獅子帝の宦官長

ごいち

文字の大きさ
上 下
4 / 6

電子&紙単行本発売記念その1 『真昼の熱』

しおりを挟む
 精の退治依頼を受けていた場所は五条通りを東に抜け鴨川を渡った先にある大きめの池のほとりだ。吉右衛門によれば、そこに出るらしい。
何が?
肝心なところを言わずにそそくさといなくなった吉右衛門を恨めしく思いながら霞は九郎に向き合い、

「この辺りなんだけど、あんた準備良い?」

「はぁ」

相変わらず、なんとも頼りない。

「九郎、やるわよ。あんたの俊敏と打撃力いっぺんに上げるよ」

霞は篠笛を吹く。

九郎の周囲を黄金色に染め上げやがて極大になると九郎の身体が発光し、スーッと光が消えていく。その様子を確認した霞が笛の調べを変えた。

池の畔、

「霞姐さん。精を止めないでください。自分の力を測ってみたいのです」

「何言ってんの? あんた」

「やってみたいのです。自分の修行が正しいのか。やってきたことが間違っていなかったのか……
だから、お願いです」

頭を下げて霞を見つめる。今まで、何となく心がここになかったような九郎が何か決めた目で見つめている。

九郎は、この日を待っていた。強くなりたいと願ったあの夜からずっとこの日を待っていた。人に頼るのではなく自分の力で自分の道を切り開く力が欲しかった。その第一歩が、今夜だった。九郎の決意は固い。

霞にも理解が出来ていた。

九郎が吉右衛門や弁慶に稽古をつけられて上達しない自分に人知れず陰で涙を落していたことを知っていたから。

「九郎、私が危ないと思ったらその場で介入するわよ。いいわね」

霞が念を押すのに九郎を見ると

「ありがとうございます」

一つ深く礼をして背を向けた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...