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第五章 王宮の花
誓い
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もう二度と戻ることはないと思った白桂宮の中を、シェイドはジハードに抱かれて進んでいく。
廊下に待機していた侍従たちが道を空け、次々と膝を折って首を垂れた。その様子が、婚姻の日に大神殿で祝福を受けた時のことを思い出させる。
あの時は儀式の意味など考えてみる余裕もなかった。
けれど、男神の前で誓いの言葉を述べた瞬間――、シェイドは確かにジハードの伴侶として、魂を結びつけられてしまったのに違いない。
そうでなくて、どうしてこんなに心惹かれてやまぬわけがあるだろうか。
ジハードは寝台の上にシェイドの身体をそっと降ろし、上から覆い被さった。
黒曜石の瞳に、白い髪を枕に散らして横たわる自分の姿が映っている。
薬のせいで全身が痺れて、言葉さえも満足に紡げないというのに、ジハードを見つめる二つの青い目は心を雄弁に語っていた。――愛しい、恋しいと。
こんな目をしていたのでは、どれほど懸命に偽りを並べようが無意味なはずだ。ファルディアへと出立するあの時にも、もう本心は知られていたのだ。
ジハードが瞼を伏せたので、二つの瞳も隠された。
シェイドの胸元に額づくように額を押し当て、ジハードが言った。
「――何があったのだとしても、これから何が起こるとしても……俺の伴侶はお前だけだ。お前以外を愛することはない」
神の前で誓うような、静かな宣言だった。
ジハードは伸び上がって鼻の先を触れ合わせた。愛しさを伝えるように頬に口づけし、反対側の頬にも口づけた。
シェイドは動かない唇をもどかしげに震わせる。
駄目だと言わなくてはならない。
ジハードはウェルディス直系の最後の一人だ。王として子を為し、国を繁栄に導いていかねばならない。
だから、妾妃を迎えて愛するべきなのだと言わなければならない。
けれど薬のせいで体が自由にならなくて、言葉が出ない。
代わりに、震える唇はシェイドの理性に関わりなく、違う言葉を紡ぎ出した。
「……わ、たし、も…………ンッ!」
こんなことを言ってはいけないと思うより早く、唇が塞がれた。
「……シェイド……シェイド……!」
吐息の合間に名を呼びながら、ジハードの温かい唇がシェイドのそれを何度も啄む。
上唇を舐め、下の唇を軽く噛み。唇を合わせて軽く吸い付いたかと思うと、息を吐くために開いた唇の間から肉厚の舌が滑り込んできた。
「……ぅ、ん……」
濡れた肉片が上顎を擽り、舌に絡みつく。
口づけに応えたいのに、唇も舌もまだ動きが鈍い。
一方的な口づけにただ翻弄されて、シェイドは鼻にかかった吐息を漏らした。
ジハードと唇を触れ合わせるだけで、体は内側から熱を持ち、心まで蕩かされていく。
熱い体を直に感じたい。
体の奥まで貫かれ、中をいっぱいに満たされたい。
ジハードは、何があったのだとしても愛すると言ってくれた。その言葉が偽りでないのならば、あの猛々しい雄の象徴でこの肉体を清めて欲しい。
「ジ……ハ……」
息を継ぎながら必死に名を呼ぶと、それに応えるように額が押し当てられた。
「……お前を、俺のものにする」
月のない夜空のような瞳が間近にあった。
受け入れる証にシェイドは目を閉じる。震える瞼に唇が押し当てられた。
「その代わり、俺もお前だけのものだ……」
廊下に待機していた侍従たちが道を空け、次々と膝を折って首を垂れた。その様子が、婚姻の日に大神殿で祝福を受けた時のことを思い出させる。
あの時は儀式の意味など考えてみる余裕もなかった。
けれど、男神の前で誓いの言葉を述べた瞬間――、シェイドは確かにジハードの伴侶として、魂を結びつけられてしまったのに違いない。
そうでなくて、どうしてこんなに心惹かれてやまぬわけがあるだろうか。
ジハードは寝台の上にシェイドの身体をそっと降ろし、上から覆い被さった。
黒曜石の瞳に、白い髪を枕に散らして横たわる自分の姿が映っている。
薬のせいで全身が痺れて、言葉さえも満足に紡げないというのに、ジハードを見つめる二つの青い目は心を雄弁に語っていた。――愛しい、恋しいと。
こんな目をしていたのでは、どれほど懸命に偽りを並べようが無意味なはずだ。ファルディアへと出立するあの時にも、もう本心は知られていたのだ。
ジハードが瞼を伏せたので、二つの瞳も隠された。
シェイドの胸元に額づくように額を押し当て、ジハードが言った。
「――何があったのだとしても、これから何が起こるとしても……俺の伴侶はお前だけだ。お前以外を愛することはない」
神の前で誓うような、静かな宣言だった。
ジハードは伸び上がって鼻の先を触れ合わせた。愛しさを伝えるように頬に口づけし、反対側の頬にも口づけた。
シェイドは動かない唇をもどかしげに震わせる。
駄目だと言わなくてはならない。
ジハードはウェルディス直系の最後の一人だ。王として子を為し、国を繁栄に導いていかねばならない。
だから、妾妃を迎えて愛するべきなのだと言わなければならない。
けれど薬のせいで体が自由にならなくて、言葉が出ない。
代わりに、震える唇はシェイドの理性に関わりなく、違う言葉を紡ぎ出した。
「……わ、たし、も…………ンッ!」
こんなことを言ってはいけないと思うより早く、唇が塞がれた。
「……シェイド……シェイド……!」
吐息の合間に名を呼びながら、ジハードの温かい唇がシェイドのそれを何度も啄む。
上唇を舐め、下の唇を軽く噛み。唇を合わせて軽く吸い付いたかと思うと、息を吐くために開いた唇の間から肉厚の舌が滑り込んできた。
「……ぅ、ん……」
濡れた肉片が上顎を擽り、舌に絡みつく。
口づけに応えたいのに、唇も舌もまだ動きが鈍い。
一方的な口づけにただ翻弄されて、シェイドは鼻にかかった吐息を漏らした。
ジハードと唇を触れ合わせるだけで、体は内側から熱を持ち、心まで蕩かされていく。
熱い体を直に感じたい。
体の奥まで貫かれ、中をいっぱいに満たされたい。
ジハードは、何があったのだとしても愛すると言ってくれた。その言葉が偽りでないのならば、あの猛々しい雄の象徴でこの肉体を清めて欲しい。
「ジ……ハ……」
息を継ぎながら必死に名を呼ぶと、それに応えるように額が押し当てられた。
「……お前を、俺のものにする」
月のない夜空のような瞳が間近にあった。
受け入れる証にシェイドは目を閉じる。震える瞼に唇が押し当てられた。
「その代わり、俺もお前だけのものだ……」
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