王宮に咲くは神の花

ごいち

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最終章 神饌

二人の王子1

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 明るい光が差し込む窓から、大神殿の鐘の音が重々しく響いた。

 シェイドは書き物の手を止めて耳を澄ませる。
 一つ……、二つ、三つ。
 息を詰めて待つうちに、四つ目が。そして最後の五つ目の鐘も余韻を残しながら鳴り終えた。
 シェイドは詰めていた息をゆっくりと吐き出す。

 大神殿の鐘が五つ――。新しい王子の誕生の知らせだ。





 第一王子セリムの妾妃が懐妊してそろそろ臨月だという話は、以前ラナダーンから聞いていた。

 この頃シェイドは白桂宮からほとんど出なくなったため、出産が始まっているかどうかさえ知らなかったのだが、鐘が鳴ったということはどうやら無事に生まれたらしい。
 シェイドはジハードに面差しのよく似た二人の王子を思い浮かべた。

 生まれた日が十日ほど違うだけの王子たちは、今年十八歳になった。
 どちらの王子も、父であるラナダーンよりも、むしろ祖父ジハードによく似ている。

 二人とも黒い髪に黒い瞳。
 兄のセリムは落ち着いて慎重な性格で、弟のディリウスは直情的で負けず嫌いなところがあるが、顔立ちは二人そっくりだ。

 とは言っても、二人とも十五歳でこの宮を出てそれぞれに与えられた王子の宮で過ごすことになったので、ここ数年はあまり顔を合わせていない。
 今この宮で暮らしているのはラナダーンとシェイドの二人だけだった。

 祝いの言葉を贈らねばと考えて、シェイドは懐妊した妾妃の名も知らぬことに気が付いて苦笑する。
 ラナダーンの即位を機に政務を離れたせいで、王宮の事情にもすっかり疎くなってしまっていた。

 以前は王室の重要な儀式の際には参列することもあったのだが、ラナダーンが国王として完全に独り立ちしてからは、そういうこともなくなった。
 上王という名ばかりの地位は残っているが、若い貴族などはそれさえ知らないかもしれない。

 世間から忘れられるということは、本来ならば寂しいことなのだろう。
 けれど他人の視線を浴びることがあまり得意でないシェイドは、余計な人間と顔を合わせずに済む今の生活がむしろ有難かった。

 他に誰が来なくとも、ラナダーンや二人の王子が側に居てくれる。
 今日新しく生まれた子も、成長すれば宮に顔を見せに来てくれるだろう。
 家族と呼べる存在が側に居てくれることにシェイドは感謝した。

 それはさておき、まずは王子を産んだ妾妃への労いと祝いの言葉を贈らねばならない。
 侍従にでも名と身分を聞いてみようと書斎の椅子から腰を上げかけた、その時――。

 書斎の扉は外から荒々しく開けられた。





「ディリウス――!?」

 突然現れた第二王子に驚いて、机にあった花瓶に手が当たってしまった。
 繊細に造られた一輪挿しが大きな音を立てて床に散らばる。

 一瞬そちらに気を取られて、次に振り返った時には、若い王子はもう目の前に立ち塞がっていた。

「ディ……」

 暫く見ない間に、第二王子はすっかり大人の風格を備えていた。

 広い肩に長い手足、剣を握って鍛錬する顔は浅黒く日に焼け、大股に近づく足取りは力強い。
 癖の強い黒髪に縁どられた顔は子どもらしい丸みを失って鋭くなり、黒い目は怒りとも憎しみともつかぬ何かでギラギラと光っていた。

「……ディ、リウス……」

 その目を見た瞬間、警鐘が鳴った。

 身をひるがえして逃げ出したが、若い王子の方が速かった。
 駿馬のように追いすがり、シェイドの腕を掴んで引き寄せる。
 掴まれた腕を引き剥がそうと振り払ったがびくともしない。

「ターレン、ス……!?」

 人を呼ぼうと開けた口に後ろから手巾を押し込まれた。
 指に噛みついて逃れようとしたが、暴れるうちに袖を引き千切られ、その袖で猿轡を噛まされる。
 両手を後ろに捩じられ、大きな片手で一纏めに握られた時、シェイドはまだ少年だとばかり思っていた王子がすでに成熟した男であることを知らされた。

「ウ……ウゥッ……」

 声は口の中の手巾に吸い取られて消えていく。
 乱暴な侵入者は残る片手で机の上のものを床に払い落として、空いた場所にシェイドの上半身を押さえ込んだ。
 額環が机にぶつかって固い音を立て、衝撃で眩暈に襲われる。
 抵抗が弱まったその隙をつかれ、部屋着の裾が大きく捲り上げられた。

 抗議する暇もない。
 足を蹴られて開かされ、なおも閉じようとした途端、尻に平手が落ちた。

「――――ッ!」

 手加減なしの打擲に、痛みよりも先に震えがきた。
 机に身体を押し付けられながら、シェイドは混乱した頭で考えた。

 いったい何が起こっているのか。
 宮廷で何か問題でも起こったのか。どうしてディリウスは言葉一つ発そうとせず、まるで怒りをぶつけるような乱暴を加えるのか。

 どうにかして真意を問いただそうと背後を振り返ったその時、秘めるべき場所に凶器が捻じ込まれてきた。





「ウッ、ムンン――――ッ!」

 何の準備も前触れもなかった。
 指で解すことすらせず、硬く猛った凶器が肉を無理矢理に抉じ開ける。
 勢いのまま力任せに突き入れられる苦痛に呻いたが、凌辱者は意にも介さなかった。

 助けを呼ぶ叫びは猿轡に吸い取られる。
 暴漢と化した王子は、手首を拘束した手で獲物を机の上に押さえ込んだまま、肉の凶器を一気に奥まで突き入れた。

「……ウ……ウッ……ッ……!」

 苦しくて息も止まりそうだ。
 異物に体を慣らす暇さえ与えられず、すぐさま嵐のような律動が始まる。
 毎夜ラナダーンに弄ばれる肉壺を、若い獣の牡が荒々しく蹂躙した。

 二人分の重みを受けた机がガタガタと音を立てる。
 それはまるで行進する兵隊の太鼓のように、肌を打つ音が激しさを増していく。

「……う……ッ、く…………ッ」

 突然、激しく突き上げていた凶器の動きが止まり、シェイドの腹の奥で大きく跳ね上がった。
 背後からの呻き声とともに、深い場所に勢いよく熱が広がっていく。
 ――中に吐精されたのだ。

「ウ…………フ、ゥ……」

 シェイドは詰めていた息をゆるゆると吐いた。

 全身に冷たい汗が浮かんでいる。
 技巧も何もない、一方的に殴られるような交合だった。
 あっさりと終わりを迎えたことだけが救いだ。

「……上王陛下……」

 一言も声を発さなかったディリウスが、やっと口をきいた。
 まだ興奮が冷めやらぬのか、息が上がり声は掠れている。自分が何をしたのかやっと自覚したのだろうか。
 しかし、どんな言葉を聞かされたとしても失望は拭えまい。

 冷めた気持ちで次の言葉を待っていたシェイドは、身を強張らせて悲鳴した。
 腹の中の若い牡が、力を失うことなく再び動き始めたからだ。





「……陛下…………上王、陛下……ッ……」

 静かなはずの書斎に、低く名を呼ぶ男の声とくぐもった悲鳴、そして肌を叩く乾いた音が長く木霊した。
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