愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち

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第一章 結婚は人生の墓場と言うが

愛しの妻

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 歓喜の瞬間は体中の血が沸騰するかと思うほど激しく、気怠い余韻を残して緩やかに遠ざかっていった。
 グレウスはオルガの体を後ろから抱き支えて、横ざまに寝台に転がった。
 荒々しい息を吐きながら、長い髪を避けて頬に口づけする。
 オルガはまだ人事不省のようだ。ぐったりとグレウスに身を預けて、時折ヒクヒクと体を痙攣させながら、啜り泣くような微かな喘ぎを漏らしている。
 ガウンは辛うじてまだ袖が通っていたが、ほとんど脱げているようなものだった。前は大きく開き、白い首筋や剥き出しの肩がグレウスの目の前にある。
 グレウスは後ろから手を伸ばして、オルガの体に触れてみた。


 荒い息を吐く喉元はしっとりと汗ばんでいた。喉仏がある男性の首だ。
 鎖骨の窪みを通って指を下に滑らせると、胸はまだ大きく上下している。指先に感じる鼓動の速さに、激しく求めすぎてしまったことを感じて、グレウスは顔を赤くした。
 小さな乳首がぷっくりと立ち上がっているのは、少しは感じてくれたのだろうか。グレウスの掌を押し返してくる健気な突起が愛らしい。
 そこから手を滑らせて、グレウスは掌で鳩尾から引き締まった腹部を撫でる。滑らかな皮膚の下には、良く鍛えた筋肉が感じ取れた。
 さらにその下方へと、グレウスの手は進む。
「あ……」
 荒い息を吐きながら、オルガが微かな声を上げた。
 しっかりと育ったオルガの分身も快楽を得たらしく、腹のあたりが粘液で濡れていた。屹立はまだ時折ヒクついて、吐精の余韻に浸っている。
 それをグレウスは優しく手の中に包み込んだ。


「オルガ……嫌じゃなかったですか?」
 残った体液の滑りを借りながら、グレウスは手の中のものをゆるゆると扱いた。
 後ろから抱き寄せているので顔は見えなかったが、尖った耳朶の先端が赤みを強くした。整いかけていた息が、再び乱れ始める。
「オルガ……」
 返事を求めて、グレウスはもう一度名を呼んだ。
 貝殻のような耳朶に口づけすると、オルガはそれから逃げるように顔を枕に押し付けて、小さな声で返事をくれた。
「……嫌では、ない……」


 愛おしさが募り居ても立ってもいられなくなって、グレウスはオルガのうなじに口づけした。冷たい髪が鼻先を擽る感触にさえ胸が熱くなる。
「生涯の愛と忠誠を貴方に誓います……オルガ、俺の妻になってください」
 白い首筋に吸い痕をつけながら告げると、赤くなった顔は頑なに背けたまま、オルガが手を伸ばした。
 自身の男の部分を弄ぶ手に手を重ね、上からそっと指を絡ませる。
「……私はもう、お前の妻ではないか……」
 恥じらいを含んだ声に、グレウスの胸は幸福感でいっぱいになった。


 大聖堂で式を挙げ、皆に祝福されて夫婦となった。
 初めての夜を過ごし、肌を合わせて悦びを分かち合い、今は快楽を極めた後の気怠い体を重ねている。
 冷たい肌を羞恥の色に染め上げて、魔王と怖れられた年上の皇弟が、初夜の新妻そのものの慎ましい声で言ってくれた。自分はもう、グレウスの妻なのだと。
 ――その声が、言葉が、グレウスの体の芯に火を灯す。




「あ、っ……!?」
 腕の中で困惑の声が上がったが、グレウスにもどうしようもない。
「すみません……寝酒にいただいた酒が、どうも強かったようで……」
 もともとグレウスは性欲旺盛だ。相手をしてくれる人間がいないので、仕方なしに独り身だっただけで、けっしてそちらが弱いわけではない。
 しかもどういうわけか、今夜は普段よりも力が滾って仕方がなかった。
 思うに老練の執事が持ってきたのは、精力亢進の生薬を混ぜた薬酒だったのではないか。物慣れない二人が、無事に新床で結ばれるようにと……。
「お、おい……まさか……?」
 不安そうな声を上げて腕の中から出ていこうとする体を、グレウスは申し訳なく思いながらも逞しい両腕でそっと引き戻した。
 オルガも鍛えた体をしているが、騎士団の中でも随一の剛力を誇るグレウスとは腕の太さが倍ほど違う。たいして力を籠めなくても、拘束しておくのは簡単なことだ。
「すみません」
 グレウスは謝罪した。
 放出を終えても抜かずにいたグレウスの砲身が、温かな肉壺の中で再び大きく育っていた。謁見の間で会った時には近寄りがたい雰囲気だったのに、腕の中のオルガがあまりにも可愛いのがいけない。
 腰を引こうとするのを急所を握った手で抑え込んで、グレウスは再び動き始めた。


「グ……グレウス、お前……ッ」
 焦ったオルガが慌てて起き上がろうとするが、先の交合で足腰が立たないらしく、掛物の上を膝が滑っただけに終わった。むしろそのせいで足が開き、グレウスは動きやすくなる。
「待、待……て! まだ、ッ…………ふぁああっ!」
「すみません」
 制止の言葉に従えるほど、グレウスの経験値は高くない。もう一度オルガの体を這う姿勢にさせ、後ろから挑みかかっていく。
 ガウンがすっかり脱げて、黒子一つない白い背中がグレウスの眼前に晒された。
「綺麗だ、オルガ……愛しています」
 体を屈めて汗ばんだ背中に口づけした後、グレウスは両手でオルガの腰を支えて大きく動き始める。
 一度放った分だけ多少の余裕はあるから、今度こそもっと気持ちよくしてやれるはずだ。
「ふぁッ……あ――ッ!……馬鹿ッ……待てと、言っているのにッ……!」
「すみませんッ、待てません、ッ!」


「ア、ア――ッ!……アン、アンッ、ンッ……!」
 ぐちゅぐちゅと粘着質な、あられもない水音が寝台の中に響く。
 肌を叩く規則的な音がそこに加わる頃には、鼻にかかった官能の咽びは絶え間なく上がるようになった。
「気持ちいいですか、オルガ…………俺もッ……俺も気持ちいいです……!」
「……やっ……ああぁ、いく……もう、いく…………ッ、やぁ――ッ……」
 手前から奥まで長いストロークで突いてやると、オルガの中は搾り取るようにキュンキュンと締め付けてくる。口では冷たいことも言うが、動きを合わせて揺れる腰と吸い付く媚肉が、拒んではいないと知らせてくる。
 グレウスは幸せだった。この幸せを、オルガにも分け与えたい。
 オルガの腰が立たないせいで、膝が大きく開いて結合は容易かった。太い二の腕でその腰を支えながら、グレウスはもっと気持ち良くしてやりたいと、甘い悲鳴が上がる場所を探し続ける。
 浅い場所も深いところも、オルガが欲しいと思うだけ存分に愛したい。
「……いっ、ぃい――――ッ! あっ……ああぁ――――ッ……!」
「……ッ、ッ……ッ……!」
 背をしなやかに仰け反らせ、長い髪を振り乱してオルガが昇りつめた。
 その体の中に二度目の精を吐き出しながら、グレウスも熱い息を吐いた。気持ちがいい。愛する人と肌を合わせるのは、なんと気持ちよくて幸せなのか。
 二度の吐精を迎えて満足はしているが、体には力が漲ってまだまだ何度でもいけそうだ。
 幸い休暇は五日間もある。グレウスとオルガは今日結ばれたばかりの新婚夫婦で、一日中寝室に籠って愛し合っていても、誰にも咎められはしない。
「愛しています、オルガ……愛も忠誠も、あるものは全部捧げますから……!」
 これ以上ない幸せを噛み締めながら、グレウスはビクビクと痙攣する体を腕の中に抱き寄せる。
「も、う……」
 オルガが何か言いかけていたが、聞きもせずに深く交わった肉棒で奥を掻き回す。ここが気持ち良かったはずだ。
 愛しているから、もっともっと善がらせたい。
 最初にオルガが望んだ通り、グレウスのことしか見えなくなるほど、悦びに啼かせたい。
「――い、ぃいいッ……いいいぃい――……ッ!……」
 息も絶え絶えの掠れ声が、寝台の帳を揺らした。
 




 結婚は人生の墓場だとは、誰が言ったものだったか。
 愛する人と結ばれて生涯をともに過ごし、死んだ後には骨さえも一緒に埋めてもらえるのだとしたら、結婚とはなんと素晴らしいものだろう。
「オルガ……オルガ……貴方が好きです……!」
 迸る想いを伝えながら、グレウスは何度目かもわからない口づけをした。
 薄く開いた唇は、喘ぎ混じりの息を繰り返すばかりだ。自失したように視線は宙を彷徨い、言葉は何も返ってこない。
 ――その代わり……。
 指を絡めて重ねた手が、語られない気持ちを伝えるように、そっとグレウスの手を握りしめた。
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