る。
そうしながら、椅子に座ったグレウスの上を向かい合わせに跨って、肩に置いた手を支えに膝立ちになった。
赤い瞳で挑むように見下ろしてくるのは、触れてもいいという印だ。グレウスはオルガの膝のあたりから裾を割って、ローブの中に手を入れる。
オルガが黒いローブの下に纏うのは、シャツとズボンの時もあれば、腰にベルトを締めた長衣の時もある。今日は後者だった。
柔らかな生地を裾からたくし上げ、ひやりとしたオルガの肌に触れる。すらりとした腿は滑らかで、形の良い筋肉をつけている。
グレウスはその感触を楽しみながら、太腿の裏側に手を這わせて上へと遡っていった。
「あ……」
指が際どい辺りに辿り着くころには、ローブに隠されたオルガの牡も欲情の滾りを主張していた。グレウスがそれを撫でると、オルガの腰が淫靡に揺れる。
引き締まった小振りな尻と、その狭間にある小さな窄まり。ヒクヒクと上下に跳ねる雄の部分を愛撫していると、オルガが息を乱しながら手を差し出した。
「……これを」
どこから取り出したのか、ほんのりと目元を染めたオルガの手には、小さな香油の瓶が乗っていた。
グレウスは片手を裾から出して、掌にとろりとした潤滑剤を受け止める。熟れた果実のような甘い芳香が書斎に広がり、夜を待てずに情交するのだという興奮を煽った。
香油が指に纏わりついて温まるのを待って、グレウスはその手を再びローブの中へと差し込む。
「あぁ……」
窄まりに触れると、悩ましい溜息がオルガの口から漏れた。唇は薄く開き、眉は切なく寄せられる。
その表情を見守りながら、グレウスは温かな肉の壺へと指を埋めていった。
挙式から一か月余り。
グレウスが女の肌を知らなかったように、オルガもまた高貴な身分ゆえに人肌の温もりは知らなかったらしい。
初めの数日は苦痛を堪える様子も見せていたが、体を重ねるうちに、オルガはすぐにグレウスとの交合に馴染んでいった。体の奥に熱い迸りを受けることを好み、時には自分から誘ってくることもある。
指の動きに合わせて、引き締まった腰がビクリと震えた。
「辛くありませんか?」
苦痛と快楽の表情は根底でよく似ていて、グレウスには区別がつきがたい。
昨夜も深く愛し合い、今朝もこの体の中に精を放ち、そして夕暮れ時の今だ。グレウスは構わなくても、受け止めるオルガの負担は大きいのではないか。
心配になって尋ねると、潤みを帯びた目がグレウスを睨んだ。
「このまま生殺しで焦らすつもりか。そのような真似をしてみろ。明日の朝日を拝めぬようにしてくれる」
朝焼けの色の瞳がグレウスを射貫く。
迷信深い貴族たちならば、黒の魔王に呪いを掛けられたと恐れおののくのかもしれない。だが、グレウスは怒気を露わにしているときのオルガの顔が好きだ。
冴え冴えと冷たい美貌に血の気を昇らせて、まるで鋭い剣の切っ先のような煌めきに心が躍る。美しくて少し禍々しいその顔は、グレウスの本能を刺激して、全身の神経を逆立てるのだ。
なけなしの自制心が霧散していく。
「あっ」
グレウスは腰の位置を合わせ、脚を開かせたオルガの体をその上に引き下ろした。
「あ、ッ――……ッ!」
苦しげに眉を寄せ、緩やかに煩悶しながらも、麗しの黒の魔王はグレウスの手に逆らわない。されるがままに体の力を抜き、太い剛直を尻の中に呑み込んでいく。
白かった頬が紅潮し、噛み締めた歯の間から微かな悲鳴が漏れた。
それでも嫌がる素振りは見せない。やがて喘ぐような吐息を何度も漏らしながら、ゆっくりと尻を下してしゃがみこんだ。
肩に置かれた手が、グレウスのシャツをきつく握りしめている。僅かに尻を浮かせたまま動きを止めて、浅い息を吐くオルガの腰を、グレウスは両手で支えた。
磁器のような肌に汗が滲み、首筋や頬に髪を貼りつかせた様が色めかしい。目眩がするほど妖艶だ。
「好きです、オルガ……貴方が欲しくて堪らない……」
今すぐ突き上げたいのを必死で我慢して、グレウスは目の前の髪の一房に口づけする。
謁見の間で初めて顔を合わせた時には、まさか自分がこんな盲目的な恋に落ちるとは思いもしなかった。
無能者の皇子、呪われた皇弟、黒の魔王――。
悪し様にオルガを呼ぶ名は幾つもある。オルガ自身が決して純粋無垢な聖人ではないことも知っている。
だがグレウスの腕の中に居るときのオルガは、美しくて愛らしい最高の伴侶だった。
体格に優れている分、グレウスの男の部分も相応の大きさだ。挿入の初めはいつも苦しそうにしているが、オルガがそれをできるだけ面に出さないようにしていることもわかっている。
普段の居丈高な様子からは思いもかけないほど、この年上の伴侶は健気な一面も持っているのだ。
「オルガ……愛しています……」
少しでも苦しみが早く和らぐようにと、グレウスは頬に口づけした。白いこめかみにも――それから、髪に隠された耳朶にも。
「あ……っ」
オルガの顔が逃げるように仰け反った。
白い肌にパッと薔薇のような赤みが散り、赤い瞳が潤みを帯びて、グレウスを責めるように睨んできた。
グレウスを呑み込んだ媚肉が、誘うように蠕動する。
「動いてもいいですか……」
「……いい……」
顔を遠ざけて悔しそうな表情を見せながら、オルガは許しを出した。
グレウスは口づけを乞い、しぶしぶ顔を寄せてきたオルガの唇を吸ってから、椅子の上で体を揺らし始める。
初めは緩く小刻みに。
そこから徐々に動きを大きくして、オルガがこの頃覚えたばかりの弱みを突いてやる。
「あ!……ぁ、そこ、は…………あっ……ぁ、アッ、アッ……!」
鋭い美貌が快楽に蕩けた。
シャツを握っていた両手がグレウスの首にしがみついてくる。
「ここが、いいですか……?」
「ああぁ……い、いい………………ッ、気持ち、いい……」
グレウスの動きに合わせて、オルガの腰も獣のように揺れ始めた。
時折グレウスの唇を求めながら甘えるようにしがみついて、艶やかな声を惜しみもせずに解き放つ。
長い黒髪が乱れ、雪のような肌が淡く染まった。
美しくも高貴な魔王が、グレウスの体の上で淫婦へと変わっていく。
「好きです……オルガ……ッ……」
終わりが近づき、下から突き上げる動きを激しくしながら、グレウスは想いを伝えた。
初めは政略結婚だった。不吉な噂を持つ皇弟を娶るなど、荷が重すぎると思っていた。
だが今は、伴侶となったオルガが愛しくてならない。
ともに過ごせる一日一日がまるで夢のようで、こんな幸せがあっていいのかと思うほどだ。
「あ、ぁ……オルガ……出る、ッ……中に、出します……!」
愛する相手を抱き寄せて、グレウスはその体内奥深くに精を放った。昨夜も今朝も枕を交わしたとは思えぬほど、大量の精が迸り出る。
「あ――……あ、あぁ――……ッ……」
黒を纏った麗人が、目に鮮やかな白磁の肌を見せつけて、腕の中でしなやかに体を仰け反らせた。
グレウスを包み込む媚肉が精を搾り取るようにキュンと締まった。白い喉からは歓喜の叫びがあがり、表情は恍惚と蕩けていく。
ビクビクと断続的に震える体が、オルガもまた快楽の頂点を極めたことを知らせてきた。
「……ああぁ……グレウス、いい…………」
終わりを迎えたオルガが、荒い息を吐いてグレウスの腕に身を委ねてくる。
なんのためらいもなく、安堵しきった様子で。
汗ばんだ体を両腕に抱き留めながら、グレウスは複雑な思いを押し隠す。
このひと月あまり、グレウスは毎夜オルガを腕に抱いた。
初めは近寄りがたく思えたオルガだが、意外なことにグレウスを拒むことは一度もなかった。
寝室の中だけではなく、在宅中にはほとんどの時間を同じ部屋で過ごしている。
食事もそうだ。貴族の屋敷では食事を別々に摂ることも珍しくないらしいが、オルガは違った。朝は起きてこられないことも多いが、夜の食事は必ずグレウスと一緒に食卓についてくれる。
寝室に入れば、オルガはかなり積極的だ。グレウスの名を呼び、何度も口づけを強請って身を寄せてくる。求めれば微笑み、肌を合わせれば悦びを隠そうともしない。
まるでグレウスが心に思い描いていたとおりの、仲睦まじい夫婦そのものの姿だった。
オルガは何の屈託もなく、グレウスを受け入れてくれているように見える。
――そのせいで不安になるのだ。
自分が愛を囁くたびに、かえってオルガの心を傷つけ、惨めな思いにさせているのではないだろうかと。
かつて、次期皇帝の座は確実とまで言われたオルガだ。魔力も身分も失って、冴えない男の妻になったことは耐えがたい屈辱に違いない。
しかしオルガは、不遇を嘆く様子をグレウスの前では一切見せない。
嫌々嫁いできたのだとは思えないほど、完璧な『妻』を演じてくれている。
その代わり、どれほどグレウスが想いを伝えても、決して『私もお前が好きだ』とは言ってくれないのだ。
夕食の時間を過ぎても、マートンは書斎に現れなかった。
品のいい老執事が扉を叩いたのは、事を終えた二人がようやく衣服を整え始めた頃だった。頃合いを見透かされていたような気もしたが、グレウスは深く考えないことにした。
食堂へと向かう前に、ディルタスから託された書簡はオルガの手に渡っている。
皇帝の様子では重要な手紙かと思われたが、一読したオルガは眉一つ動かさず、何の興味もなさそうに引き出しの中に放り投げた。
――半月後。
この書簡の正体は、グレウスの想像をはるかに超えた形で明らかになった。
オルガはそれを笑いながら冷たい指先で裏筋を辿り、揶揄うようにカリの部分を擽る。
そうしながら、椅子に座ったグレウスの上を向かい合わせに跨って、肩に置いた手を支えに膝立ちになった。
赤い瞳で挑むように見下ろしてくるのは、触れてもいいという印だ。グレウスはオルガの膝のあたりから裾を割って、ローブの中に手を入れる。
オルガが黒いローブの下に纏うのは、シャツとズボンの時もあれば、腰にベルトを締めた長衣の時もある。今日は後者だった。
柔らかな生地を裾からたくし上げ、ひやりとしたオルガの肌に触れる。すらりとした腿は滑らかで、形の良い筋肉をつけている。
グレウスはその感触を楽しみながら、太腿の裏側に手を這わせて上へと遡っていった。
「あ……」
指が際どい辺りに辿り着くころには、ローブに隠されたオルガの牡も欲情の滾りを主張していた。グレウスがそれを撫でると、オルガの腰が淫靡に揺れる。
引き締まった小振りな尻と、その狭間にある小さな窄まり。ヒクヒクと上下に跳ねる雄の部分を愛撫していると、オルガが息を乱しながら手を差し出した。
「……これを」
どこから取り出したのか、ほんのりと目元を染めたオルガの手には、小さな香油の瓶が乗っていた。
グレウスは片手を裾から出して、掌にとろりとした潤滑剤を受け止める。熟れた果実のような甘い芳香が書斎に広がり、夜を待てずに情交するのだという興奮を煽った。
香油が指に纏わりついて温まるのを待って、グレウスはその手を再びローブの中へと差し込む。
「あぁ……」
窄まりに触れると、悩ましい溜息がオルガの口から漏れた。唇は薄く開き、眉は切なく寄せられる。
その表情を見守りながら、グレウスは温かな肉の壺へと指を埋めていった。
挙式から一か月余り。
グレウスが女の肌を知らなかったように、オルガもまた高貴な身分ゆえに人肌の温もりは知らなかったらしい。
初めの数日は苦痛を堪える様子も見せていたが、体を重ねるうちに、オルガはすぐにグレウスとの交合に馴染んでいった。体の奥に熱い迸りを受けることを好み、時には自分から誘ってくることもある。
指の動きに合わせて、引き締まった腰がビクリと震えた。
「辛くありませんか?」
苦痛と快楽の表情は根底でよく似ていて、グレウスには区別がつきがたい。
昨夜も深く愛し合い、今朝もこの体の中に精を放ち、そして夕暮れ時の今だ。グレウスは構わなくても、受け止めるオルガの負担は大きいのではないか。
心配になって尋ねると、潤みを帯びた目がグレウスを睨んだ。
「このまま生殺しで焦らすつもりか。そのような真似をしてみろ。明日の朝日を拝めぬようにしてくれる」
朝焼けの色の瞳がグレウスを射貫く。
迷信深い貴族たちならば、黒の魔王に呪いを掛けられたと恐れおののくのかもしれない。だが、グレウスは怒気を露わにしているときのオルガの顔が好きだ。
冴え冴えと冷たい美貌に血の気を昇らせて、まるで鋭い剣の切っ先のような煌めきに心が躍る。美しくて少し禍々しいその顔は、グレウスの本能を刺激して、全身の神経を逆立てるのだ。
なけなしの自制心が霧散していく。
「あっ」
グレウスは腰の位置を合わせ、脚を開かせたオルガの体をその上に引き下ろした。
「あ、ッ――……ッ!」
苦しげに眉を寄せ、緩やかに煩悶しながらも、麗しの黒の魔王はグレウスの手に逆らわない。されるがままに体の力を抜き、太い剛直を尻の中に呑み込んでいく。
白かった頬が紅潮し、噛み締めた歯の間から微かな悲鳴が漏れた。
それでも嫌がる素振りは見せない。やがて喘ぐような吐息を何度も漏らしながら、ゆっくりと尻を下してしゃがみこんだ。
肩に置かれた手が、グレウスのシャツをきつく握りしめている。僅かに尻を浮かせたまま動きを止めて、浅い息を吐くオルガの腰を、グレウスは両手で支えた。
磁器のような肌に汗が滲み、首筋や頬に髪を貼りつかせた様が色めかしい。目眩がするほど妖艶だ。
「好きです、オルガ……貴方が欲しくて堪らない……」
今すぐ突き上げたいのを必死で我慢して、グレウスは目の前の髪の一房に口づけする。
謁見の間で初めて顔を合わせた時には、まさか自分がこんな盲目的な恋に落ちるとは思いもしなかった。
無能者の皇子、呪われた皇弟、黒の魔王――。
悪し様にオルガを呼ぶ名は幾つもある。オルガ自身が決して純粋無垢な聖人ではないことも知っている。
だがグレウスの腕の中に居るときのオルガは、美しくて愛らしい最高の伴侶だった。
体格に優れている分、グレウスの男の部分も相応の大きさだ。挿入の初めはいつも苦しそうにしているが、オルガがそれをできるだけ面に出さないようにしていることもわかっている。
普段の居丈高な様子からは思いもかけないほど、この年上の伴侶は健気な一面も持っているのだ。
「オルガ……愛しています……」
少しでも苦しみが早く和らぐようにと、グレウスは頬に口づけした。白いこめかみにも――それから、髪に隠された耳朶にも。
「あ……っ」
オルガの顔が逃げるように仰け反った。
白い肌にパッと薔薇のような赤みが散り、赤い瞳が潤みを帯びて、グレウスを責めるように睨んできた。
グレウスを呑み込んだ媚肉が、誘うように蠕動する。
「動いてもいいですか……」
「……いい……」
顔を遠ざけて悔しそうな表情を見せながら、オルガは許しを出した。
グレウスは口づけを乞い、しぶしぶ顔を寄せてきたオルガの唇を吸ってから、椅子の上で体を揺らし始める。
初めは緩く小刻みに。
そこから徐々に動きを大きくして、オルガがこの頃覚えたばかりの弱みを突いてやる。
「あ!……ぁ、そこ、は…………あっ……ぁ、アッ、アッ……!」
鋭い美貌が快楽に蕩けた。
シャツを握っていた両手がグレウスの首にしがみついてくる。
「ここが、いいですか……?」
「ああぁ……い、いい………………ッ、気持ち、いい……」
グレウスの動きに合わせて、オルガの腰も獣のように揺れ始めた。
時折グレウスの唇を求めながら甘えるようにしがみついて、艶やかな声を惜しみもせずに解き放つ。
長い黒髪が乱れ、雪のような肌が淡く染まった。
美しくも高貴な魔王が、グレウスの体の上で淫婦へと変わっていく。
「好きです……オルガ……ッ……」
終わりが近づき、下から突き上げる動きを激しくしながら、グレウスは想いを伝えた。
初めは政略結婚だった。不吉な噂を持つ皇弟を娶るなど、荷が重すぎると思っていた。
だが今は、伴侶となったオルガが愛しくてならない。
ともに過ごせる一日一日がまるで夢のようで、こんな幸せがあっていいのかと思うほどだ。
「あ、ぁ……オルガ……出る、ッ……中に、出します……!」
愛する相手を抱き寄せて、グレウスはその体内奥深くに精を放った。昨夜も今朝も枕を交わしたとは思えぬほど、大量の精が迸り出る。
「あ――……あ、あぁ――……ッ……」
黒を纏った麗人が、目に鮮やかな白磁の肌を見せつけて、腕の中でしなやかに体を仰け反らせた。
グレウスを包み込む媚肉が精を搾り取るようにキュンと締まった。白い喉からは歓喜の叫びがあがり、表情は恍惚と蕩けていく。
ビクビクと断続的に震える体が、オルガもまた快楽の頂点を極めたことを知らせてきた。
「……ああぁ……グレウス、いい…………」
終わりを迎えたオルガが、荒い息を吐いてグレウスの腕に身を委ねてくる。
なんのためらいもなく、安堵しきった様子で。
汗ばんだ体を両腕に抱き留めながら、グレウスは複雑な思いを押し隠す。
このひと月あまり、グレウスは毎夜オルガを腕に抱いた。
初めは近寄りがたく思えたオルガだが、意外なことにグレウスを拒むことは一度もなかった。
寝室の中だけではなく、在宅中にはほとんどの時間を同じ部屋で過ごしている。
食事もそうだ。貴族の屋敷では食事を別々に摂ることも珍しくないらしいが、オルガは違った。朝は起きてこられないことも多いが、夜の食事は必ずグレウスと一緒に食卓についてくれる。
寝室に入れば、オルガはかなり積極的だ。グレウスの名を呼び、何度も口づけを強請って身を寄せてくる。求めれば微笑み、肌を合わせれば悦びを隠そうともしない。
まるでグレウスが心に思い描いていたとおりの、仲睦まじい夫婦そのものの姿だった。
オルガは何の屈託もなく、グレウスを受け入れてくれているように見える。
――そのせいで不安になるのだ。
自分が愛を囁くたびに、かえってオルガの心を傷つけ、惨めな思いにさせているのではないだろうかと。
かつて、次期皇帝の座は確実とまで言われたオルガだ。魔力も身分も失って、冴えない男の妻になったことは耐えがたい屈辱に違いない。
しかしオルガは、不遇を嘆く様子をグレウスの前では一切見せない。
嫌々嫁いできたのだとは思えないほど、完璧な『妻』を演じてくれている。
その代わり、どれほどグレウスが想いを伝えても、決して『私もお前が好きだ』とは言ってくれないのだ。
夕食の時間を過ぎても、マートンは書斎に現れなかった。
品のいい老執事が扉を叩いたのは、事を終えた二人がようやく衣服を整え始めた頃だった。頃合いを見透かされていたような気もしたが、グレウスは深く考えないことにした。
食堂へと向かう前に、ディルタスから託された書簡はオルガの手に渡っている。
皇帝の様子では重要な手紙かと思われたが、一読したオルガは眉一つ動かさず、何の興味もなさそうに引き出しの中に放り投げた。
――半月後。
この書簡の正体は、グレウスの想像をはるかに超えた形で明らかになった。
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